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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第三章 薄亜麻色の地精霊
86/144

艶やかな果実

こんにちは。

味醂です。


お待たせいたしました。

気が付けばエルフ 第86話『艶やかな果実』公開です。

お楽しみください。

艶やかな果実



そのトーンの高い笑い声が、いつしか聞こえなくなった頃、馬車の進むその道は、塩の街道(ソルティーロード)へとなっていた。


ありがとう、シルカたち。

また会いましょう。


胸の内でそう想い、思って私はこの道の、先に繋がるなにかを求め、ただ馬車に揺られているのだった。

注ぐ陽光絶え間なく、なお立ち上がる朝霧は、やがて低い雲と成り、近くの山腹にその影を落としていた。


移ろう景色を切り取りながら、映す車窓を眺めつつ、ただ馬車に揺られる私には何か変わらぬものがあるのだろうか?


私はいまだ迷子(まよいご)なのだろう――



――――迷ったときは、前を向きなさい。



甦る父の言葉に従うように、ふと前を向けば――黒く澄んだ瞳がこちらを見つめていた。


――リーリカと一緒なら。


自ら付き従う月となることを決めてくれた彼女(リーリカ)の為にも、私は共に手を繋いで立ち向かおう。


お父さん大丈夫、見つけたよ?

一緒に乗り越えてくれる人。

その人は理想の王子様プリンス・チャーミングではなかったけれど、かけがえのない素敵な彼女(アミ・ロマンティカ)として、私を支えてくれている。


それは太陽に焦がれる薔薇の様に、或いは百合の花かも知れないけれど――――



不思議そうに首を傾げるリーリカの前に身を乗り出して、私は思い切り抱きしめるのだった。



「ちょ、エリス様いきなりどうしたというのですか!?」


「……きよ、リーリカ」


「ふ、ふぇぇ!?」


慌てる彼女に構わず頬を摺り寄せて、しっとりと滑らかなその感触を確かめた。

ゆっくりと伝わる温もりを感じながら、私は暫くそうしていたのだった。

リーリカは今日もいい匂いがした。


少しばかり欠乏気味のリーリカ成分を摂取しながら、馬車は鉱山の街を目指して進む。



◇ ◇ ◇



様々な大きさの建物が入り乱れ、雑多な印象を強く与えるその街は、近隣に有するいくつもの鉱山より、様々な金属や宝石が集まることで有名だった。

観光地としてそれほど見るべき場所はなくとも、そこから生み出される原石や宝石を求め、多くの宝石商や、希少なものを集めたがる、蒐集家(しゅうしゅうか)が多大な財をもって集まるために、宿泊施設が集まっている一角の周囲には、ぐるりと壁が作られているほどで、ゲートを通らなければ(通行料を払わなければ)出入りが出来ないようになっていた。


ファージ周辺と比べても、大分籠ったその熱気に辟易としながらも、私とリーリカは肌に髪を張り付かせながらに街で聞き込みを行っていた。


汗にまみれたエルフだなんて、見栄えが悪いものだけど、そんな事をいったとこで、仕方がないじゃない?


行われる聞き込みは、これまでと違う返答も、周囲を見ればチラホラと、目の端々に映る地精霊ノームの人影。

大地より掘り出されるその恩寵溢れるコフの街では、地に縁のあるというノームたちが、それなりの数暮らしていたのだった。


「薄亜麻色の髪のノームぅ?」


問いかけられた目の前の、その豊かすぎる胸部を揺らし答える女性もまた、地精霊である証――つまりは頭角をもつ女性だった。

大きくカーブして生える一対の頭角は、数年に一度生え変わるのだという。


「そうです、何か心当たりはありませんか?」


「そんなこと言ってもねぇ? ほら、アタシたちはぁ、その、随分とカラフルな頭髪でしょぉ?」


その言葉に(たが)うことなく、目の前の女性の髪も、濃い桃色といった具合で、なんだかその髪の色が全身から滲み出ているかのようだった。


「なにより夏の終わりのこの時期はねぇ? 髪を染める娘たちも多いのよぉ」


「そうですか、すいません、ありがとうございました」


「お役に立てなくてごめんなさいねぇ?」


お礼をいうと、愛嬌のある顔で、甘ったるい返事で手を振り去っていくノーム女性。

一様に似たような彼女たちのその反応は、一体どういう関連性があるというのだろうか?


「ねぇ、リーリカ」


「何でしょう? エリス様」


「その、ノームってみんなあんな感じなのかしら?」


「あんな感じ、が何を指すのか分かりませんが……まあ、この時期の彼女たちは、こんな感じですね」


「この時期?」


「ああ、えーと、ご存知ではありませんでしたか。その、この場では言いにくいことですが――」


うん?

そっと口元を私の尖った耳に寄せ、ヒソヒソと告げられるその理由。


この冬を共にする伴侶(・・・・・・・・・・)を求める彼女たち。


思わず熱くなる顔と耳。

はたから見れば顔を紅潮させたエルフがわたわたとしている様が見えるのだろうと、やや自嘲的に連想してしまう。

ノームにハーフは生まれない。

その寿命も特別長いわけでもない。

そのような彼女たちが、その、子孫を増やしていくにはその、まあ、必要な事だった。


なによりも驚いたのは、そういった彼女たちをよろこんで受け入れる、そういった家庭(・・)も多いのだという。

諸種の事情であまり相手をできない夫の為に、そして自分たちの子供の乳母(ナニー)として。

地精霊の妊娠期間は短く、そして成長も早いのだという。

妊娠の有無にかかわらず授乳可能な彼女たちの母乳で育つと、大きな病気にかかりにくく健康に育つと信じられているらしい。


確かに精霊に連なる亜人なのだから、分からないではないけれど――むしろ、納得してしまうほどの説得力は、彼女たちの持つ母性そのものの顕現をみれば、十二分すぎるほどにあるのだった。


呆然のあまりにそのままリーリカの胸あたりを見てしまっていた私の視線に気が付いて


「で、出ませんからね!?」


なんて慌てるリーリカは一体何を想像していたのだろうか?



◇ ◇ ◇


「「「おかえりなさいませ、エリスお嬢様」」」


街の外れの高台に、既に慣れきってしまった出迎えの声が響く。


「ミーシャお嬢様は既にお部屋で寛がれております。エリスお嬢様もリーリカお嬢様も、どうぞごゆっくりお寛ぎください」


出迎えてくれたのは、言うまでもなく、ここコフの山百合亭の支配人。

ダーハラに引き続き、ここの山百合の支配人はなんとノームの女性だった。


わたしが訪れた山百合は4店。

シリウス、リオン、ダーハラ、そして今いるコフ。

近いうちに訪れるサイダの城下町にも勿論山百合はあるそうで、一体今度はどんな支配人さんがいるというのだろう?

そのうち聞いたこともない種族の支配人さんも居そうだと考えながら、一体どんな選考基準で選ばれているのかが、妙に気なるところでもあった。


「お出迎えありがとうございます。えーっと、パメラさん」


「まぁ、お名前を憶えてくださるなんてぇ、わたくし感激ですわん」


嬉しそうにそんな事を言う彼女は、とても質量の高そうなソレを激しく揺らしながら、一方それを目前で見ている私とリーリカは、得体の知れない敗北感に苛まれながら、ただ圧倒されるのだった。


馬車とミーシャを置いて街へと聞き込みに行っていた私たちは、この後支配人のパメラさん直々に部屋へと案内されたのだけど、やはりというか案の定というか、その部屋は最上階の右手奥に用意されていた。


「ふふ、このお部屋には元々温泉が引かれておりますのよ? しかも上からの通達で、湯舟は新しく直したばかり。勿論お入りになるのはエリスお嬢様が最初のお客様ですわん」


部屋に入る私たちを、パメラさんから引き継いだのは――やはりノームの女性であった。


綺麗な白色の髪は、年老いて白髪になったわけではなく、単純に生まれつき白いのだろう。

艶々と光るその髪に、柔和で、どこか安心を呼ぶような、そんな顔つきのその女性は私とリーリカの中間くらいの背丈だろうか?


「初めまして、わたくしお嬢様方のお世話をさせていただきます、メーテルです」


丸くカールしたやや真珠色に近い頭角に、髪は背中にかかる程度のストレートのその彼女は、やはりその給仕服の主に胸部をはち切れんばかりに膨らませて、頭を下げる。


「そ、その……エリスです。よろしくお願いします。メーテルさん」


「はい。ではまず何かお飲み物でも飲まれますか? それともご入浴でもされますか? お連れ様のミーシャお嬢様はお疲れなのか副寝室でお休みになられております」


そんな彼女に私たちは、迷うことなく入浴を選んだのは、言う程の事でも無かったかしら?




こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第86話 をお読みいただきましてありがとうございます。

ご支援頂いております皆様にも、いつもながらの言葉ではありますが、心よりお礼申し上げます。


書きたいことがありすぎて、かといって全てをかいていると、ちっとも本筋が進まないというジレンマのなか、3章13話目、予定残り21話というとこで、やっとプロローグにも名前の出てきた街まで到着いたしました。


それではまた次回 気が付けばエルフ 第87話でお会いしましょう。

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