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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第三章 薄亜麻色の地精霊
85/144

旅立つ者達

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第85話 公開です。

お楽しみください。

旅立つ者達



朝霧立ち込める森の小径を馬車は進んでいた。

馬車を引く二頭の馬、エリとリリはその息をうまく合わせ、お世辞にも整備がされているとか言えないその道を、軽快に走っていた。

不思議な事に馬車の車輪が下草にとられることはなく、馬たちは周囲に何かの気配を感じつつも、任務を全うすべく馬車を引くのだった。


ウフフ……ウフフフ…………。


「まだついてきてますね、エリス様」


「そうね、シルカ達のおかげで草に車輪が滑ることもないようね。ミーシャのほうも大丈夫?」


「大丈夫にゃ。シルカ達が先導してくれてるにゃ」


大分板についた、猫人らしいその語尾にわたしは満足すると、手のひらにある指輪に装備化を施し、右手に薬指に嵌めた。


「その指輪はどうされたのですか?」


その様子を見ていたリーリカは、怪訝そうにそれを見て問いかけてきた。


「えっと、ウィリアさんがくれたのだけど、なんでもきっと役に立つことがあるからって」


「そうなのですか。私はてっきり――いえ、なんでもありません」


「てっきり?」


「な、何でもないですから、気にしないでください。ちょっと口が滑っただけですから」


なんだか慌てるリーリカは、やや顔を紅潮させて、小さく畏まってしまうのだった。



「それにしても、いい朝ね。朝霧がこんなに気持ちいいものだなんて」


「今朝は結構冷え込みましたからね。やはりこの辺りは大分標高が高い様です」


標高が高そうなのは判っていたけれど、案外息苦しくない所をみると、そこまで高いわけではないのだろうか?



「そうだ、少し肥料をあげておきましょ」


「肥料、ですか?」


「そう。もっとも肥料と言っても、これだけどね?」


そう言って足元に置いてある4つの鉢に、出来るだけ小さな、一片の紫魂石をそれぞれに置いていく。


挿し木で作った世界樹の盆栽たちは、それを光の粒へ変えながら吸収すると、ミシミシと一回り太く、その小さな枝に、小さな葉を更に増やし、柔らかい光を放つのだった。


「ほんとにエリス様ときたら、まさか世界樹を育てるなんて」


「これがきっと、いつか役に立つと思うのよ。それに、なんだかこの客車内も、とても空気が澄むわ?」


「そりゃまあ、世界樹ですから。小さくても世界樹そのものなのですからね」



既に半分呆れた様子で私の話し相手となっているリーリカは、しげしげとその世界樹の盆栽を眺めるのだった。



「まあ、紫魂石はまだあまりやらないほうが良さそうね」


「そうですね、既に抜け殻ですが、常闇様が封じられていた瘴気の結晶ですから。過ぎた薬は毒になると言いますし」


「そうなのよね。でもリーリカ? これも一つのエッセンスであるのよ?」


過去にエッセンスというモノについて聞いたことがあったけれど、一般的にはあまり知られていない事のようだった。

あり方の反転したエッセンスは、言ってみれば、反転した魂そのものなのだから。


「それはそうですが……そんなものまで平気で肥料にしてしまう辺り、私は時々エリス様がなぜそんな事に思い至るのか、不思議でたまらなくなるのです」


「ほら、前に砕けた石や狼の躯が、世界樹に吸収されたじゃない? あれを見て、思いついたのよ」


「理屈は解るんですけれどね――普通は思いつきません」


「そうかしら?」


「そうに決まってます!」


最後はもう半分笑いながら、あきらめの境地でリーリカはそう締めくくったのだった。


わたしたちがこれから向かうのは鉱山の街コフ。

そこまでいけば、もうフレバー領で、そこで聞き込みを終えた後は、更に西のサイダの城下町へと向かうつもりだった。

水の精霊、アクアたちに話を聞くために。



◇ ◇ ◇




「では本当に良いのだな? そうはいっても、既に返事は送ってしまっているのだが」


「えぇ、お父様」


「そうか……そうなると、少しばかり寂しく感じるな、娘が生まれたその時に、いつかはこのような日が来ると、判ってはいたものの、いざそれが目前となれば、愚かしくもその身体を抱き留めて、手元に置いておきたくなるは、子離れできぬ父親の性というものか」


「あら、貴方は他の方の様に、騒ぎ立てたりはしないのですか?」


「言ってくれるなロゼッタよ。いまにもそうしてしまいそうなのを、必死で我慢しているというのに、それに妻と娘を目の前に、そんなみっともないことをしていては、折角の娘の将来が台無しになってしまうではないか」


「ふふ、殊勝なことですのね。でも、さすが私が惚れた殿方であられますわ」


「ば、馬鹿なことを言うでない。今にも鍍金が剥がれ落ちそうだというのに、これ以上父親の威厳を失ってたまるか」


「それでも、お父様もお母さまも、私の為に色々と尽くして頂いております。互いに支え合えるような、私もそのような信頼を、彼の方と築きたいものです」


「本当に立派になったわね、ミリア? 貴女は、私たち夫婦の自慢の娘なのよ? だから胸を張っていってきて頂戴?」


「はい、お母さま。お父様も、私はまだ準備がありますので、これで失礼いたします」


娘が退出するのを妻と見届けて、私は椅子に深く座り直しすと、そっと妻が後ろからまだ綺麗な腕を回してしがみついてくる。


「よもや、こうもすんなりと受け入れるとは。少々拍子抜けだな」


「ほんとにそうですね、ついこの間生まれたと思えば、もう結納の儀だなんて……」


「月日の経つのは早いというが、このときばかりはシリウス伯爵が良く言うその言葉も、改めて痛切に感じるよ」


「そうですね。そういえば伯爵はどうされるおつもりなのでしょう?」


「シリウス伯爵が身を引くのはまだまだ先の話だろう? それに一応御子息もおられるしな」


「そうでしたわね」


「コホン。そ、それはそうと、ミリアのアレは進んでおるのか?」


「ま、貴方ったら。そんな事間違っても(ミリア)の前で言ってはいけませんよ?」


「ば、馬鹿者。そんなの当り前だろう! 何よりそんなこと私から聞けるか! ただ、あれは身体がまだ小さい。やはり、その、心配なのだ」


「ふふ、それもそうですわね。そちらの方はライカに任せてありますから。それにそんなに心配なさらずとも、大丈夫ですよ」


「ライカか。あれもよくやってくれているが、少々忠誠の度が過ぎるきらいがあるのが心配だ。先方で無用なトラブルを起こさねばいいが……」


「そうですね、でも大丈夫でしょう。リーリカが去ったのち、本当によくやってくれています。そう言えばリーリカは、貴方が連れてきたんでしたわね」


「ああ、そうだな。任務の上で保護したというのが正しいが、あれが壊れてしまわなかったのは、まさに奇跡といえるだろう」


「リーリカにも、幸せになってほしいですね。最初は隠し子でも連れてきたのかとびっくりしたものですが」


「そうだな。しかしお前には随分と苦労を掛ける」


「守るべきものの為に頑張るのは、苦労とは言わないのですよ? それとも貴方は私やミリアを守ろうとして、大変な目にあったとして、それを苦労とおもうのですか?」


「そんな意地の悪い事を言う口は――」


「――――」


「「――――――」」


融け合う影をエボニーの机に落とし、二人はいつかの日々を思い出すのだった。



こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第85話をお読みいただきありがとうございます。

皆様のおかげでこの話の投稿時、総PV53,436アクセス ユニーク10,049人となりました。

方向性に迷いつつも、開始50日目となる今日まで、ほぼ毎日更新できたことは、ブックマークに入れて頂いております147人の方々や、感想、評価を入れて頂きました方々のおかげです。

夏は何かと仕事が忙しくなり、更新が間に合わない日も出るかもしれませんが、ここまで来たら出来るだけ毎日更新できるように頑張りたいと思います。

最低でも現在1.7話という、日数あたりの投稿数を1以上に保てるように5章まで完結目指したく思っております。


この場をお借りいたしまして、改めてお礼申し上げます。

ありがとうございます。


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