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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第三章 薄亜麻色の地精霊
84/144

見抜きし者

#改稿ルビ他2文、追加


こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第84話 公開です。

お楽しみください。


ネタバレを含む感想はやむなく削除する場合がございます。。・゜・(ノД`)・゜・。


 見抜きし者



 古の大木を源流とするせせらぎを歩きながら、静かな午後の時間が過ぎてゆく。

 目を凝らせば野兎や栗鼠といった小動物が、無心に下草や木の実を食んでいる様子が見てとれて、耳を澄ませば、さざめく木の葉に混じるよう、どこからともなくシルカのトーンの高い笑い声が聞こえていた。


 そんな森の中を私に並んで歩くのは、その美しい黒髪も少し長くなり、やや色付き始めた葉の隙間より、零れ落ちる木漏れ日に、艶やかに光輪を浮かばせているリーリカだった。


「エリス様、なぜ世界樹の雫を作ってまで、あのエルフの目を治したのですか?」


 世界樹の奇跡はこの世界のあちらこちらで耳にする。

 傷を癒す治癒の魔法があるとは言っても、怪我をする者と、その癒し手の数に、釣り合わない需要と供給の関係が成り立っているのだ。


 それ故にこの世界で最も近しい死因と言えば、傷からの感染症によるものだろう。


「リーリカは気になる?」


「そうですね。気にならないといえば嘘になります。いえ、エリス様はお優しいですから、その行為自体には違和感を感じないのですが……」


「その昔、世界樹の奇跡をめぐって戦争が起きたこともあるそうね」


「――はい」



 癒しの魔法は万能ではない。

 術者の能力(ちから)を超える病や怪我は、手遅れに繋がることも多いのだ。

 その奇跡の発現をイメージすることが、魔法による奇跡の行使は、術者の精神力を大きく消耗させる。



 そりゃそうだ。

 特別な訓練もなく、ちょっとした怪我ならまだしも、醜く引き裂かれた患部を凝視して、その回復のイメージを練り上げるなんて、簡単に出来ることじゃない。



「ねぇ、リーリカ? ウィリアさんの目は長老たちの呪いではあったけれど、彼女が望んだ罰でもあったの。それを背負う事で、自分の行いを正当化するための。ちょっと酷い言い方だけれどね」


「…………」


「だから、私はある意味とても酷な事をした。その対価となった免罪符である失われた光を取り戻すことで、ウィリアさんはその全ての軌跡を、自らの責任において背負わなければいけなくなるから」


「――!」


 私が語る言葉が、リーリカの見えない琴線に僅かに触れる。

 彼女もまた――かつて免罪符に縋り、過ごした日々があったのだから。

 それでも私は彼女を信じて言葉を続ける事を選んだ。


「ラスティも、世界樹も、世界が危機に瀕していると、訴えかけるの」


「エリス様、それは一体!?」


 突然告げられる世界の危機に、驚きを隠せないリーリカに対して、私は静かに言葉を続ける。


「私がこの世界にやってきたことに意味があるのなら、私はその意味を全うしなければいけない。でもその為に私が出来ることといえば、ほんの些細な事でしかないの」


「……」


「リーリカは輪廻って言葉を信じる? 生まれ変わるとか、そういう考えを」


「輪廻、ですか。わたしには……よく、わかりません」


「わたしは――信じているわ。今まであった出会いも、これからある出会いも、そして出会いの影に付きまとう――別れにも。その全てが無駄にならないと。再び出会い、或いはすれ違い、たとえ道を(たが)えたとして、いつか巡り廻って、再会できるという事を」


 エネルギーは拡散するようにみえて、その大半が循環している。

 そして魂というものも、エネルギーの一つのカタチであるならば、それは少しずつ姿を変えて、ぐるぐると廻っている。

 多分、このセカイは、そういうふうに、()()()()


「今その大きな循環が、誰かの手により崩されているならば、私は新たな循環を作ろうと思う」


「そんな事が、出来るのですか?」


「分からない。できるかも知れないし、できないかもしれない。でも、そのためにも少しでも、世界を永らえさせるには、今できる手は打っておきたいの。ウィリアさんの目の事も、その出来ることの一つね。彼女にはこの地の世界樹の守り人として、里の皆と協力してもらわなければならないもの」


 ――そしていつか貴女の苦しみも。



 せせらぎの上を渡る風はどこまで優しくて、ちっとも優しくなんかない私には、それが少し寂しかった。



 ◇ ◇ ◇



 里の者総出で宴の準備が進められる中、僕は足りない資材を取ってくるように言われて物置小屋に潜り込んでいた。


「おかしいな? この辺で見たはずなのに」


 祭りの時に使う陣幕は、確かこの辺りだと、身の丈ほどの置かれた道具を掻き分けながら、探し物に勤しんでいた時に、僕はその音に気が付いてしまった。


 甘く鼻にかかる柔らかな歌声に、つられる様に物置の反対側へと移動する。

 胸程の高さにある、抜け落ちた壁板の節から入り込む一筋の光。

 キラキラと舞い上がる埃すらも、輝く宝石のように思えたその光の中に、僕が見たものは――


 白と黒のコントラスト。

 鼻歌をうたいながら、全裸で水浴びをする一人の少女。

 頭の上にはピンと立ち上がった三角の耳。

 やや丸く大きな鼻。

 蠱惑的な唇の奥には、鋭い犬歯が見え隠れしており、獰猛な肉食獣を連想させた。

 柔らかに盛り上がる膨らみの先は、僅かに色づいて、引き締まった両脇から緩やかな曲線を描いていた。


 下側の膨らみの付け根には、長く艶やかな尾が伸びて、気になるその奥に秘めた何かを絶妙に隠している。

 揺れるたびにビシャリと飛び散る水に、腿を伝い落ちる水滴に、僕は時を忘れて魅入ってしまっていた。


 これは何かの呪いなのか?

 下半身に鋭く走る痛みを感じながら、それでも目を背けることが出来ないその光景に、息苦しさを覚えていると――

 聞こえた気がする小さな呟き。


 ――しょうがないにゃぁ。


 不意にくるりと前後が入れ替わったために、節穴の先に世界の隙間を垣間見た。


 全身からがくがくと力が抜けてしまうとは、深淵の淵に違いない。

 もう秋のはじまりだというのに、梅雨の終わりを連想させながら、僕は意識を手放した。


 僕が再び目を覚ましたとき、なぜか僕の上には陣幕が被さって――

 棚の上にあった陣幕を落として頭でも打ってしまったのだろうか?

 あれほど感じていた下半身の痛みもすっかりなくなっているところをみると、どうやら気を失っている間にみた夢なのだろう。


 僕は陣幕を持っていく事を思い出して、慌てて陣幕を抱えて皆の元にもどったのだった。


 ◇ ◇ ◇


 くまれた(やぐら)に火を放ち、赤々と夜空に燃え上がる(ともしび)として、久しぶりに行われるという、その歓迎の宴は始まった。

 里の者の手作りの果実酒が振舞われる中で、里長のウィリアやエリス様の言葉が里の者に届けられる。


 燃える炎に照らされるエルフたちはその熱気に揺らめいて、神秘的ともいえる雰囲気を醸し出していた。


 これから来たる災厄に備えるために、今は英気を養おうと、無礼講ということもあり、みな大いに騒ぎ、そして飲んだ。


「おや?今日は飲まないのですか?ミーシャ」


「うにゃ? 今はちょっと余韻が――いや、お肉がいいにゃ」


 そういって香ばしく焼かれた大きな腸詰を、目を細め咥える猫人。


「そんないつまでも咥えてるんじゃありません、はしたないですよ?食べるなら早く食べなさい」


 とろりと蕩けたような猫をしかりつけていると、エリス様がやって来た。


「どう? リーリカのんでる? ここのお酒美味しいのよ?」


 機嫌良さそうに語るエリス様の手には、既に中身のほとんど空になっらグラスが握られていた。


「美味しいのはわかりますが、少し飲むのが早すぎませんか?」


 ミーシャとはまた違った方向に表情を崩す主人にほんのりと不安がよぎる。


「フフ、らいじょうぶだって。それよりリーリカも飲みましょうよ。お料理とも凄く合うんだから」


 エリス様、酔っ払いはみんなそう言うのです。


 ――なんて言えるわけもなく、既に呂律の回らない彼女に勧められるまま、私はお酒を飲まされたのだった。


「それにして、ミーシャってあんなに肉詰めが好きだったかしら? もっと買っておいた方が喜ぶのかしら? それに随分と酔っぱらっているようにみえるけど……珍しいわね?」


「色ボケ猫の事など今は忘れてくらさい、エリフ様の目の前には、私が居るじゃないれすか!」


 全くもって酔っ払いの皆には困ったものだ。

 騒がしく盛り上がる周囲を見回して、わたしはそう思いつつ、エリス様を抱えて、新たに果実酒を注ぐ。



 夜の帳に包まれた世界樹の見上げながら、宴はますます加速していくのだった。



気が付けばエルフ 第84話をお読みいただきありがとうございます。


本日で公開49日目となります。拡散祈願の写経(RT)でもするべきでしょうかね?(違)

冗談はさておき、皆様のご支援のもと、この狭いターゲットの作品を読んで頂けることに、日々感謝しております。


それではまた次回 気が付けばエルフ 第85話でお会いしましょう。

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