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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第三章 薄亜麻色の地精霊
82/144

停滞の解放者

こんにちは。

味醂です。


遅くなりました。

気が付けばエルフ 第82話公開です。


お楽しみください。

停滞の解放者



キッチンに併設されたダイニングに入った時、既にその場は何とも言えない香りに包まれていた。

テーブルの真ん中に鎮座する大きなお皿には、色とりどりの野菜のサラダが盛り付けられ、

5枚並んだ深めのお皿には、スープかポタージュのようなものが注がれている。

バケットの中には焼きあがったばかりのパンが入っており、香ばしい香りを立てていた。


そのほかにも何か切り分けたオードブルのようなものや、乳酪(チーズ)など、ランチとしては申し分ない品数が並べられていた。


「わぁ、美味しそう」


「こんなものしか用意できませんが、お口に合うと良いのですが」


「本当に美味しそうです」


「おなかぺこぺこにゃ」


などとそれぞれが感想を口にする中、ラルフ君だけは顔を赤らめてうつむいていた。


「それではお祈りを捧げていただきましょう。良ければ皆様も後に倣ってください」


「「「はい。にゃ」」」


「世界樹に守られし我等に、その恩恵を、日々の糧を。清き水を。お与えいただき感謝します」


「「「「世界樹に守られし我等に、その恩恵を、日々の糧を。清き水を。お与えいただき感謝します」」」」


「それではいただきましょう」


そうして始まった楽しいランチ。

サラダの中には食べたことがあるものも、またはそうでないものも色々と入っている。


この世界の食材は、私のいた世界と同じ名前の食材もあれば、名前だけが違う事もある。

いまいちその辺のルールというか傾向はつかめないものの、ある意味それもそのはず。

なんというか、複数の食べられる野菜というか野草を指す言葉があったり。

青菜というかグリーンリーフはその代表だった。

勿論その料理法もまちまちで、一回湯がいておくと良いものや、油でさっと炒めておくと良いものなど、その癖によりまちまちなのだ。


その割にはシリウスで食べていた料理といえば、どちらかというとフランス料理に近く、リオンではスペインやイタリア料理に多い、煮込みやスープが多いのだった。

パスタに類するものも豊富にあり、大体は練った小麦を小さく一口大に潰したものを湯がいてから、クリームやソース似和えて食べる料理が多いだろうか?


シリウスの冒険者御用達の安い食堂ならばもっと豪快な、姿焼きや、肉厚のステーキなどが人気で大体がスパイシーな香辛料で味付けされているのだ。

そして大抵は「塩辛い」。

塩がもたらした富で発展しただけに、塩を存分に使うことは、富の象徴と言わんばかりに、塩を大量に使う料理こそ上等なのだ! みたいな風潮は、今も根強く残っていた。


そういった料理に比べると、ウィリアさんの料理はクリーミーだ。

チキンのスープで出汁を用いて、チーズや牛乳、あるいは山羊の乳などと、野菜を裏ごししたものを用いたポタージュが多いらしい。


丁度今食べているのは玉ねぎの仲間と思われるものと、セロリににた香草、といっても香りがそれほど強いわけでは無く、意外に甘みが強いのが特徴だった。

ちなみに入っている肉は絞めてくれた鶏肉らしい。


屠殺(とさつ)された鳥さんには申し訳ないけれど、無駄にすることなく食べるので、どうか許してもらいたいところだった。


私がエルフとなって最も変わったのは、常にではないものの、迂闊に傷つけてしまった植物たちの声を聞くことがあることだろう。

最初の頃は空耳か、気のせいだろうと思っていたものの、どうやら確かに声が聞こえることがあるのだった。

ダーハラで切り取った笹竹も、一枝お持ちなさいと、確かに聞こえたし、そもそもこうやって世界樹を巡るのだって、世界樹と話をしたことに端を発する訳なので、もう草木が話しても気にしないことにしたのだ。


だって、そうでしょう?

料理するたびに、悲鳴が聞こえたりしたら、とてもじゃないけど料理できないじゃない?


もっとも、自分たちが食べるために取る分には、声を上げる草木はほとんどなく、不用意に傷つけてしまった場合だけなのだけど。


――もうちょっと、草木の声も聞いてみようかしら?


「それにしても、案外と普通の食事なのですね。なんか、こうもっと菜食中心なのかと思ってました……勝手なイメージなのですけど」


「そうですね、古くはそういった考えが強かったのですが、やはり虚弱化する者も多かったのです。それにいまでは随分とエルフ以外の者も暮らすようになり、自然とバランスの取れた食事を採る者が増えました」


エルフの里! というものについて、私は色々と勝手なイメージを持っている。

いや――どちらかといえば、エルフの里だけでなく、わたしにしてみればファンタジーに近い印象を強く受けるこの世界で、それらについての先入観というものは、やはり空想じみた、浪漫溢れるイメージなのだ。

こちらの世界は色々と不便も多いけれど、今までの世界の、雑多なものに囲まれた生活は、恵まれているようでもあり、同時にその有難味にすら気が付けないほどに、無自覚という名の無関心――自己を取り巻くごく狭い世界に没頭するだけで、自分の周囲に広がる世界に目を向けることを、いつの間にか忘れていたと様な気がすると、最近強く感じていた。


ぬるま湯の、その大きな大河にゆったりと、身を投じ、流れるままに流されて、ただ何処となく行きつくのだろう。

いつかはどこかに行きつくだろう、と信じていた少し前までの私。


進むべき道を、自らの意志を以て進まなければいけないこの世界は、わたしにとって、強い自己啓発をもたらしてくれていた。



静かに進む昼食を眺めながら、そんなことを考えていると、どこからかまたシルカ達の笑い声が聞こえてきた気がしたのだった。




◇ ◇ ◇



昼食後、ウィリアさんとの対話は私のこんな質問から再開された。


「この里は、世界樹を守る里と聞いてきたのですが?」


「そうです。世界樹はここから少し離れていますが、確かにあります。世界樹は大きくなりますから、成長に合わせて段々と里を離す必要があったので。昔は世界樹のまわりで暮らしていたそうですが、今では生活に便利な水場の近い所にこうして里を開いている訳です」


「あの、里の外の話は入ってこないのでしょうか?」


「里の者がたまにコフの街へと行商に行きますね。いくらここで自給自足できるとはいえ、里の貯えを多少は作らねばなりませんので」


「それもそうですよね。では、新たな世界樹が生まれたという話は届いてますか?」


「――!」


何気なくもたらされたそのことは、一本の世界樹を守る里の長として、その重圧に耐えてきた彼女に、どう聞こえるだろうか?



「やはりご存知なかったのですね。その、言いにくい事ですが、私はその世界樹に告げられて、世界に広がる世界樹やあるいは別のカタチをとっている、その系譜に連なるものを巡っているのです」


「そのようなことが……ハイエルフたるエリス様なら、それも信じられない事ではありませんが」


「――この里を守るウィリアさんにはお話しておこうと思うのですが、その、私がもたらす話の先に、今の平穏を失ったとして、その覚悟はできているでしょうか?」


今世界に起きようとしている、異変について、私はウィリアさんに告げなければならないと直感的に感じている。

土地神の神堕とし、生まれた世界樹。そして世界がかさなり墜ちようとしている、ラスティの抱えるその危惧を。


覚悟を決めて頷く彼女に、私はこれまでの経緯を説明したのだった。

それがこの先どの様な変化をもたらすのか、今の私にはわからないけれど、暗躍する影が動き出していることを認識していれば、何か起きたとしてもすぐに対処することが出来るだろう。


「エリス様。明日世界樹へと案内致します」


いきさつを聞いたウィリアさんは、それで私たちがここを訪れた理由を察し、その協力を申し出る。


「お願いします。ウィリアさん。それと、精霊たちについて知っていることがあれば、少し教えていただきたいのですが? シルカが言うには、北の湖畔――多分サイダの街だと思いますが、そこにはアクアという精霊たちがいると聞いたのですが」


「アクア……ですか。水の精霊ということは判っていますが、具体的に何処に現れるかまでは。この里のように精霊が居ついているという場所は、多くありませんので」


実際にはそこに理があるならば、居るのだろうけど、やっぱりシルカたちは特別なのかしら?


「そうですか――まずは明日、世界樹への案内をお願いします」


アクアの情報は手に入れられなかったものの、世界樹への案内の約束を取り付けることには成功した。

この地の世界樹は私に何を語ってくれるのだろうか?




こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第82話をお読みいただきありがとうございます。

おかげさまで昨日公開47日目で50000PV9300UU達成いたしました。


引き続きご支援頂けますように、頑張りたいと思います。

それではまた次回 気が付けばエルフ 第83話でお会いしましょう。

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