精霊達の棲まう里
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第80話 公開です。
ごゆっくりお楽しみください。
精霊達の棲まう里
削った丸太を打ち込んで柵として、質素ながらに頑丈そうな門を備え、そこの里の者であろう者たちは、どこか怯えたお様子でこちらの様子を窺っている。
どうみても友好的とは言い難い、排他的な光景の中、門の中央に歩み出た人物は一際異質に見えた。
逆光で良く判らないものの、とにかく私たちはゆっくりとその人物の前へと歩み出る。
「まずはその場でお控えください」
静かに語るその声は、清流の上を吹き抜ける風の様に澄んでいて、とても穏やかでありながらも凛とした響きを持つものだった。
言われるままに立ち止まり、敵意の無い事を示す。
「ありがとうございます」
告げる彼女は美しい黄金色の長い髪を持つ女性。
小さく整った顔の横にある、その特徴的に尖った耳は、彼女がエルフであることを語っている。
彼女は目を閉じたまま真っ直ぐ私たちに向き合って、静かに語り出した。
「ようこそおいでくださいました、旅の同胞よ。その来訪を私たちは習わし通りに歓迎せねばなりませんが、その前にいくつか訊ねなければならない事が有るのです」
「急に押しかけて、お騒がせしてしまい申し訳ありません。どうぞ続けてください」
「まず先に断りおかねばなりませんが、私はその視力を失っております。その気配からあなたが同胞であることは判りますが、どうやらそうでない者もいる様子。少しばかり協力していただきますよ?」
「はい、構いません」
「それでは、まずこの里の事を、どこでお知りになられましたか?」
「ノーザ王国の国王陛下に聞きました」
「なるほど。確かに国王はこの里の事を存じているはず。しかし、ここへの道はまじないによって隠されていた筈。それを解く術を持つ者は多くないはずなのですが」
「えっと、ユリアスさんというエルフの方が、この里の出身だと教えてくれました」
その声に、にわかにざわつく柵の中の人々。
――ちょっと……ユリアスさん、あんた一体何したっていうのよ?
「皆の者、静かになさい。ユリアスの話は改めて聞くとして、それではその解き方を教えたのもその者なのですか?」
「いえ、そういうわけじゃ――ないのですけど。そもそも道に護りが掛けられているなんて、私たちは知らなかった訳で。だから聞いていた場所に道が無くて困っていたくらいでして……」
「それでもあなた方はこうやってこの場にたどり着きました。ではそれはどうやって?」
「えっと、ルーさん? という人が案内してくれたのですけど、えっと。ルー・シルカさん。すぐに姿は見えなくなってしまいましたが、そう名乗っていました」
「…………ハ~」
何やらどっと疲れたような表情をして、声に出しながらため息をついた。
「――失礼しました。いえ、事情は分かりました。信じがたい事ですが、シルカたちがあなたを案内したというのはどうやら間違いなさそうです。その名を知っているのが何よりの証拠」
そこで一回言い置くと突如として彼女は――
「いたずらシルカたち出てきなさい!勝手に里に人を招くなど、悪ふざけにもほどがありますよ!!」
大声で叫ぶ彼女の様子に、あまりのそのギャップに私たちは唖然とし――
「「「ウフフフフフフ。ウフフフフ」」」
「ウフフ。エルフの長が怒っているわ。ウフフフフ」
「まぁ? それは怒られてしまうわ、大変ね。ウフフフフ」
「でもエルフの長が、ハイエルフの王女を問い詰めるだなんて、ほんとにおかしい事なのよ。ウフフフフ」
「ウフフ大変。今度は里の者が怒られてしまうわね? ウフフフフ」
飛び交う声に、最初はプルプルと震えていた目の前のエルフの長が、突如見えないというその目を見開いて、凍り付いた。
「なっ!! なんですって!?」
「ウフフ。わたしたち精霊が嘘を吐かない事なんて、エルフの長が知らない訳ないのよね? ウフフフフ」
「誰か急いで写し御霊をもってくるのです!」
悲鳴を上げるようにそうなんとか叫ぶと、ほどなくして一人の里の者が一つの水晶を持ってきた。
「これは現身球、私たちは写し御霊と呼んでいるその派生のものですが、こちらをお持ちになって、魔力を少し流して頂けますでしょうか?」
その言葉に水晶を持った人が頭を低くその水晶をおずおずと差し出してくる。
「わかりました」
了承しながらに、その水晶を受け取って、僅かに魔力を通すと――なんと水晶から声がして、私の真名と種族が語られた。ギルドや冒険者章ではエルフと表示されていたけれど、なんとその水晶からはハイエルフであることが告げられたのだ。
「なんと……まさかラスティの神子様がこの里においでになるとは……」
わなわなと五体投地した長に続くように、里の者たちが一斉に地に伏した。
立っているのは私と、その後ろに並ぶリーリカとミーシャ。そして私たちの周りを姿を消したり、現わしたりしながら嬉しそうに跳ね回る精霊たち。
なにこれ。どこかの前・副将軍のような画になっているんじゃないかしら?
ひかえおろ~ってね――違うか。ヤダもー。
◇ ◇ ◇
木で作られた質素な家。
周囲の家より一回り、二回りと大きいその家は、この里の里長――ウィリアさんの家だった。
家の中に置かれているそのほとんどの家具は、白木のままで、木肌の温もりをそのままに、優しい風合いが自然の多いこの里とよく合っているように感じられた。
里の門の前での一騒動。その後慌ててこの里長の家に連れてこられて、今この部屋に居るのは私とリーリカの二人に、里長であるウィリアさんと、目の見えない彼女の世話をしている一人の少年だった。
「改めてお詫び申し上げます。ラスティの神子様」
「あの、できればそのラスティの神子様、という呼び方はやめて頂けると助かるのですが……」
「そう、ですか……ではエリス様とお呼びしても?」
「その、まあ、様というのも出来れば……」
「流石にそこまでは困ります。ただでさえこのような場所で恐れ多いというのに」
「いや、ほんと困りますから、あまり畏まらないでください。その、ハイエルフというものがどういう者なのか、当の本人だって良く判ってないのですから。あ、できればその辺の理由なんかも、もしご存知でしたらご教授して頂けたら嬉しいのですが。勿論それを聞くためにこの里に来たわけでは無いので、もし時間があれば、という事ですけど」
「ここに来た目的、ですか。先程はシルカたちの悪戯で確かに聞きそびれてしまいましたが――ああ、シルカというのは、エリス様達をここに案内した精霊たちの事ですが」
そう、シルカ。
シルフやシルフィと呼ばれる風の精霊の亜種ということらしく、つむじ風の精霊なのだという。
好奇心旺盛で、イタズラが大好きな彼女たちだけど、普段はあまり姿を現すことはないというのだという。
「あの、お茶……どうぞ」
テーブルに座る私たちにお茶を持ってきてくれた少年は、ウィリアさん身の回りの世話をしているというラルフ君だ。
「ありがとう」
「――――!!」
微笑みながらお礼を告げると、彼は顔を真っ赤にして、脱兎のごとくキッチンに飛んで行ってしまった。
そんな様子にウィリアさんは
「あらあら? そろそろラルフにも自分の家を建てさせる頃かしらね」
なんてことを言っていた。
それはまるで子供の成長を見守る母親のような、慈愛に満ちた表情で。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第80話をお読みいただきましてありがとうございます。
ブックマーク、評価、感想のほか、ツイッターなどでご支援頂いております皆様にも心より感謝を。
書きたかったエルフの里の話です。
書きたいことが多すぎて、ほんのさわりだけであっという間に一話分消費してしまいました。
それではまた次回、気が付けばエルフ 第81話でお会いしましょう。




