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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第三章 薄亜麻色の地精霊
79/144

風の呼び声

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第79話『風の呼び声』公開です。

ごゆっくりお楽しみください。


なんとか駆け込み更新間に合いました。

風の呼び声




ジーザス山を左手前方に眺めながら、まばらな木立ちの街道を、馬車はゆっくりとした速度で進んでいた。

高原となっているであろうこの付近を抜ける風は、まだ晩夏だというのにどこかひんやりとして、進む馬車の御者台の上では、私の長い髪が涼し気にそよいでいた。


「この辺りは気持ちいいわね」


「ちょっと寒いくらいなのにゃ」


私の横で手綱を操る黒髪――もとい、黒毛の猫人であるミーシャは、並ぶ二人の間から長くふさふさとした黒いシッポを出して、パタンパタンと脚の上で揺らしている。

思考に同調するかのように揺れるシッポにはふんわりとした長い毛がたっぷりと生えており、ふわりと触れているだけで、その周辺がほんわかと温もりを帯びてくるほどだった。


ミーシャの大きな耳の先にひょこっと生える尖毛は、風を感じる力が強いのだという。

他の部分に比べ、気持ち弾性の強いその尖毛は、私が元居た世界に照らして言えば「リンプスティック」というものだろう。

特定の血を引いた猫に発現していたそのリンプスティックを観察していると、受ける風に合わせて確かに細かく震えている様だった。


もっとも猫と猫人を一緒にするのはいかがなものかと思うのだけど。


そんな事を考えているうちに、僅かに木立ちが途切れている箇所が見えてくる。


「ミーシャ、あの木立ちの切れ目のとこで、一回馬車を停めてもらえる?」


「わかったのにゃ」



随分自然とその語尾に「にゃ」が付くようになったものだと感心して――いや、今考えることはそんな事ではなくて、ファージの里へと続く道を探さないといけないという事だった。



「リーリカ、そろそろ問題の場所みたいなの。地図の用意をしてくれる?」


客車の小窓へそう声をかけ、中から返ってくる返事を確認すると、私は再び周囲を注意深く観察するのだった。


木立ちの切れ目の小さな広場に馬車がゆっくりと寄り添い停まる。

いつの間にか客車から降りていたリーリカがそっと手を伸ばし、御者台から降りるのを手伝ってくれる。


「ありがとう」


と言いおいて、見回す私にリーリカは


「此処ではないのでしょうか?」


とその細い首を傾げ、辺りをきょろきょろと見回すミーシャは、しきりにその耳を動かしていた。


「おかしいにゃ」


珍しくミーシャが発したその言葉に、二人の視線は自然と集まり、広場の中ほどに佇んでいるミーシャは、こんなことを言ったのだった。


「風の向きがおかしいにゃ」


と。


木立ちの並木に沿うように吹く風に、この広場は風の死角になるはずで、だというのに確かに周りを囲まれたその広場から、風が吹き出ているという、少し不思議なその軌跡を柔らかく生えた下草が教えてくれていたのだった。



その意味について、考えをめぐらすよりも早く、突如聞こえたその声に、私たち三人は瞠目する。


「ウフフフフフ……誰が迷い込んだのかと思ったら――ウフフフフ……」


「何者です!?」


瞬時に警戒態勢をとるリーリカに、依然と広場に響く笑い声。

周囲を見回しても誰の姿もなく、ただ「フフフ、ウフフフ」とトーンの高い笑い声だけが響いている。


「姿を現しなさい!」


とさらに警戒を強めるリーリカを軽く制して、私は一歩踏み出すと、不意に一陣のつむじ風が巻き起こり――私の帽子が空高く舞い上がってしまったのだった。


「あら? なーんだ。でも、ほんとにおかしいの。ウフフフフ?」


気が付けば、私達三人のすぐ前に、飛ばされたはずの私の帽子を手にした一人の少女が佇んでいた。


「「「いつの間に!?」」」


驚く私たちを興味深そうに見回しながら、彼女はさも可笑しいといった様子で――


「ずっとここにいた(・・・・・)じゃない」


そう告げるのだった。

唖然とする私たちをよそに彼女は私達三人の周りをぐるぐると観察するように跳ね回るものの、私はその行動に違和感を伴っていると気が付いてしまった。


「足音が、しないわ」


「ほんとにおかしなことを言うのね? 道も知らないエルフさん!? アハッおかしいの。ウフフフフ……」


どうやら目の前の少女――身長はおよそ一五〇センチない位、その華奢な体には黒いワンピースを着ており、大きくウェーブのかかった腰まである髪は、森の色ともいうような若竹色(わかたけいろ)常盤色(ときわいろ)といったとこだろうか?そして頭の上にはやや薄い刈安色(かりやすいろ)の大きなリボンをつけており、コントラストが非常に美しかった。

彼女は大きな瑠璃色の瞳を輝かせながら、今はしきりと私の周りをぐるぐると歩きながら観察しているようだ。

もっとも足音を伴わないのは変わることは無かったのだけど。


「私はエリス。よかったらあなたのお名前を、聞かせてもらってもいいかしら?」


そんな言葉に


「ウウフ。あたしはシルカ。ルー・シルカ」


そう答えると、「あなたたちは?」と言わんばかりにリーリカとミーシャのほうへ視線を向けた。


「――リーリカ」


「ミーシャなのにゃ」


「ウフフ。黒いの二人はリーリカにミーシャっていうのね。ウフフフフ」


一体何がおかしいのか? ルーと名乗ったその彼女は、どこか嬉しそうに目を細め、跳ね回りながらくるくると回転していたのだった。


「さぁ、どうしたの? あなた達はその為に来たのでしょう? ウフフフフ」


「私達がどこに行くか知ってるの?」


「エルフがここに来たのだもの、行先なんて他にないじゃない? ウフフフフ」


そう言ってクルクルとジャンプしながら広場の際へと跳んでいく。

その様子に私たちは頷きあうと、再び馬車に乗って草原の中へ進めていったのだった。


――無邪気な笑い声に誘われるようにして。




◇ ◇ ◇




――それは突然の事だった。


グラリと一瞬視界が揺れたような錯覚の後、私たちは木々のトンネルの中の道を進んでいた。

先導していたはずの少女の姿()はなく、ただトーンの高い笑い声が聞こえてくるのみだった。

それは一定の速さで馬車と共に移動しているようで、更によく耳を澄ませば、その笑い声は、複数人の笑い声であることに気が付いた。


――あら?お客さん?


――まぁ、エルフ。


風と共に付きまとう、そんな彼女らの声に敵意と言うものは感じない物の、その気配だけの笑い声や囁き声を伴って進む馬車は意外にも滑るように進んでいた。

大分下草が生えていたと思うのだけど……。

そんな事を思いながら、馬車の窓から車輪を見ると、なんとも信じがたい光景がそこに繰り広げられていたのだ。


ガサガサと音を立てながら、車輪にひかれないように、草が自ら道を譲る。

馬車が通り過ぎるとヤレヤレといった感じで再び元の様に戻っているのだ。


途中から私が何に唖然としているのか気が付いたリーリカも、


「すみません。今は何もおっしゃらなくても大丈夫です」


とだけ、眉間に指を置きなんだかブツブツと呟いていた。


――まったくどうしてエリス様の周りでは、次から次へとおかしなことが起こるのかしら。


彼女の呟きを聞こえないフリをして、私は覗き窓からミーシャを窺うと――ミーシャはジト目でこちらを批難するような、そんな視線を送ってきていたのだった。



どれくらいそうしていたのだろう?

再びグラリとした感覚の後、間もなく馬車は静かに停まったのだ。


そこは里の入り口であろう門。

その周囲には驚きふためく人々が、門の影からこちらの様子を窺っているようだった。


「とりあえず、おりてみようか?」


「そうですね。では私から先に降りますので」


そう言って馬車から飛び降りたリーリカはその手を伸ばし、私の手を取って、ようやく私は馬車から降りたのだった。


ざわめきがより一層大きくなったその時に、一人の人影が門の中央に進み出てきたのだった。



こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第79話をお読みいただきました方、また日頃のご支援頂いております皆様には尽きぬ感謝を。

有難うございます。


ウフフ、ウフフと騒がしかったかもしれませんが、お許しください。

ではまた次回 気が付けばエルフ 第80話でお会いしましょう。

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