その旅路に祝福を
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第75話『その旅路に祝福を』公開です。
ごゆっくりお楽しみください。
その旅路に祝福を
低い里山に挟まれるように一つの集落が広がっている。
シリウスからまだ近いこのルカの村は、周囲の豊かな里山で多くの鳥や獣といった小動物が育まれ、その恩恵に与ってきた狩場の村だという。
村人の多くは狩人で、一見荒々しく見える彼らはその見た目に反して自然を労わり、自然からその恩恵の一部を得ることによって暮らしている自覚を強くもった人々で、いたずらに木々を荒らしてみたり、獲物を乱獲したりなどはせず、寧ろお構いなしに山や動物たちを荒らす密猟者などから、自然を守る守人だった。
御者台から声をかけ、聞き込みをするミーシャに対し、ぶっきらぼうな様子で答える彼らも、エルフを見るや、その態度を幾分軟化させ、決して邪険にするようなことも無く、不器用ながらにその質問に答えてくれていた。
彼らは純朴な自然の徒だという事を、村長を訪ねたときに一層理解を深めることができたのだった。
商店のないこの村は自給自足が出来る代わりに、こうした外部から人を受容れるインフラは整っていない。
そうした外部の人間が、必要に応じて物資を分けてもらうとすれば、その対応に当たるのは村長の義務である。ということは、周知の事実ということで、私達もそれに倣い食料を売ってもらうために村長のもとを訪れた。
「生憎とお分けできるほどの肉のストックは今はありませんが、山に入ることを許可しましょう」
と快く狩猟の許可をくれた村長に対し、私達は仕留めた一頭の鹿を持ち帰り、その場を借りて昼食とした。
勿論一頭全てを食べきれるわけもなく、この里のものにしては珍しく、好々爺のような村長と、その奥さんにも振舞って、持ちきれない分も置いていこうとすると自慢の燻煙窯で燻製にしてくれたのだった。
鹿のお礼に心ばかりと銀貨を二枚預けると、村の備品に充てましょうと大層喜んでくれて、とれたての野菜や乾燥させたキノコ類も分けてくれたのだった。
そんな中、奥さんはおずおずとこんな話を切り出したのだ。
「あの、もしよければ育成の良くない薬草にエルフの護りをかけてはもらえないでしょうか?」
「わたしに上手く出来るかしら?」
「健やかな成育を祈って頂くだけで構わないのです。エルフの祈りは緑を育むと伝えられていますので、機会があればお願いしているのですが、なにぶん街道の通行量の減った今、エルフの旅人は滅多に通ることはありませんので」
そういって木で作られた植木鉢、というよりは、むしろ木製プランタ―のようなものを持ってきて、その場に置いた。
そこに植えられた薬草は、シダと三つ葉の中間のような、強いて言えば山椒に近いような姿の薬草。
聞けばよく育てたそれを、根を除いて生薬として服用するとのことだったけれど生憎とこの世界の薬事情には詳しくない。
だからといって以前の世界の薬にも、そんな造詣が深いなんてことは無く、精々いつも持ち歩いていたイブプロフェンの錠剤をたまたま調べてみたことがあるくらいのものだった。
内心どうしたものかと考えながら、とりあえず今一つ元気のないその薬草に両手をかざし、健やかにスクスクと育つイメージを膨らませ、静かに唱える。
「ブレッシング」
光りを放つ両手から、金色に輝く光の粒が降り注ぎ――
続いてとんでもない光景が私たちの目の前で繰り広げられた。
まずしおれかけた葉がシャンとして、細く痩せた茎は太く張った。
続いて小さな白い花が咲き、すぐに散った花の後、プランターの中、その薬草の周囲に新たな新芽が育ち、再び花を咲かせたとこで金粒の光の雨は収束する。
えーっとこれは……もしかして一巡して増えたのかしら??
こっそり周囲を窺うと、その場の誰もが目を見開いており――
「「これは一体!?」」
「流石はエリス様です!!」
「なんか良く判らないけど凄いのニャ」
なんて聞こえてくるその声に――
ああ、またやらかしたかも? と思いつつも、ふと思いついて鑑定をしてみることにした。
【オーレン草】
薬草。
効能:根を除いて生薬となる。疼痛止め、抗炎症作用あり。
状態:エルフの祝福により成長速度が早い状態。
「こ、これで良かったのかしら?えっと……オーレン草? かな? ……増えたようだけど」
「なんということでしょう!貴重な薬草がこんなにも沢山増えて、本当になんとお礼を言ったらいいものか……」
感極まる奥さんをよそに
「エルフとは自然の守り人なのです」
そう答える彼女はどこか嬉しそうで、まるで自分の事の様に誇らしげな表情を見せるのだった。
そうしてルカの村では薄亜麻色の髪を持つ地精霊の話は聞けなかったものの、里の人と、ささやかな交流をもつことが出来たのだった。
この里を通っていないなら、やっぱり薄亜麻色の髪を持つ地精霊は新塩の街道を行った可能性が高そうだけど、私達にはこの元祖塩の街道を通るもう一つの理由があるために、軽い聞き込みをしながらこの先を目指そうという事になり、同時にいつかまたこの純朴で善良な人に守られる、この村に遊びに来ようと胸に秘め、ルカの村を発ったのだった。
◇ ◇ ◇
塩の街道とは開拓の道でもある。
私たちが今目指している場所は、コフの南方に聳える霊峰ジーザス山の裾野に広がる森にあるというファージの里だ。
塩の街道は西方へと向かう道なのだけど、まっすぐと西へ向かって伸びているわけでは無い。
シリウスより南西へタミの街まで。そこから跳ね上がるように北西へと進路を変えて、険しい山脈の合間を抜ければ霊峰ジーザス山の東の裾へと続いている。さらに北西へ進んだ先に、古い鉱山の街コフがあり、湖畔の城下サイダの街へと抜けられる。
現在ではコフの街からより東進して、ツールズ村、オウカの城下町、ナーガ村、バダイ村を経て、先日立ち寄ったルカの村とシリウスの中間分岐、シリウスでいうところの西の森を突き抜ける形で旧街道へと合流する新街道が拓かれていた。
ルカの村を発った私たちは、その後チーダの街で聞き込みをしてそこで一泊。
翌日の昼前にはマトの村につき、そこでも聞き込みをしたものの、有力な情報は一切掴めていなかった。
時期的に考えて、頻発する突発的な嵐による崖崩れが起きやすい箇所を通る新街道を嫌って、旧街道を進んだという、一縷の望みほどの可能性に賭けていたものの、その読みは当然の如くあっさりと外れ、いまや聞き込み自体には、それほど熱心に取り組んでいないというのが実態なのだ。
まあ、そんなご都合的宜しく、こちらの都合通りの行動をしてくれてる相手なんていないわよね?
それでも比較的長期間に及ぶ今回の旅、食料確保は出来る場所で、出来るうちにが基本であり、もののついでで現地の村人などと僅かな交流を深めながら旅をしていることになる。
旧街道に魔物を避ける石は設置されていないものの、魔物除けの施された馬車に襲い掛かる魔物の数は数えるほどで、思った以上にその数は少なく、大概は弓を使うミーシャちゃんか、馬車から躍り出たリーリカに、一射あるいは一刀のもとに切り伏せられていた。
猫が弓を使うと、とても上手い。
エルフが弓を使うと、とても下手。
なんだかこれっておかしくない? そりゃ弓矢なんかほとんど撃ったことはないけれど、やっぱりエルフといえば私の中のイメージでは弓矢なのよね。
イメージと乖離する現実に、魔物の処理も二人に任せて私は地図と睨めっこするのだった。
べ、別に拗ねてるわけじゃないんだから!
とにかく私の見立てが間違って居ないのならば、明日の昼にはダーハラの城下町に到着できそうなのだ。
王都以外で新しい領地に入るのは初めてだなぁ。
ノーザ国王からは各国内の領地持ちにあてた親書というか紹介状を預かっているけれど、やっぱり領主に会うのは緊張しちゃうな。
あれ? そういえば私シリウスの領主様ってまだ挨拶してなかったんじゃ???
灯台下暗し、初めて居ついた街であったが為の失態も、当面の間はフォローできるわけもなく、私は冷や汗をかきながら、昼寝という忘却――あるいは現実逃避という手段に出るのだった。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第75話をお読みいただきました皆様、有難うございます。
作品を支えてくださる皆様にも尽きぬ感謝を。
相変わらず少ない会話率ですが、3章の中でも中盤~後半はそれなりに増加するかと思います。
毎話山場や会話が入れられれば言う事ないのでしょうけど、なかなかうまくいかない物ですね。
本編中地名が多く出ていますがあまり深く気にしなくても大丈夫です。
それではまた 気が付けばエルフ 第76話でお会いしましょう。




