三章 プロローグ
こんにちは。
味醂です。
お待たせいたしました。
気が付けばエルフ 第3章 『薄亜麻色の地精霊』 開始です。
気が付けばエルフ第74話『三章プロローグ』公開です。
10分前に書きあがったばかりのプロローグ。
お楽しみいただける作品になるように頑張って執筆致しますので今後ともよろしくお願いいたします。
ごゆっくりお楽しみください。
第三章 薄亜麻色の地精霊
第三章 プロローグ
周囲を高い山々に囲まれた、豊かに水を湛えた湖畔に沿うように、一つの街が形成されていた。
湖に突き出るように伸びた岬の突端は、まるで湖面に浮かぶ小島のように、こんもりとした森のようであり、その森から突き出るように並ぶ尖塔と、掲げられた二つの紋章旗がそこが城であることを周囲に静かに示していた。
北の大陸にあるノーザ王国の中で、古くは西の大陸の王家に連なる外戚関係として、二つの国の関係性をより親密に保つため興されたフレバー子爵家。
軽く八百年はくだらないその家の歴史も一時はその存続が危ぶまれていたものの、つい先日遠方よりもたらされた一通の封書により、その危機を脱したのだった。
そのフレバー子爵家の城館のとある一室の前。
良く油で磨かれた葡萄色の重厚な輝きを放つマホガニーの扉の前に、一人の青年が姿勢を正して直立していた。
「ハッカーです。お呼びでしょうか?」
耳鳴りが聞こえてきそうなほどに静まり返った廊下に、気圧されることもなく、その青年は再び扉に取り付けられた金属製のノッカーを打ち鳴らし、いい加減にもう戻ろうか?と思い始めた頃、ようやく部屋の主から入室の許可の声が掛けられたのだった。
「……失礼します」
内側から開けられたドアの前で礼儀正しく一礼し、奥の執務室へと歩みを進める青年。
その様子を見ていた部屋の主は――
「うむ、待っていたぞ、ハッカー」
「お言葉ですが父上、お待ち申し上げたのはこちらの方です。大方昼寝でもしていたのでしょう? あまりソルティの手を煩わせてるのは如何なものと思いますが?」
執務机の前に着くや否や、開口一番まくしたてたこの青年は、ハッカー・フレバー子爵公子。
――フレバー子爵家次期当主となる予定の人物だった。
決して大柄ではなく、むしろやや痩身ではあるものの、姿勢の良さから意外に身長があるよう見受けられる彼は、女性も羨みそうな艶やかな亜麻色の髪と、切れ長の目に、屋敷の周囲に広がる空を映す湖面の様に、澄んだ碧い瞳を静かに目前の人物に向けていた。
「な、なにを言っておるか、この儂が昼寝など。年寄りでもあるまいに……」
手にしていた本を机上に置いて、現当主であるシトラス・フレバー子爵は慌てて反論したのだった。
「父上、そのご尊顔にくっきりと刻まれているのはそこの書類ではありませんか? それに置かれた本がさかさまです」
「なっ! 馬鹿な!?」などと呟く当主の元に、情熱に染まるような紅の髪の女性が静かに歩み寄り、その綺麗な手に手鏡を持って当主に差し出している。
「馬鹿者! 文字など転写ないではないか」
「父上、昼寝をしていなかったのならば、確認するまでもないではありませんか。別に昼寝をするなら良いのです、ですがきちんと寝室でお休みになられて頂きたいと申しているのです」
まんまと息子のかけたカマにはまる父親は、「ぐぬぅ」だとか「むむぅ」だとか、しきりに唸りを上げては、ついにはその眦を下げたのだった。
その様子に嘆息し、或いは殊の外上手く進んだささやかな反撃に満足してハッカーは改めて口を開くのだった。
「それで父上、お呼びになられた理由ですが――」
その声に皆まで言うなと片手で制すると、フレバー子爵はその理由を息子に語り始めたのだった。
ほどなくして退室するハッカーは、扉を開いたメイドに向けて
「すまない、いつも父が世話をかけるね。それでもどうか父の事をよろしく頼むよ」
「…………」
小声で告げるその言葉に、赤い髪の女性は困ったように目を伏せて、深々とその頭を下げたのだった。
◇ ◇ ◇
シリウスを出発してからまもなく、南の方角へと続く街道はゆっくりと右――より西へと近い方角へとその方向を変えた。まもなく西の森へと続く北上する街道の分岐点だろう。
この分岐点より更に西へと続く街道は塩の街道の名で呼ばれ、この国に動乱と発展という、相反するものを導いた、一本の軌跡そのものでもあった。
ノーザ国領その東の王都リオンとの中継点、中継都市ナラシーのあの襲撃事件。
その混乱収まらぬ明朝に、機を図るかのよう届けられた大量の砕かれた紫魂石。
そしてその紫魂石と同じ破片をそれぞれ取り込んでいたというスライムイーターと、ここまで揃えば流石にそのスライムイーターの氾濫が、仕組まれた襲撃事件であったことを想像するのに難くない。
――謎は全て解けた!
なんて決め台詞を言うまでもなく、状況証拠だけでも充分過ぎるほどに、その関連性を示唆していた。
つまりはこれは――挑戦状。
それがわたしに向けられたものなのか?
それとも横に寄り添うこの黒髪の少女に向けられたのか?
現時点ではどちらとも判断の付かない事ではあったものの、或いは――その両方、二人に向けられたと考えるのが、一番しっくりと違和感なく受け入れられる気がして、今は見えないその意図を無知蒙昧な私に解く事なんてできる筈も無いじゃない?
私、エリス・ラスティ・ブルーノート――真柊慧美という両親に貰ったその名を捨てて、なぜかエルフとなってしまった自分に出来ることと言えば、紫魂石を届けた少女の挑戦を受けることより無かったのだから。
世界樹を巡る旅と挑戦状。
それは薄亜麻色の髪をもつ地精霊の少女の後を追う、不思議な縁に導かれた私たちの――ある秋の物語だった。
◇ ◇ ◇
「助けて頂いて本当に助かりましたの、オジサマ」
「いやいや、困った時はお互い様。こうして出会えたのも何かの縁なのでしょう」
「いえ、本当に――あのままではわたくし、この山の中で路頭に迷い、狼にでも食べられていたに違いありませんの」
「たしかに、この辺りはまだ狼も相当の数が居ますしな、なに大丈夫。あなたはサイダの街まで無事送り届けましょう」
「まぁ、ホントですの? とても助かりますわ。そうだ、今は手元に大したものもありませんが、こちらをお納めになっていただきたいの」
「ほう? これはネックレスですか。しかしこれまた見たことのない宝石ですな」
「さあ? 詳しいことは判りませんが、我が家に伝わるお守りですの」
「なんと、そのような貴重なものをお譲り戴くなんて、とんでもない話です」
「いえ、こうして助けられたということは、きっとこのお守りがあってこそ。次なる人物へと所在が移るのも、これもまた縁だと思いますの」
「うーむ、しかし……」
「ではこう致しましょう。オジサマ宝石商でございましょう?」
「はは、やはりお分かりになられますか?」
「はい、その沢山の指輪に沢山の荷物。宝石商の方でなければどこかの王族位しか思い浮かびませんの。――それに、よく母はこうして宝石商の方をお呼びになられては、お取引させて頂いていたのですよ? そして宝石商のオジサマには、こちらのネックレスを買い取って頂く、という訳にはいきませんでしょうか?勿論言い値で結構ですので」
「わかりました、そこまで仰るのであれば買い取らせていただきましょう。宝石の新たな主人を引き合わせるのもわたくしの使命。そうですね、当面荷物もなくお困りでしょうから、金貨2枚で買い取らせていただきましょう」
「大変お話のわかる優れた宝石商様でいらっしゃいますの。それでは確かに金貨1枚と銀貨10枚いただきましたの。ご配慮痛み入りますの」
「こちらも希代のお守り確かにいただきました。私は後方のコフの街でこの商いを営んでいる者、是非今後も懇意にしていただけると嬉しく思います」
――――――見送る少女をおいて、一台の馬車が湖畔の道を進む。
馬車ののぞき窓から後方を確認すれば、既にその少女の影はなく――ただ掌の中に残された、タリスマンが静かに蒼い光を放っているのだった。
これは丁度良いものを手に入れた。
そんな事を考えながら、商人は白い布でそのタリスマンを大事に包むと、これがもたらすであろう、その見えぬ金貨の数を夢想するのだった。
目先の金貨と将来の顧客候補とは、随分と羽振りの良い一日だったと、女神に感謝の言葉を唱えつつ。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第74話をお読みいただきました皆様ありがとうございます。
ブクマや評価、ツイッターでのRT等ご支援頂いております皆様にもこの場を借りてお礼申し上げます。
有難うございます。
丁度このプロローグを書いている最中に、なんとツイッター上で感想を戴くという嬉しいハプニングが起きました。
不思議なもので、それまで煮詰まってしまっていたよう状況が、その雲を晴らすかのように次々とアイデアが浮かび、予定より早く公開することが出来ました。
(ストック話は全くないですが、それはいつもの事なので。)
嬉しさのあまり長くなりましたが、また次回、気が付けばエルフ 第75話でお会いしましょう。




