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気が付けばエルフ  作者: 味醂
章間閑話2
72/144

猫と妖精

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第72話 章間閑話 『猫と妖精』公開です。

お楽しみください。

 猫と妖精




 城塞都市シリウス

 かつて主要な砦であったその街は、一つの国であったという。


 早い時期にノーザ帝国に併合されたその都市は、以後ノーザの西の砦として発展するが、『戦わず』を掲げた()()()()()の戦争理念により、そこが主戦場となることはなかったのだが――


 それが比較的状態を良好に保ち、今では充分歴史的価値を兼ね備えた城塞都市としての景観は、人々の生活の安定により生み出された観光という新たな産業の、欠かせぬ軸となっていた。


 ここでその奇妙な巡り合わせの力で、新たな人生を歩みだしたその者は、ナラシーより遥か北、険しい峰をいくつも超えたその先の、豊かな森に囲まれた集落の出身で、その優れた敏捷性と聴覚や嗅覚を武器にして、森の狩人たる猫人の娘であった。


 亜人の中では比較的幼少期の短い猫人にあって、その者は周囲に比べるとどこかおっとりとしたところがあり、ありていにいえば、トロかった。

 これでは独り立ちは難しかろうと、1年の猶予を以て幼い弟妹たちの面倒をみさせてはみたものの、却って幼い兄妹のいたずらの的となり、時には落とし穴に、時には逆さ吊りの罠に掛かっては、その一際立派な尻尾を力なく垂れ下げる日々が続く事となる。


 猶予の一年をなんとか過ごし、16歳になった春の日に、彼女は集落を後にして、遠くシリウスの街を目指したのだった。



 ◇ ◇ ◇


 遠くたなびく雲を眺めながら、のんびりと道なき獣道を進みながら、気の向くままに昼寝をしたり、時に野生の馬を追いかけて、ただそれとなく目的地に向かっていた。


 眠くなれば木に登り、雨が降ればウロに潜り込みやり過ごし、そうして彼女がシリウスに到着したのは、もう夏になろうかという頃だった。



 道中手なずけた馬に乗り、冒険者の登録をしたまでは良かったものの、都市という場所において何をするにも先立つものが必要となる。

 そこで彼女は簡単な依頼を受けつつも、普段は野宿でやりすごし、その間馬は自由に放しておいたのだった。

 こうしておけば利口な馬は自分の食い扶持を自分で探し、朝になり呼ばれれば主の元に戻ってくるのでなんにしても手間がかからない。


 そんな彼女の暮らしを変えたのは、街で耳にした海の話であった。


 曰く大きな水溜まり。

 その水は塩辛く、川とはまた違った魚が住んでいるのだという。


 その内容に興味を引かれた彼女はついに王都へと旅立つこととなる。

 食事がもらえて、報酬がもらえて、王都にも安全にいける。

 これほど都合のよい依頼は彼女にとってはまさに渡りに船で、その後待ち構える騒乱を、その時の彼女はまだ知らない。


「あなたが、依頼主なの?」


「えっ? あ、うん、そうよ。こんにちは。」


 ギルドの受付嬢が示した場所には既に二人の冒険者とおぼしき人間と、メイドを連れた妖精が待っていた。


「これ。」


 手にした依頼票をその白銀とも白金ともいえない髪の妖精に手渡したとき、思わずかぶっていたフードがハラリと落ちる。



「!!!!」


 にわかに熱を帯び、潤むその金色の瞳がどんどんと近づいて、伸ばされた腕が無造作に彼女の耳を撫でつけた。


「――ふに?」


「あ、あの…エリス様?」


 慌ててやめさせようとするメイド服の人間もものともせず、彼女は暫くその柔らかい被毛に覆われた耳を不思議な妖精に触られ続けたのだった。



こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第72話をお読みいただきまして有難うございます。

おかげさまで累計PVが40,683アクセスとなりました。

7月2日だけでもおよそ2500アクセスと、連載開始以来初めての日間2000人超えとなりました。


章間のSSは本編で紹介できなかったちょっとしたエピソードを紹介できるのがいいですね。

それではまた次回 気が付けばエルフ 第73話でお会いしましょう。

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