黒い絨毯
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第69話『黒い絨毯』公開です。
徹夜で頑張っちゃいました。
お楽しみください。
黒い絨毯
「くそっ!一体何体いやがるんだ!」
「馬鹿野郎! 弱音を吐く暇あるならしっかり押さえつけろ! 突破されるぞ!?」
「ああ、畜生! 第三班が崩れやがった! 方円陣は諦めろ! 第一班は三班を救出! 残った班は魚鱗の陣へ陣形変更急げ!」
「よりにもよってスライムイーターの大発生だなんて、そもそもこいつら何を狙ってやがる!?」
「魔物の考えることなんか分かる訳ないだろう? それよりエリス様の馬車に近づけさせるなよ? お前らノーザの兵士の意地の見せ時だ!」
悲鳴や怒号が入り交じるその中心で、私達は馬車の中に匿われた状態で戦闘を見守っていた。
夜半ごろに突如内堀のの排水溝の柵が大音響とともに破壊され、そこからなだれ込んできた巨大なタニシに似た生物。
違う事といえば体長は80センチから120センチほど、頭部の触覚に似た器官の周囲から無数に伸びる長い触手を狂ったように振り回し、兵士の武器や脚に絡みついては次から次へと飛び掛かり、さらには今も尚、内堀から這い出す後続は後を絶たず、既に一面黒い絨毯がゆっくりと迫ってくるかのような錯覚を覚える。
「リーリカ、これ私たちが出たほうがいいんじゃない?」
「気持ち悪いにゃ」と震える黒猫にしがみつかれる黒髪の少女にそう問いかけると、予想に反し
「今少し番兵に華を持たせなければ、彼らの沽券に関わるでしょう。」
と、そんな答えが返ってきた。
うーん、沽券とか面子とか、案外この世界の面倒なトコなのよね。
「でも、すごい数だけど、大丈夫なのかしら?」
「そうですね、たしかに数は凄いですが、1匹1匹は大したことはありません。おそらく死傷者がでるということはないと思いますが――大人しいスライムイーターが突如襲ってくることのほうが気になるところです。」
目を細め、何かを見極めようとするその黒い瞳は、どこか遠くを見るように虚空の一点を見つめ呟いた。
番所に詰めていた隊の半数ほどが防衛にあたってはいるものの、火矢をけしかけても剣で切り付けようとも、その圧倒的な数による彼我の戦力差に焼け石に水の様相を呈しており、じりじりとその戦線は押されているように見えた。
なによりスライムイーターは露出した箇所に攻撃を受けてもなかなか致命傷とはならないようで、急所と呼ばれる場所を直接攻撃するにはその堅牢な殻ごと突き破るしかないものの、兵士達が使用するロングソードやライトソードといった片手剣では簡単に弾かれてしまうのだ。
槍を持つ僅かな者たちだけが、その殻を槍の重さと勢いに任せ突き破り、灰へと還しているものの、たった数名の槍持ちだけでこの場の全てのスライムイーターを倒すなど、到底無理な話なのは明白だった。
その様子を眺めながら、頭の中に浮かび上がるように、朧気に視える一本の線。あと10メートルも下がってしまえば取り返しがつかないであろう、おそらくは死線を焼き付けながら、私は馬車の側面を守っている兵士にこう告げた。
「このまま撃退できれば良いのですが、そうもいかないでしょう。皆さんがあと半分押されたら、その時は私が出ます。そのタイミングで巻き込まれないように、一気に皆さんをこちらへ退避させてください。」
一瞬苦虫を噛み潰すかのように、逡巡したものの、馬車の警護についていた兵士は強く頷いてくれた。
「リーリカ!タイミングを計って欲しいの。ミーシャちゃんはそこで隠れてていいからね。」
「わかりました。エリス様。」
静かにドアを開け外に出る。
喧噪としたその場が嘘のように、私の心は凪いだ湖面のように静まり返り、目前に迫る決河の時を見誤らないように待ち構えた。
襲ってくる魔物は放射状。
見たところ貝類に近い魔物。
ならば――
魔力を解き放ちながらイメージを膨らます。
イメージするのは電撃。雷。地を這うように拡散する電気の嵐。
出立前に国王から頂いたタクトを懐から取り出して更なる魔力を練り上げる。
私の内から噴き上がる魔力の奔流がピークに差し掛かる僅か前、リーリカの合図とともに護衛の兵士が
「総員全速後退! 馬車の周りに駆け込め!!」
と、放たれた号令に戦闘中の兵士が踵を返したところで
「ライトニングスパーク!!」
声高らかに叫んでタクトを振り下ろした。
刹那、タクトの先から白い雷光が迸り、バチバチと弾けるような音を伴って地を這うように黒い絨毯と化したタニシもどきを呑み込んでいく。
やがて――瞬時に動きを停めた黒い絨毯は、一斉に灰の嵐となってその場に降り積もったのだった。
いくつもの黒い殻をその場に残し、霧散するように消える灰の海に、リーリカを除くその場にいた者全てが息を飲み込み、そうでなかったリーリカは――
「大概デタラメになって来ましたね、エリス様も。」
なんて呆れたようにその光景を見守るのだった。
唖然とする兵士たちを目の前に私は
「もう大丈夫そうなので後はお任せして、もう寝ても良いですよね?」
と問いかけると、なぜか全員が激しく首を縦に振って応えたのだった。
――――そんな事言ったって、寝不足はお肌によくないんだからっ!?
◇ ◇ ◇
建ち並ぶ倉庫の屋根の上には二つの影が寄り添っていた。
槍を持つ大きい影はその様子を存分に眺めると、傍らに寄り添う者に語り掛ける。
「ほう……こうなるか。ところで久方ぶりの再会はしなくても良いのか?」
「………………」
「まあ、確かに出番は無かったようだが――折角蒔いた種もこれではすべて枯れるも必至だろう。邪魔をされた挨拶くらいしても良かったのではないのか? イリスよ――いや、今は――常闇の巫女リーリアだったか?」
「……行くわよ。アル。」
「感動の再会はお預けか。まあ、それも良いだろう。立会人は多いほうがいいに決まっているからな。」
東洋風の服のシルエットに特徴を宿したのは、手にしたその長い太刀。
月夜に長く伸びた黒髪をなびかせて、数度の跳躍の後に霧散してかき消えた。
後を追う、槍を背負った影もまた、その後を追うように静かにかき消えるのであった。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第69話をお読みいただきありがとうございます。
次話で二章完結となり、そちらも本日中にお届けできるかと思いますので今しばらくお待ちください。
それではまた次回 気が付けばエルフ 第70話でお会いしましょう。




