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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第二章 消えた常闇の巫女
68/144

中継都市に潜む影

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第68話公開です。

お楽しみください。

中継都市に潜む影




幾度となく、通り往く車輪に穿たれた石畳。

まるで軌道のように続くそれはこの街の数少ない一つの名物でもあった。

内海の近く、平坦な草原を切り拓かれ、そこに作られたこの街は、その全面を石畳で舗装され、幾本もの水路が複雑に刻まれていた。


水路の周囲には大きな建造物が建ち並び、水路側に大きく開口された搬入口からは多くの荷が運び込まれたり、或いは運び出されたりしているのだった。


中継都市ナラシー


東の岬にある王都リオンの西方にあるその街は、更に西方のシリウスや西の大陸方面と、ここ北の大陸その北部へと続く主要街道の交点にあって、流通の要であるハブ都市として機能していた。


掘られた水路は深くはないものの、ナラシーを拠点にする仲卸同士の商いによって生じる、街の中の荷の移動に重宝されて水路を行きかう(はしけ)の数は日夜を通してかなりの数にのぼるのだった。


当初夜間に行き交うことはなかったものの、流通量の増加に伴い艀で溢れた水路の渋滞緩和に用いられたのが通行時間帯をいくつかに区切ることだった。

毎年一度収められる協賛費の高いもの順から好きな時間帯とその口数を割り当てられる仕組みになっており、人気の時間帯を手に入れるには相当な額の協賛金を街に納めなければならなかった。


そのような事情からこの街では商人たちから多大な資金が集まるために、その利鞘に目をくらました一部の商人たちが自由貿易都市を目指して反旗を翻そうと立ち上がったものの、互いに上辺の協力者を出し抜こうと画策する愚かな者が多かったがために、脆くもその企みが失敗したのは今から三年程前のことであった。



三年の月日を経た今も尚、その傷跡は街の至る所に残っている。

この規模の街として、その最たるものは冒険者ギルドが廃されたままになっているという事。

国という枠組みを超え、生活の安全の確保という中立の立場から各都市におかれたそのギルドも、結局は運営するのは人の子の力によるもので、その中から欲という魔物を排除するのはいかに困難な事かと、当時のギルドの運営陣は頭を抱えたという。


それが自国の中の、すぐ隣の都市に置かれたギルドであれば尚の事。

失墜した信頼を取り戻すべく、冒険者ギルドの元締めとなる王都リオンの冒険者ギルドはナラシーの冒険者ギルドに制裁を加え、完全解体したのだがその為にまた多くの冒険者の命が無駄に流されることとなり、最終的にはノーザ国の兵力の動員を以て、その事態の収拾は図られた。





当初ギルドの再構成を図ろうとしたする動きはあったものの、利潤を我が物とすべく密かに自治都市への野望を抱く商人の禍根は強く、結局は再構成しても再び取り込まれるだろうという事で、早々に諦めたという経緯があるらしい。




「本当はこの街に逗留するのは嫌だったのですが……」


「でも国王が言うには、最近この街に定期的に何かが流れ込んでるって話なのよね?」


「なんでも船倉を改造してまで持ち込まれていたのだとか。」


「そこまでして持ち込みたかったものってなんなのかしら?」


ゆっくりと街の中を進む馬車の中、私とリーリカはそんな会話をしている。

冒険者ギルドが無い事と、多大なお金が動くこの街は無法地帯とまではいかなくとも、治安はかなり低下しているらしい。なにより質がわるいのは、宿屋などと犯罪組織が裏でつながっているケースが多いからだそうだ。


「さっき話していた宿の話だけど……」


「そうですね、例えばその日泊ったカモが消えたとしても、その日泊った人物など居なかった。簡単にいえばそういう事です。」


つまりは、犯罪者の手引き。

お酒や食べ物に一服盛って、カモが寝入っているところを攫ってしまえば、反撃のリスクを抑えて簡単に誘拐できるのだ。ついでに合鍵をもつ宿屋が手引きをしていると言うのだから、なんといっても分が悪い。


「とにかくそういう訳なので、今日は宿は使わずに番所の敷地を借りて野営します。それとくれぐれも、私が用意するもの以外を口にしないでくださいね。」


安心して宿も利用できないというこの街の実態に、私は絶句したものの、どういう訳かこの街に二泊逗留するのが国王の出したミーシャの身柄引き渡しの条件だったのだ。


当初猫娘よりエリス様の安全が大事と反発していたリーリカも、ついには折れてそうならばとあれやこれやとナラシーの街でのレクチャーをしている、まさのその真っ最中であった。


「それにしても、この辺りはちょっと――」


言い淀んで少し開いていた窓を閉め、ハンカチを顔にあててリーリカを窺うとリーリカはその理由を教えてくれた。


「水路はほとんど流れがありませんから、水も空気もどうしても淀んでしまうのです。朝夕の風が吹けば少しはマシになりますけれど。」



一見遠目にはそこまで汚れて見えないものの、近くの水路に目を凝らせば、ゴミやら何やら得体の知れないものが水路の際に漂っているのを確認できる。

そんな風景にかつての工業地帯にある引き込み路を思い出し、人の生活が環境に与えるストレスとはいかに大きいかを思い知らされた。


「これでも一時期よりは綺麗になったのです。」


というリーリカの言葉によると、なんでも生活排水がもとでその汚染が一時期内海にまで及んでいたというのだ。

そのあまりの環境変化に耐えきれなかった水棲の生体が大量に打ちあがったところで重い腰を上げたナラシーの街は、生活排水の流れる側溝にスライムを放し、水の浄化に努めたのだそうだ。

しかし高エネルギーの排水に急激に増えたスライムが今度は水の流れをせき止めるなど、二次的被害が拡がると、今度はスライムを捕食するスライムイーターと呼ばれる魔物を放したのだという。


「魔物まで利用するなんて、人間ってよっぽど魔物よね。」


漏らしたそんな言葉に目の前の少女は一度目を丸くしては、すぐに再び細めると


「そう……ですね。魔物は人の心の闇に棲む。案外間違っていないかもしれません。」


僅かに微笑み静かにそれを肯定するのだった。



◇ ◇ ◇



「到着なのにゃ。」


番所というからもっと小さいかと思っていたら、想像よりもずっと広い塀に囲まれたその場所は塀の内側と外側にそれぞれ濠を設けられられていた。


出迎えた番兵に国王からの書状を渡すと小さな跳ね橋を通り、敷地の中に案内される。


「国王陛下よりお話は伺っておりますエリス様。このようなむさ苦しい場所にてご不便をかけますが、ここより安全な場所がないことをご理解いただければとお思います。」


そんな挨拶で迎えられた私たちは、広い広場の一角に馬車を停め、早速野営の準備を始めたのだった。

丁度雨水排水用の小さな側溝が引かれているその場所なら、馬車からの排水なども問題なく流せるので丁度良い。


最初改造された馬車をみて、ひとしきり驚いていたミーシャもすぐに慣れ、この馬車の便利さを共に享受する旅の仲間となっている。


「じゃあミーシャは排水お願いね今入っている水は全部使っても構わないから、足りなかったら声かけて頂戴。」


高価なコアを利用した簡易浄化装置により、諸々のものは浄化されているものの、排水タンクは定期的に掃除をしなければならず、それは御者であるミーシャの仕事とするのが適当だとうろいうことになり、むしろ水魔法で洗浄する私がやったほうがいいのでは?というささやかな主張は、リーリカによってしっかりと阻止されていた。


「エリス様にそんな汚れ仕事をさせていては名目上従者でもある自分の立つ瀬がないのです。」


懇願されれば流石にそれ以上言う訳にもいかず二人の意見を尊重する結果となったのだけど。


それにしても私がこの街に来ると、一体何か起きるというのだろう?

王の提案の裏に何かが見え隠れするのは間違いないし、かといってそれが悪意かといえばそうでもない。

そう、なんというか、「もののついでを期待して」私の行く先に事件が起こるということは、いい加減にもうある程度自覚している。

それがセカイの雫たる私の在り様なのだから。


忍び寄る魔の手が、その時もうすぐそこに迫っているなど、このときの私達には知る由もない事だったのだけど。

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第68話をお読みいただきありがとうございます。

二章完結に向けて頑張りますので今後ともよろしくお願いします。


それではまた次回 気が付けばエルフ 第69話でお会いしましょう。

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