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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第二章 消えた常闇の巫女
66/144

暴食の末に

こんにちは。

味醂です。


一足先に書きあがりましたので~


気が付けばエルフ 第66話公開です。

お楽しみください。


 暴食の末に




 王城に用意された私の私室の客間には急遽用意された小さな寝台が置かれており、そこにスヤスヤと眠るのは黒毛の被毛を持つ猫人――ミーシャちゃんだ。


 未だ目覚めぬ彼女は診察と治療が施されたが、一応命に別状はないようで、単純に眠っているだけの様らしい。


「それではお大事に」


 と部屋を後にするのは王城に詰めているお医者様だという。


 あの後一度着替えた後で、秘密の部屋で国王に聖地ラスティでの事を報告した私達。

 一緒にお願いした調べものの事もあり、今夜は王城に泊っていく事となった。


 衛兵3人組がその後どうなったかは気になるところだったものの、リーリカが後はお任せ下さいと、事後処理を申し出てくれたので彼女を信じて任せることにしたのだった。



「それにしても災難だったわねぇ。」


 傷んだドレスをその手に取りながら、その傷み具合を検証しているのはシリウスに洋品店を持つベロニカさんだ。

 こうしたドレスの弱い部分などを検討するのも大事だということで、目下私が着用していた衣服はまるごとベロニカさんの前に拡げられていた。


 勿論下着を除いて、ね。


「その、服を痛めてしまってゴメンナサイ。折角素敵なレプリカ服を作って頂いたのに。」


「大丈夫よ、エリスちゃん。もっともあちこち付け直しをしないとけないから、装備化は流石に外れてしまうわね。」


「そうだ、装備化の件なんですが、少しばかり長い旅に出ることになるかもしれないんです。勿論近くに寄った際には都度シリウスには顔を出そうと思ってはいるのですけど。」



 私の言葉に一瞬手を止めた彼女は、再び作業を再開しながら


「だったら少しストックを作ってから旅に出てもらおうかしら?それに売掛け回収できているものもあるから清算もしてもらいところだし。」


「えぇ、大丈夫です。すぐに遠方へ発たないといけないというわけではないので。その間に調べものもありますし。」


「もうじき王都で注文を受けた分のドレスは数日中には完成するわ。その納品が終わり次第シリウスに戻るから、ストック分をいくつかお願いね。」


「それと下着なんですけど、こんなの作れませんかね?」


 そう言って私は描いておいたスケッチを荷物から取り出して、ベロニカさんに見せながら説明する。


「あら、可愛いわね?このタイプならすぐに作れるわよ。そうね、こっちのは素材の伸縮性次第かしら?装備化すれば問題ないでしょうけど。この部分は伸びるように作るのかしら?」


「そうです。こっちのはサイド部分をしっかりと作ってもらって、伸びなくても大丈夫です。こっちはやっぱり難しいですか……」


 ちなみに私がこの世界で広めてしまったパンツはといえばハイレグショーツタイプのものだった。

 戦闘時なんかは動きやすいのでいいのだけど、やっぱり前の世界と違って伸縮性に乏しいので長時間徒歩で移動したりすると脚の付け根が擦れたりして痛いので、全面を覆うスタンダードタイプやヒモパンがあるといいなーなんて。

 良く伸びるスキャンティとかも作れれば良かったのだけど、さすがにそれは難しそうだとのこと。


 何か良い素材ないかしら?


 ブラについてもカップの種類がもう少しあると、この暑い季節にフルカップのものだけだと、さすがにすぐに汗だらけになってしまう。三角タイプのものなんかアンダー浅目で良いんだけどなぁ。

 逆に冬になればロングタイプのが欲しくなりそうなものだけど。

 そこはまたその時にお願いしてみよう。

 無理を言って既にキャミソールタイプのものは作ってもらってるしね。


 そんな感じにベロニカさんとの打ち合わせを続け、結局ミーシャが目を覚まし話を聞けたのは午後になってからの事だった。


 ◇ ◇ ◇



 ノーザ王国王都リオンの王城のとある部屋の中、その少女は大きな耳を真っ直ぐとこちらに向けて、目の前のケーキを食べるのに夢中になっていた。


 眠りから覚めた彼女の第一声は、ここはどこ? ではなく。


「おなかがすいたの。」


 であった。

 聞けばここ2日はろくなものを食べておらず、所持金も全くないという。

 肝心の衛兵に連行されたのは、どうやら一文無しになった彼女は空き倉庫の軒先に積まれた空箱の中で寝ていたらしく、丁度起き出したところを衛兵に見つかり連行されたのだという。


 確かに不審者には違いないだろうが、一体どこをどうしたら王家転覆に与する者という事になるのだろうか?



「じゃあ、あの馬は売ってしまったの?」


「そう、なの。」


「そこまでミーシャちゃんを狂わせた食べ物って一体……?」


「まんまるあつあつでくねくね踊ってたの。匂いがたまらないの。」


「まんまる……」


「熱々ですか、なんだかそのような物を、先日エリス様に食べさせられた記憶があるのですが?」


 その答えに突如、とあるビジョンが浮かんでしまった私。

 この世界ではタコこそが傾城魚と呼ばれることになるのだろう、なんて下らないことを考えてみたり。


 え? 本来それがどんなもので、何故そんな謂れになったかなんて私に答えられるわけないじゃない!?


 と、現実逃避を重ねるものの、心の隅に小さな罪悪感が芽生えてしまったことは事実で、晴れて冤罪が証明されるなら、なんとかしてあげようかなんて思っていたりはするのだった。

 まさか自分が完成形へと押し上げた、魔性のタコヤキにドハマリ(、、、、)してしまったというミーシャちゃんは、有り金全てをつぎ込んで、果ては所持していた愛馬まで売り払い、数日間にわたりそれを買い求めたのだというのだから。


 ――それにしても、ミーシャ(ねこ)がそんなにタコを食べて大丈夫なのかしら?


 なんて、その謂れがそれに含まれる非加熱のチアミナーゼという酵素によるところだとは知らない私は、益体もない事に頭を悩ませるのであった。




 ◇ ◇ ◇


 浅く相手を誘い出し、時に深く懐に潜り込むように続く駆け引きの応酬の、軋む金属の音に隠れるようその報告が行われていた。


「調べましたところあの三名、やはり正規の手続きを伴わない取り締まりをしていたことが判っております。また度々護送などの口実を作ってはナラシーの街へと赴いており、この際にも公費を不適切な使用用途で使い込んでいることも数件あることを確認しております。」


 鴇色の髪を振り回しながら、覗き込むように高い位置からその身を寄せて、僅かな拮抗の間にその言葉は紡がれる。


「ナラシーの街か……やはりあの商家に通じていると思って間違いなさそうか?」


 その端正な顔を見上げながら今度は国王が先手を取らんと大きく下から突き上げた。


「おそらくは。まだ確証は出ていませんが、まず間違いないと思って宜しいかと。如何しますか?」


 そんな動きを予測していたように、近衛切っての使い手である彼女はその身を少しずらす様に動きをいなし、フェイントとばかりに大きく引き抜いた。


「まずは更迭し、財産を没収したうえで奴隷に落とし、ナラシーの奴隷商の元にでも置いてみるとするか。」


 しばしの間をおいてそう告げる王の言葉に、彼女は再び逼迫し


「つまりは囮にするという事ですね?」


 自らその剣を腕ごと抱え込み、距離を縮めて間合い殺す。


「そうだ。神子様も一度はシリウスに戻られるという。うまく事が起きれば三年来の膿を出すことができるかもしれん。」


 言いながらも奥に囚われたそれを何とか動かし抜こうとするも


「危険ではないでしょうか?神子様も、あの者にとってもナラシーは敵意の巣窟となりえる場所。それに恐らくあの猫人も神子様はお連れになりたいようですし。」


 その動きに合わせるように追従する動きで、がっしりと相手の懐深くに囚われたままとなっていた。


「まがりなりにもラスティの名を掲げる者である以上、既に事態はそのように向かっていると考えるほうが、私は良いと思うのだ。」


 内面で湧き上がる悔しさと、もう出る意見も尽きるというところで


「ではそろそろ終わるか」


「……お心のままに。」


「「……――――」」


 そうしてこの日の鍛錬は幕を閉じたのだった。

 解放された腕は痺れ、既に力なく垂れさがっており、それを無言で見つめる王は


「今少し手加減すれば良いものを」


 一人ごちると窓辺に立ち――

 吹き込む風に熱を帯びた身体が冷やされていくにつれ、心地よい倦怠感を感じながら、彼は大きくため息をついたのだった。






こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第66話をお読みいただきありがとうございます。

次話はこれからの執筆となりますので少しお時間いただきます。


それではまた次回 気が付けばエルフ 第67話でお会いしましょう。

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