表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気が付けばエルフ  作者: 味醂
第二章 消えた常闇の巫女
65/144

傲慢の対価

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第65話公開です。

お楽しみください。

 傲慢の対価



 鴇色(ときいろ)の髪を揺らしながら、白い鉄靴を響かせる。

 ――貴重な訓練の時間を邪魔された。

 ただそれだけでも目の前を行く衛兵は、私を苛立たせるには十分過ぎるほどの理由をもたらしているというのに、いちいち媚び諂うその態度が鼻につき、その苛立ちを際限なく増大させていた。


「本当に不審者なのだろうな?」


 近衛師団の訓練中に飛び込んできたこの下級の衛兵に改めて問いただす。


「衛兵長自ら捕りたてた不審者です!きっと王家転覆を目論む亜人(やから)に違いありません!」


「それで、その者たちは何をしたというのだ?」


「捕らえられた仲間を逃がそうとしたのか、護送中に気を引くかのように話かけてまいりました。これだから亜人の女というやつは油断も隙もないものですな。」


 前を行く衛兵の発する言葉がいちいち気に障る。

 言動からしてこいつらは亜人蔑視を掲げる一派であることは、まず疑いのない所であったし、そうした一派が何かにつけ亜人を差別したり、難癖つけて犯罪人にしようとしたりと、このところは特にそんな話が多かったのだ。

 噂によれば犯罪奴隷に落とした亜人を慰み者にしているなんていう豪商もいるというが……



 そんな事情もあり意気揚々と不審者を捉えたと報告にやってきた衛兵を、どうしても斜に見てしまうというのは仕方のない事だろう。


 そして、詰所に着いた私が目にした光景は、その考えが決して間違っていなかったことをハッキリと自覚させたのだ。



 詰所に作られた牢に転がる猫人の娘。

 汚れた床に随分と手荒に投げ込まれたであろうエルフの娘。

 目が合うと申し訳なさそうに、上目遣いで会釈をされた。


 さらにその傍らに静かに控える黒髪の少女に至っては、氷のように冷え切った瞳に深い闇を湛え、殺気にも似た視線をこちらへと飛ばしていた。



 ああ、これだから舞い上がった愚図な男は好かないのだ。

 これから起きる一幕を予想して、懊悩煩悶(おうのうはんもん)と顔を顰める私と並ぶ近衛に対して、詰所で横柄な態度で待っていた衛兵長はといえば、鬼の首を打ち取った将にでもなったつもりなのだろうか?



「これはこれはラヴィナス卿直々に参られるとは、よほど近衛というものはお暇らしい。」


 自分たちで呼びつけておきながら、近衛を貶めようとするかの皮肉(こえ)に、沸き立つ血をなんとか抑え、私は()()を開始した。



「まず確認するが、この者たちを捕らえてきたのはそなたの命令か?」


 出来るだけ彼女らのほうを()()()()()()衛兵長へ問いかける。


「勿論です。無人の倉庫に潜んでいたそこの獣娘と、それを連行している最中に、逃がしに来た亜人(エルフ)の娘。おそらくは同じ一味なのでしょう、そこなる女はメイドに紛れ王城にでも侵入するつもりだったようですが、私の慧眼にかかればこの通り、すべてを捕らえることに成功したのです。」


 ――笑えない。

 少なくとも牢の中に居る二人を知る、私と、共に詰所に来た近衛は冷たい汗をかきながら、得意げに反り返る目の前の男にどう対処したものかと考えていると、更なる人物が詰所を訪れた。



「これは国王陛下、このような場所においでとは、しかし流石は国王、我が国を貶める下賤な者を、国王自ら確認にこられようとは……」


 調子付く男をよそに、国王は困り果てる私たちを見て、更に牢のなかで捕らえられている彼女を見ると――


「レ……ラヴィナス卿。まずはその三人を拘束せよ。」


「拘束とは、もうすでに牢に入れてあるではありませんか。」


 そんな言葉を発する当人は、まさかその三人が、衛兵三人だとは思いもしなかったようで、国王の言葉に従い迅速に行動に移る私と部下に、衛兵たちは抵抗する暇もなく身動きを封じられたのだった。


 唖然とする衛兵を無視して国王は壁にかかる牢の鍵を手に取ると、自らの手で牢を開け放ち、エルフの少女に平伏した。


「「「!?」」」


「エリス様、この度は我が部下がとんだ粗相をした模様、どうかまずはその場からお出になられてください。」


 その言葉に目を丸くする衛兵三人。

 それもそうだろう。この国に国王を平伏させるほどの人物が、居る筈はないのだから。


「王様すみません、このまま立つとちょっと……」


 そういって破れたスカートの裾を気にしては、立とうとしないエリス。


「これは気が付かず申し訳ありません、すぐに何か持ってこさせましょう――おい!」


 と、続く掛け声に、近衛の一人が詰所をすごい勢いで飛び出していく。


「さて、ラヴィナス卿。この不始末を、一体私はどのように償えばよいだろうか?」


 王の悪い癖か、芝居がかった口調の裏に、私に対しての揶揄(からか)いがぎっしりと詰まっている。


「まずはエリス様にお話を伺うのがよろしいかと。」


「そうだな、では先に来ていたラヴィナス卿のほうが少しは話が通っているだろう、卿に任せるとする。」



 何か何でもこの一連のやり取りを私に押し付けたいらしい王は、真面目な顔の裏側に、ニヤニヤとした笑みを浮かべてそう宣った。


「――わかりました。ではエリス様、一体なぜ衛兵に声を掛けたのでしょうか?」


「その、ごめんなさい。連行されていたこの子――ミーシャちゃんは私が最初に王都に来た時に、一緒に来た冒険者だったもので、何があったのか知りたくて。」


「それでその理由は判ったのでしょうか?」


「いえ、そうしたら急に捕らえられてしまって、この通りな訳で」


「おとなしく従うエリス様に、そこの男は乱暴にその身を拘束して、それはもう辱めを受けるのではないかとヒヤヒヤするくらいでした。」



 エリス様の背後から、黒い殺気を迸らせながら、黒髪の少女が追撃する。


「とにかく、連行される知り合いを見たので理由をきいたところ、問答無用で捕らえられた、ということで間違いないのですね?」


「そうですね、間違いありません。」


「陛下、これは大変申し上げにくい事ですが、どうにも我が王城の衛兵ともあろうものが、勝手な解釈の上に、乱暴を働いたと、認めざる得ない状況なのですが」


 ささやかなお返しとばかりに王へ芝居がかった伺いを立てる。


「そんな馬鹿な!たかがエルフの小娘のいう事をそのまま鵜呑みにするなんて事があってたまるか!」


 それまで黙っていた衛兵長が、この場を包む異様な光景に呑まれたか、その声を荒げ、ただでさえ耳に障る声がより一層耳障りになり、その矛先を怒号を交えてたたきつけた。


「ええい、五月蠅い! 神子様と国王陛下の目前で、神子様に有らぬ疑いをかけた本人が騒ぎ立てるな! 話が進まないではないか。」


 何かを察したのか、衛兵長以外の二名の衛兵は既におとなしく控えているものの、当の本人に至っては一向にその態度を改める兆しも見せない。


 何かとこれまでも問題を引き起こしていたこの者を、陛下はこの場に乗じて処分するつもりなのだろう。

 確かに王城の衛兵長が、場末の娼館と繋がり、冤罪まがいに犯罪奴隷にした女を保護(、、)という名目で娼婦として働かせているなんて事が明るみになれば、ろくなことにならないのは明白だからだ。


 これまでも処分したかったものの、決定的な証拠も無いが故に目溢しされてきたというだけで、それを考えれば今回の不始末は、実に良いタイミングであったと思えただろう。


 ――馬鹿め、娼館に通う程度で満足していればいいものを。

 心の内で愚かなる傲慢を振りかざすその者に悪態をつき――さらに重圧をかけるべく、事実を控えめに誇張して突きつけてやることにした。


「神子様がこのように穏健だから良いものの、そうでなければ国が亡ぶ事だって有ったこと。そこまで大事に至る前に、そこに控える従者によってお前ごときの命なぞ、一瞬で消し飛んでいただろうがな」


 漂う殺気にあてられて、うっ……と尻込む衛兵長。




「そ、そんな、さすがにそれくらいの事で国が滅びるなんて――」


「エリス様がお許しになられても、直接手を掛けていたならば、私がその手を切り落としておりました」


 言いかけるエリス様に、すかさず従者が物騒なことを口にする。


「今のところは被害と言えば、そこの猫娘と、エリス様のお召し物ですが……果たして衛兵長如きの給金で、償いきれるかどうか……」


 給仕服の従者が言う通り、確かにエリス様の今日の服装はかなり値が張るものの様だった。

 しかし流石に弁償しきれない額というのはどうだろうか?


「女! 見くびるのも大概にしろ、これでも衛兵長。その程度のはした金――」


「特別に原価で提供されているエリス様だけの特別価格で6金貨――」


「その程度の額――」


「ただし、エリス様のお召し物は全てが装備品(・・・)になっております。あなたが弁償するというのなら制作主に支払うべき金額はおよそ54金貨という事になりますが?」


「バ、馬鹿な!そんなでたらめな事が有るか!そもそもこんなエルフにそんな服が買えるような財力が――」


「ありますとも。エリス様、革袋を見せても良いでしょうか?」


「そ、それは良いけど……」


 苦し紛れの言いがかりをつけようとする衛兵長を押しとどめ、

 従者がエリス様の懐から取り出した革袋を緩めて、その中身を床に拡げると――

 大量の金貨のほか出てきたのは3枚の白金貨。


 私を含め唖然とする一同に、従者は更なる反撃の一言を言い放った。


「あるいはこの者たちは、この大量の金子を持っている事を知り、敢えてエリス様を捕まえた可能性だってあるのですよ?それを我が物とせんとするために。なにせ、私とエリス様がリオンの山百合に逗留していることは、結構有名な噂なのでは御座いませんか?」


 勿論言いがかりなのを承知な上でそうだと言われれば、それを否定する材料などないのだ。

 そもそも既に、これはそういう類の話ではなく、面子の話となっているのだから。


「まあ、そこまですれば命に関わるからな、その辺りでやめておけ、従者殿。この場は一つ、国王(わたし)が預かるという事で如何だろうか?皆の者も良いな?」


 国王陛下がそう仰れば、流石に反論するものも出ず、ただ助かったと勘違いしている哀れな愚者が三名その場に居たことは確かな事だった。



こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第65話をお読みいただきありがとうございます。

sinoobi.com様辺りの底辺サーチの期待枠から条件が外れたこともあり、週ユニーク数は若干伸び悩みを見せておりますが、それでも多くの方に見て頂けるのはご支援頂いてます皆様のおかげです。

この場をお借りして重ねてお礼申し上げます。


それではまた次回、気が付けばエルフ 第66話でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ