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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第二章 消えた常闇の巫女
60/144

無自覚な来訪者

こんにちは。

味醂です。


大変お待たせしました。

気が付けばエルフ 第60話を公開いたします。


遅くなりましたがお楽しみいただけると嬉しいです。

無自覚な来訪者



夕暮れ前、薄暗い街道を行く2台の馬車。

心地よく響く振動と、優しく包まれるその感触で私は目を覚ました。


「――ん。」


「……おはよう、リーリカ。」


「はい、おはようございますエリス様。お身体は大丈夫ですか?」


「あ、うん。身体は大丈夫みたいだけど、その……この状況はどういう事かしら?」


「その、凄く汗をおかきになっておりましたので」


うん、そうだよね。確かに身体中凄く湿っぽい。

首元には髪がべったりと張り付いて、服だって随分と重くなった錯覚を覚えるほどだった。

確か、そう。戦闘中に突然飛んで(・・・)、どうやらそのまま気を失ってしまったらしいことは、なんとなく理解できるし、朧気ながらも記憶にある。


「――ンッ。」


引き抜かれた手に思わず声が漏れる。


「その、それだけ?」


「……その、拭いていたらあまりに気持ちよさそう(・・・・・・・)だったので――」


うんうん。確かに汗を拭いてもらって、気持ちよく寝てたんだけど。

だけど。ダケドネ。


色々と説明しにくい状況になってると思うのよ、コレ。




「もうじきキャンプが出来る峠がある筈ですので。お着替えはこちらに用意させていただきました。」


リーリカの傍らにはなるほど綺麗にたたまれた衣服が一式積まれており、確かにリーリカが用意してくれていたようだった。


「「…………」」


なんとなく漂う気まずい空気を少しでも入れ替えるべく、私は御者台へと続く小窓を開けて、外の景色に目をやるのだった。



荒々しく角張った岩肌は険しく切り立ち、道は狭いと云うほど狭くもないが、割と大きい落石などがそこら中に転がっていた。

御者台に座るアリシアさんは、特別馬に指示を与えることもなく手綱を握っている様で、馬のほうも牽いている馬車の大きさは、十分承知していると言わんばかりに器用に避けるルートを選んで走らせている。


「アリシアさん大丈夫ですか?」


「エリスお嬢様、気が付かれたのですね。道は荒れてはいますけれど、ご心配されなくてもエリは賢いので助かります。」


まるで聞こえているぞと言わんばかりに嘶くエリ。

リーリカが選んだ二頭の牝馬は白いほうをエリ、黒いほうをリリと名付けられ、この馬車を共に引いていた。

今はエリだけが繋がれて、リリは後方に従う馬車を牽き、ゴームさんが手綱を握っているのだという。


「それと、エリスお嬢様。私の事もアリシアと呼び捨てて頂かないと、他の者に示しがつきません。エリスお嬢様が分け隔てなく親し気に接することは大変嬉しく思いますが、身分の差というものはあるのです。」


身分。そうよね。

馴染のない感覚。

全くと無いと言ったら変だけど、以前の私には馴染のなかったソレは確かに存在する。

存在するのもわかるし、それが当たり前という世界を否定する訳でもないのだけど、ある日突然『あなたは高貴なお方なのです』と言われて、はいそうですかと相応の対応が出来るかといえば、そんな訳はなかった。


献身的に尽くしてくれる私の周囲の彼女たち。

その献身は、その身分によるものだとしたら……

ズキンと痛む胸を抱え、私はかける言葉を紡ぎだせないでいるのだった。



◇ ◇ ◇


その後キャンプ地に到着した私たちは野営の準備をすべくそれぞれが忙しく動いていた。

そうは言っても快適仕様に魔改造されたこの馬車を中心に、着々と進む準備はそこまで人手を必要とすることもなく、私は少し離れたところで洗濯したりとしていただけだったけれど。


いくら野営地と言え集団からあまり離れすぎるのは良くないと、痛感させられる事件はあったものの、それだってゴームさんが居なければ起きなかっただろうその事件の一番の被害者は、ある意味ハーピーと呼ばれる魔物だったかもしれない。


流石に男の人の目の前で下着を含めた洗濯をするのは、誰だって嫌でしょう?


ともあれ些細な事故はあったもの、駆け付けたリーリカに朝飯前とばかりにさっさと駆除された脅威も去り、乙女の矜持をなんとか守り通した私達は翌朝早くに出発し、目的地への目前へと迫っていた。



「なんだか前に来たときと雰囲気が違うわね?」


前回の訪問からおよそ一月半くらいだろうか?まだ記憶に新しいその集落の様子に僅かに違和感を覚える。

その違和感の正体がなんなのか、それを教えてくれたのもやはりというか私の横に並び窓から外の様子を眺めていた黒髪の少女だった。


「この短期間で舗装したにしては、随分と良い舗装をしたものです。」


言われてみて下を見れば、大小さまざまな切石で簡易舗装された集落内の道。

山に向かって伸びるこの道をずっと舗装したとなると相当の大工事だったに違いない。

なんて言ったって、こちらの世界での工事、特に土木工事は大変な労力を伴うのだから。


「村の人、大丈夫かしら?守り神だった狼神がいなくなったというのに、ここまで整備するお金が良く出てきたわよね。」


そんな言葉に対してリーリカは、その目を何か胡乱な物を見るような、或いは呆れたような表情で私を見るのみで、ついに返答を聞くことは出来なかったのだけど。


開いている小窓から聞いていたであろうアリシアさんに至っても、見つめる私から視線を逸らし、憐れみを湛えた表情で俯かれてしまった。



あれ?意味が判ってないのって、もしかして私だけ!?

どこか釈然としない気分のままに、馬車はやがて舗装された石畳を逸れ、小高い丘の上に建つ一軒の屋敷の前庭へと到着したのだった。



その物音を何事かと屋敷から覗き見ていた家の者も、馬車を降りるリーリカと、その手を借りて半日振りの大地に降り立つ私を見た途端、慌てて屋敷の中に駆け込んでいってしまった。


あれぇ?おっかしいなぁ。


そして、どたばたと私の耳には聞こえる(・・・・・・・・・)物音と、何やら慌てふためく村長さんの悲鳴にもにた声のあと、屋敷から飛び出すように現れた彼らがとったのは――


一斉に地面に平伏し、歓迎の口上を(のたま)う姿であった。



「まさかエリス様が直々においでとは知らず、また迎えの者も遣わさず大変なご無礼を致しました。聖地ラスティを守るものを代表してお詫び申し上げます!」


思考の狭間に捕らわれて、石像の様に佇む私が目にしたのは、庭の傍らに置かれた真新しい石像だった。


――これって私……よね?


池の中の鯉の様にパクパクと口を動かす私の代わりに歩み出たアリシアさんは


「国王の計らいで急な訪問になったこと。先触れを出さなかったのはこちらの都合ですのでどうか頭を上げてください。」


「さしあたり、馬を休ませていただけると大変助かるのですが、お願いできますか?」



アリシアさんに続きリーリカがそう告げると、村長さんはその太い首をブンブンと縦に振り、下働きの男衆(おとこし)に指示をして、下働きの若者も即座に行動に移した――のだが。


「そこの不埒者、心して聞きなさい。その二頭の馬は国王陛下直々に賜った馬。くれぐれも丁重に扱いなさい」


なんて鋭く目を細め、氷のような視線を送りつつ追撃の一言を加えたものだから、「はひぃ」と返事した彼の動きは可愛そうなぐらいにギシシャクとするのだった。


「あ、思い出した。この子私のスカートを覗こうとした子だ。」


うっかり声に出たソレを、村長さんは耳にしてしまったらしい。

青褪める顔で恐る恐る若者のほうへ、視線を移す村長さんがみたものは、股間を両手で押さえ、何かから守るような変な前かがみの態勢で馬の方へ近づく若者の姿だった。



「「エリス様もなかなか酷な事を仰いますね。」」


そのやり取りを見ていた二人は声を揃え、そんな二人に対して私はといえば、やっぱり何も言えずに、顔を引き攣らせてはその場に佇むのだった。


まあ、後から聞いた話と言え、あのアルとジャンという二人の案内役はリーリカのソレ(・・・・・・・)もしっかりと覗き込んでいたというのだから、このくらいの罰はあってもいいと思う。


うん、それくらい仕方ない、よね?



屋敷へと案内される女性陣に出遅れて、その場に取り残される形となったゴームは、フンっと鼻を鳴らして自分の仕事道具を黙々と馬車から降ろすのだった。



こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第60話をお読み頂きました皆様、有難うございます。

皆様のご支援のおかげで、連載開始約1か月でブクマ件数104件と、予想を上回る反響を頂いております。


第二章も完結までもう少し、頑張って良いものを書きたいと思っております。


それではまた次回 気が付けばエルフ 第61話でお会いしましょう。

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