フェイク
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第57話公開いたします。
お楽しみください。
フェイク
風が凪ぐ。
猛然と吹き荒れる風が弱まったその時を、私は見逃さなかった。
「お願い!今のうちに!!」
返事をするよりも迅く飛翔した黒い影はその細い手を、少しでも遠くへと差し伸ばし鋭い鉤爪を持つ足を掴むと体をひねり、遠心力を利用して力任せに下方へ振り下ろした。
その小柄な体のどこにそんな力が秘められているのかと、自らよりも遥かに小さいソレがよもや自分を叩き落すとは夢にも見なかったであろうその魔物は、驚きにその醜い顔を更に醜く歪めながら怒りとも驚愕ともわからない咆哮をあげる。
マジェスティックハウル
誰が名付けたかは知らないけれど、百獣の王ならいざ知らず、些かそれを名乗るには、威厳も優美さも感じない醜鳥人の繰り出すその技の発動を察知して、空中で咄嗟に耳を塞ぐリーリカ。
対して私は「風の断層」を以てそれを防ぎ、落下地点めがけてダガーを一投すると
「スパークボルト!」
と力の限りに叫んだ。
風や音を軽く凌駕する電気の速度を以て、一条の稲妻は深々とその身に突き刺さったダガーへと突き進み、爆音ともとれるような炸裂音を伴って灰の雨を降らせた。
天を仰ぎ、目を見開いて食い入るようにその光景を目にするドワーフの石工に幼い豚人を重ね見て。
はらはらと舞い落ちる灰に混じり、ゆっくりと舞う数枚の羽根を無視して共に舞い落ちる純白のソレを私は掴むと、そのままポケットの奥深くへと押し込むのだった。
「お見事です。エリスお嬢様。」
「負けられない戦いだもの」
そう答える私の目の前に華麗に着地するリーリカ。
膨らんだメイド服の裾がしずかにその膨らみを失うようにしぼんでいくと、落ちたハーピーの羽根を拾い集めてくれた。
ある世界では龍の神に祈り成し得たという、その光景と重ねながら、私とリーリカは勝利の余韻に、守られた乙女の矜持に胸を撫で下ろすのだった。
未だ口を開けたまま言葉う失うドワーフをよそにして。
……なによこれ?
◇ ◇ ◇
王城前の広場では、少し見ない間に随分と魔改造された馬車の前、数頭の馬が並べられている。
「さあ、遠慮せずにこの中から二頭選んで自らの馬とするがよい。いずれも我が騎士団が手塩にかけて育てた馬、いかなる要求にも応えられるだろう。」
近衛師団のレンさんはその見事な胸を張り言ったのだ。
彼女の後方では国王陛下ことノーザ38世がにこやかに彼女の言葉にうなずいていた。
正直馬の事は全く分からない私。
決めかねている様子を見ると彼女は
「馬はいいぞ!まずその大きさがいい。逞しく跳ねる様はまさに滾る想いを乗せて…………そして何よりそのはやさ。あまりにはやいのも考え物だが操る喜びを感じさせてくれる…………すぐにバテてしまうものもいるが、それはそれで可愛いものだ」
などと既に自分の世界にどっぷりとトリップしてしまったようだ。
時折同意を求めるように国王のほうへ視線を巡らせているから、案外そうでもないのかも知れないけれど、そんな彼女に国王も苦笑しながら頷くのみだった。
「リーリカどうしよう?」
「……。そうですね、こちらと、それとこちらの馬にしましょう。」
何やら考えていたリーリカは少し屈むように馬を見るとそうして二頭の馬を決めたのだった。
脚の肉付きでも見てたのかしら?心の中で適当に納得してそれではとレンさんに告げると、なぜだか彼女は少しばかり残念そうな表情を浮かべたのだった。
もしかして特に可愛がってた馬だったとか?
だったら悪い事しちゃったかな?とか少しは過るものの、リーリカが選んでくれた馬だしここは任せておいた方が良いだろう。
ベロニカさんの王都入りで、とりあえずの仕事を引き継げた私とリーリカは当面必要な装備化の作業も終わったことでシリウスに帰ろうとしたのだけど、国王にどうせなら一仕事引き受けていけと以前ゴブリン退治を行った村へといく事になったのだ。
なんでも村の開発に必要な石工を連れて行って欲しいとのことで、御者も一人つけてくれるのだという。
そこで問題になったのが、私は馬車は持っているけれど元々はすぐ売るつもりだったので、馬がいないという話になり。
そんなことならば任せておけと、こうして馬を下賜されているといった訳だった。
当初王はあくまで献上という言葉に拘っていたが、周囲の目もあるし下賜という体裁を整えてもらったことになる。
あ、でも確かに謁見の間で行われた儀礼って、ほとんど平伏の儀だったんじゃないかと思い至ったけど、それが事実だった場合なんだか怖いのであえて聞かない事にしているんだよね。
ちなみに馬車の方は、山百合の支配人さんが
「こんなこともあろうかと、少々手を入れさせていただきました。」
なんていっていたそれは、なんだか既に元の原型を留めていない。
見た目に至っては、半解放だった客車部分はきちんと囲われており、後方にハッチバックゲートもつけられている。
カーゴ部分は延長され、きちんと屋根で覆われたそれは、トラックの荷室により近くなった。
そして機能的に最も変わったであろうそれ。
なんと簡易の水洗トイレとシャワースペースが設けられていたのだ。
勿論水はルーフの上にある樽を改造したタンクに補給の必要はあるものの、そこは私が魔法で水を満たすので問題ない。
車軸は鉄製の強固なものに置き換えられ、その中央には良く判らない丸い物体を介して左右を繋いでいる。
たしか、でふぁれん・・・なんとかとかとかいうそれがあると、馬車の走行が安定するんだとか。
というか、これ既にキャンピングカーよね?
◇ ◇ ◇
そんなわけで急遽馬車の旅に出ることになった私たちは、馬を用意して貰った翌日に、王都を出発した。
今回の旅の同伴者は、私と、リーリカ。これは当たり前として、ドワーフの石工職人のゴームさん。そして御者台に座るのはなんとアリシアさんだった。
いや、実は最初に御者台に座っていたのは、完全に頭部をすっぽりと覆うタイプの兜を被った謎の人物だったのだけど、どこからともなく駆け付けたレンさんが怒涛の如くその首根っこを捕まえて、ズルズルと引きずっていってしまったのだ。
まあ、その代わりにやってきたのがアリシアさんだったというわけで。
それにしてもこの世界のメイドさんって普通に御者が出来るものなのかしら?
当初アリシアさんを見てリーリカが御者の座をかけてちょっとした悶着があったりしたけれど、
「それではわたくしはエリス様と『仲睦まじく』客車でお世話させていただきましょうか?」
というアリシアさんの言葉に、リーリカは戦慄いた。
というか、あれは完全に言い負かされた。
流石海千山千の貴族と縁の深い王城務め。
相手を見た駆け引きには一日の長がありそうだった。
ついでに言えば、ゴームさんも客車に誘ったのだけど、「小娘だらけの中に座れるか!」なんて言いながらカーゴスペースに置かれたローソファーを枕に、本人は床の上に身体を投げだしていました。
色々とあったものの、とにかく今私たちの馬車は順調に快走し、街道を走っている。
途中山の上のキャンプ地で昼食をとって、現在はナラシーへ向けてゆっくりと下り坂を下っているところで、この下り坂が終わればもう少し速度は上がりそうだ。
ナラシーまで出たら今度はシリウス方面には行かないで、一回北上するように西部を目指す街道を進むとのことだけど、今回は馬車で行くために魔の山越えとなるらしい。
変わった魔物が多いって聞いたけど、果たして何事もなく、無事辿りつくことが出来るのかしら?
とかとか。そんな事考えてピコピコとイベントフラグを立てていた私たちは、その後様々な事が起きることを、まだ知らないでいるのだった。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第57話をお読みいただきました皆様、有難うございます。
また評価やブクマのほか、ツイッターなどで多くのRT頂いております皆様にもこの場をお借りしてお礼申し上げます。
第二章もあと2週間程度で完結予定ですが、未消化エピソードが多く、色々と調整したいところです。
それではまた次回 気が付けばエルフ 第58話でお会いしましょう。




