正しき相手
こんにちは。
気が付けばエルフ 第56話公開いたします。
お楽しみいただければ嬉しいです。
都合でダラダラとした回に。。
正しき相手
一向に減る気配を見せず、それどころか却って高く積まれていくその山を前に、私は息をつく暇もないほどだった。
傍らをみればリーリカが黙々と薄く削った木、つまりは経木を使って包みのようなものを作っており、完成した包みにはクレアさんが私が装備化を終えた下着を丁寧に畳んで詰め込んでいる。
木皮製のその包みには急遽作られたベロニカさんの工房の意匠の焼き印が押され、なかなかに高級感を醸し出していた。
この一見内職の光景がどこで繰り広げられているかといえば……
王都リオンの王城の一室なのだ。
「エリス様、包みの材料が新たにできましたのでお持ちいたしました。」
配膳用のカートに上に、極薄の経木を山の様に入れた箱を乗せ部屋に入ってきたのはアリシアさんだ。
この王城で私に宛がわれているメイドさん。
可愛らしい客室付き用のメイド服の過剰とも言えるくらいの装飾は、彼女の動きにあわせて柔らかく動くのだ。
肩口ほどに伸ばした髪は、クレアさんと同じく甘栗色で、王都ではかなりの人数がこの色の髪をしている。
逆に私のような銀髪や、リーリカのような黒はほとんど見ることもなく、前の世界では染めていなければ無理だろうって位の赤髪や、メッシュ状にゴールドとブラウンの混じるような髪の者が残りを占める。
ちなみにアリシアさんは下級貴族、つまり相続されない一代位の男爵の娘ということで、こうして王城の客室係に抜擢されている辺り、かなりの出世頭なのだという。
まあ、そりゃそうよね。
王城で働くのだから、当然身元はしっかりとした人でないといけない。
そういう事情もあり、王城で働く者の多くは一代位の騎士爵子、男爵子が多く、保護対象の爵子位を与えられている者がほとんどだった。
そして王宮という「勤務地」は、意外なほどに王城内部での恋愛に対して寛容で、むしろそちらの方を期待して、彼らを雇用している様にも見えた。
確かに、貴族として生まれ育って、親が死んだらいきなり平民というのは大変だものね。
こうして王城でお努めしてる間に、他の貴族位の人と良い仲になれば再び貴族としての生活に戻れるのだから。
そういう前提があるために、勤めている本人も品行方正に職務に忠実になるため、案外よく考えられている制度だ。
男爵子ということで私はグローリー男爵の愛娘、ミリアちゃんのことが頭によぎる。
今頃どうしてるかしら?そんな事を考えているとこの事態を招いた犯人がやってきた。
「作業を任せちゃってごめんなさいね。」
「お話はまとまったんですか?ベロニカさん。」
「そりゃモチロンよ。でも国王陛下はとぉーってもお話が分かる方で素敵ね。」
そう、急遽王都に来たベロニカさんが大量に持ち込んできたものは、この下着の山だ。
勿論ほかにもドレスも結構持ってきたらしいのだけど……
満面の笑みの彼女をみれば、その商談が満足な結果を生み出したのは間違いないだろう。
そう、ドレスの新規注文や、下着普及促進をかねた集中販売をなんとノーザ国そのものを対象として行ったのだ。
その一番の利点は、最終的な販路を気にしなくていい事だ。
シリウスであれば自身の店舗で売れば済む話でも、王都となるとそういう訳にもいかない。
私がいた世界と違ってこちらの世界では製品だってほとんどが手作りなのだから、大量生産にも限度があり、無暗に工員を抱えれば今度安価に卸せなくなってしまったり、品質の低下を招く事態となる。
そう、最初私には違和感がなかったのだけれど、ベロニカさんのお店では、衣料品は分担作業の流れ作業で行っているのだ。
つまり、各自専属作業のライン工程での生産。
一般的な生産者がそのほとんどを一人で作り上げる職人形式が多いこの世界で、彼女は生産性と品質のバランスの良いライン生産を行っている。
この辺を見るだけでも、彼女の商才の片鱗が窺えるというものだった。
彼女の能力の高さはそれだけではない。
非常に高い商センスというか、そういった嗅覚を持っているところだろう。
これまでのドレス販売や販促の折につけ、ちらちらと話は聞いていたのがベロニカさん曰く商売とは
正しい相手と取引し、双方の利の落としどころをきちんと提示することだと言う。
ここでいう正しい相手というのが曲者らしいけれど、細々と新しいものを売るならば経済力のある人を対象にしないといけないという事らしい。
逆に、既に出尽くしているものは、余計なコストを削り、経済力のない相手へと普及させるのだという。
つまり、安定して売れない物については、十分な利鞘を少数で確保できる、そういった物に対価を払える相手から売りなさいという事だ。
この辺についてはこちらに来るまでただの女子高生だった私には今一つピンとこない物があるけれど、きちんと説明されればなんとなく理解はできる。
現実的には、自分で適正な対価を設定するという事が出来ずに商売に失敗する人が大半だそうで、売れないから値引きなんていうのは、一番の悪手なんだそうだ。
それはすでに、正しい相手と商売できていない証拠なんだとか。
「それにしても、思ったより手間になってしまいましたね。なんか変な事言ってしまったようで申し訳ないです。」
せっせとパッケージを作っているリーリカと経木を交互に見ながら言うと
「そんなことないわ。おかげでより話が進めやすかったもの。うちの意匠にさらに王家の意匠も追加して、そのパッケージは王都の正規品としてまとめて王宮に卸すのよ。」
そう、ベロニカさんのいうように、王都限定セットなのだ。
ブラジャー2とショーツ3をセットにしたこの「インナー装備セット」の販売価格は実に4銀貨を予定している。
原価は私への手数料込みでおよそ3銀貨ちょっとということで、実は私はこの1セットに含まれる2種5枚の下着、これの1枚あたり平均の私の取り分は、実に1枚で前の世界換算2万円だ。
こうして右から左に装備化しつつ渡しているたびに、私には4銅貨が積まれているのと同じなわけで今回王都で限定発売する分の300セットの手数料は実に日本円換算で3300万となる。
ちなみにこの経木の入れ物は私のアイデアだったりするわけで、たまたま見つけた大量の廃棄木材が檜だったのと、船大工の多い王都では大型のカンナが使われていたのを思い出し、それを削って入れ物にしたら見栄えもするし、檜のいい香りがするかな?なんて。軽い思い付きで口にしたらそのまま採用されたという訳だった。
ついでに言ってしまえば、今回の収入予定のこの限定下着の収入のほかに、既に王城でアレコレと装備化したものがあったりなかったり。
貿易王としても名高いノーザ国王は、非常に保有している物の価値が高く、支払いも良かったりで私の懐には既に白金貨が2枚ほど転がり込んでいたりもするのだった。
そんなこともあり、なんやかんやと既に私のお財布には白金貨が3枚に大量の金貨や銀貨が詰まっているという、恐ろしい大金を持ち歩くという暴挙に違った意味で戦慄をおぼえるのだ。
ゲームでよく目にしたイベントリでも使えれば安心なのにね。
溜まる一方の貯金を思い浮かべつつ、そんなことを考えながら、私はこの目の前の下着の山と再び取り組むのだった。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第56話をお読みいただきありがとうございます。
本日から連載2か月目に突入ですが、気持ちと裏腹に山の無い話が先になってしまいました。
それにしても順調に資産を増やすエリスがちょっと羨ましい。。
それではまた次回 気が付けばエルフ 第57話でお会いしましょう。




