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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第二章 消えた常闇の巫女
54/144

白の聖女と黒の神子

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第54話公開です。

お楽しみください。


久しぶりの平日2更新目です。


白の聖女と黒の神子




小鳥の囀りに目を覚まし、柔らかい朝日に照らされながら井戸へと向かう。

すれ違うおばさんたちと短い挨拶をかわしながら、細い両腕に抱えるように水壺を運んで水を汲むのだ。


朝の井戸は盛況で、到着すると既に数人が水汲みの順番を待っていた。


「おはようございます。今日も良い天気ですね。」


そんな当たり前の挨拶をして私はその列に加わると、静かに順番を待つのだけど話好きの彼女たちは何かと話題をみつけてはしきりに私に話しかけてくるのだった。


「あんた最近シスターのとこで世話になっているっていう娘だろ?」


「あ、はい。マリスといいます。」


「それで水汲みの手伝いかい、感心だねぇ。あのシスターは水壺に半分も水を汲めないくらいの細腕だから。」


そう言いながら彼女は自分の抱えている大きな水壺を軽々と持ち上げて、私はそのあまりに立派な腕に笑みを貼り付かせるしかできなかった。


「あんたと一緒にするんじゃないよ、毎日いたずら息子を抱えてるあんたと違ってシスターはお祈りに忙しいのさ。」


他の女性に言われて、その場が笑いに包まれる。



「でもほんとに、凄いですね。そんなに軽々と。」


「なに、こちとら暴れん坊が三人もいるんだ。毎日相手してればそりゃ力もつくようになるってものだよ。あんたも子供ができればすぐに逞しい腕になるさ。」


再び巻き起こる笑いに、水壺はおいといて、どうにもその笑いのツボが判らない私は困惑の表情を浮かべるのみだった。


あんなに太く、なるのかしら?



その時だった。

後方の笑いの渦に気を取られ、水を汲んでいた女性が足を滑らし転んだのは。


「キャア!いたた……」


悲鳴に続いて痛みを訴える彼女の腕は、転んだ時に井戸の淵に腕を引っ掛けたのか痛々しい擦過傷ができ、ぽつぽつと血の玉が浮かんできている。


「大変。私見ます。」


そういって私は彼女の元に駆け寄って、傷口と覗き込む。

トクンと私の身体の中で何かが跳ねた気がしたものの、腕を取り様子をみるとどうやら骨は問題ないようだ。


「よかった。骨は折れてなさそうですね。傷を洗いますからちょっと沁みますよ?」


冷たい水を掛けるとその冷たさか、あるいは灼けつく痛みにかに彼女は身体を強張らせた。


「とんだドジしちまったね、あたしも」


「そんな。すぐに治療しますから。」


ざわつく周囲の声を無視しながら私は静かに意識を集中させると


「慈愛の神、その子たるこの者の傷をどうかその涙で癒し給え。キュアライト!」


左手で腕をとり、右手をかざしてそう唱えると、ぼんやりと柔らかい光に包まれる。


光が消える頃にはすっかりと痛々しかった擦過傷も消え、まるで何もなかったかのように白くもっちりとした腕が姿を現した。


「あの、一応大丈夫だと思いますが、あとでまだ痛むようなら教会までいらしてください。」


「たまげたわね、あんた治癒の魔法がつかえるなんて。助かったよ、ありがとう。」


驚きの顔でお礼を言う彼女はそうだと何かを思い出したように傍らに置いてあった袋の中から葉っぱのようなものを取り出すと、


「さっきとれたばかりの野菜だよ。こんなものしかないけれどシスターと食べてくれよ」


なんて言って困惑する私に野菜を押し付け水壺を抱えて帰っていった。


そしてどういう訳か、私はその場にいた他のオバサンたちにも色々と「ささやかな捧げもの」を戴いて、水壺以上に重いそれらを抱え、フラフラと教会へと帰るのだった。



教会の裏手にはシスターが居住するスペースになっていて、私がその勝手口からヨタヨタと帰ってくると、中にいたシスターは、「あら、まぁまぁ。」なんてのんびりとした口調で今にも零れ落ちそうな荷物を受け持って


「お帰りなさい。マリスさん。」


とにこやかに出迎えてくれたのだった。


「ただいま戻りました。シスター。これ街の皆さんからの差し入れだそうです。」


「まあ、新鮮なお野菜。あら、こちらには干し肉まで。皆さんに感謝してあとでいただきましょう」


両手を胸の前で互いに組んで、祈りを捧げるように喜ぶシスターにつられる様に、私も自然と笑顔がこぼれるのだった。



結局のところ、私の素性はマリスという名前と、ちょっとした癒しの魔法が使える事以外には、何もわからなかったのだ。

それでもここに居ていいと、そのまま私はシスターと一緒に教会で暮らすようになり、こうして街の人とささやかな交流を持ちながら、穏やかな日々が過ぎていく幸せに満足していたのだった。



◇ ◇ ◇



延々と同じ絵が描いてあるノートをめくるかのように、私とシスターの日々は過ぎていく。


朝起きて水汲みに行き、礼拝堂でのたっぷりとした祈りの時間のあと、ささやかな朝食をいただく。


朝食を済ませたなら礼拝堂や教会の周囲の掃除や洗濯を済ませる。

洗濯は大量の水が必要となるので川辺に作られた洗濯小屋で行うが濡れた布というのはなかなかに重い。

非力なシスターはこれまで人目を忍んでこっそり「浄化」の魔法で済ますこともあったようだけれど、そういった行為はあまり良しとされない風潮であるらしく、それがあるから重労働の水汲みも毎日行われているのだ。


ただ、それらが禁忌とまで忌避されているかといえばそうでもなく、事実あまりに荒天などで身動き取れない場合などでは公然の秘密のような状態で、そういったことは行われている様だった。


シスターはいくつかの魔法が使えるようで、中でも祝福(ブレス)といった教会を訪れるものに神の祝福を授ける魔法を使えるために、生活の余裕がある者は日常的に祝福を受けに教会へと足を運んでくるのだ。

勿論そういった人たちの寄進により、教会はやりくりしていたりするので、祝福を受けに来る人をやっかむ人もいない。


10日に一度の礼拝日には、礼拝堂を訪れた貧しい人々にも範囲化されて効果の薄まった状態ではあるものの、この祝福は与えられるのだから。


そんなシスターの元に癒しの魔法が使えるらしい私が転がり込んだので、教会は今では治療院のように訪れる人が絶えなくなっていた。


夕方になると一般市民の足は途絶え静かな祈りの時間となるのが常だけど、最近では夕刻6時の鐘の音で勤務を終えた帝国守備隊の騎士団がやってくるようになった。

訓練や警備による魔物との戦闘でうけた傷を癒しにやってくる彼らからもたらされる寄進は、今では教会にはなくてはならない支えとなっていた。


この日もやってきた数名の騎士をシスターは礼拝堂に、にこやかに迎い入れ労いの言葉をかけている。


「皆様のおかげで魔物による被害も大変減っていると、街の皆さんも喜んでおられますよ」


語るシスターの大きな黒い瞳に、熱い視線を注いでいるのは私が初めて会った騎士。

アルフレッドさんだ。

彼はなにかと理由を付け、ほぼ毎日教会へをやってくる。

今日も祝福を授かるために、神像に祈りを捧げるとシスターを熱い眼差しで見つめ……


まあ、べた惚れなのね。


わかりやすすぎるほどのその行為を、もはや何も言うまいと他の騎士たちは私の前に並ぶと順番に負傷した箇所の治療を受けている。


「こうして傷を癒してもらえるおかげで、我らは安心して明日も戦えるのだ。白き聖女殿の行いも、今やこの街に欠かせないものとなっている。感謝する。」


治療を終えた騎士がそんな事を口にする。

そう、いつの間にか私は白き聖女とか白の聖女なんて仰々しい二つ名で呼ばれるようになり、シスターはシスターで黒き神子とか黒の神子なんて呼ばれているのだ。

普段はシスター服に大半隠れているその美しい黒髪を暗喩して、黒き神子。

シスターも私も随分と抗議したものだけど、一向に消えないその呼び方を既に受け入れることにしていた。


髪の色で区別されるのは如何なものかと思ったこともあるけれど、誰かが髪様(カミサマ)の使いだからとか言ったとか言わないとか。


ともかくそれが今の私達の日常だった。


こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第54話をお読みいただきまして有難うございます。

皆様のブクマや評価を美味しくいただきながら久しぶりの平日2話目の更新が出来ました。


今後ともよろしくお願いいたします。

それではまた次回気が付けばエルフ第55話でお会いしましょう。

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