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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第二章 消えた常闇の巫女
53/144

昔日の幻窓

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第53話公開です。


お楽しみいただけたらと思います。

昔日の幻窓


かつてアマハラと呼ばれた険しい山々に閉ざされた世界。

深く豊かな森に守られて、一本の大樹が静かに世界を支えていた。


伝承の女神ラスティの御使いによって植えられるという世界樹のうちの一柱。

この惑星に生きる多くの者が知らないだけで、世界樹とは唯一性の樹というものではないのだが。




世界樹は命を育むものであると同時に、命を奪い去るものでもあった。

惑星を巡るエネルギーの「よどみ」や「たまり」に植えられた世界樹は、それらを吸収して大きく育つ。

大地や大気に含まれる瘴気と化した魔素などの、余剰なエネルギーをなどもその身に大きく吸収し、変質した瘴気を魔素へと還元して世界に穏やかに還す。

それが世界樹に課せられた役割だった。




それが何者であったのか、正確なところを知る者はもちろん、およそ1000年ほど前に世界樹の純化能力を利用し、その地に封じ込められ、ただ常闇(とこやみ)と呼ばれたそれが、いかなるものの眷属かを知る者は誰一人いなかったのだから。



本来ならば、その命ごと綺麗に純化され、すべてが分解される筈だった。

それで終わりの筈だったのだ。



◇ ◇ ◇



それは今より1400年ほど時を遡る。


西の大陸のとある街の教会。



伝承の女神と称される神の像が鎮座する礼拝堂。

据えられた女神像の背後には精緻なガラス細工の賜物の、壮大な幻窓(ステンドグラス)が壁となしている。

幻窓の裏側は三角形の中庭になっており、特定の条件を満たした際には、月明かりや太陽の光を反射して、幻窓を裏側から照らす細工がなされていた。


丁度その夜もその条件に合う夜だったそうで、この地に赴任してきたばかりの新任騎士アルフレッドはその時をまだかまだかと待っていた。


「そう慌てることはありませんよ、騎士様。時間まではまだ少し猶予がありますから。」


「これはシスター、こんな夜更けにご無礼とは思いつつ、好奇心が勝ってしまいこうして押しかけてしまいました。礼拝堂を開けて頂くだけでも十分なのに、付き合わせてしまい心苦しい限りです」


「皆様の信仰の一助となるならば、これも神への大事なご奉仕です。」


「ですが、深夜に若いシスターお一人の教会に、若い男が一人で尋ねるなんて、あらぬ噂が立ったらご迷惑でしょう」


「騎士様を信頼せずに、どなたを信頼すればよいのでしょう?この街の治安が保たれるのは、騎士様方が身体を張って魔物から街に暮らすものを守ってるからこそ。それに今宵ここに来るほどの信仰心の持ち主を、誰が諫めることが出来ましょうか?」


微笑みながら語るシスターに、どうにも口では勝てそうにないと踏んだ若者は、苦笑いで神像を見つめるのだった。



そして、その時は唐突に訪れた。


礼拝堂の中に無数の光彩が駆け巡り、不可思議な光の演武を見ているような、そんな光景が広がる。

やがて光がその動きを止めると、神像の背後には、まるで光輪を掲げたかのように美しく後光が差し、礼拝堂中を様々な色で彩った。


「ああ、なんて神々しい」


「さあ、伝承の女神様に祈りを捧げましょう。」


静かな、それでもハッキリと聞こえるシスターの祈りの声に倣うよう、若者もまた静かに祈りを捧げる。


どうか魔物を遠ざけ、この街が平和に包まれますように。と。


祈りの言葉を終えて少し後、再び光は踊り出し、礼拝堂の中には光の花が咲き乱れる。

そしてついには目も開けてられないほどの閃光に包まれて二人の視力はにわかに奪われた。


「一体なにが?」


シスターの静かな声が聞こえる。

眩惑に視力を奪われ、動くことも出来ないでいる二人に視力が戻るのには暫くの時間を要したが、そこで二人は信じられない物を目にした。



「「あれは!?」」


女神像の前に置かれた大きな教壇の上に身体を横たえる何者かの影。


おそるおそる近づくと、次第にその姿がハッキリと見えてきた。

身に纏う優美なドレスは漆黒を思わせる黒。対照的に教壇一杯に広がる長く美しい純白の髪。


「シスター!少女が倒れてます!」


慌てる若者の声に駆け寄るシスター。


「一体なぜ……いえ、詮索は後ですね。まずは容体をみなくては。」


そう呟いてシスターは少女の手を取ったり、首元を確認したりとしている。

なんとなくその様子を見ているのは不謹慎なのでは?という思いに駆られた若者はそれとなしに背を向け礼拝堂の入り口のほうへ視線を移した。


「大丈夫でしょうか?」


動作の気配が止んだとこで問いかける。


「ええ、とりあえず眠っているだけのようです。しかしこのままここで寝かせておくわけにもいけませんね。寝台に運ぶのを手伝って頂けますか?」


「勿論です。」


断る理由など何もない。

眠る少女をそっと抱きかかえる。

ふわりと香る少女の甘い香りに気が付くと、何かとても邪な思いを擁いてるのではないかと背徳感に苛まされそうだった。


そんな彼の苦悩を微笑ましく見ながらシスターは寝台へ案内するのだった。



◇ ◇ ◇



私が意識を取り戻したのは、蝋燭の薄明かりに照らされた薄暗い部屋の粗末な寝台の上だった。


覗き込むように私を見つめる二人は、私が意識を取り戻したのを見ると安堵のため息をつき、こんなことを言うのだ。


「おはようございます大丈夫ですか?」



「ここは?」


「教会の寄宿舎です。あなたは教会の教壇の上で意識を失って倒れていたのですが、わかりませんか?」


「教会?意識?」


どうやら良く判らない。

私は一体何をしていたのだったろう?


直前まで何をしていたのか、思い出せそうなのに、そこだけぽっかりと穴が開いてしまったかのように、なにも思い出せない。


「どうやら混乱しているようです、私はこの教会のシスターをしている者です。神に祈りを捧げていたら、突如あなたが教壇の上に横たわっているのをこちらの騎士様とみつけ、ここにお運びいたしました。外傷は無いようですが、痛い所や気持ち悪かったりしませんか?」


「いえ、それは大丈夫です。えと、私は……あれ?」


「「?」」


「……わからない。ごめんなさい。私、名前も判らなくなってしまって」


その事実に得体のしれない寒気が走った気がした。


「記憶の混乱でしょうか。なんらかの原因で一時的に記憶が混乱することがあると聞きますが」

シスターを名乗った、とはいってももうその恰好は見る限りシスターにしか見えないのだが、とにかく彼女はそんな事を言う。


「仕方ありませんね。水晶を使いますか」


「水晶?」


問いかける私に騎士を名乗るその男は懐から掌にのる程度の水晶玉を取り出した。



「この水晶の事です。最近開発されたアイテムで手を触れて頂ければあなたの名前を見ることが出来ますよ。逆にそれくらいにしか使い道がないものですが」


そう言って半身を起こした私の前にそっと水晶玉を置いた。


「こう、ですか?」


そっと水晶に手を乗せると文字の羅列が浮かび上がり、そこには名前が書かれている。


「マリス?」


私はそういう名前なのだろうか?


随分と長い名前だななんて思いながら、その響きに記憶が反応しないか自問自答してみるも何も浮かぶ事はなかった。



「その服装……街の娘というには随分と仕立ての良いものに見えますが、シスター、如何でしょう?この方を見かけた事は?」



「残念ですが」


若者の問いかけにそう首を横に振るシスター。


「それでは今夜はもう遅いですので、今夜はシスターにお任せして、昼間にでも知る者がいないか探してみることにしましょうか」


「それが良いでしょう。時間を改めて詰所にご案内すればよいですね?」


「はい、それで結構です。それでは私はこれで失礼しますので。お二人とも、おやすみなさい。」


そういって礼儀よく頭を下げ、部屋から出ていく若者。


一体私は何者なのだろうか?



こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第53話をお読みいただきました皆様、有難うございます。


何度も書いては削り、書いては削り、と修正を重ねた為に公開が随分と遅くなってしまいました。


それではまた次回 気が付けばエルフ 第54話でお会いしましょう。



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