運命の環
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第48話公開いたします。
書きあがった分の掲載なので週末ブースト、、というほどでもないですが6月17日第二回目の投稿です。
お楽しみいただけると嬉しいです。
運命の環
「運命とは斯くも残忍なものだな。」
「一体何のことでしょう?」
「お前ほどの者が気が付かなかったとは言わせんぞ。神子姫様の従者よ。あれはそうであろう?」
「さあ、一介の近衛のわたくしには王が何を仰っているのか解りかねますが。そうですね、もし運命というものがあるならば、それは魂の救済の機会にほかならないかと。」
「確かにな。だがあれはグローリーの奴が保護していた娘だろう。かの者がどうしてあの娘を神子姫様の従者に仕立てたのかは計りかねるところだが、あの様子では命令というわけでは無いだろう?」
「そうですね。もっとも、御命令とあればわたくしも近衛の一端を担う者。王のいかなるご要望にもお応えするつもりではありますが」
「なるほど、近衛として、か。女として、とは言ってくれないのだな。堅物め。」
「なにを仰いますか。こうして王のお情けを戴いている身。この身も心もその総て、王に捧げているではありませんか。」
「なるほどな、一理ある。よし、それではそろそろいくぞ。」
「はい……陛下のお心のままに。」
「「………………」」
女とは恐ろしいものだな。
「何か仰いましたか?」
「気のせいだ。このまま続けるぞ。」
「……仰せのままに。」
◇ ◇ ◇
震える指先を噛みしめながら、私の心は至福と絶望の狭間を泳ぐ。
伝承の女神、ラスティの御使いだというエリス様は、よくよく考えればそうとしか思えない部分は多々あるところだ。
しかし同時にそれがいかに危うげな17歳の少女に同居していることを想うと、私の胸はまさにはち切れんばかりにもがき苦しむ。
全てに穢れたこの身をお傍においてよいものか?
それでもエリス様がこれから対峙しなければならない現実は、私も同じく向き合わなければならない宿命なのだ。
常闇
闇に魅せられ、闇に堕ちた一人の巫女がいた。
その巫女は里の禁を破り、その闇に娶られてほどなくして一人の赤子を産み落とした。
母親譲りの漆黒の闇をまとうかのようなその赤子は、殺されることこそなかったものの、里の者から隔離され社のなかで瘴気に憑かれた母と共に幽閉された。
常闇の巫女として。
それから十余年あまり。再び訪れた闇を社に引き入れた母は常闇を封じていた夜霧を解き放ち闇と共に姿を消した。
溢れた瘴気が世界樹を急速に蝕み、ついにはその巨体を食いつくすと、辺り一面の森ごと闇に呑み込んだ。
かくして少女は森を出る。
殺したはずの母親の跡を追うために。
いつからだろう?
エリス様が急に優しくなったのは?
震える彼女に寄り添っていたのは私のはずなのに、気が付けばエルフは震える私の傍に寄り添っているのだ。
穢れたこの身を救い出したのが男爵ならば、穢れた心を救い出したのはエリス様なのだ。
全てが彼女の知るところとなった時、私は再び打ち捨てられるのではないか?
ただただそれが怖かったのだ。
不意に訪れる、その救いの手が差し伸べられるまで、私は闇の中を迷い歩いていた。
◇ ◇ ◇
あまりの事態の変化に思考が全く追いつかない。
王城での昼食を勧められた私達だったけれど、どうにも今の状況ではその気になれるわけもなく辞退したところ、それはあっさりと認められた。
山百合の戻った私とリーリカはランチの用意をクレアさんに頼むと、行儀が悪いと思いつつ服のままでベッドの上に倒れ込んだ。
準備ができるまでに少し考えを整理することにする。
今までの事。そしてこれからの事。
私がこの世界にやってきたこと、これは偶然なのか?必然なのか?
このとこについては保留だ。確定要素が全くない。
直感的には必然、なのだろうけど、それを強く肯定する材料がないのだから仕方がない。
とにかくこの世界にやってきた私は、気が付けば林の中で目を覚ました。
林を彷徨ううちに、大きなハチの魔物に追い回された私は幸運にも林を抜けることに成功し、同時にサラと出会ったのだ。
サラはなぜあんな場所にいたのだろう?
街道からそこまで遠く外れていたわけでは無いけれど、実際に目視出来るほどの距離だったとはいえそこを歩いていたというのは些か理解に苦しむところだ。
最初は気に留めることもなかったものの、街道から外れれば魔物に襲われやすくなるということを知った今ではそのことに若干の違和感を感じる。
とはいったものの、サラは現在いない。
彼女のいない所であれこれと憶測を巡らせてみたところで、無駄な邪推にしかならないような気もする。
つまりは保留。
保護された私はそのままシリウスへと誘われて、言われるままに冒険者になった。
そういえばその時初めて、自分がエルフなんてものになっていると気が付いたんだっけ。
これだけ長い髪だ。髪の色位目に入っただろうに。
我ながら随分と間抜けな大声を出したのも、今となっては随分と昔の事のように感じる。
まだ二か月くらい前の話なのにね。
ともかくそうして冒険者として活動を始めた私。
ここまでは転移だか、転生だか得体のしれない事象に遭遇してしまったほかは取り立てておかしい事でもないのだろうか?
最初にしたのは生活の為の依頼。
グランドマウスを倒して素材を手に入れ、首尾よく換金した私達はベロニカさんと出会う事となる。
これについてはどうだろう?
或いはと思いつつ、よく考えれば服を欲しがったのは私なのだ。
まあ、どちらかといえば服というより替えの下着が欲しかったのだけど。
そう、下着といえばこの辺から話が急激に大きくなったのは確かだと思う。
身体どころか服装まで変わっていた私なのに、なぜかそのままだった下着。
その時は装備化なんて心にも思わなかったから、サイズがずれたブラのおかげで数日変な跡が残ってしまっていたっけ。
少々そのサイズを気にしていた私も、今では随分とこのサイズに慣れ親しんでしまっているくらい。
とにかく下着の件と服装の件から私を取り巻く環境は大きく変わってしまったのは間違いないだろう。
グローリー男爵家と関係が出来、更に今でも私の横にこうして寄り添っているリーリカと巡り合ったのも、すべてが偶然の筈なのに、まるでそれが運命とでもいうかのように、自然と受け入れられる容で事態は進行していった。
不意に起きたホームシック。
それをミリアお嬢様に見つかったこと。
そして彼女の差し金で、私はこうしてリーリカと共に寝るようになったのだ。
さらには装備化という思った以上に付加価値を高めるものが、私をより強くリーリカと結び付け、こうして共に寄り添って生きていく事になったのだから、その出会いには感謝するしかない。
たとえそれが仕組まれたものであったとしても、そうでなかったにしても。
私の中に眠っていた何かが、彼女に慰められ、彼女を慰めるうちに、確かに何かが変化しつつあるんだ。
山百合の件はどうだろう?
私達が定宿にしていた宿がいきなり改装工事?をすることになりサラに連れて行かれた高級旅籠。
本来なら全く縁のないようなその宿は、いつの間にか私の生活の場となって、それどころかリオンの山百合までも当たり前の様に宿泊できる状況。
名目上宿泊費は帳簿上差し引かれてはいるのだけど、私が直接お金を払ったことは一度としてないのだ。
宿泊先といえば、辞退はしたものの、このリオンの王城にすら滞在することが可能になってしまっている。
ノーザ王はこう言ったのだ。
私の私室は用意されている、と。
客室を用意したのではなく、私室を。
あぁ、駄目だ。
なんだか今はこれ以上考えることが出来そうにない。
考えることを放棄した私は、ベッドに座っているリーリカに抱き付いて押し倒し
「もーやだ。リーリカ、私わけわかんないよぉ」
とその胸に顔を埋める私を、リーリカはそっと抱きしめ返してくれるのだった。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第48話をお読みいただきました皆様には尽きぬ感謝を。
ご支援いただいています方々にもこの場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございます。
独白的要素の強い話になってしまいましたが、やっと第二章が動き出した感がありますね。
第一章が約115,000文字。章間2,000文字を除くと第二章は今回の話で約40,000文字を消費したことになります。
3割から4割といったところですが上手くまとまるように頑張りますので今後もよろしくお願いします。




