招聘状
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第46話公開です。
色々とNGかも知れません。
ごゆっくりお楽しみください。
招聘状
ノーザ王国、王都リオン
王城から続く貴族街の端、様々な飲食店や物品を扱う商業区との境界辺りに建つ一際目立つ建物。
元々は廃された男爵城館だったという屋敷を改築し、旅の貴族や豪商を対象とした高級旅籠。
リオンの山百合亭の発祥は三百年以上前とその歴史はなかなかに深い。
当初三階建ての城館を改装し、ほぼそのままの状態で営業を開始したこの宿が、現在の七階建てというこの世界にしては些か規模の大きい建物に建て直されたのは、今からおよそ一七年ほど前だった。
エントランスは貴族街に面した三階部分、そこから下に二階層。
最下層となる一階部分から五階部分までは石造りで、六階、七階は木造で作られている。
この斬新な工法は、海の近い立地において重要区画となる六階および七階の改装を容易にする為であり、六階、七階それぞれに四室ある計八室のスィートルームの宿泊料はおよそ八銀貨~となっている。
八室のスィートルームには、二部屋のメインベッドルームと一部屋のサービスルームが備えられ、更にリビングルームに、簡単なキッチンを備えた給仕室を備えたダイニングルーム、そしてこの世界では珍しい温泉がプライベートで利用できるバスルームとウォータークローゼットまで完備していた。
そしてその部屋専用の給仕係が常駐するといった徹底したサービス体勢は、多くの富裕層の支持を受け、公務でない他国の重鎮などがお忍びで都市を訪れる際などの定宿と化しているくらいだ。
そして、その中でも七階の一番奥の部屋は特別で、通常使用されない上に規定料金というものすら設定されておらず、特別室と呼ばれていた。
例を上げるなら、国王の近縁者がこの高級旅籠で開いたプライベートパーティーの際、出席した国王の控室として解放されたりといった具合だ。
その特別室も久方ぶりの眠りの時から覚め、この数日は連日使用されるという異例の事態に、その本来の役目を全うしているのだった。
少なくともここ三年で使用されたことはなく、この部屋の専属給仕というものは、建前上の名誉職だろうと考えていたクレアがその本来の役目を全うせよと通達されたとき、驚きからしばらくの間、震えが止まらなかったほどだったという。
三年振り、クレアが任命されてからは初となるゲストを見たときには、更なる衝撃を受け、その名前を知らされたときは、もはや自身のすべてに代えてでも尽くそうと思ったほどだった。
そして使命に意気込む彼女には、更なる試練が待ち構えていたことを同時に悟ったのだった。
自身の存在意義を根底から覆しかねない、給仕服をきた黒髪の女性を前にして。
◇ ◇ ◇
ドレスの納品開始から五日目。
ついにすべての納品を終え、間借りしていたドレスルームを見渡しながら、それまでに積まれていた箱が無くなり広々と感じる本来の姿に感動しつつ
「これで明日は街の観光ができるわね」
とリーリカに声を掛けた丁度その時。
「残念ながらそれは少し先延ばしになりそうですな。」
と現れた山百合の支配人にいきなり話の腰を折られた私の前に硬い靴音と共に歩み出た人物。
白い鉄靴と揃いの白いドレスアーマーに身を包み、鴇色の長い髪を揺らして一礼する。
困惑する私に差し出される一通の封書。
その封蝋の刻印は意匠化された帆船。
「その紋章は……」
リーリカがその答えを口にする前に、ドレスアーマーの女騎士は宣言する。
「ノーザ王国が近衛師団、レン・ラヴィナスだ。我が君主の命により使者として遣わされた者だ。どうした?封を解くが良い。」
あっけにとられる私に、機転をきかして近くにいたクレアさんがナイフを手渡してくれたので、私は封を切り封書を解いた。
「ではこちらに。」
封を解いた書面を再びレンと名乗騎士へ渡すと彼女は凛とした声で書面を読み上げ、一度周囲の者にその内容が見えるようにかざしたのち、再び丁寧に折りたたんで私へと差しだした。
「して、返答は如何する?」
そんなこと言われましてもね、言い回しが複雑すぎた書面の内容は、要するに出頭せよ。そんな内容だったけど、この雰囲気のなかまさや嫌です、なんて言えるわけないじゃない!
つまりは押し切られるように、私が口にしたのは。
「謹んでお受けいたします。お伺いするのは明日ということで宜しいでしょうか?」
という言葉だった。
「うむ、しかとその返事は陛下に届けよう。この場に居合わせた者が証人となる。それでは私は失礼する。良き夜を。」
なんて機嫌良さそうに靴音を響かせて帰ってしまったのだった。
どうでもいいけど、ここの床って絨毯が敷いてあるんだけどな?
「噂を聞きつけたにしては、随分と動きが早いですね。いえ、むしろ早すぎますね。」
そんな事を言うのはリーリカだ。
いつにまして真剣な表情で語る彼女が、事の重大さをそのまま表しているように思う。
「しかし近衛師団といえばつまりは王族護衛隊ですぞ。遠回しなどでなくほぼ間違いなく国王陛下直々の招聘状のようなものですな」
とこれは山百合の支配人さんの言葉だった。
これがゲームならば、王都に到着した主人公一行がその足で王城で謁見。なんてことは良くある話だけど、現実的にそんなことは起こる筈もなく、一介の冒険者である私にそんなとんでもフラグが立つなんて、これっぽっちも考えてなかったのだけど。
「たしかにこれでは、王都見物だなんて無理そうね」
と落ち込む私に
「エリス様は私が命に代えてもお守りいたしますのでご安心を。」
とこれまたちぐはぐな事を言っているリーリカ。
あー、もう。なんでこんなことになってるのよ?
◇ ◇ ◇
その夜はとてもダイニングで見世物になる気分になれないと、夕食を部屋に用意してもらうことになり。
「クレアさん、ソレもう一杯ください。ほら、リーリカも飲むのよ。早くグラス空けなさい?」
「お嬢様方、もう少しごゆっくり飲まれては……」
「仕方ありません、エリス様のおっしゃる通りに注いでください。」
荒れるエリス様に仕方なく、グラスの中身を急いで飲んだわたしはクレアにそう告げた。
思いがけぬ国王からの招聘状……という名の実質の召喚状が届くという事態は確かに困惑させるには十分だどはいえ、何をどう踏み間違えたのか、こうしてエリス様の箍は外れてしまい、わたしやクレアには理解のできない単語を度々口にしては、この惨状に至ったのだ。
エリス様はその生い立ちの多くを語ることはなかったものの、彼女の戸惑いや葛藤する様を見るに、明らかに生活が大きく変わってしまったという事は想像に難くない。
高い教養を思わせることを口にする割には、誰隔てなく接したり、名もなき集落に自身の名を冠されてしまうほどの奇蹟をおこしてみたり、それは「こちら側」の世界でも、そうそう起きるような事ではないけれど、彼女の行動の結果は本人や周囲が思っている以上の波紋を常に生み続けていた。
それらがつもり重なってストレスとなっていたのだろう。
いつの間にかテーブルに伏して眠ってしまったエリス様を眺めつつ、この愛おしい少女に私が出来ることはなんだろう?と、考えを巡らせてしまう。
「ヤレヤレですね。クレアさん、申し訳ないですがお嬢様をベッドに運ぶのを手伝って頂けますか?」
部屋付き給仕の彼女と共に決して重くはないエルフの姫を抱えてベットに横たえた。
「それでは私は片付けをしてまいりますので、リーリカお嬢様もお休みになられてください。」
軽く頭を下げ退室する彼女を見送ると、私もベッドの上に這い上がった。
しばらくの間眠る少女の横に寄り添ってその寝顔を眺めていると、時折寝苦しそうに悶えているようだった。
私は彼女の細い首に手を伸ばし、首元のチーフをほどくとブラウスのボタンを一つづつ外していく。
押しのけられるようにはだける白いブラウス。
続いてコルセットスカート前面の紐を全てほどくと、その白い肌が月明かりに照らされる。
彼女の背中に手を回し背中にある留め具をひねると、僅かな衣擦れの音と共に、重力に負けずに自立する美しい双丘が、そこからなだらかな斜面を形成しており、中腹には小さな池のように窪みが見える。
そこからさらになだらかな丘を下り、谷に囲まれた小高い丘へとく道筋がみてとれた。
少しずつずらして脱がせた服をどかしきると、彼女はやっと息苦しさから解放されたようだった。
私も着ていた服を脱ぎ去って、彼女が冷えてしまわないようにそっと横に寄り添うと、確かな温もりが伝わってきた。
そんなとき。
飲みすぎた私は幻覚を見たのだろう。
ほっそりと白いその迷子は、するすると、おずおずとどこかを求めて彷徨うと、やがて小高い丘の小径にたどり着き落ち着いたようだ。
しかし静かだった風の音は、次第にその強さを増していき、やがて小さな地震まで呼び起こしたようだ。
迷子が不安に身を震わせるたび、呼び起こされる地震。
ぼんやりとする意識の中で、共振するように震える自分に気が付いて、私はそっと震源地を包んだのだった。
流れ出る溶岩にその身を心を灼きながら
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第46話をお読みいただきありがとうございます。
設定資料を調整しながらの執筆となり、1話/日更新がやっとの状況ですがお許しを。
それではまた次回 気が付けばエルフ 第47話でお会いしましょう。




