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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第二章 消えた常闇の巫女
40/144

錯覚

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第40話公開です。

予定より早く1話上がりましたので週末ブースト??



お楽しみいただければ嬉しいです。

 錯覚



 シリウスを出発しておよそ半日。


 どこまでも続く街道の周囲には突然渓谷が現れたり、平原が広がったりと意外と変化が多かった。

 この世界において、原則人は群れなければ生きていくのは厳しい。

 手を加えられていない場所ではいつ魔物がでてくるかも判らず、移動は専ら踏みしめられた街道を行くのが王道で、それでも時折魔物が出てきては、倒しながら進まなければならないために、移動に思いのほか時間がかかる。



 すっかり陽も高くなったところでそろそろ昼食にしようかと、街道脇のスペースに馬車を寄せると周囲の草むらから大型犬ほどの大きさの『バッタ』がバタバタと凄い羽音を立てて飛び出してきた。


 少し前から出始めたこのバッタはグリーンホッパーという魔物らしい。


 通常の商隊や旅行者ならば慌てたかもしれない場面でも、生憎とこの一行は全員が冒険者。


 軽く20匹はいるであろうところに風の刃が一閃し、灰の渦が巻く。

 その刃をうまく避けた数匹も、長い槍(ハルバート)を持った男にくし刺しにされ、あるいはショートソードを持った女性にその羽根を斬り落とされ、長いシッポをブンブンと回しながら飛び掛かる御者にトドメを刺されるなどと、その身体を次々と灰へと変化させていた。


「まったく、次から次へと湧いてくるなんて、なんて不躾な虫ケラでしょうね。」


 そう言いながらクルっと踊るように回っているのは勿論リーリカだったのだけど、その一回転で3体のバッタが黒い懐刀の餌食になって灰になっていった。



「しかしなんともまぁ、護衛のし甲斐のない依頼主だなこりゃ。」


「ほんとまったくよね。初めて見たときはどこのお姫様かと思ったくらいだけど。」


「あたしたちが、1匹倒す間に、何匹もたおしてる。……にゃ」


 などと不満げとも取れるような取れないような発言をしている3人は今回の王都への旅で一緒に行動することとなった夫婦のシバールとスー、もっふもふのシッポにふわふわの猫耳をもったミーシャだ。


 ちなみにミーシャのシッポと耳の感触は既に確認ずみである。


「ともに旅をするのに必要な事」などと意味の解らない事を騒ぎ出した雇い主は、その目に怪しげな光を湛えて彼女の耳を、シッポを堪能した、もとい、検分した。


 念入り過ぎるその検分に、ミーシャが「ふぁ。」とか「はぅ。」とか頬を染めて漏らすうち、急に前屈みになったシバールの脛をジト目のスーが蹴り飛ばすなんて不幸な事故もおきたものの、一行は概ね順調に旅を進めていたのだった。



 そしてこの3人がさらに舌を巻く事態に陥るのはこのすぐ後の事。

 エリスが魔法でよく冷えた美味しい水と、それらを使った温かなスープを配給した時だった。



「おいおい、随分とエルフというやつは、ぶっ飛んだ種族なんだな」


「ほんとに。……にゃ。」


 なんて軽い誤解をしかけたところを


「エリス様と他のエルフを同様に見るのは、感心しませんね。」


 なんて意味深なことを真面目顔で言う黒髪のメイドの感情のあまりに欠落した目に、以後エリスの特異性を口にすることをしなくなった。



 なおミーシャの語尾に『にゃ』をつけさせるという奇行に及んだ職権乱用のエルフ(エリス)はといえば……

 客車のベンチシートで食休みという名の昼寝をしているのだった。




 ◇ ◇ ◇



 夢を見ていた。



 黒い夢。


 真っ黒だけど、柔らかくて、暖かい。


 ああ、そうか。クロなんだね。




 あれは十年くらい前。


 確か小学二年生の、梅雨のある日のことだった。


 その日は朝から雨が降っていて、学校が終わった後も降り続く雨にみんなでふざけながら帰る途中だった。

 少し小降りになったのを良いことに、レインコートに防雨を任せ、傘を振り回しながら帰る。

 いかにも幼い子供がやりそうな、そんな雨の日の日常。

 そのうち誰かの振り回す傘がすっぽ抜けて、道路脇の空き地に飛んで行った。


 あぶないからはいってはいけません


 の張り紙から目を逸らし、おそるおそる草むらの中で傘を探すと、目的のものはすぐに見つかった、筈なのに。

 傘を飛ばした子はじっと足元を見つめたまま戻ってこない。


 どうしたのだろう?とその子の周りに集まれば、その視線の先には段ボールが置かれていたのだった。


 ゴソゴソ。


 何かが蠢く気配に誰が開けたのか?傘を器用に使って閉じられた段ボール箱を開けていた。


 ミー。ミー。

 か細く鳴きながら、もぞもぞと動くそれが何だったのか、その時の私には良く判らなかったのだ。


 誰かがキャーーーと叫んで駆けだした。

 別に悲鳴とか、そういうものじゃないけれど、感情に任せて幼い子供が発する悲鳴に似たそれは伝播して。


 私たちは一目散にその空き地から走り出したんだ。



 雨が降っていた。



 古ぼけた一軒家。

 私が生まれたときに越してきたその家は、小さいながらも庭付きで、あちこちと古くて、それでも至る所に思い出の染みついた家だった。


 縁側のある部屋で私は進まない宿題にため息をつきながら、強まる雨に打たれる紫陽花をぼんやり眺めていた。

 小さなちゃぶ台の上にあるオヤツはそのまま手付かずで、でもたったそれだけの事で、ママは私の異変に気が付いてしまったようだ。


 遠巻きに様子を見ていた母は娘に後ろから抱き付くと


慧美(えみ)ちゃんどうしちゃったのかな?」


 ただそれだけを言って、じっと私を抱きしめていた。


 更に強まる雨に、沸きあがる震えと共に私が言えたのはたった一言。


「雨に濡れちゃうの。」


 それだけだった。


 開けられた段ボール箱の蓋を閉めた人など、誰もいなかったのだから。




 その後のやりとりはあまり覚えてない。

 ただその後、空き地にやってきた私と母は、怖くて空き地に入れない私をその場に、段ボール箱のとこに歩いていき、ややあって、その手に1匹の子猫を包み込むように抱えて戻ってきた。


「大丈夫よ。ほかの子はちゃんとママのところに帰ったみたい。」


 と言いながら。



 家に帰り、暖かいお湯の中でそっと洗って、冷えないように暖めて乾かして。

 すっぽりと母のエプロンのポケットに収まって、スヤスヤと眠る黒い子猫。

 その日うちでは新しい家族が増えたのだった。


 安直にクロと名付けられたその猫は、私と共にスクスクと大きくなり、1年もすると当時の私では抱えられないほどの大きさになった。


 普段からモフモフと広がった太くて長いシッポ。

 私の顔と変わらない位に、大きく見える顔。

 首回りにはふさふさと鬣のような襟巻まであるのだ。

 マンションに引っ越してくる1年ほど前に、急に姿を消してしまったクロだったけれど、ネコとはわりと「そういう事」が多いのだそうだ。


 それでも私は猫が大好きだった。


 私は目の前のクロに抱き付いて、そのふわふわの毛並みを、柔らかさを、温もりを堪能した。



「……にゃ。」

「…………にゃ。」


「「「「………………」」」」




 ガタゴト。


 大きめの石を乗り越えたのか、馬車が大きめに揺れた。


 ぼんやりと目をあけるとどうやら馬車の中のようだ。

 なんだか重いと見回すと、ミーシャが私の膝枕で寝ているようだった。


 むに。

 むにむにむに。


 柔らかい感触に手を見ると、私の手の中にはミーシャのシッポが「うな垂れていた」

 向かいに座るリーリカの視線がなにやら冷たい。

 目が合うと、ツイっとそっぽを向かれてしまう。


 そんな様子を荷台から見てニヤニヤしているのはスーさんで、どうやらシバールさんが御者台に座っている様だった。

 感じる違和感に首を傾げる私だったけれど。



 その理由を私が知ることが出来たのは、その日の夕飯を食べている時だった。

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第40話をお読みいただきました皆様、ありがとうございます。


エピソードの区切りの都合で、どうしても山場の無い話が出てしまってその辺の課題を今後どのように処理するか、色々試行錯誤が必要そうです。



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