昔日の爪痕
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第38話 公開いたします。
週末なので更新できる時にしておこう。ということで。
ごゆっくりお楽しみください。
昔日の爪痕
翌日私とリーリカは朝早くから冒険者ギルドへと出向いていた。
「すみません、依頼を出したいのですけど。どうしたらいいですか?」
カウンターへ行き受付嬢に聞く。
リーリカは勿論わかっているのだけど、何事も経験なので、ここは敢えて黙ってくれている。
「あら、あなたエリスさんね。覚えてるかしら?あなたの登録をした時に手続きをした……」
そこまで言われて改めて受付嬢をよくみれば、確かに見覚えのある顔だった。
「その節はお世話になりました。」
ぺこりとお辞儀をして答えると
「あなた達すっかり有名人ね。もう町中であなた達の噂を聞かない日はないわよ?っと、それで依頼のリクエストだったわね、じゃあいくつか質問に答えて頂戴。」
なんて返ってくる。
返ってはくるものの、冒頭に関係のない話が入る為に……話はあちらへ、こちらへとフラフラと寄り道しながら、それでもなんとか私は依頼内容を受付嬢に伝えたのだった。
どうにも話好きの受付嬢らしい。
さて私が出した依頼内容はこんな感じだ。
依頼内容:荷運び及び護衛。ただし御者をしている間は護衛から除外。期間2~5日程度
報酬:御者時4銅貨、護衛時5銅貨 1日につき。待機日は1銅貨都度払い。
条件:荷車を引ける馬持ちに限る。先着2組。先に応募した組を優遇。
:ナラシー迄1組、リオン迄1組
備考:女性を希望。食料及び飲料水支給。護衛難度:低
「なるほどね。このパターンだと報酬は預託金という形になるけどいいかしら?実際に支払われた成功報酬の1割はギルドの手数料よ。」
「えぇ、構いません。残金は戻った時に清算できるのですよね?」
「そうね、冒険者を返すときには依頼票に完了のサインをしてあげて頂戴。」
「わかりました。では預託金はこれで。足りますよね?」
私は懐から金貨を1枚差し出した。
「ええ、十分ね。順調にいけばナラシー組は8銅貨、リオン組は1銀貨と8銅貨だから充分よ。多少伸びても十分な余裕あるわ。」
通常よりは随分と多く、とても駆け出しの冒険者の金払いに思えないその額にも動じることもなく、受付嬢は受領証を発行して私に差し出してくる。
「では一度用事に回ってきますので、昼までには一度こちらにもどるので、その前に応募があったら待機してもらってください。」
「わかったわ。」
聞き取りが終わると受付嬢はサラサラと依頼票を2枚書き上げて、重ねてボードに貼り出した。
「どう?リーリカ。今ので大丈夫だった?」
「そうですね、おそらく問題ないかと。依頼が少々複雑なのと、護衛にしては報酬が安いですがエリス様も私もおりますので。」
「じゃあ、依頼も出したことだし、次は荷車の手配ね。」
「そうですね。そちらへ参りましょう。」
冒険者ギルドを出てのんびりと下層区へ向かう。
リーリカと並んで歩くこの街の風景にも、随分と慣れてきたかな?
石畳の緩やかな坂を下りつつ、途中変わった果物に目を引かれてみたり、下層区までの僅かな時間を私は楽しんだ。
◇ ◇ ◇
結論から先に言ってしまえば、私たちは無事荷台部分を手に入れることが出来た。
およそ8銀貨で購入したその荷台は現在綺麗に手直しをされているはずだ。
そして私が一緒に来る必要は果たしてあったのか?
そんな疑問が私には残るだけだった。
馬車の荷台部分を買いに行った私たちなのだけど、最終的にほとんどリーリカに任せっきりにしてしまった状態だ。
勿論私にも言い訳はあるのだけど、わかりやすく言えば、なんの知識もなく相手の言いなりにカモられそうになっているところを、さすがにこれは放っておけないとリーリカが後を引き継ぎ、やれ車軸がどうとか、起こしがどうとか、ニコイチがどうだとか。
全く訳の分からない用語が飛び出た挙句、「もっとまともな相手とお話しましょう」と引っ張ってこられたのは城門の詰所だった。
そこで番兵と何かを話していたリーリカは、「エリス様行きますよ、こちらです」とズルズルと私を引きずりついたのが、荷受け場から少し離れた城壁際の一角だった。
様々な大きさや種類の馬車が並べられた一角。
私たちが訪れるとやや小柄のガッシリとしたオジサンが近づいてくる。
「おう、こんなところにお嬢様直々におでましとはな。」
私たちの前に来たオジサンに違和感を覚えながら、その違和感の正体に気が付く。
靴を片方しか履いていない。
いや、片方しか履けない。
何しろ、左足があるべき場所には無機質な金具の付いた木の棒があったのだから。
「荷を運ぶ馬車を探しています。こちらに補給隊の払い下げ品が回されていると聞きましたので。」
リーリカがそんな事を言うと
「へぇ。ちったぁわかってるってか。いいだろう。コッチだ。」
なんて奥の方に連れて行かれた。
そこから先は永遠とリーリカがあれこれと条件を上げて、やっとそのターンが終わった時にはめでたく購入した馬車にいきついたという訳だった。
私たちが馬車を買ったのは、退役軍属の商人だ。
負傷などで一般任務に耐えられなくなった軍人に対して、仕事を与えるために安く払い下げた軍用品などをリサイクルして売っているような商人だ。
そしてこの商人も数年前にあったという内乱の際、受けた傷の処置が遅れた代償に左足を失ったのだという。
買った馬車は補給隊でも使われているというチョット見たことのない形で、少なくとも私がイメージしていた馬車の中にはあまりないタイプだ。
小さな御者台の後ろに、馬車の客車を半分に切り取ったような小さい客車が付いており、更に後方はカーゴスペースになっている。
ピックアップトラックと呼ばれるような自動車みたいなものだと思ってもらえば、イメージしやすいだろうか?
元々軍用だというだけあり、基部の造りは堅牢で頑丈。
軽く強い木材を使っているそうで、馬1頭でも十分に引くことが出来、4頭までつなぐこともできる。
かといって、客車としても、荷馬車としても半端なそのサイズから意外に安く買うことが出来た。
リーリカによれば軍用馬車をベースにされたその馬車にするメリットはもっと違うとこにもあるようで、『イタサス』がどうたらとかなんとか言っていたような気がするけれど、早々に理解を諦めた。
当初13銀貨という価格提示に対してリーリカは4銀貨を告げて、オジさんがせめて10銀貨だろうというと6銀貨を提示した。
そして最終的にその間をとって8銀貨で手打ちにななったのだけど、リーリカにはしっかりと
相手の言い値をそのまま鵜呑みにするとかバカですか?的な果てしなく回りくどい言い回しで呆れられてしまった。
どうにもまだ日本人的感覚が抜けきっていないという事らしい。
ともあれ明日までには準備しておいてくれるとのことで、目的のものを手に入れた私たちはギルドへと戻ることにした。
◇ ◇ ◇
途中屋台で売っていたマフィンらしき何か、ソーセージやら果物やらを買って、折り畳み式のランチバスケットに放り込むと、待機の準備を済ませた私とリーリカ。
なんやかんやもうすぐ昼なのだからギルドに詰めながら食べる予定だ。
ギルドに戻ると一人の受付嬢が私たちに気が付いて、待機スペースの方を指さす。
昼前ということもありだいぶ人数の少なくなったそこには、既に希望者と思われる2名が待っており、近づく私たちをみるや
「ほらみなさい、依頼者は女性だって言ったじゃない!」
などと横にいる男性に勝ち誇ったように言っていた。
「あたしの名前はスー。こっちの冴えないボンクラはシバールよ。」
「おい、旦那に向かって冴えないだとかボンクラだとかそれはあまりにもひどいだろう?」
「なによ!女性希望の依頼に真っ先に手を伸ばすボンクラの事をボンクラと言って何がおかしいのよ?」
なんてこちらの事なんかお構いなしにやりあっている。
あー、なんだっけ。こういうの。
夫婦漫才?
そうだ。確か最近廃れていたお笑いのジャンルにそんなものがあった気がすると、私たちはオチがつくまで、つまり二人が落ち着くまで、しばらくの間待たされるのであった。
こんにちは。
味醂です。
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ではまた次回、気が付けばエルフ 第39話でお会いしましょう。




