真夜中の影+一章エピローグ
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第34話公開です。
ついに第一章完結となります。
少々長い話ですが、お楽しみいただければ嬉しいです。
真夜中の影
未成年であることを理由に、私が狂乱の宴から逃亡したのは夜9時の鐘が鳴った後しばらくしてからだった。
実際に腹の探り合いに等しいこの貴族たちの慣習は、まだ14歳の私を疲弊させるには充分荷が重いものではあったし。それ以上に私はそういった人同士の付き合いというのがあまり好きではなかった。
だからといって生まれたときには、既に貴族として生を受けた私は、もう平民の暮らしに馴染めないだろうという事も、重々承知している。
成人までの時間がもうあまり無くなった今となっては、せめてその様なことをあまりしないで済むような場所に落ち着きたいと思っていた。
ふと『父オススメの優良物件』の話が思い出される。
フレバー子爵の一人息子。
「フレバー子爵公子か」
北の大陸西方に領地を拝し、古くは西の大陸の王家に連なる外戚関係。
当面は健在であろう子爵殿下とその夫人。
夫人は主にここシリウスにもつ屋敷に逗留していることが多く、外交家肌だ。
一方フレバー子爵本人はといえば、現在は息子の教育の為に領地にこもりっきりではあるものの、息子が結婚でもすることになれば領地経営をある程度任せ、自身は夫人が多く過ごすシリウスに逗留するかもしれない。
むしろ領地は代官にまかせ、自らは王都やこの城塞都市のような場所に済むことの方が多いのだ。
子爵公子が都会的な生活にあこがれているならば、代がかわったところでその可能性は高いものの、触れ込みによれば領地経営に熱心に取り組んでいるとの話だ。
つまりは当面は次期領主として、様々な経験を積むべく領地に引きこもっている可能性は非常に高かった。
本来優良物件である子爵公子の話が私のところまで回ってくる裏事情に、多くの子女は都会的で華やかな生活に憧れるためで、事実同世代の友人の中の大半が、そのような生活に期待している者だ。
簡単に言えば、若くして田舎にひきこもりなんか嫌よ。って事だ。
そう考えるとあながち悪い話でもないかもしれない。
すぐに子供に恵まれるかはわからないものの、社交界と縁遠い地で誠実で真面目な夫に愛されながら、共に子供を育てる生活はそれなりに魅力的に思えた。
ベッドに転がりながらそんなことを考えてるうちに眠り落ちた私は、ひと眠りしたところで目を覚ます。
屋敷ではまだ宴が続いているような気配はあるものの、だいぶ人は減っているようだった。
窓に歩み寄り外を窺えば、門の辺りには数人がそれぞれの屋敷に帰るべく、迎えに来ている者を付き従えて歩いている。
勿論まだ出てこない主を待つ使用人も結構な人数居るようだったけど。
私が再びベッドに戻ろうとした時――視界の端で何かが動いたような気がした。
既に灯りを消した部屋に長時間居たために闇に慣れた目が、庭の隅に人目を避けるように佇む二人の人影を捉えたのだ。
3階のこの部屋からでは当然声も聞こえないし、よく見えない物ものの、なにやらシルエットを見るに、一方は女性のようだった。
こんなところで逢引きかしら?
逢引き。
当然行われるであろうそれに伴う諸々の行為を想像すると、胸の動悸が自然と早くなった。
いけないと思いつつも、カーテンの影に身を潜め、息を殺し、二人の様子を窺った。
二人のシルエットが近づくと、動悸はさらに早くなり、不思議と唇が渇き、力の入った手は無意識にスカートを握りしめていた。
いよいよというところで
突如部屋のドアがノックされた。
「!!!」
慌てて私はベッドの上に駆け上がると、眠そうに答える。
「どうぞ?」
ややあってドアが開かれる。
「失礼します。ミリアお嬢様」
「どうしたの?ライカ。」
平静を装って問いただす。
「お嬢様、まだお召し替えをしておられないようでしたので。」
そういえばまだドレスを着たままだった。
自分の服を確認したのを認めてライカは着替えを手に近づいてくる。
「失礼します。」
ベッドから降り脇に立った私の前にライカは跪いて、私の服を脱がせていった。
ライカの手が私を正面から抱きかかえるように背中に回され、エリスお姉様がブラジャーと呼ぶ下着の留め具を外した。
桃色の蕾を目の前にライカの手はそのまま下へを下がっていく。
僅かな抵抗のあとに、スルスルとずり下がるそこに、彼女は何かを見つけたようだった。
そっとそのままベッドに寝かされた私は、後をライカに任せて目を閉じた。
夜はまだ長い
◇ ◇ ◇
軽食の並んだ控室で私たちが軽い夜食を食べているとサラも控室に戻ってきた。
「サラお疲れ様。どこへいっていたの?夜食食べるでしょ?」
「ああ、ちょっと話をしていたんだ。貰うよ、美味そうだ。」
疲れの為か若干トーンの低い声でそう答えるサラに私は料理をいくつか取り分けけて渡した。
そういう私ももう正直ヘロヘロで、一刻も早くベッドに潜り込みたいのは山々だった。
しばらくパーティーの感想などを話していたとこにロゼッタさんがやってきて
「今日は本当にお疲れ様。先に休んでいいわよ。」
なんて言ってくれたので私たちは素直にその言葉に甘えることにして、その狂乱の宴は幕を閉じたのだ。
屋敷に用意された部屋に入ると私は着ていたドレスを放り投げベッドの中に潜り込む。
すぐに控えめにノックされたドアは、返事をする前に開けられて、するりと部屋に入ってきたのはリーリカだった。
まあ、この屋敷に泊まっていた間も、彼女は私に添い寝してくれてたのだ。
鼓動の音というのは不思議なもので、聞いてるうちに心が穏やかになる。
あの日私が不用意に踏み抜いてしまったガラス細工は互いに傷つけ合い、そして溶け合って、互いを補い合った。
不器用に繋ぎ合わせた――その不格好なつぎはぎだらけのガラス細工は仮初で、それでも、そうでもしていなければ簡単に砕け散ってしまっていたんだろう。
完全でないからこそ、愛おしく感じるものというものは、存在するのだから。
暗闇の中に溶け込むようなシルエットは様々な形に移り変わり、パサ、パサ。と音をたてたのち、ぬくもりとなって懐に転がり込んでくる。
「わたくしも、エリス様と踊りたかった、です。」
腕の中に収まると、そんな事を言われた。
「多分、きっとこれからも、その機会は沢山あるわよ。だからきっとその時に……だって、私のメイドさんなんでしょ?」
胸に僅かな湿気を感じながら、その心地よい重さに身を任せて私は眠りに落ちた。
おやすみ、リーリカ。
◇ ◇ ◇
翌朝はみんな揃っての朝食となった。
朝食といっても、既に9時の鐘は鳴り終えている。
すこしばかり遅めの朝食だった。
その席でベロニカさんは昨夜の成果を発表したのだけど
現物で用意していた中から、昨日のうちにそのまま買い取られていったものがおそよ20着。
平均すると1着あたりは4金貨程度になるらしい。
本来の設定は1金貨。これに装備化の2金貨と、臨時の上乗せとして1金貨。これで4金貨。
昨日用意したものは特別仕様の高級品だったこともあり凄い額だ。
私に至っては装備化で数量だけで80金貨を稼いだことになる。
一晩で4000万とか……はは
グローリー男爵家には臨時の上乗せ分としての1金貨分をそのまま、つまり20金貨。1000万相当。
料理や室内楽の経費を引いてもかなりの利益のはずだった。
サラとリーリカにしても通常の3倍程度のマージンなので、ざっと60~70万程度の収入になったはずだ。
そしてそれだけでも驚きなのに、まあ、本来のオーダーが60着ほど入ったという。
こちらも大体4金貨程度からということだったけど、中には特注でもっとすごいのも何着かあったのだという。
つまり、先に言った額のその3倍の額は最低でも加算される。
私に限れば最低でも1億2000万相当の追加収入がさらにあるということだ。
白金貨で2枚と40金貨相当のお金を、こちらの世界にきてまだひと月も経たない私が稼いでしまったのだ。
つまり、この場にいるものは皆、それなりには裕福だ。
この発表には勿論、グローリー男爵とロゼッタ夫人も大喜びだったし、一見製作販売者のベロニカさんの取り分が少ないように感じはするものの、それでも1着あたりに6銀貨つまり30万程度の利益はあるのだ。
今回の発注分とあわせて80着分ともなれば実に2400万相当。
決して儲けとして悪いわけではない。
なにより今回のことで彼女は巨大な顧客層を取り込むことに成功したと言える。
中層きっての富豪になるのは時間の問題だろう。
そんな喜びに包まれる中、サラは立ち上がるとベロニカさんにこんなことを言ったのだ。
「なあ、ベロニカさん。今回の私の取り分なんだが、ある程度先払いできないかな?無理ならその一部でもいい。急遽少しばかり路銀が必要になったんだ」
「え?」
ベロニカさんが答える前に、思わず私は驚きの声を上げてしまった。
「サラ、それってどういう事?」
真面目な目で私を見つめるサラ。
しばらく何かを葛藤したのちに
「ここにいる面子には世話になったしな、だんまりって訳にもいかないか。実はずっと探していた奴の痕跡が見つかった。」
「それってどういう事?」
「話せば長くなるんだ、ただ、そいつはとても危険で、それでも私はそいつをなんとしても見つけ出して……」
言葉に詰まるサラはなんとか絞り出すように口にした。
「ルーシア……私が初めて拾ったビジターで、最初のメンティだった。そいつの仇。厄災の緋眼を討つために」
衝撃で、胸を打たれたように、息が詰まった。
実のとこ、サラが私に対して誰かの影を重ねていたことも、私は薄々感づいてはいたのだ。
そう、初めて会ったあの時に。
あの林の中、大きなハチの魔物に追われて逃げていた私を、サラは私の事を一瞬、ルーシア!そう呼んで叫んだのだ。
きっと、妹のように可愛がったであろうその彼女を、私に重ねて居たと思えば、私という存在は随分と無自覚にもサラを苦しめていたのかも知れなかった。
色々なことが渦巻いて、ボロボロと落ちる涙に、ついには私は崩れ落ちた。
◇ ◇ ◇
エピローグ(一章)
――数日後
城塞都市シリウスの城門の前で、私とリーリカはサラを見送った。
一通りメンターとして、私に冒険者のイロハを叩き込んだサラと私の関係は、ここに来る前にギルドで解放された。
サラ曰く、勿論まだまだ色々とできない事も多いけれど、ここぞというときの戦闘力の高さと、当面心配のない財政面に鑑みれば、もう充分初心者冒険者として自立できるだろうとのことだ。
命を賭す覚悟のサラに、せめて私の代わりと思って供にしてほしいと、サラには可能な限りの装備品を贈らせてもらった。そうしてサラはこの街で手に入れることの出来るだろう最大限の装備と、勿論、何着かのドレスと、装備化した下着セットを沢山詰め込み、その聊か冒険者には多すぎる荷物の量に苦笑いで荷馬車に揺られて旅立ったのだ。
必ず生きて会おうと、笑顔で約束をして。
もし約束破ることがあったら、許さないんだから。
「行ってしまわれましたね。」
「そうね」
「また、会えるでしょうか?厄災の緋眼は邪悪な魔物として各地で恐れられるヴァンパイアですよ?」
「私ね。なんだか予感がするのよ。きっとサラは、乗り越えられるって。そしてまた生きて、今度はお荷物なんかじゃなく、対等なパーティーの仲間として共に旅をするって。勿論、あなたも一緒よ?リーリカ。」
その言葉に彼女は黒い瞳を大きく開き、やがて少し嬉しそうに言うのだった。
「それではエリス様も、もっと強くならなくてはなりませんね。」
「そうね、もっと強く。悲しみを繰り返さないためにも、ね。」
気が付けば白金色と漆黒の対照的な二人の少女がいつまでも街道の先を見つめるなか、城塞都市には9時を告げる鐘の音が鳴り響いていた。
気が付けばエルフ 第一章 アッシュブラウンの冒険者 完
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第34話をお読みいただきました皆様、ありがとうございます。
この話をもちまして、気が付けばエルフ 第一章は終了です。
公開開始より半月、早い段階からご支援頂きました皆様には、心より感謝を。
皆様のブックマークや評価が無ければ、この第一章すら書き上げることは難しかったかと思います。
本編はこの後2章へと続きますが、構成作業や第一章の既存話修正・改稿を伴いますので少々のお時間を頂こうと思っております。
ある程度落ち着きましたら極力毎日1話は更新したいと考えておりますので、引き続き応援いただけると幸いです。
面白かったとか、期待できる感じたら、評価などぽちっと頂けると、作者はさらに張り切るかもしれません(笑)
それではまた次回、第二章でお会いいたしましょう。




