オートクチュール2
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第33話公開いたします。
更新間に合わずすみませんでした。
それではお楽しみください。
オートクチュール2
何着目かのドレスを着て控室に戻ると、そこにはベロニカさんが待っていた。
「エリスちゃんお疲れ様。少し休憩してていいわよ?」
彼女が告げるその言葉に、私の緊張の糸が断ち切られる。
フラフラとソファーの前に移動した私は、まるで操り人形の操り糸を断ち切ったようにへたりこみ、そのまま天を仰いだ。
「良かったですね、エリスさん。何か飲みますか?」
すっかりスタッフとして手伝いが板についているアリスちゃんは、今日もトレードマークのあの赤い服を着ていた。
もっとも流石にフードは被っていなかったけれど。
遠目には表情の判らないこの子だけど、透けて見える眼が凄く素敵な色で、前髪に隠れてしまうのがもったいない位だ。
「そうね、何か甘い果物の搾り汁を貰おうかしら?ありそう?」
「厨房行って聞いてきます」
私がリクエストすると、部屋からタッタと出て行ってしまった。
「ベロニカさん、会場のほうは凄い熱気ですね。私人の視線があんなに痛いだなんて思ってませんでした」
「そりゃそうよ、だってエリスちゃんは今会場中の人の、羨望や、渇望、嫉妬、その他諸々すべての的なんだから」
「なんだか随分と余計なものまで、受けてしまってる気がするのですけど……」
「まあ、冗談はともかく、注目を浴びるという事は、少なからず色々なものも受けるものよ」
有名税、というやつなのだろうけど、正直ちっとも嬉しいと感じないと思ってしまった。
「それで、ベロニカさんから見て当初の目論見通りにはいきそうですか?」
「今頃、ロゼッタが試着の第一陣を集めている頃だわ。きっとすごい反響になるわよ」
と、私の問いに自信満々に答えるベロニカさん。
「そういえば、ここにあったこれまで着てきた衣装もないですね」
「えぇ、さっき纏めて一階のゲストルームへ運んだわ。それこそ目玉もの」
装備化の恩恵をうけ、誰でも着ることのできるようになったドレスに手直しは必要ない。
それをアピールするためにも、ついさっきまで着ていたドレスをそのまま持っていったという事の様だった。
やがて先程出て行ったアリスちゃんがサラとリーリカと共に戻ってきた。
「お待たせしました、エリスさん。果物の飲み物ありましたよ」
「アリスちゃんありがとう。それにサラもリーリカもお疲れ様。二人は飲み物は良いの?」
ときくと、既に会場からドリンクを失敬してきているようでグラスを掲げてみせた。
「ふう、今のうちに一息だな。さすがになかなか堪えたな」
そんな事を言いつつグラスを一気に飲み干しているサラ。
最初の2、3着は男物兼用的な服を着ていたサラだが、今は真紅と漆黒のコントラストの強いイブニングドレスを着ていた。
サラってこういうの凄くよく似合うのよね。
一方リーリカはといえば、黒のシースルー素材のキャミソールドレスで、身体のあちこちが透けてみえている。
重要な部分だけは上手く生地か重ねてあるようで、かろうじて見えないのだけど、黒い髪と相まって、なんとも言えない妖艶な魅力を漂わせていた。
私が見惚れているとリーリカはそれに気が付いたのか、急に身体をもじもじとさせて私の横にチョコンと座ってしまった。
それから私たちは、一時間ほど休憩をしたのちに会場に戻ったのだけど、そこは先程とは打って変わり、舞踏会と化していたのだった。
◇ ◇ ◇
舞踏会になってからの私たちは、時折衣装を変えながら、自由に過ごしてよいとのことで、またしても男装の麗人と化したサラなどは、随分とダンスの誘いを受けていた。
「それにしても上手いものよね」
私はひっそりと壁の花になりつつ、横に並んでいるリーリカにそっとつぶやく。
「そうですね、男性側のエスコートダンスを、苦も無く出来るのですから元々ダンスの経験はあったのでしょう」
言われてみればサラはエスコート上手だ。
女性だけに女性側がどうしてほしいのかは勿論わかっているし、それでいてその時男性ならどのようにエスコートすべきかが判っているようだった。
「私、サラの事結局、何も知らないわ。ううん。それはリーリカにも言えることだけど、私は二人の事、なにも判ってない」
何も知らなかった。
その事実を再認識したときに、それなりに仲良くなったような、仲間になっていた気がしていたものが。
なんだか急に希薄に感じられてしまい、妙な不安感を煽る。
焦点が合わないまま遠くを見つめている目は、不意に黒い影で覆われて―
次の瞬間にはリーリカに抱きしめられていた。
コツっと額をつけた状態で彼女は
「もう少し。もう少ししたらきっと必ず――」
そう呟いてススっとどこかへ行ってしまった。
また余計な心配をかけちゃった、かな?
後ろ向きの気持ちを振り払うように、手にしたグラスの中身を飲み干すと、私はダンスの輪の中に飛び込んでいくのだった。
そして勇気を振り絞ってダンスの輪の中に混ざろうと思った私なのだけど
正直どうしたらよいのかわからなかった。
そんな時だった。
どこからともなく颯爽と現れたのはグローリー男爵だ。
彼は会場全体に大きく手を拡げ
「この美しきエルフの姫君とのファーストダンスのお相手を、務めさせていただく栄誉を、どうかワタシめにお譲りいただきたい」
大きな声で宣言し、私の前に片膝をつくと、そっと手を差し伸べた。
会場全体から拍手がとんでくる。拍手喝采というものはまさにこの様な状況を言うのだろうと考えていると、誘いを受けた時に取るべき所作なんていつの間にか消し飛びかけていた。
えっと、こんなときはどうすればいいんだっけ??
持っている知識をフル回転させて、やっとのことで私は再起動。
「よろこんで」
と男爵の手を取ったのだった。
というか私ってダンスできなくない?ひぇええ。
なんて思ってると男爵は私だけに聞こえる声で
「大丈夫。まず一歩目は大きく右から踏み出そう。その後は、リズムの通りに1歩ずつ。なに、こんなとこで恥をかかせたら妻に後で殺されてしまう。だから安心して」
と。
返事をする代わりに小さく頷く。
あぁ、そうだ。
このリズムはワルツだ。
ゆっくりと流れるワルツのリズムに、私は初めてのダンスを踊ったのだった。
◇ ◇ ◇
「お、おわったぁ、、」
なんだかダンス以降の記憶があやふやになってきているものの、なんとか私は予定していたすべての衣装を着て、すべての役目を終えた――筈だ。
試着のほうも大盛況のようで、中にはそのまま着て帰ると言い出す者も、一人や二人ではなかったそうで、勿論それをベロニカさんは快く承諾、つまり売却したようだ。
パーティー自体はまだ続けられているが既に夜中の0時を超えており、グローリー男爵とロゼッタ夫人は見送りに忙しそうだ。
ベロニカさんはといえばこちらはこちらで、急遽販売されたドレスを見た他の者たちの大攻勢の対応でてんやわんや。
きっと嬉しい悲鳴とはこのことだろう。
ちなみに彼女、今回試着する際に、下着をプレゼントしていたようだ。
しかも、すべて装備化品で。
それだけでもすごい額の持ち出しにみえるけれど、実際にはその数倍のリターンは確実に見込めるだろう。
それはつまり、下着1セットだけでも私には1銀貨程度の手数料が入ってくる。
今日試着した女性はおよそ150人。
つまり・・・贈答品分だけで150銀貨・・・750万の手数料を生んだものの、必ず替えを求めてくるはずだ。
ベロニカさん恐るべし。
ちなみに、替えの下着を全員が1セット購入すると、およそベロニカさんの儲けは40銀貨、およそ200万。
この世界の下着からあの下着へ替えてしまったなら、おそらくはもう戻れないだろう。
意外に下着の替えというのは必要になることを考えると、すぐに今日の分も元を取ってしまうだろうことは想像に難くない。商魂逞しいというかなんというか、これはなかなかにえぐい話である。
そして賢い彼女の事だ、十分な替えを売った後は、より魅力的なデザインの下着を作るのは判り切っている事だった。
「お疲れ様です、エリス様」
ぐったりとしているところに、リーリカも上がってきた。
「そのメイド服も可愛いわね」
「ありがとうございます。こちらの服もよく考えられてる造られたようで、なかなかに機能的ですよ」
そう、ベロニカさんはなんと、メイド服までも何種類か用意していたのだ。
「プロのメイドとして、その服は良いと思う?」
「はい。おそらくはこの服も人気となるでしょう。富裕層の方が被服にお金をかけるのは、何も本人達だけとは限りません。雇っている使用人の服にもまたお金をかけ、権威を示すものです」
「貴族の方も大変ねぇ」
そういえばどこぞの世界的高級ホテルなんかではその制服も凄いコストがかかっているとかいう話を聞いたことあったっけ。
私はそんなことを思い出しつつ、いつのまにかサラが部屋から消えていることに気が付いた。
トイレにでも行ったのかしら?
その時の私はその程度にしか、事態を認識していなかったのだ。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第33話をお読みいただきました皆様、ありがとうございます。
第一章はもう少しだけ続きます。
それではまた次回 気が付けばエルフ 第34話でお会いしましょう。




