オートクチュール1
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第32話公開です。
午前には間に合いませんでしたorz
それではお楽しみください。
オートクチュール1
後々まで、伝説のように語り継がれたその夜のパーティーは、夜6時の鐘の音と共に始まった。
屋敷の広いエントランスホールの奥、向かい合った弧を描く階段上のテラスで、この屋敷の主であり、私の両親であるグローリー男爵と、その妻ロゼッタに挟まれて私は立っていた。
私の名前は、ミリア・グローリー。
グローリー男爵家の長女、ミリア・グローリー男爵子女。
その夜開かれたパーティーは、父の朗々たる挨拶から始まった。
参加者の大半はこのシリウス上層区界隈に住む、貴族婦人やその娘たちであることは、招待客集めの段階で、母のロゼッタが画策した事らしい。
簡単な挨拶に続き、家族の紹介が入る。
ここまではよくあるパーティーの流れだった。
ウェルカムドリンクと入れ替えられたグラスを掲げ、宴が始まると料理人たちが情熱を込めた力作が、次々とビュッフェへ配膳された。
ホールの一角に設置されたビュッフェにはメイドが待機しており、ゲストの要望に応えながら料理を忙しく取り分けている。
先日まで3人いたメイドだが、現在は色々あって2人になっているためにビュッフェはなかなか忙しそうだ。
手が空いている料理人も二人ほど、彼女たちを手伝って取り分けや、足りなくなった料理の補充に奔走していた。
執事のセバスはゲストルームへ続く廊下の手前に立ち、気分の悪くなったゲストなどの案内などをしていたし、庭師やその小間使いの少年は、今頃屋敷のドア前で遅れてやってきたゲストなどの出迎えをしている事だろう。
このパーティーは、グローリー男爵家総出で取り組んでいるのだ。
こうした宴の序盤は挨拶周りの意味合いを強くもつ。
料理と飲み物を手に目についた知人などに声をかけ、言葉巧みに情報を引き出したり、逆に情報をねじ込むのだ。
貴族層の中では最底辺のグローリー男爵家が比較的強いコネクションを持つのは、父や母がこうした情報戦に長けていたからで、今もまさにその手腕をこの会場で発揮している事だろう。
そんな事を考えているうちにも会場内をうろつく私を父が呼び止めた。
「ああ、ミリア丁度いい、こちらにおいで」
にこやかな笑顔で私を呼び止める父。
「はい、お父様。」
勿論私もそうして笑顔という仮面をその顔に取り付けて、父の傍へと歩み寄るのだ。
「ああ、よく来たね。丁度お前の話が出ていてね、こちらはフレバー子爵夫人のミント夫人だ」
「まぁ初めましてミント夫人。ミリアです。」
そう挨拶して優雅に会釈をする。
「あらあら、本当に可愛らしいお嬢様ですわ。わたくしはミント。よろしくね。」
勿論夫人もニコニコと自己紹介をしてくれる。
当然それだけで話が終わる筈もなく、お互いの服装を褒め合ったり、家族を褒め合ったりだとか。
年頃の息子がいるだとか、年頃の息子がいるとか、私も来年には成人だとか、早くも成人だとか。
なんだか話が被ってるって?つまりこれはまあ、一種のお見合い予約のようなものなのだ。
事実、こういった宴席で本人たちの与り知らないうちに、婚約者になってしまうことなんて、ザラだった。
交友のある友人にも数人は既にそういった婚約者がいるものだっているくらいには。
それを考えると父や母は、比較的有望で、息苦しくない『物件』を中心に紹介してくれるだけ良心的だろう。
今紹介されているフレバー子爵子にしても、西方にある子爵領で父親について領地運営を熱心に勉強しているうえに、より豊かな領地とすべく、父の提唱する作物などもいち早く取り入れるなどの協力者のようだ。
子爵位を継承する相手と結婚するとなれば、男爵子の私からすればそれはもう超がつくほどの玉の輿なのだから。
話をすぐに切り上げない所をみると、これは父的には『大本命』であり、またミント夫人にしても満更でもないようだ。
そんなことを考えているうちに、早速旅行の際には立ち寄るようにだとかそんな話をしている。
勿論私たちがそちらに旅行に行くことになれば、当然その情報は夫人の知るところとなり、前もって領地に帰省することになるのだろう。
そろそろ話が尽きそうになった時、ついにその時はやってきた。
階段の前で声高らかに余興の始まりを宣言する女性。
最近飛ぶ鳥を落とす勢いで話題のベロニカだった。
「エリス・ラスティ・ブルーノート嬢こちらへ」
次の瞬間、その場の時間が静止した。
「エリスお姉様……」
◇ ◇ ◇
二階の廊下に待機していた私とサラ。
会場ではベロニカさんがゲストの方々に今回の余興を説明していた。
名前を呼ばれて少し体を固くすると、サラが背中をポンと軽く叩いて言った。
「さあ、いこうぜ」
私の手を軽く取り、男装の麗人となったサラがエスコートしてくれる。
私たちが階段の上に姿を現すと、それまでガヤガヤとしていた会場が静寂に包まれる。
うわぁ……メッチャ緊張する。
私の手をとるサラの手に僅かに力が入る。
これは合図だ。
意を決して私たちは歩き出した。
藤色のキャミソールタイプのセレモニードレス。
胸元のラインから流れるように広がる飾り袖に、ワイン色に染められたサッシュで飾られたウェスト部。
螺旋状に広がりながら、何か所にもつけられたドレープで、スカートの広がりを示すバニエはかなりボリュームがある。
このドレスを着て階段を下りるのは、実をいうと凄い怖かったりする。
だって、まったく階段が見えないのだから。
歩幅を意識しながら、サラのエスコートに任せて、ゆっくりと、一段づつ私たちは階段を下りた。
階段を下りきったところでサラと向かい合い、軽く裾をつまみ会釈したあとに、改めて会場の方へ向き直る。
私たちが会場のゲストへ深く会釈をすると、割れんばかりの拍手が響き渡った。
ちいさな声で階段の脇にいたベロニカさんが囁く。
「さぁ、いってらっしゃい」
思い出したように演奏される室内楽に合わせて、私は会場の真っただ中へと歩みを進めた。
あらかじめの打ち合わせ通りにグローリー男爵は会場の中央付近にいる。
私は男爵の前に歩み出てお辞儀をする。
続いて男爵が話していた話し相手に会釈をする。
二人の間にいたミリアちゃんはその目を輝かせて
「エリスお姉様素敵……」
なんて言ってくれた。
「ミリアお嬢様もとっても素敵ですよ?」
そう優しく微笑むと、なぜか周囲は溜め息の渦に包まれた。
あれ?私何か失敗したかしら?
もっとこう、こういった場面で言うべきことがあったりするのだろうか?
しかし動き出したこの流れを止めるわけにはいかない。
私は男爵に会釈をすると、階段の近くでサラと話をするロゼッタ夫人のところへ向かうのだった。
◇ ◇ ◇
ロゼッタ夫人のところへ移動する際中にも、数名が私に対して声をかけてくれる。
勿論愛想よく対応しながら心の中では、いつボロが出るんじゃないかとヒヤヒヤとしていたのは言うまでもないだろう。
なんとかロゼッタ夫人のところへ到着するころには、サラも移動を開始していて、会場の御婦人方にそれはもう、モテモテだった。
湿度の高い視線を一身に浴びて、それでもにこやかに冗談を受けているその姿は、まさに大人の余裕というやつなのだろうか?
「ふふ、エリスちゃん大丈夫?そろそろ着替えに入っていいわよ?」
そっと私の耳元に小声で囁くロゼッタさんの視線の先にはスタンバイを終えたリーリカの姿があった。
「では行ってきます。」
同じく小声で答えてから私は階段の前へと移動して会場に向かってお辞儀をした。
階段を登り始める私を見るや、会場のあちこちから残念そうな声が漏れたのだけど、それも束の間の事だった。
入れ違いに階段の上に移動してきたリーリカ。
階段を登り切ったところで向かい合って会釈する。
打ち合わせ通りに小声で言葉を交わす。
なんでもこういう動作とか様子が想像を掻き立てるのに一役買うのだとかなんとか?
ロゼッタさんにそう言われたことを思い出しつつ
「素敵よ、頑張って。」
と、リーリカにそう囁くと、彼女は頬を染めて
「エリス様、抱いてください。」
などとのたまった。
そうじゃないでしょう!?
「冗談です。行ってまいります。」
次の瞬間にはもういつものリーリカだ。
その顔にクールな仮面をとりつけて、階段を下りてゆく。
控室に戻った私は、盛大に泣き言を口にした。
「やだー、疲れたぁ!」
一着目からこれである。
テーブルに伏せる私にアリスちゃんが飲み物を差し出しながら
「まだ始まったばかりじゃないですか。それ飲んでる間に髪のセットしますから頑張ってください。」
なんて言われてしまう。
私たち3人が着るドレスやそのタイミングは実は既に決められていて、それにそって着替えたり、ヘアスタイルを変えたりとスケジュールは大忙し。このように突っ伏していられる余裕なんかないのだ。
続々と控えるドレスたちをうんざりと眺めながら、ベロニカ・コレクションは続くのだった。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第32話をお読みいただきありがとうございます。
連載開始より早くも2週間。
底辺ながらも10000PV1900UUと想像より遥かに多くの方に読んでいただき大変嬉しく思います。
私も期待に応えられるよう頑張って執筆しますので、今後とも応援いただけると嬉しいです。
それではまた次回 気が付けばエルフ 第33話でお会いしましょう。




