穏やかな前日
こんにちは。
味醂です。
大変おまたせしましたした。
気が付けばエルフ 第30話公開いたします。
ごゆっくりお楽しみください。
穏やかな前日
グローリー男爵の帰還を祝う宴(仮称)
改め
新作ドレス試着会inグローリー男爵家 が開かれるその前日。
ベロニカさんに言われて私たちが何をしているのかといえば、事実上のプライベートルームとなっているこの部屋で、来客を待っていた。
朝9時を報せる鐘が鳴って間もなくすると、ドアがノックされる。
「お嬢様方、お客様をお連れ致しました。」
ややおいて、告げられる来客。
「どうぞお入りください」
ドアの近くに椅子を置き、そこに座っていたリーリカは、それを受けてドアを少し開けて確認したのちに招き入れる。
「おはよう、みんな。山百合に滞在しているとは聞いてたけれど、まさかこんな部屋に滞在していたなんてね。」
入ってきたのはベロニカさんだ。
部屋をざっと見まわした彼女の顔はなかば呆れたようだった。
当然の反応、本当にありがとうございます。
「おはようございます、ベロニカさん。」
続く言い訳を考えたものの、結局は浮かばず挨拶だけ返すことにした。
「ほら、あなたもそんなとこに居ないで早く入ってらっしゃい?そこに居たら案内の方が帰れなくて困ってしまうわよ。」
「は、はい……」
廊下を振り向き誰かに声をかけると、気の弱そうな、か細い返事が戻ってきた。
おずおずと、ともすれば恐る恐る、部屋に足を踏み入れたのは、多分私と同世代くらいの女の子だ。
あ、勿論『コチラ側に来る前の私』って事だけどね。
つまりは、十代後半と思しき、17~8歳のその少女の第一印象は
THE・赤ずきんちゃんキター!
とか訳の分からないハイテンションな心の叫びが出てきそうな恰好だった。
籐のようなもので編まれたバスケットを抱えた少女。
身長は高くない。150センチくらいだろうか?
真紅の鮮やかなスカートの上から、白いショート丈のワンピースブラウスを重ね着して、藍鼠のショートベストを合わせている。そして極めつけはスカートと同じ生地で作られたと思われる真紅のフードケープだ。
その中に覗くのは艶やかなゴールドブロンドの髪。
フードでよくわからないけれど、きっとヘアスタイルはショートボブなんだろう。
ちょっと変わっているといえば前髪が長く、ほとんど目が隠れている事くらいかな?
彼女はうつむき気味に、その長い前髪の隙間から、浅葱色の宝石の様な瞳でこちらの様子を窺っているようだった。
「えと、ベロニカさん。こちらの方は?」
とりあえずの疑問をそのままぶつけてみる。
「この子はアリスよ。今日はこの子に活躍してもらおうと思って。」
赤ずきんちゃんなのに、アリスちゃんなんだ?
色々とツッコミたい私の心境をよそにベロニカさんは続ける。
「この子はこれでなかなか上手いの、テクニシャンなんだから」
一体なんの話をしているのか、まったくもって思考が追い付いていかない。
上手いだとか、テクニシャンだとか、そこから連想とか――
「ごめんなさい、ベロニカさん。もう少し順を追って説明して頂けますか?」
私はそう言う他なかった。
◇ ◇ ◇
気持ちいい。
ゆったりと椅子にもたれて目を閉じる。
窓越しの陽の光にポカポカと照らされて、私は髪を梳かされていた。
時折、小気味良く聞こえるチャキチャキと軽く響く音が、何か眠りへと誘う子守歌のようにも聞こえる。
たまにそっと頭に手を添えられて、向きなどを変えられているけれど、不快ではない。
何だろう?
とても懐かしい感じがする。
胸に広がる温かい記憶に身を任せ、私はいつしか意識を手放していた。
夢を見ている。
暖かい陽の光に照らされながら、庭に置かれた椅子に座る幼女。
後ろに立つまだ若い母親は懐かしい仕事着に身を包み、大事にしている仕事道具を手にこう聞くのだ。
「さあ、お客様。本日はどのようにいたしますか?」
にこやかに尋ねる母親。
そして幼女はこう答えるのだ。
「んーとね、ママみたいにきれいなかみにしてください。」
そう、これは多分私の記憶の中で一番古い、髪を切った時の場面だ。
かつての自分の姿を俯瞰しながら眺めるという、ちょっと変わった体験を私は楽しむことにした。
霧吹きでミストをかけられ、切りそろえられていく髪。
それまで軽く切り揃えるくらいで、一度もまともに髪を切ってなかった当時の私。
流石に日常生活に支障をきたし出し、少し切ろうか?という事になった。
長く伸ばした事のない人にはわからない不都合や面倒があるもので、ちょっとその時の私には、まだ長く伸びた髪の面倒をみきれなかったのだから仕方ない。
最初のハサミを入れたとき、なにか大事なものを失うんじゃないかと不安になってしまって、泣きそうな私に
「ほら、慧美ちゃん。これでママとお揃いの髪型になるよ?」
なんて慰めてくれて。
それでもって、それだけで満面笑顔の幼かった私。
ママは結婚するまで美容師をしていたそうで、髪を切るのはお手の物だった。
幼い頃は普段からママが髪の手入れをしてくれたし、今に思えばそれはかけがえのない貴重な時間だったのだろう。
ある日、そろそろ一人でお風呂に入れるようになったかしら?
なんて聞かれたときの、ママの嬉しいような寂しいような表情は今も忘れない。
娘と一緒に楽しそうに、我が子の髪を切る母親の姿を、私はしばらく眺めていたのだった。
◇ ◇ ◇
「大分スッキリしました。」
ここ最近で伸びた分を綺麗に切り揃えてもらい、おまけに美容マッサージまでしてもらった私は上機嫌だった。
満足そうに頷くベロニカさんに私はお菓子を勧めながら、サラの髪を切るアリスちゃんを見ていた。
「最初に会った時から、少し髪が伸びてたでしょう? ちょっと気になってたのよ。」
そう、彼女は明日の為に腕利きの美容師を連れてきてくれたのだ。
そうはいっても、実は彼女はプロではなく、たまたまベロニカさんが発掘したそうなのだ。
「よくお店の近所で遊んでる兄妹がいるのよね。その子達、いつも綺麗に髪を整えていて」
そう、気になったベロニカさんは、その子達を呼びとめると、誰が切ってくれているのか聞いたそうだ。
「「おねーちゃん!」」
と口を揃える兄妹に今度は頼み込んで彼女を紹介してもらったのだという。
当初は訝しんでいた兄妹もあっさりと『シフォンケーキ』で陥落され、後日連れてこられた彼女もまた、押し切られたのは言うまでもない。
先に髪を切り終えた私がお礼を言うと、彼女はあわてて否定しながら、買ってもらった道具が良いからだと謙遜していた。
言いながらに見せてくれた、ベロニカさんにプレゼントされたというハサミは、小さい彼女の手には少しばかり大きい様だった。
お礼にと、思いついて装備化を施すとハサミはしっくりと彼女の手に収まる。
「また伸びたときはお願いしてもいいかしら?」
と聞いたら彼女も快諾してくれたのはつい先程の話だ。
「それにしてもセンスが良いですね、とても独学とは思えないです。」
「でしょ?きっと彼女はこれから有名になるわよ?」
なんかベロニカさんてこういうの得意よね。
それの何が凄いかといえば、きちんと自分の仕事にも絡めつつ、相手にも存分な利益を提示できるように、話を持っていくのが凄いのだと思う。
「間違いないと思います。」
馴染んだハサミを縦に横に器用に使いながら、彼女は一心にサラの髪を切り揃えていた。
ハラハラと舞う切られた髪が陽の光に煌いて綺麗だ。
サラはサラで満更でもないようで
「いつもは自分で適当に切っていたけど、人に切ってもらうのも悪くないもんだな。」
なんて言っている。
ちなみにこのあと、私のツンデレメイドがひと悶着起こすことになるのだけど、それはまた別の話。
機会のあるときにでもお話しようと思うの。
かくして試着会の前日は予想より遥かに、穏やかにゆっくりと過ぎていくのだった。
こんにちは。
味醂です。
まずは 気が付けばエルフ 第30話をお読みいただきありがとうございます。
期待して頂いてる皆様を裏切らないように頑張りたいと思います。
いよいよ試着会前日ですが、ちょっと一休みですね。
英気を養うのは大事なことです。
私は第一章を書き上げましたら少しばかり休憩させてもらい、その間に英気を養いつつ、第二章の構成をしたいと考えています。
一応第二章も最低1話は毎日上げたいとは思ってますが、想定する文章量の調整から行わないとだめそうです。
それではまた次回 気が付けばエルフ第31話でお会いしましょう。




