噂の冒険者
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第28話公開です。
更新が遅れましてすみません。
いつも通り、本日中にもう1話公開できるように頑張りたいと思います。
それではお楽しみ下さい。
噂の冒険者
グローリー男爵家、その執務室。
エボニー製の重厚な机に座り、私は今、一世一代の博打の準備に大忙しだった。
なんて恰好つけるほどのことはない。
なにせこの博打の結果は親である私たちの勝ちが決まっているのだから。
ベロニカも今頃お披露目するための準備を着々と進めている事だろう。
彼女が物資を準備して、私が舞台を用意する。
極めて効率の良い分業なのだから。
先程届いた夫からの手紙からすると予定より早く帰ってくることが出来る様だった。
となれば現状でしておかなければならないことは、招待状の準備とパーティーのプログラムだろう。
まずは美味しい料理とお酒を振舞って、気持ちよく美しく可愛らしい彼女を存分に眺めてもらう。
それならまずスタイルは立食だ。
配膳スペースはいっそ壁際に寄せてしまったほうが邪魔にならないでしょう。
羨望がピークに来たところでこう切り出すのだ。
さぁ、先程のドレスを着てみたい方はいらっしゃるかしら?と。
きっと多くの人が殺到することだろう。
そうだ、こうしましょう。
招待状に試着の為のチケット代わりになるものを付けてみてはどうだろう?
いえ、ここは敢えて入口でコサージュでも配ればよいかしら。
それこそ、色の違うコサージュごとに、試着の順番を決めておけば混乱も少ないだろう。
そうしたらダンスタイムの開始だ。
きっと彼女たちは喜んで新しいドレスに身を包み、踊ることでしょう。
私は想像を膨らませながら、勝負のシナリオを描き始めるのだった。
◇ ◇ ◇
「どうだ?見えるか?」
「うーん、ここからだとよく見えないなぁ。音だけはするのだけど。」
「エリス様。あの二又になっている樹と岩の丁度中間あたりです。」
わたしたちは大きな岩にしがみつき、そっと岩陰から前方の草むらの様子を窺っていた。
勿論私の冒険者としての訓練の一環で、都合の良さそうな適当な依頼を受けて街を出てきたのだった。
「ほら、二匹のウサギがいるだろ?茶色と灰色のやつだ」
あれ?ウサギって二匹っていうんだっけ?確か二羽って数えるような気がしたのだけど。
そんな事を考えながら私は草むらを観察する。
あ、いたかも。
「右側にいるのが茶色のやつよね?」
「そうそう、一歩分くらいはなれたとこに灰色のが居るからよく見てみろよ」
微かに草間に動く茶色の被毛。
そこから一歩分というと……いた!
確かにグレーのやや斑になった兎が草を食んでいる。
「やっと見つけたわ!」
「よし、見つけたならそうだな、まずは狙いやすい茶色のやつを狙うことにするか。弓が使えればいいのだが、今日はそうだな、エリスは短剣のスキルがあるからそれ投げてみろ。」
「うまくできるかしら?」
「エリス様。無駄に気負わずに短剣が対象に吸い込まれるようなイメージを浮かべてその通りに投げれば良いのですよ。」
リーリカの助言を受けて私はベルトから静かに短剣を引き抜いた。
ウサギちゃんゴメンね。
一度目を閉じ、イメージを膨らませて、手首のスナップで投げつけた。
ガサッと音がした後、灰色のウサギが勢いよく全力で逃げて行った。
恐る恐るウサギのいた辺りを見ると、胴を短剣に貫かれたウサギがぐったりと痙攣していた。
耳をしっかり掴み、短剣を引き抜くと、今度はその首に突き立てた。
何か硬いものを砕く感触の後、それは動かないモノへと変わり果てた。
「…………」
声が出ない。
「よくやったな。」
ポンと頭に乗せられる手。
血に塗れた自分の手と短剣を見つめながら、私はこのどうしようもなく優しくない世界の現実を痛感していた。
私が少し落ち着いたとこでリーリカが口を開く。
「エリス様。それでは解体に移りましょう。失われたその小さな命を、無駄にしないうちに。」
「ウサギの解体なんてしたことないけど、わたしにできるかしら?」
「大丈夫です、きちんと教えますので。」
「なに、最初はみんな多少は不格好なもんだ、アタシだって初めて解体したときは親に呆れられたもんだ。」
気を使ってくれている二人のためにも、なにより私たちの食事になるウサギの為にも、私は頑張ろうと思った。
解体を終えると私たちは不必要な部分、主に内臓などを簡単に地面に埋めた。
鼻の利く獣なら掘り起こして食べることもあるだろうし、そうでなかったとしても、それはゆっくりと大地に還元されてゆく。
火を起こせる場所に移動した私たちは早速仕留めたウサギの料理に取り掛かった。
依頼であるウサギの毛皮はずいぶんと血で汚れてしまったので魔法で水を出して綺麗に洗う事にする。
大分魔法を使うことに慣れた私は、空中に出現させた水の玉の中にウサギの毛皮を投入すると、そのまま水流を操作して洗濯機よろしく洗ってみたのだけど、これはなかなか良かったようで、私は無事に毛皮を痛めることなく綺麗に汚れを落とすことに成功した。
問題点といえば、気力をかなり消耗するらしく綺麗になるころには結構ぐったりとしてしまったのだけど。
取り出すときに結構な量のダニのような虫が水中にいたのがややショッキングだったものの、そのままカバンに入れたりしないで良かったと思う気持ちの方が強かっただろうか。
料理の方はといえば
まず水を張った鍋に切り分けた肉を投入して、強火で煮込む。
このときにかなりアクがでるので、それは丁寧に取り除いた。
頻繁に取り除かないと、あっという間に吹きこぼれちゃうしね。
出てくるアクが気にならなくなってきたら、今度は塩と香草を加え中火で煮込んでいく。
煮込んでる間に乾燥させた食材、今回はキノコなのだけど、それを刻んで投入。
充分煮込めたら味をもう一度整えてウサギのスープの完成だ。
ほとんど塩だけで味付けしたシンプルなスープなのだけど、これが意外に美味しかった。
固焼きのパンをスープでふやかしながら、私たちは遅い昼食を済ませたのだ。
その後薬草の採取をしたあとに、弓矢の訓練をして街へと帰ることにした。
ちなみに弓矢の訓練結果は散々な結果に終わった。
おかしいな?私の中のエルフって、結構な確率で弓矢を携えてるイメージだというのに。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドで依頼の報告をして、僅かばかりの収入を得た私たちは宿へと向かう。
宿の前ではベルボーイが出迎えてくれる。
「エリスお嬢様お帰りなさいませ。」
かさばる荷物を回収して、カート乗せて部屋へと運んでくれる。
私たちといえば……チェックインするでもなくロビーにおかれたソファーで少し寛ぐことにした。
バックヤードのほうからニコニコと支配人がやってきて
「お嬢様方お帰りなさいませ。さぁ、お疲れでしょう?部屋の準備ができるまでお茶でも用意させますのでごゆっくりなさってください」
なんていうのだ。
最上階のスイートに用意されているであろう私たちの部屋は、一泊でなんと8銀貨もするのだそうだ。
でも先日私に告げられたのは、事実上の当面のフリーパスである。
フリーパスというのは少し誤解があるかも知れないわね、一応対価になるお金は支払われているのだから。
『私が発生させてしまった売掛金の中から相殺』という形で。
つまりは帳簿上の話だけなのだけど。
言うまでもなく、装備化によるその手数料収入。その額およそ、52金貨……つまり2600万円相当だった。
この世界でキャッシュレスな信用取引に、自分が関わるだなんて来た当初は思いもしなかったわよ。
おかげで最近は私たち一行はかなり注目を浴びてしまっている。
街を歩いてる間の視線の痛い事ったらないのだ。
ちなみに本日の収入は一人約3銅貨。
私たちこんなんでいいのかしら??
私の悶々とした思考は、目の前にお茶とケーキが置かれるまで続くのだった。
スイーツは偉大なり。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第28話をお読みいただきました皆様、ありがとうございます。
ブクマ登録いただきました皆様にも重ねて感謝を。
水面下で饗宴の準備がなされる中、エリスはせっせと冒険者としての訓練を積んでいます。
メンターであるサラに加えてリーリカという豪華指導陣なのですが、何事も最初から上手くはいかないようで。
それでは次回また気が付けばエルフ第29話でお会いしましょう。




