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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第一章 アッシュブラウンの冒険者
27/144

風言風語

こんにちは。

味醂です。


お待たせいたしました。

気が付けばエルフ 第27話公開いたします。


それではごゆっくりとお楽しみください。

 風言風語




 テーブルに山と積みあげられたドレスを見て、彼女は満足そうに頷いた。


「はーい、みんなお疲れ様。急な呼びかけだったのに、来てくれて助かったわ。」


 ニコニコと愛想よく労いの言葉をかけて回る彼女はベロニカさんだ。

 ベロニカさんの考案した服は、最近あちこちで人気急上昇中だった。

 中でも発売されたばかりの、全く新しいタイプの女性用下着の人気は凄まじく、貴族層はもとより町娘の間でもひっきりなしに話題に上がるほどだった。


 なんでも身に着けるだけで、意中の男性と結ばれるのだとか。



 そんな噂が絶えないために、一時は悪しき魅了(チャーム)の魔法でも掛けられているのではないかと、教会の人間が調査にきたほどだ。


 実は私も今回の仕事で得たお給金で手に入れたいなんて思っていたのだった。

 上下セットで6銅貨程度と決して安くない額なのだけど、ここ数日分のお給金を考えれば全く手が出ない、なんてこともない。

 それにとりあえずのお仕事は終わったと言え、まだまだこれからも仕事はあるらしいというのだから。


 ちょっとくらい、贅沢をしてみるのも良いかもしれない。



 縫製室にいた同僚を見ると、皆お給金を受け取っては嬉しそうに握りしめて帰っていくところだ。



 もうすぐ私の番がやってくる。

 下着を譲ってくれるようにこっそり頼んでみようか?

 むしろその為に一番最後尾に並んだのだから、ここで頼まないで何時頼むというのか!


 そしてついにベロニカさんが私の前に立ち、私が口を開きかけたその瞬間



「ご無沙汰しております。ベロニカさんはいらっしゃいますか?」


 お店のドアに付けられたベルがチリンチリンと鳴って、誰かが店内に入ってきた。


「あ、う……」


 手に握りこまされた革袋を見つめて呻く。


「どうぞ、奥にいるわ。そのままこちらに入ってきて頂戴~」


 私からタイミングを奪い取った憎き来客がカツカツと靴音を響かせて入ってきた。


「ごめんなさい、お取込み中でした?」


 そう申し訳なさそうに話す彼女は

 見たこともないような上等な服を着た、森の妖精、いや、女神様のようだった。


 彼女は私の方をみると、ニッコリと微笑んで軽く会釈をしてくれた。


「エリスちゃん、サラちゃん、それにロゼッタのところにいたリーリカさんだったわね。いらっしゃい。」


「わたくしは既にエリス様のものです。」


 女神様に続いて入ってきた二人も、とても美人な人達だった。

 思わず見とれてしまう。


 すらりと伸びた足に高い身長。

 ワイルドな黒染めのマントを羽織る薄亜麻髪の麗人。


 楚々とした立ち居振る舞いが大人っぽい、漆黒のミステリアスな給仕服の可愛らしい女性。


 タイプの違う三人の美姫に思わず見惚れてしまった。



「さあ、ちょっと散らかっているけど構わずかけて頂戴。あなた、悪いけどお茶の用意していただけるかしら?」


「ひゃい!」


 思わず話を振られて変な返事になってしまった。先程迄周囲にいた同僚達は一足先に既に帰宅した様で、すでに従業員は私しか残っていないのだから、これも仕方のない事だろう。


 それにしても変な声をあげて、おかしな子とか思われてしまったのではないだろうか?


 赤くなる顔を隠す為にも慌てて台所へ向かい、お茶の用意を始める。

 カップやお砂糖を出していると、さきほどの給仕服の女性がやってきて手伝ってくれた。


「カップの一つはお砂糖は一つで大丈夫です。エリス様はあまり甘くしませんので。」


「あ、はい。」


 私がカップを用意してる間に、その方は懐からお茶を取り出して用意を進めてくれていた。

 トポトポとポットにお湯を注ぎこむと、台所はたちまちいい香りで包まれる。

 きっとすごく高級なお茶なんだ。


 そんな私の様子をみてとったのか、彼女はこんなことを言ったのだ。


「あら?カップが一つ足りないようですね。お茶は大勢で飲む方が美味しいものですよ?」


 そうして、彼女の粋な計らいにより、私はこのお茶会のチケットを手に入れたのだった。



 ◇ ◇ ◇




 太陽がもうじき天頂に差し掛かろうというころ、先生は懐から何かを取り出し、すぐにしまい込む。

 そして言うのだ。


「さて、皆さん。今日の授業はここまでにしましょう。」



 ここは城塞都市シリウス。その上層区にある、とある屋敷の離れだ。

 離れの戸口に立ち、一人づつ送り出しているこの人は、西の大陸で名を馳せた賢人なのだという。

 この家の主人が偶然に旅先で出会ったこの先生を、こうしてシリウスに連れ帰り、屋敷の中に離れを作ってまで住まわせているのだというから驚きだ。


 そのうち先生は街の子供たちに自分の持っている知識を広めたいと、こうして私塾を開催するようになったのだ。


 もっとも、それはこの街の上層区の中に住む子供、という限定的なものではあったのだけど。


「先生本日もありがとうございました。それではごきげんよぅ。」


 自分の順番になりふわりと会釈して帰路につく。


 屋敷の門には既にライカが迎えに来ている。


「ミリアお嬢様、お疲れ様でした。お荷物をお持ちいたします。」


「ありがとうライカ。」


 深々と頭を下げるライカにそれだけ言って持っていた冊子を渡す。

 私が歩き出すと彼女も静かに付き従うのだった。



 ライカは私の家―グローリー男爵家に仕えるメイドの一人である。

 エリスお姉様にリーリカが付き従うことになったので、代わりに私に付けられたメイドだった。

 まだ慣れないのか少しぎこちないけれど、十分役目を果たしてくれる。

 歳は私より2つほど上だったはずなので、既に成人として認められている。

 私も来年の今頃には、そうなるのだけど。



 屋敷に帰ってくるとロビーでセバスに出迎えられた。


「ミリアお嬢様、お帰りなさいませ。」


「ただいま戻りましたわ、セバス。」


「お嬢様、こちらが届いております。」


「まぁ、お父様からの手紙ね、有り難う。」


 恭しく差し出される手紙をセバスから受け取り自室にかけてゆく。


 その後を慌ててライカが追ってくるのだった。


 だって、昼食の後までお預けだなんて我慢できないもの。

 一刻も早く読んでしまいたいのだから。



 お父様が帰ってくる。

 そうなればまた近いうちにエリスお姉様にも会うことができるのだ。



 ◇ ◇ ◇



 (したた)めた手紙を封書に折り、封蝋(ふうろう)を溶かし落として指輪で封印する。

 封書は全部で三通だ。

 領主への帰還の報告と、妻へと宛てた手紙、そして娘に宛てた手紙だ。


 私は現在自分の屋敷のあるシリウスへと向かう道中だった。

 遠く離れた地へ赴いて、もうだいぶ経つ。

 一刻も早く愛する妻や娘に会わなければ、私は爆発してしまうだろう。


 何が爆発するのかって?それは色々だよ君。


 コホン。


 私のように領主の命で各地を回るものには早馬をつけられる。

 離れた領主の指示を仰ぐ必要があるときや定期報告、勿論それに便乗して家族に手紙を送ることも認められている。

 通常であればまだ所帯を持たぬものがよく就く任なのだが、かつて冒険者だった私の出自等が複雑に関係してこうして私が各地を飛び回ることが多かった。



 もっとも、ただの貴族のお坊ちゃんには崖をのぼり、木をのぼり、地に伏しての調査が務まるわけもないのだが。

 私はこの国をより豊かにするべく、新たな栽培品となりそうな植物を探しているのだ。

 僅か数日で葉を大きくし、摘みすぎない限りは毎日のように食べることのできる野菜や、過酷な条件でもよく育つ芋などを発見し、その栽培法を確立して広めた功績を認められ私は男爵に叙されたのだから。

 当然そのような叙爵(じょしゃく)を快く思わない者達もいるようで、何かと芋男爵様がおられるぞなどとあからさまな嫌がらせをするものも居るには居るが、これは貴族の末席に名を連ねると決めたときに充分に予測できたことであったし、根無し草の冒険者でいるよりは妻や子に良い暮らしをさせてやれるのであればと相手にしない事にしていた。


 そういえば数日前の早馬番が面白い噂を仕入れてきてくれた。

 何やら妻があれこれと画策しているらしいのだ。

 アレはなかなか頭が切れる。

 我が男爵家がその地位に比べ比較的裕福なのも、アレが陰でその手腕を発揮しているからだ。


 妻の事を想いながら、私は屋敷に戻るのが余計に楽しみになったのだった。



 ◇ ◇ ◇



 閉店の看板を掲げた店内の奥の部屋、まだ陽も高いと言うのにカーテンまで閉め切られたその部屋は、説明しがたい淫靡な香りに包まれていた。


 薄暗い部屋の中央に何かを囲むかのように立つ女たちのシルエット。

 そしてその中心には、一糸纏わぬ姿で立つ……


 私が居た。



 私の前にしゃがみ込む銀髪の女性。

 その長い髪は床にまで広がってしまっている。


「さぁ、足を上げて?怖がらなくても大丈夫。」


 おずおずと片足を上げると、彼女は何か小さな布の塊を足首まで通した。


「ほら、そんなに目を閉じていたのでは、経験になりませんよ?」


 私の脇にしゃがみこんだ黒髪の女性が私を見上げて言う。


「そう、今度は反対側の足ね。」


 言われるままに反対の足を上げると、先程の布の塊の輪を通した。

 まるで足枷を嵌められているようだ。


 そんな様子を横からニヤニヤとみているのは私の雇い主のベロニカさんだ。

 背後には背の高い麗人が立っており、私に逃げ場はない。


 あぁ、どうしてこんなことになってしまったのだろう?


 そんな事を考えていると、綺麗な細い指が脚を這いあがってくる。


「そんな、切れちゃう……」


「大丈夫よ、怖いのは最初だけだわ。」


 膝を過ぎ、太腿をその長い指がなぞりあがってゆく。


「ふぁう。。」


 中腰になった彼女の吐息が腹部にかかる。


 それでも指の動きは止まらず、私の中心へと向かい……


「はい、これでいいわよ。」


 恐る恐る下を見ると、身体に張り付くように柔らかな生地が私の下腹部を覆っていた。


「次は上ね。」


 そう言って彼女は麗人を場所を入れ替わると、私の身体に腕を回し、私の胸を後ろから包み込み、持ち上げた。

 その状態で反対の手で奇妙な形の物体を下から押し当てると、私の手を取り、そのままの状態で押さえるように指示した。


「一人でつけるときは前に屈むといいわよ?そしたら後ろを留めるの。」


 私の背中でパチンと留め具が留められる。


「留めにくかったら先に留めておいてもいいわ。その場合はきちんと形を整えてね。」


 そう言いながら柔らかな手で私の胸を寄せ上げると、『カップ』と呼ばれた部分に綺麗に納め込んだ。


「どうかしら?どこか違和感あるところはない?」


 言われて私は気が付いた。

 上半身が凄く軽いのだ。


 ベロニカさんが姿見の前に連れて行ってくれる。

 そこに映った自分を見て、私はびっくりした。


「素敵になれてよかったわね。」


 ベロニカさんが背後から顔を寄せて、囁く。


「あ、ありがとうございます!」


 顔を赤らめてお礼を言う私をみんなはにこやかに見守ってくれていたのだった。









 それからしばらくしたある日のこと。



 ベロニカさんのお店で仕事を終えた私は見知った人に声を掛けられた。


 夕焼けの見晴台にそわそわとした様子で私を連れ出した彼は、物陰から花束を取り出すと、私に差し出してこう言うのだった。


「俺と付き合ってくれ!」


 私の答えは、そう、決まっていた。

 決まり切っていた。

 潤んだ瞳で答える。


「もちろん、喜んで。」


 夕日に映される、長く伸びた二つの影は、どちらからともなく近づいて―


 やがて一つに重なり合ったのだった。




こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第27話をお読みいただきました皆様、ありがとうございます。

僅かづつですがブクマ支援もじわじわと増えていて、励みになります。



さて物語は第一章最後のエピソードへと突入しました。

長かったような短かったような。

だらだらと毎回書いているこの後書きですが、稀に設定などを先に公開している場合あります。

これはこんなとこにまで目を通して頂いている皆様へのおまけのようなものとお考え下さい。

知らなくても十分物語に入れるように、一応は想定して書いております。


本編の方は、中心がわからないこそ、憶測が憶測を呼ぶ、そんなお話です。

シリウスの中で渦巻く噂は、こういった場面の積み重ねで形成されているとお考え下さい。


それではまた次回、気が付けばエルフ第28話でお会いしましょう。


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