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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第一章 アッシュブラウンの冒険者
26/144

二重螺旋

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第26話公開です。


前話で取り込みきれなかった話ですので少々短いです。

それではごゆっくりお楽しみください。

 二重螺旋



 人々はただ押し黙り、灰となった穢された神をみていた。

 誰もが望まなかった結果。ただそれだけがその場に取り残された、そんな印象を持っただろう。


 よもやゴブリンの発生という比較的ポピュラーな『事故』は、何者かの手により引き起こされた。

 人というものは悪意に晒されると、警戒をする生き物だ。


 警戒は疑いを呼び、疑いは冤罪(えんざい)を呼ぶ。

 そして終わることのない、復讐の環は廻り出す。



 姿すら見せずに人々を失意のどん底に突き落とした何者かは、何処かの地で目を細めているのだろうか?



 六月にしてはやけに冷たい風が、沢を駆け抜けた気がした。




 私は見た。

 灰の中に残る何かを。


「ドロップアイテムかしら?」


 私の言葉にサラが灰の中から拾い上げたもの、それは拳大の大きな木の実のようだった。


「見たことない木の実だな。」


「そうですね、わたくしも見たことがありません。」


 首を振るリーリカ


「ちょっと見せてもらってもいいかしら?」


 手に取ると、ずっしりと重く、例えるならばリンゴの重さと大きさの、胡桃といったところだ。


 鑑定。

 思いついた私がその実を鑑定すると


『ユグドラシルの種』

 ただそれだけが意識の中に浮かび上がる。


 ユグドラシル?なんだろう?聞いたことがあるような。


「ユグドラシルの種、だそうよ?」


 周囲を見回すと皆首を横に振っている。



 引っかかる。

 私がそんなことを思っていた時、



 種は急激にまばゆく光り出す。

 いや、光り出したのは種だけではなかった。


「エリス様と……共鳴?している!?」


 呼応するかのように光に包まれる。

 光はすぐに収まったのだけど、私の手の中にあった種からは、なんと指先ほどの芽が出ていたのだ。


『私を揺り起こすハイエルフの子よ、私を大地に植えなさい』


 温かい光を放ち、確かに種はそう語りかけたのだ。

 周囲の者にも聞こえたらしい。


 どうしようかと迷っていると


「どうした?エリス、植えてみろよ?」


 サラがあっけらかんと言うのだった。


「植えるって言ってもこんなとこでいいのかしら?」


 言いながらも、おずおずと種をそっと地面に置いたとたんに、パキパキと殻から根が生えてきた。


 パキパキパキパキ


 何本もの根が固い岩盤をものともせずに砕いていく。


 既に、バキバクミシミシと凄い音を立てて根を張る種。

 同時に芽もすごい勢いで伸び、あっという間に五メートルほどにまで育ってしまった。

 更に根は張り進み、なんと積み上げられていた狼たちを『吸収』してしまった。


 光の粒へと次々と変化する狼たちは、その既に樹となったユグドラシルへと吸い込まれる。

 幹からは次々と枝が伸び、やがてすぐに葉をつけると樹全体がぼんやりと淡い光を発するようになった。


 さっきまでまだ漂っていた瘴気が光に反応するように輝く粒へと変わり、天に上ってゆく。


 幻想的な風景を、ただ私たちは見守ることしかできなかった。



「これは……世界樹!」


 ハッとした顔でリーリカが叫ぶ。


 同時に走るどよめきの輪。


 ザワザワとしたどよめきはやがて世界樹の声?によって静まる。


「この地を守りし人の子よ、我は苗木に過ぎません。しかし案ずることはありません、この地を巡る地力は私を巡りゆっくりと大地へ再び還元されることでしょう。私が大樹となるその日まで、豊穣を願う皆の心を変えぬよう」



 温かい光が降り注ぐと、硬い岩盤だというのに青々とした柔らかな下草が広がった。


 気が付けば集落の人々は、みな伏していた。


「我らが集落の者、みなで力を合わせ必ずやあなたを立派な大樹に育てあげてみせましょう」


 村長が恭しく宣言する。



 嘘のように澄んだ空気になった広場で私たちが体験したこのことは、きっとこの集落に延々と語り継がれていくのだろう。どこかそんな確信を、私は感じたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 あの不思議な日から二日。

 私たちは城塞都市シリウスへと辿り着こうとしている。


 あの翌日、集落の人は私たちを労うためにささやかな宴を開いてくれたのだ。

 香りのよい野草のサラダ。

 元気に育った果実。

 美味しい野菜の煮物。

 質素ではあったけれど、どれも丁寧に下処理された料理の数々を私たちは楽しんだ。

 引き留める彼らに頭を下げつつ、今朝早くに帰路に就いたのだ。


「それにしてもとんだゴブリン討伐もあったものですね。」


「いや、まったくだな。」


「一応依頼はこれで成功ってことでいいのよね?」


「そりゃ勿論。ゴブリンはしっかり退治したし、なんの問題もないな。」


「でも、思ったより時間掛かっちゃったわね。」


 なにせ当初は二泊で戻ってくるはずだったのだ。


「まあ、一日伸びた位だから充分誤差の範囲だな。」


「そうですね、依頼によってはもっと時間のかかるものも多いですし。」


 そりゃ、日数の大半が徒歩などの移動なのだ、時間もかかるのは仕方ないよね。


「うー、でももう足がパンパン。早くお風呂にはいりたーい。」


「そうだな、早いとこ戻ろう。」


 そんな事を言いながら、遠くに鐘の音を聞きながら、夕焼けの街道を歩き続ける私たちだった。




 ◇ ◇ ◇


 シリウスの山百合亭 最上階 その一室


 ベッドの上には銀色の髪の美しい妖精が、静かに寝息を立てている。

 サラも既に隣の部屋のベッドで夢の中だろう。


 私はその長い髪を踏まないようにそっと彼女に寄り添って、柔らかな膨らみに顔をうずめた。

 トクントクンと一定のリズムを聞きながら、ほんのり香る彼女の温もりを抱き寄せた。


 時には孤独に震え、時には怖れ、涙を流しながらも、それでも健気に前を向く彼女が私には眩しかった。

 世界樹と語らう彼女はまるで御伽噺のなかから這い出たようで、美しくもどこか儚げに感じたのだ。


 失いたくない。



 思わず抱きしめる腕に力が入る。


「んっ」


 身じろいで今度は抱き寄せられる。


 彼女の吐息を頭に感じながら、こうしていると安堵というものに包まれる。

 ひび割れた私の心をそっと包み込むように、彼女の細い指が背中を撫ぜ降ろす。


「!」


 ビリビリと身体の中を、何かが駆け巡るのを感じながら、私は意識を手放した。



 ――夢を見ている


 幼い女の子がその身を震わせ泣いていた。


「ほら、もうお努めの時間だよ!いつまでも泣いてないでさっさと支度するんだよ!」


 誰かの怒鳴り声が聞こえた。


 冷たい水に打たれる。

 指先に既に感覚はなく、身体よりも心が凍てついてしまいそうだった。


 身体の中心にある微かな温もりを守るように、ぎゅっと抱きしめる。

 心なしか少し暖かくなった。そんな気がした。



 真っ暗な部屋のなかには質素な祭壇が設けられており、そこには一本の蝋燭が揺らめいている。


 神饌(みけ)を捧げ、祈りを捧げ、じっとその時が来るのを待っていた。



 誰もいない部屋の中。


 誰も来ない部屋の中。


 ただただ、私は待つしかできないのだから。



 カタカタと恐怖に震えながら、ただ待つしかできないのだから。



 薄目を開けたそこには下着姿の少女が指を咥えて震えていた。

 上掛けを掛け直し、柔らかい彼女を抱き寄せる。

 咥えた指をそっと外して、もう大丈夫と抱き寄せる。


「あ。」


 急に走った電気のような刺激に驚くと、少女は胸に顔をうずめていた。


 ピリピリと走る刺激に耐えながら、優しく頭を撫ぜてみた。

 次第に少女の震えが小さくなっていく。


 温かいその感触を抱えたまま私は朦朧と頭を痺れさせるのだった。





こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第26話をお読みいただきましてありがとうございます。

またブクマなどでご支援いただいている皆様にも重ねて感謝を。


今回の本編内容については敢えて今回は語りません。


いよいよ第一章も残り1エピソードとなります。

10話分位ではまとめたいなと思っていますが果たしてうまくまとまるでしょうか?


それでは次回 気が付けばエルフ第27話でお会いしましょう。


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