不可視の簒奪者
こんにちは。
味醂です。
大変お待たせしました。
気が付けばエルフ 第25話公開です。
ごゆっくりお楽しみください。
不可視の簒奪者
枯れた滝跡に集まった村の人々は、口を重く閉ざし黙々と惨殺された狼たちを弔っていた。
とはいえ、三十頭は優に超える数なので、滝壺跡の窪みに遺体を集め、そこで祈りと共に灰にして、後で塚を築こうということで意見がまとまった。
一体なぜこのようなことが起きてしまったのか、だれ一人知るものもなく、真相は闇の中へと消え去ってしまった。
ただひとつわかることは
もうこの集落を守る神はいない
という辛い現実だった。
このあたり一帯を治めた神とは、一頭の狼が土地神化したものだ。
怖れ敬われるうちに神性に目覚めたものはその信仰の及ぶ範囲で神となる。
神堕としされた土地は、次第に荒れて衰退していく。
通常であれば次なる主が継承するものだが、人為的にその土地と無関係の者に、その力を奪われるという事は、その土地の地力を奪われるという事だった。
地力とは風水などで例えられる龍脈などを通じて巡る、星のエネルギーの源であり、星の持つ魔素そのものだ。
星を巡る強い魔素は、所々にある脆い箇所より流れ出て、大地を潤している。
その流れを整えるのが主や土地神といったものだ。
調整弁のようなものと考えてもらってもいいかもしれない。
そして壊れた調整弁はやがて龍脈より切り離され、衰退していくのだ。
新たに供給される魔素がなくなると、そこにあふれ出た魔素は不活性化して、瘴気となり魔物として生まれ変わる。
今回のゴブリン発生のきっかけになったのは間違いなくこの土地神の失脚劇が原因であり、またそれが悪意を以て画策されたものだということだけは、確かなのだから。
◇ ◇ ◇
ゴブリンの巣を駆逐した私たちは、足早に滝跡へと続く沢跡を歩いていた。
冒険者の責任は依頼内容の範疇を超えない。
これは誰に聞いても判る常識だ。
しかし現実は奇なもので、その依頼の陰に潜む瑕疵を引きずり出してしまうものでもある。
冒険者としてある程度暮らしていれば、その様なことは、わりとよくある事だった。
忌まわしい儀式が行われ、結果渦巻く瘴気にゴブリンが発生する。
発生したゴブリンが、営巣するまでに増えた。
結果から見れば必然であるのだ。
物事には何事にも理由があるのだから
滝跡の惨状を目にしてからエリス様の顔色は優れない。
美しいエリス様には笑顔こそ相応しい。
エリス様が顔を歪めて泣いていいのは私の腕の中だけなのだ。
不安に押しつぶされそうなエリス様を一刻も早くお慰めしたい。
移動しながら私はそんなことを願うのだった。
滝壺跡には哀れな狼たちが、村人の手によって積み上げられていた。
狼を忌避する人々は多い。しかしこの村では作物を荒らす動物から作物を守ってくれる神聖な生き物として、讃えられ、怖れ、畏れられ祀られていた。
自分たちを信奉する人々に祈られ天に還るのならば、すこしは狼たちも浮かばれるだろうか?
手伝いを申し出たエリス様だったが、村の者に丁重に辞退された。
そのためこうして隅から眺めているだけしかできない私たちだったのだが、しばらくしたとこで手を貸してほしいと洞穴に呼ばれたのだった。
洞穴の中に作られた悪しき祭壇に磔にされている一際大きい狼。
苦悶と憎しみを湛えた表情のまま事切れているこの集落の元守り神。
躰を縫い留められていた細い楔は取り去らわれたものの、もっとも太い人の腕ほどもある楔が抜けないのだという。
黒く不気味に光るソレは紫魂石と呼ばれる鉱石に違いなかった。
「サラ、抜けそうかしら?」
エリス様が覗き込みながら聞いている。
「実際にやってみない事には何とも言えないな。コイツは恐ろしく硬くてちょっとやそっとじゃ割れないんだ」
サラは少し様子を窺うとそんなことを言っている。
つまり彼女はそれが紫魂石だということに気が付いてるのだろう。
集落の者の方へ目をやれば、彼らも相当強引にその楔を破壊しようとしたのだろう。
手には折れた斧や、潰れた鉈、歪んだスコップなどを持っているのだ。
とんだ悪あがきになったことだろう。
例え大剣であっても通常の大剣であるならば逆に折れるくらいなのだ。
「リーリカ、お前だったらどうだ?」
サラに言われて少し楔を検分して、すぐに無理だという事を直感する。
「いえ、無理ですね。これだけの太さ。おそらくこの短刀を以てしても通らないでしょう。かといって楔はどうやったのか、この岩の祭壇深くまで刺さっていますから引き抜くことも難しいでしょう」
恐らく手詰まりである。
このまま荼毘にふして遺骸にしてから解放してやるしかないだろう。
そんな時だった。しげしげと楔を覗き込んでいた彼女が声を発したのは。
「あ、あの、皆さん。良かったら私に試させてもらえないでしょうか?その、出来る保証はまったくないのですが。」
エリス様、貴女という人は一体何をしようというのですか……
◇ ◇ ◇
集落の住人に謝りながら私は彼らに洞穴から出るようにお願いした。
サラとリーリカにも洞穴から出てもらい、入り口付近に待機してもらった。
自分以外の全員が洞穴から出たとこで、私は軽くその楔に指先を触れてあることを試した。
僅かな明滅が、紫のような黒のような水晶らしき中を照らすと同時に私は確かな手ごたえを感じた。
これならいけるかもしれない。
楔の位置をよく確認しながら、ゆっくりと後ろ歩きで洞穴から出て入り口前に立つ。
「皆さんは念の為に、入口の前に立たないようにしてくださいね。」
私の予想通りなら結構派手にやらかすことになるのだ。
二次被害は出来るだけ減らしたい。
目を閉じる。
閉じたままの目で、先程の楔を強く意識する。
イメージを膨らませる。
それらがすべて楔に集まるように。
次第に私の中の何かが活性化されるのを感じる。
そのまま練り上げる。練り上げる、練り上げる。
イメージを更に練り上げて……唱えた。
「スパークボルト!!」
大轟音と共に閃光が楔へ走る。
まだだ、ここから更に強さを変えて……
これだけでは不十分と予想していた私はそのまま力の制御を試みる。
バチバチと音を立てながら不気味な光を放つ楔。
楔から少し上には輝く光球が浮かびそこから絶え間なく楔へと『落雷』していた。
やがて
ビィィィン!
と不気味な音を立てたと思うと、次の瞬間。
楔は粉々に砕け散ったのだった。
◇ ◇ ◇
エリス様は一体何をしたというのだろう?
私は思わず唖然としてしまった。
いや、唖然としているのは私だけではない、その場にいた、エリス様を除いた全員がそうだったろう。
今のは一体なんだ?
巨人が鞭を打ったかの如くの轟音がしたと思えば、見慣れない光球が浮かびそこから不可解に伸びる閃光が迸ったのだ。
そう、あれはまるで 『雷』
時折発生する落雷で、巨大な大木が裂けていたのは見たこともある。
しかしそれだけではないだろう。
エリス様がこうなるだろうことを予測して、行動を起こしたのは他の者を遠ざけたことが証明している。
絶対成功する確証こそなかったものの、成功すればこうなるという結果はみえていたということか?
ゾクリと駆け抜ける身震い。
続く違和感に私は咄嗟にエリス様を突き飛ばした。
「サラ様!!」
ハラハラと舞う銀糸。
受け身を取るために空中で体勢を反転する私が見たものは、巨大な狼―もとい、『狼だったもの』
入り口前の段差を飛び降り、開けた場所に出たソレは、怨念を身に纏い、死してなおその恨みを晴らさんと牙を剥く屍獣鬼だった。
サラが牽制に入っていることを見届け、エリス様の元に駆け寄る。
「申し訳ございません、咄嗟の事で突き飛ばすよりほかにありませんでした。」
まだ呻き声をあげる我が姫に謝罪して、肩を貸して立ち上がる。
どうやら外傷はないようで、心の底から安堵した。
おのれ犬畜生の分際で!わたしにエリス様を突き飛ばさせるなんて
沸々と心の底から怒りがこみあげてきた。
「へぇ。こんなとこでゾンビとはね。つくづく不思議なもんだな」
声を上げたのはサラだ。
「村長!悪いがこうなってしまった以上、殲滅するが、異論ないな?」
「止む得ません」
「聞き分け良くて助かるよ。」
そう言うとサラは纏う空気を変化させた。
「やれやれ、どうやら私が出る幕はなさそうですね。」
眼光の鋭さが変わる。
サラは剣を下段後方に構えると『引きずるように』疾走した。
正面から飛び掛かるウルフゾンビに、サラはそのまま体を思い切り捩じる。
遠心力の乗った剣は、空中から飛び掛かるウルフゾンビの胴をしっかりと捉えた。
二つに増える影。
体勢を整え直したサラが瞬時にまだ空中にある上半身の前へと移動する。
バックステップ。剣士の基本スキルによる行動だ。
そして腰から抜き去った白銀の短剣を、逆手にもったままウルフゾンビの首に突き立てたのだ。
用意周到だとおもった。
よもやミスリルの短剣を用意していたなんて。
ゾンビにはさぞかし効いただろうその攻撃によって、ウルフゾンビはあっさりと灰へと姿を変えるのだった。
「終わったのね。」
エリス様が少し悲しそうにそう言われた。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第25話をお読みいただきました皆様、ならびにブクマ等で応援いただいております皆様、心よりお礼申し上げます。
ありがとうございます。
事件の後始末まで一気に書いてしまいたかったのですが、文字数の都合で断念いたしました。
途中大幅に改稿したために、わかりにくいところがあるかもしれません。
それではまた次回、 気が付けばエルフ第26話でお会いしましょう。




