神堕とし
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第24話公開いたします。
第一章ももう終盤に差し掛かってますので第一章まではこのペースで書ききれると良いななんて思ってます。
それではごゆっくりお楽しみください。
神堕とし
枯れた沢をそのまま進んでいくと、大きく右に曲がっていた。
「この先、です。」
先頭を行く青年を手で制し、アタシたちは注意深くその先を窺った。
なんだかわからないが、これまで培ってきた冒険者としての経験が、本能が、激しく警鐘を鳴らしているのだ。
「エリス、リーリカ。これは少し、ヤバいかもしれないぞ」
二人を見ると二人とも緊張した面持ちで、静かに頷いた。
「おい、お前らはここで待機だ。大丈夫だとは思うが、もし何かあれば……例えば誰も戻ってこないとかな。その時は構わない、二人で村長のところまで逃げるんだ。解ったか?」
頷く二人の青年。
うっかり巻き沿いにしては若すぎる未亡人が二人も増えてしまうのだ。
さて、どうしたものか。
少し考えてエリスに聞いてみる。
「どうだ?何か聞こえるか?」
「ちょっとまってね。いい?ちょっと皆、静かにしててね」
頷く一同。
低くしゃがんだ体勢のまま彼女は前方に意識を集中しているようだ。
幸いというか、ここは滝跡から周囲をかこまれた一本道だ。
音を拾うには都合がいいだろう。
「ワイド」
彼女は囁くように唱えた。
尖った耳が時折小さく動く。
「とりあえず、動くものの気配はしないわ」
「そうか。」
「とりあえず警戒しながら進みましょう。エリス様は一応私の後ろへ。サラ様と私のツートップで参ります」
「オーケー。それではいっちょ行ってみるとしようかね」
三人は各々静かに武器を抜くと静かに前進する。
曲がり角のさきは見通しが良かった。
もし見張りの者がいるならば、こちらの動きはすべて筒抜けだろう。
村の若者二人を残したのは正解だったろうか?
少し進むと前方が大きく窪んでおり、片側だけ少しせり出すように人が一人通れる程度の幅に奥にぽっかりと口をあけている洞窟へとつながっていた。
足場が脆くなっていないか確かめながら慎重に進む。
洞穴の入り口まであと半分程度、その辺りに来たときにアタシは幻視した。
黒く靄ががったようなおどろおどろしい気配が洞穴周辺に漂っているのを。
エリスでさえもそれを感じているらしい。
「これは……おかしいですね。少なくともゴブリンの巣になっているとは考えにくいですが……状況はもっと悪い。」
「リーリカの言う通りだな。ゴブリン程度が営巣したとこで、これだけ禍々しい気配を発するなんてあり得ないな。」
入口付近に漂うものの正体。
これは死の気配だ。
それもとびきり濃厚な。
瘴気には違いないが、一体全体この小さな洞穴に何があるというのか?
近づくにつれ一つの考えが確信に変わる。
「中は広くないという事だが、どうだエリス?何か聞こえるか?」
耳の良い、更に魔法で聴覚をブーストできるエリスに聞いてみる。
「いえ、何も聞こえないわ。むしろ全くと言っていいほど、生き物の息遣いを感じない。」
「やはりか」
つまり、この洞穴のなかに生き物はいない。
普通ならコウモリくらい棲みついていて然るべきだというのに、だ。
入口まであと少しまできたところで
「サラ、ちょっといいかしら?多分、このまま入るべきではないと思うの。ちょっと私に任せてくれるかしら?」
「ああ、わかった」
少し体をずらして場所を譲ってやる。
エリスは目を閉じ、両手を洞穴の方へ掲げるとやがて目をあけて唱えた
「ウィンドブレッド」
突如目の前が一瞬歪む。
何かが凄い勢いで洞穴のなかへ飛び込み、そして炸裂する。
次の瞬間、洞穴からすごい勢いで突風が吹きだしたのだ。
つまりエリスは洞穴を『換気』したのだろう。
周辺に漂う怨念めいた瘴気はだいぶ薄くなっており、これならば中に入ることもできそうだ。
「中にあったものをもしかしたら荒らしてしまったかもしれないけれど……」
エリスが申し訳なさそうに言う。
「いえ、エリス様。あのまま中に入るのは危険だったはずです。アレは人が生きていける空間ではなかったと思います。」
「多分リーリカの言うとおりだ。あのまま入るのはどう考えてもヤバイ。エリスが風を操れて助かったよ」
お世辞抜きで、もしエリスが居ない状態でこの中に入るというのはかなり抵抗があっただろう。
意を決して中に入る私たち三人が見た物は
それは世にもおぞましく、凄惨な光景だった。
◇ ◇ ◇
ゴブリンの巣が発見されたという報せが届いたのは昼になる一時間ほど前だった。
結局ゴブリンの巣があったのは、現在の沢を少し入ったところにある小さな風穴のようだ。
昼食が済んだらそちらは早々に掃討するとして、私たちはもっと深刻であろう事態をどう対処すべきか悩んでいた。
「さて、まずは皆ご苦労だった。問題のゴブリンの巣は沢にある風穴にあったそうだ。午後からは案内の者だけ連れて掃討に出る予定だ。」
宣言するサラの声明を受けて周囲から安堵の声が上がる。
「しかし、事態はもっと深刻だった。」
急な話に今度はどよめきが上がった。
「ゴブリンの討伐はいい、これはすぐにもカタが付くだろう。だが、枯れ沢の奥の滝跡の洞穴でとんでもないものを発見した」
一度言葉を切ったサラを見て、逆に村の人が静まり返る。
「あれは、黒の祭壇だ。」
黒の祭壇とは、神格化した精霊や動物などを殺すための呪詛を込めた祭壇なのだという。
そして今回私たちがあの洞穴の中でみたものは、惨殺され床に横たわる多くの狼の屍と、磔にされた巨大な狼の姿だった。
わざと急所を避けて磔にした『主』の前で眷属たちを虐殺することで、恨みを増幅させ、神の座から引きずり下ろすのだという。
籠った怨念はその場に流れた血を穢し、その地に呪いをもたらすという禁忌の術。
当然であるが、それをなし得るだけの強大な力をもっていなければできない。
そうでもなければ、神格化している者にあっというまに葬り去られるのだろうから。
あまりの衝撃にその場にいた村人たちが半ば恐慌状態になる。
「村長!」
サラが呼ぶと、村長は頷いて声を張り上げた。
「皆の者!まずは静まれ!!」
「これは我らに与えられた試練だ。幸いにもエリス殿が瘴気はある程度は払ったとのこと。だとしたら我らはまず狼様を弔わなければならん」
その風体から信じられないような声に、次第に騒ぎは収まりつつある。
「冒険者の皆様には予定通り案内の者とゴブリンの討伐に出てもらう。残ったものは動けるものを集めて、狼様と眷属の弔いに向かう、それでよいな?」
うなだれる村人たちだか、なんとか納得したようだ。
重い空気の中、私たちは炊きだされた食事で空腹を満たしたのだった。
◇ ◇ ◇
午後になり、ゴブリンの巣穴へとやってきた私たちは速やかに行動を開始した。
見張りに立っていたのは二匹のゴブリン。
風向きに注意しながら私はギリギリと思われる射程からウィンドエッジを使った。
目に見えない刃であっさりとその首が落ち、体は灰となって風穴から噴き出る風に散った。
唖然とする村人をよそにサラとリーリカが音もたてずに巣穴に躍り込み、私もそれに続いた。
一刻も早くここを片付けて、他の村人の元に合流したかった。
なぜだか嫌な予感がするのだ。
中に入ってみると既に5匹ほどのゴブリンが仕留められており、灰に変わるところだった。
アイコンタクトで静かに、速やかに奥へと移動する。
途中にあった小部屋には数匹のゴブリンがいびきをかいて寝ていた。
私は目一杯イメージを膨らませて、ウィンドバレットをドアに開けられたのぞき穴から部屋の中に叩き込む。
この狭い部屋の中急激に膨れた空気がゴブリンを押しつぶし、のぞき穴から風が吹き出した。
風穴のためその音も全く目立たないのは立地が味方した。
風がやんだところで中を覗くとゴブリンたちは既に灰になっていた。
サラとリーリカとともに奥に進むと突き当りの広場には粗末な玉座のようなものがあり緑褐色の大型のゴブリン、つまりはホブゴブリンが座っていた。
こちらに気が付いたホブゴブリンが何か叫ぶ。
部屋に控えていた二匹の少し大きめのゴブリンが躍り出てきたところを、サラが1匹を蹴り飛ばし、その間にもう一匹に斬りかかる。
驚愕に顔を更に歪めたホブゴブリンだったのだけど、次の瞬間にその頭が宙に舞う。
あっという間にホブゴブリンに迫ったリーリカが、その首を跳ね飛ばしたのだった。
私もその間にサラが蹴り飛ばしたゴブリンを仕留め、私たちのゴブリン討伐は幕を引いたのだった。
時間にして突入から2,3分の事だっただろうか?
無事に討伐を遂行したというのに、私たちは晴れない気持ちで滝跡へと急ぐのだった。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第24話をお読みいただきました皆様、ありがとうございます。
また応援してくださっている皆様には心より感謝を。
色々と不慣れですが今後とも応援いただけると嬉しいです。
さて、前書きにも書きましたが 気が付けばエルフ 第一章となる今書いている一連のエピソードももうじき終わります。
推定ですが、30話台のうちには第一章を書ききれるのではないかなと思っていますが、思惑通りに進むのか?はたまた更なる話数を要するのかは現状でも微妙なところです。
ではまた次回、気が付けばエルフ25話でお会いしましょう。




