野外実習(オリエンテーション)
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第16話公開いたします。
野外実習
街道を南にしばらく進むと、右手側から一本の街道がぶつかってくる。
距離にして大体2キロ前後という感じのはずだ。
その街道を北西に進んでいった先に今回の目的の西の森は広がっているらしい。
分岐点よりおよそ3キロちょっとくらいの位置らしい。
サラによれば私が彷徨っていた林はその西の森の周辺部だろうとのことだった。
この世界では距離という概念が徒歩で半日だとか、何日だとか相当曖昧なのだ。
体感時間でも一日の長さはさほど変わらない事と、一年の日数も360日割りしているらしいところから相対的な星の大きさは地球とさほど変わらないのではないかと思っている。
もっとも惑星の自転周期なんてものは相当のばらつきがあるもので、地球とほぼ同じ大きさの金星の自転周期は240日ちょっとだった筈なので、アテにはならないのだけど。
少なくとも、太陽の強さと距離の関係は人類にとってのハビタブルゾーンの範囲にあることは間違いないだろうと思う。
その辺については、星に詳しい人だったらもう少し上手い説明ができたとは思うのだけど、生憎と先日までただの高校生だった私には満足な説明は難しそうなのだ。
なのであくまで私の感覚的な距離感なのだけど、その辺は自分が把握できていれば問題ないということで、あまり気にしない事にした。
道中は先程のスライムが出たあとは至って平穏そのものだ。
「もっと色々出てくるのかと思ったけど、案外平和なのね。」
「ああ、ここは街道だからな。人の手が入ったところにはあまり魔物はでてこないのさ。」
「むろん例外もあるのですが、基本的にはサラ様の言う通りです。なので街の中などもまず魔物がでることはありません」
私に疑問に対して、サラが答えてリーリカが補足してくれた。
「自然の多く残る村なんかはどうなの?」
「そのような村の場合は、周囲を極力柵で囲っておくものですが、弱い魔物などは出てくることがありますね。」
「ゴブリンやオークどもが畑を荒らしにくることもあるしな」
ゴブリンにオーク……やっぱりいるんだ。
なんてエルフである私がそんなことを考えるのもおかしい話なのだけど。
のんびりと大自然の残る風景を眺めながら、おしゃべりしつつ歩くのもいいものだと思った。
「なんだかピクニックみたいね。」
目を閉じて、耳を澄ませば、風が語り掛けるように吹き抜けていくのがわかる。
まるでそこに風の精霊が躍るかのように通り過ぎていくのを感じながら、踏み固められた土の上を歩くのがこんなに楽しいだなんて。
足どりも軽く、順調に距離を稼ぐ。
草原の中の街道だった景色が次第に、丘陵地帯のそれに変わっていく。
太陽が丁度天頂に差し掛かるころ、私たちは昼食を兼ねた休憩を挟むことにした。
◇ ◇ ◇
前の世界とこの世界の大きな違いは利便性の違いだ。
ちょっと喉が渇いたら自販機で、なんてのが当たり前だった私にとってその辺の事情は辛いとしか言いようがない。
街中であれば酒やジュースなどを売る屋台もあるのだけど、こうして街から出ている時は水筒などに入れて携帯するしかない。
そこで問題になるのが持ち運べる量となるのだけど、水というものは非常に重いのは誰もが知っている通りだ。
結果的に旅の間は極力水を節約したりしないといけないわけだけど……
「じゃあ、念の為にちょっと離れててね」
「ああ。」
街道近くに見つけた砂地にサラの指導のもと石を積み上げ即席の簡単な竈をつくると、私は飯盒を取り出して竈から少し離れた場所に置いた。
ちなみにリーリカは食事の支度は自分の本分だと主張したけれど、これはメンティーの私の研修みたいなものである。
やらせて欲しいと願い出るとあっさりと譲ってくれた。
彼女もまた腕利きの冒険者なのだ。こういった経験を積む重要さは判ってるのだろう。
「さあ、いくわよ……」
まずはイメージだ。
飯盒を満たす水。綺麗な水。
ふっとビジョンが浮かんだところで唱える。
「器の水!」
飯盒の中を恐る恐る覗きに行くと、ぼこぼこと飯盒の中で水が湧いて、水で満たされた。
「どうかしら?」
「おい、それ飲めるのか?」
「一応大丈夫なはずなんだけど、ねぇ?リーリカ?」
「そうですね、先日の件でも大丈夫のようでしたし、おそらくは。調べますか?」
「普通魔法で出した水って飲めないって聞くぞ?」
「うーん、そうなの?あ、でもこれならいけるかも?」
調べるってとこで思いついた。
「そうだ、鑑定さん!えっと……うん大丈夫そう」
浮かんできた内容は
『精製水:エリスによって魔法で精製された純水』
ということだった。
「「………………」」
「純水みたい。多分飲めると思う!」
「いろいろとツッコミどころがありすぎて反応にこまるな。」
「まったくです。これで本人に自覚がないあたり質が悪い。」
なんだか遠回しにディスられてる気がする。
いいじゃない。重い水を運ばないで済むんだから。
「まあ、とにかく次は火だな。」
「うん。どうやって起こせばいいのかしら?」
「まずは薪集めなんだが、出来るだけ枯れた小枝、枯れ草や落ち葉を集めるんだ。枯草や落ち葉は揉んでおくと種火を作りやすい。枯葉の上に置いた揉んだ枯草などにファイアストーンで小さな火を起こして種火にして、それを小枝の下に置く。小枝が燃えて来たらもう少し太い枝といった感じだな。」
なるほど、言われてみれば元の世界でもそんな光景をTVなどで見た事が有るかもしれない。
とりあえず言われるままに薪を探しにいくことにした。
ほどなくして集めた薪を見てもらう。
「一応言われたとおりに集めてきたけどどうかな?」
「どれ。ああ、これは避けたほうがいいな、煙が多い。こいつは油分をよく含んでるから煙も上がるが、種火を強くするときには使える。」
そんな感じに手慣れた様子で分類してくれた。
ファイアストーンで種火を作るのはなかなか難しかった。
なかなか思ったところに火花がとばないのだ。
見かねてリーリカが教えてくれる。
「よいですか?エリス様。こういう場合はファイアストーンをここに固定して、こうやって短剣の柄などで掠め打つのです。」
カツ、カツッと2,3度やっただけでほぐした草に飛んだ火花がじわっと広がった。
フーっと息を掛け、フワッと燃え上がったところで竈の中の小枝の下に差し込むと、パチパチと小枝が燃え出した。
「これでもう少し太い枝に燃え拡がるのを待てば大丈夫です。」
そんなこんなで起こした火でお湯を沸かして、そこに茶葉を入れてお茶にした。
茶葉をどう避けるか悩んでいたらリーリカが飯盒サイズの落し蓋のようなものを出してくれて、即席のティーサパーのように茶葉を沈めたとこでオタマでカップに移した。
ちなみに今日のお昼ご飯は、リーリカがお屋敷を出る前に作ってくれたサンドだ。
野菜やゆでた卵を挟んだサンドとお茶の簡単な食事だったけど、本当にピクニックみたいで楽しいひと時になったのだった。
◇ ◇ ◇
食事が終わり、片付けが終わるといよいよ素材の採集に移った。
「うーん、こっちは毒があるほうで、こっちが目的の薬草かぁ……」
私は手に取った2つのよく似た草を眺めつつ唸っていた。
正直私が見た限りではその違いがよくわからないのだ。
「ほら、ここの葉の裏を見るんだ。毒草はつるっとしているが薬草のほうはなんとなくトゲトゲしているだろ?」
そんな事を言われるのだけど、正直違いが非常にわかりにくかった。
ちなみに鑑定さんで見れば簡単ではあるのだけど、とりあえずきちんと見分けられるようにはなっておきたい。
森の民たるエルフとして、そこは譲れない。
「その薬草と毒草に限ってですが、根の付け根を見ればわかりますよ。」
リーリカがそんな事を言う。
根が生える根元の部分にコブができているのが毒草で、コブがないのが薬草らしい。
「こればかりは何度も訓練しないとダメそうね。」
「そうだな、とりあえず今日のとこは鑑定に頼っておけ。」
「見本となるものを多く目にするのも立派な訓練です。」
ちなみに私が薬草探しに夢中になってる間に、サラは何匹かの蛇を仕留めていた。
別に魔物というわけではなく普通に生息している生き物らしい。
こういう藪の中では魔物ではなくても、危険な生物がいることが多いらしく、よく注意するように言われた。
とりあえず必要な量の薬草を手に入れた私たちは街に戻ることにしたのだけど、今回の出来はまだまだ赤点に限りなく近い。次の採集の機会までには少し勉強しておこう。私はひそかにリベンジを誓い森を後にした。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ第16話をお読みいただきました皆様には感謝の言葉を。
ありがとうございます。
メンタープログラム中のエリスですが、その影響もあってまだ大きな戦闘というものがあまり出てきませんね。元々初心者支援のためのプログラムですので、いきなり死闘が続くような事が有ってもこまるのですが、日常の中にも脅威は潜んでいるものでして、命を脅かすのは何も魔物に限ったことではありません。
実は作者の自宅周辺にも以前はかなりマムシなどがおりまして、だいぶ数は減ったもののいまだに見かける事が有ります。
どんだけ辺鄙なトコに住んでいるんだよ!と思うかもしれませんが、これでも東京住まいだったりします。
普段目を向けてないトコに案外いたりするもので、そろそろ活動期に入っている頃なので皆様をお気を付けください。
それではまた次回 気が付けばエルフ第17話でお会いしましょう。




