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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第四章 厄災の緋眼
137/144

最後の難所

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第137話公開です。

お楽しみ下さい。

最後の難所




東の大陸の玄関口、ドーゴの港町へと降り立った私たちは、丸三日かけてドーゴから見ると北東にあたる街、カメオの街へと着くと、東の大陸北岸沿いに敷設された、街道というにはあまりにお粗末な海岸線の荒れた道を二日ほどかけ走破して、アハラの村へとなんとかたどり着いたのだった。


リーリカの話によれば、この先にまともに馬車の進める道はなく、細い田畑のあぜ道や、獣道というほうが相応しい山道を歩いて南側に連なる山々を越えなければならないという事だった。


「どうしよう? この村に馬車を預けていくのは仕方ないとして、一日位休養してから行く方がいいのかしら?」


方針を決めかねる私に対し、リーリカとサラは強く休息を支持すると、あっという間に村長に話をつけてきてしまったのだった。



もっとも、閉ざされていると言われる東の最果ての森の集落を除けば、このアラハ村は東端にあり、この地を訪れる者は春から秋の季節の間、月に二度程やってくる行商人位しか居ないのだとか。

既に冬に片足を突っ込んでいるとはいえ、これより更に本格的な冬を迎えるこの付近では、路面は凍り付き、荒れ放題の街道がその機能をより一層低下させれば、いよいよ商魂たくましい行商人であってもこの僻地まで訪れる者は居なくなるという事だった。


そんな世間から忘れられかけている村の長の家といっても、村に住む他の者達の家と大差はなくて、馬車で寝起きする方がよっぽど寝心地が良いだろうという事になり、軒先を借りそこでキャンプを張ることとなったのだ。


「こんな辺鄙なところまで、折角おいでいただいた御客人を十分に遇すことも出来ず、ほんに申し訳のうて……」


本当に申し訳なさそうに語るその人を――昔話の絵本から這い出て来た、好々爺と言われれば正にイメージ通り! と頷いてしまいそうな村長を見て、残念ながらその例えが通じる相手が誰も居ないという事に無意味に悔しさを感じつつ、一方的に押しかけて申し訳ないと伝えると、村長は一人の村娘を呼ぶと、給仕の手伝いをするように言いつけた。


この世界の慣例として良くあることだけど、こういった好意に対しては相応の謝礼を出すのが慣わしなので、結局は雇っているのと同じことなのだけど、とにかくそれを言うのは野暮らしく、流石にその辺りの一般教養? 位は身についてきた私も、それを快く受け入れることにした。


ほどなくしてやってきた村娘――チーナを目の前にした時の衝撃はなんと説明していいものだろうか?

最初に彼女を見た時、私てっきり子供だと思っていたのだけれど、これでも彼女は成人した大人らしい。

いや、ただ背が低いだけじゃない……そう、最も特徴的なその耳は、誰がなんと言おうと、ウザギ耳というやつではないのだろうか?


やや赤みがかった白、というよりは桜色と言ってしまったほうがわかりやすい髪に覆われた頭のかなり上のほう、根元が細く途中が拡がるその耳の内側は、ほんのりと桃色に染まっており、耳自体はふわふわとした白い毛でびっしりと覆われていた。


「チーナなの。よろしくなの」


そう言いながら差し出された手も、やはりびっしりと毛に覆われていたものの、やたらに鋭い黒い爪に気をつけながら握手すると、「むふ~」なんて言いながら機嫌よさそうに笑みを浮かべていた。


というか、握ったあの感触って肉球よね?


内心悪い持病が頭をもたげるのではないかと危惧しながら彼女を改めて観察すると、耳を除いた身長およそ私のお腹位、推定一メートルとちょっと程度の彼女は、その3.5等身くらいの極端にデフォルメされた外見からか、ずんぐりとした印象をうけるものの、その全身が柔らかそうな白い毛に覆われていて、顔だけが妙に人間ぽいところから、ウサギ型の獣人というよりは、ウサギ人間という表現のほうがしっくりと来るだろう。


こっそりサラやリーリカの方を窺うと、「知らんぞ」 「存じません」といったように首を傾げ、彼女が何者であるかは彼女の自称に頼ることとなるのだけれど。


「チーナは、うーさー」


思わずその言葉に見ればわかるから! とかツッコミというものを入れたくなるものの、そこはぐっと我慢して、


「うーさーというのは種族の名前?」


と聞いてみれば、チーナはこくりと頷いた。


よくよく見れば両手足には結構な長さの鋭い爪が生えており、あの手で不便はないのだろうかと密かに考える私の前で、彼女は実に手際よく、夕食の準備を開始した。


それはそれはもう見事なまでに、包丁一つ使わずに、解体されていく二羽のウサギ。


「……うーさー♪」


「「「…………」」」


目にもとまらぬ速さで振るわれる鋭い爪が、あっという間にウサギをバラバラに解体していくというのに、どうしてか彼女は一向にその手が血に塗れることは無かった。


「相当な速さですよ、あれ」


「だな。骨も筋もまるで無いかのように斬り飛ばしているぜ?」


私の耳元で囁くリーリカの声に気が付いたサラもその言葉に頷いて、私はただもう、チーナの繰り広げる光景を呆けるように見ているしか出来なかったのだけど、楽しそうに料理する彼女を可愛らしいと思ってしまうのは、何かおかしい事なのかしら?


ほどなくして、「できたの」 と馬車の横に出されたテーブルの上に並べられたのは、こんがりと焼けたウサギの串焼き。


「冷めないうちに食べるの。うーさー」


私たちに勧めながらも、自らも一本その串を手に取ると、美味しそうに頬張る彼女の姿はやはりウサギにしか見えなくて――同族食い!? なんて不謹慎な言葉が浮かんでしまったけれど、みんなもそう思うでしょ?



◇ ◇ ◇



翌朝早く村を出発することになった私達。

その行先が最果ての東の森という事をチーナが知ると


「なら途中まで送るの」


なんて言いながら、藪の中の獣道で、枯れて力なく垂れさがりながらも私たちの行く手を阻む蔓やら蔦を、もの凄い早業で切り刻みながら進んでゆくのだ。

なんでも山の頂上付近では越冬のために丸々と太ったウサギが居るとかで、それを捕まえに行くんだとか。

楽し気に鼻歌を歌いながら先頭を進むチーナのおかげで私たちは大分楽をさせてもらっているものの、リーリカにしてみれば辛い過去を嫌が応にも思い出させるこの道は、内心足どりが重いのでは無いかと私は心配でたまらなかった。



途中本当に軽い休憩を挟んだだけで、およそ六時間の登山の末に、私たちは山頂付近へと辿り着いた。


「うーさー。ここでお別れなの。ここで夜を明かして後は太陽に向かって降りればいいだけうーさー」


「え? でもまだお昼くらいでしょ?」


やっと天頂に太陽が登りきるといったところを見れば、もしかしたらまだ午前中かもしれないのだ。

あまりに早いキャンプの提案に私が疑問に思っていると


「いえ、エリス様。チーナの言う通りです。今日はここでキャンプして、明日の朝早くに出なければ、あっという間にここより先は、山の影となって日が暮れるのです」


確かに言われてみればそうかもしれない。暗い道を足場の悪い山道を下るだなんて、自殺行為もいいところだ。

うっかり足を滑らせたらそれで終わりになるだろう。


「じゃあ仕方ないわね。ここまでありがとうチーナさん」


「いいの。またうーさー」


振り向くことなく、手の代わりに器用にも耳を振りながら離れるチーナの後姿を見送りながら。

私たちは実に久しぶりの、テントの設営に掛かるのだった。


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