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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第四章 厄災の緋眼
135/144

告白

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第135話 公開です。

お楽しみ下さい。


告白




「もはや世界の天秤は完全に崩れ去りました」


悲痛な声でそう告げるラスティはそう言いながら私に向けて両手で何かを抱えるように差し出した。

同時にそれまでの距離感の掴めない、純白の世界の中に現れる球体の中、赤と青の光は重なり合い、もつれるよう不規則に動いていた。


ただ一つ遠く離れた場所に佇む黒色の光、というのもおかしなものだけど、とにかくその黒色の球体のみが、寂しく宙に漂っているのだ。


「ブルーノートとブラッドノートを救う術はないのですか?」


当然湧き出るその疑問に、ラスティは苦し気に目を閉じて静かにその細い首を横に振る。


「何故ブルーノートへブラッドノートが落ちてしまったのかは判りませんが、不自然なエッセンスの集まりが魂の坩堝(るつぼ)と化してしまったのは間違いありません。元々巡りのよくないブルーノートでしたので、こうなるまで把握できなかった私の責任です」


「今二つの世界はどうなってしまっているのでしょう?」


「先程 "落ちた" と言いましたが、正しくは引き合ってしまった。ぶつかったのでは無く重なってしまったその部分は、既に対消滅を起こして多くのエッセンスが虚無へと堕ちてしまいました。互いに異なる次元にあったセカイは、理を失い今ゆっくりと互いに浸食しあっているところです」


それは蜘蛛の巣が部分的に壊れた時のように、ブラッドノートというアンカーの外れた残された二つの世界のバランスが極端に相反していたために、まるで磁石が引き合う様にくっつき消滅してしまったというのだ。

俄かに信じ難い――いや、信じたくないその事実は、私にとっての故郷の消失を告げていた。


――お母さん……お父さん。


「今の私に出来ることと言えば、崩れた世界の時を凍結し、これ以上エッセンスが失われないようにする事くらいです。御覧なさい?」


そう良いながらラスティが何やら手をかざすと、それぞれの世界を繋ぐ光の帯のようなものが現れる。


「これは……エッセンスの還流ですか?」


私の問いに頷く女神は、再び三つの世界を指差して


「このエッセンスの還流は、三つの世界を繋いでいます。だからこそこのままでは、現在無事……とは言い難いですが、残っているノワールノートまでも、二つの世界の位相の反転したもの――虚無へと堕ちてしまうでしょう」


「ラスティ……私がどうして選ばれたのか、未だに私には分からないけれど――全てをエッセンスへと還すことが出来るなら、二つの世界を回収(・・)することが、出来るのではないですか?」


「……少なくとも今の私にはその力は有りません。それでも一縷(いちる)の望みに賭けるのなら良いでしょう。貴女に一つ、力を託しておきましょう」


そう言って女神は私の頬にそっと手を触れると凛とした声で言ったのだ。


「さあ、エリスお行きなさい。世界の運命はあなたと共に。どのような結果にも臆さず、思うがままにするのです」


急速薄れていく視界の中で、ラスティが何かを呟いたけれど、その時の私には上手く聞き取ることは出来なかった。



誰も居なくなった白い世界で女神はただ一人佇んで、囁くように呟くのだ。


「全ての因子をもつ貴女なら……でも、ごめんなさいエリス。貴女にばかり負担を強いてしまう事になってしまったわね」



少女を憂う女神はただ一人、白い世界の中を漂い続けるのだった。



◇ ◇ ◇



「御身体のお加減はいかがですか?」


心配そうにエリスの顔を覗き込むリーリカの表情は冴えなかった。

それもそうだろう。ゾーンで知の書に触れたその後から、なにかと塞ぎ込むように思い詰めるエリスは私から見てもかなりおかしい。

一七歳という年齢の割に度胸もあって、時折こちらも呆れるほどの、前向きな発想の彼女がこうまで思い詰めることは、滅多になかったのだ。


ビジターとしてこの世界にやってきたと知った時でさえ、食事や生活といった目先の心配こそしていたものの、言ってみれば元気に悩んでいたようなものだった。


それがどうしたことだろう?

時折話しかけるリーリカの方を見ると、ただ優しく微笑むだけで、すぐにも殻に籠っては何やら思案に耽っているのだ。


「そりゃ心配するなというほうが無理ってもんだぜ?」


なんて言ってみたりもしたものの、結果はあの通りなのだから今は何を言っても無駄なのだろう。

ゾーンの王城でエリスはノーザのフレバー子爵やそのほかに散らばる問題の血族に、注意喚起を促すよう協力を求めると、突如東の大陸へと向かうのだと言い出した。


その言葉には強い意志を宿しながら、為すべきことが見えているといったようで私たちはこうして再び船上の人となっている。


ノーザ国王が書いた親書も既にゾーンに引き継がれ、今頃まだ訪れていなかったトクラ、リタニア、ワストラの三国にもたらされている頃だろう。

潮の流れに乗れる東への航海は、恐らく五日ほどでリオンへと到着出来るはずで、そこで一度物資を補給したのち、直ちに東の大陸を目指す算段となっている。


もっとも物資の補給といったところで、実際的には酒と食料が主となる。

なにせ水に関してはエリスが折を見て魔法で補給しており、最小限の備蓄で速度を優先させて船は東へと進んでいる程なのだ。


一体エリスは何をこうも焦って東の大陸へと向かうのだろう? と、私は彼女の口からその説明がされる時を静かに待ち続けるのだった。



◇ ◇ ◇



時は満ちる。

私やサラ様が待ち望んだ、その時は東の大陸への玄関口、ドーゴの港への入港を翌日に控えた時にやってきた。


「サラ、リーリカもちょっといいかしら?」


朝食を済ませた後サラ様を呼び止めたエリス様は人もまばらになった食堂に残り、ついにその告白をした。


「ごめんね、別に隠すわけじゃなかったのだけど……私なりに少し考えを纏めたかったのよ」


そんな言葉から切り出したエリス様の表情はどこか憑き物が落ちたように、さっぱりと落ち着いたいつもの彼女のソレとなっていた。


「今回の事だな?」


「ええ。確認のしようはないのだけれど、ブルーノートとブラッドノートがほぼ消滅したわ」


あまりにあっさりと告げられたのは、この地のほかにあるとされる二つの世界の名前だった。

そしてそれは、エリス様の故郷が失われたということに他ならなくて、私はエリス様の心中を察すると、いたたまれない気持ちではち切れそうになるのだった。


「エリス様の故郷……」


静かに頷くエリス様は、やはり取り乱した様子はなく、これまでの思案はその事について吹っ切るために必要だったのかと私は勝手に納得していたのだが――


「私の勘が正しければ、厄災の緋眼――いいえ、マリスはこの世界のエッセンスの循環を阻害して、何かを企んでいることは間違いないの」


敢えて厄災の緋眼という呼称を言いなおした事に、僅かにサラ様の眼差しが鋭くなるものの、サラ様はそのまま黙ってエリス様の言葉に耳を傾けて、続く言葉を待っていた。


「まず、先に聞いておくわね?」


そう言いおいて、私達が頷くのを見届けると、エリス様は思いもよらない事を口にした。


「この先、私は世界を敵に回すことになるかも知れない。それが納得できない、嫌だというのなら、ドーゴの港街で私を降ろした後に、そのままこの船でノーザに戻って欲しいの」


その言葉にいつもより金の瞳が妖しく光を放った気がした。

エリス様にそう言わせる事情を考察しつつ、勿論私の答えは変わらないことは、エリス様本人も判っているだろう。

つまりはこの言葉は、一国の王女であるサラへ向けられたものである。

恐らくはその立場への配慮として。


一国の王女が、世界を敵にするような事柄に関わって良い筈がない。

そこまで考察すると、私とエリス様はじっとサラ様の反応を窺うのだった。


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