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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第四章 厄災の緋眼
133/144

地獄の業火

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第133話公開です

お楽しみください。

地獄の業火




境界領域ボーダーより二キロメートルの範囲、住民の避難及び一般人の立ち入りの制限を完了しました!」


白い顔にやや青く髭の跡が浮かび上がったその青年は、姿勢を正したままの状態で、上官の前に立っている。


「ご苦労だった大尉。持ち場に戻り次の指示を待て」


「了解しました大佐殿! 持ち場に戻り次の指示がくるまで待機します!」


律儀に復唱を入れながら、威勢よく返事をしてタラップを降りていく青年を見送りながら、私は奥の衝立の後ろへと移動した。

このボーダー対策部隊の司令部となっているのは、トレーラーに牽かれたコンテナの中にその機能を詰め込まれている。


我が軍の基地が落とされることなどないのだから、ポータブル司令部ともいえるこんなものは無用の長物だと文句を言っていた上院議員の厚化粧の女は一体誰だったかと考えながら、今やこの国が抱える作戦のうち、最も重要な作戦を任されている司令部として機能しているのだから、何とも皮肉な事だと私は口角を上げ苦笑いを漏らしていた所だ。


「さて、聞こえたと思いますが準備は整いました。如何しましょうか? 准将殿」


私が声を投げかけた先、このトレーラーの中では最もまともな革張りの椅子に座る、一人の初老の男性は、白髪に大分押された頭髪と、顔に刻まれる深い皺と傷痕を、更に醜く歪めながら――そう、苦虫を噛みつぶしたような表情でこちらを忌々しそうに眺めていた。


「やれやれ。孫も生まれてやっと退役出来たところにこの騒ぎとは。神というやつは儂を休ませるつもりがないらしい」


「それは仕方ないでしょう准将殿。このような事態です。我が軍は今やどこもかしこも人手不足なのですから」


「わかっちゃいるさ大佐殿。なに、大統領命令だ、こうして老体に鞭打って出てきた老いぼれに、嫌味の一つくらい言わせてもバチは当たらんだろう?」


「心中御推察申し上げます」


「少しでもそう思うならせめてよそ見をせずに言うもんだ」


「……申し訳ありません、准将殿。正直なところが自分の数少ない取り柄でありまして……。なにより、こんな見込みのない作戦の司令官などやらずに済むと、此方としてはありがたい限りのお話ですので」


「本当に正直な奴め。――老兵死して屍拾うものなし、か」


「まあ、そう悲観なさらず……その時は自分も道連れとなっているでしょう。なに、自分の父親は随分と昔に他界しておりまして、その時は准将殿を父親代わりにあの世で釣りとでも洒落込みましょうや」


実は割と本心そのままに言ったその言葉を聞くと、准将は「……フム」と呟くと――


「やれやれ……三人目の息子はとんだお調子者のようだ。まったくどいつもこいつも……」


などと、言葉裏腹にその表情は楽しそうに笑みを浮かべているのだった。


「さあ、遊びは此処までだ。まずはボーダーへ "ヘルファイア" でも撃ち込んでやれ。発射は一〇分後、数は三発、間隔三〇秒! 観測怠るなよ?」


「はっ! 伝達します。一〇分後にヘルファイア三発、間隔三〇秒ですね」


さて、既に異なるセカイだというあのボーダーに、どう作用するのか?

私は部下に指示を飛ばしながらに未知なるものとの対峙が開始されたのだった。


◇ ◇ ◇



夜空をを赤く染め上げて、燃え上がる街はきな臭い異臭で満ちていた。

街のあちらこちらの民家から立ち上る炎は、失われた竈の主の手を離れた調理中の料理などから、出火して、自然に火災へと発展したのだろう。


「これで全部かしら?」


「恐らくは」


不死なる闇の王女の眷属となったその男は、着用していたシャツと甲冑の下に着込む中綿を血に染めたまま、やはり手には白い装飾の剣と盾を赤黒く不気味に染め上げて、真っ白な少女の前に跪いた。


「これは狼煙。私たちを裏切った世界への狼煙となるの。街の中央にあの者達の首を並べなさい。あのような者を肥やした帝国にも責はある」


ほどなくして並べられる四つの首は、そのどれもがきょとんと間抜けに目を見開いたまま、時間と共に濁っていく瞳の光が、その首が新鮮なものであったことを告げていた。


「他の者達はいかがされたのですか?」


「少しばかり唐突だけど、短い人生に終止符を打ってもらったの――すべてエナジードレインで吸収したわ」


「そう、ですか……」


「アル。心が痛むかしら? 先程まで守ろうとしていた人たちを葬ったこの私と共に歩まなければならない事が」


「いえ、そうではありません……ですが、ここまでする必要はあったのでしょうか?」


「この歪み切った偽善の蔓延る世界なんて、一度滅んでしまうべきなのよ。だってそうでしょう? 両親を失った幼子だけが助けられたとして、いずれ遠からず死んでしまうもの。だったら愛しい家族と共に、輪廻の環の中へ帰してやれば、いずれまたその(よすが)(えにし)となって、再び家族として生まれ変わることが出来るかも知れないのだから」


その言葉になにやら考えを巡らせていたアルは、一つの考えに行きついたようで……


「ならばもう何も言いますまい。私は貴女様の忠実なる眷属として、白き鎧を脱ぎ捨てて、漆黒の闇を纏い貴方様の影となりましょう。」


「……好きにしたらいいかしら?」


心の奥で私が望む言葉が聞けない事なんて、分かり切っていたのにね?

ギシギシと軋みながら凍り付いていく何かを心の奥に感じながら、私は炎に照らされる夜空を見上げるも、既に粉塵と煙に覆われた夜空には、輝く星の一つも見えず、私を更に落胆させた。


「そういえば、あの大臣は何処の街からやってきたのかしら?」


「荷物が残っていれば探ってみましょう。手形があればすぐに足どりは掴めるでしょう」


「そうね、お願いするわ。そう、そうしましょう。あの大臣の辿った道を遡り、その道々で犠牲となってしまった者達を弔って、裏切り者を処断してやるのよ」


それはとても素晴らしい名案のように感じられ、私は機嫌よく火の勢いの衰えることのない街の中を、救い残しは居ないかと、夜の散歩宜しく気ままに歩き回るのだった。


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