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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第四章 厄災の緋眼
129/144

知の書

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第129話公開です。

 知の書



 ブランドルの街を出発した日にはアクラ公国へと入った私たちは、街で一夜を明かした後に、翌日急ぎノーザ国王の親書を届けると、その足でアクラを後にした。

 それから二日、途中一回キャンプした他は、ほぼ走り通してすっかり身体も凝り固まったころ、ようやくゾーンの街へと到着したのだ。


「今夜はゆっくりと宿で身体を休めましょう」


 流石に疲れた様子でシーラさんはそう言って、街中であるために速度を落とした馬車の御者台から声を掛けてくる。


「そうね、これだけ走り通しだもの、疲れたわよね?」


 ただ座っているだけの私と違い、リーリカやシーラさんは交代で馬車を動かしているのだ。

 交代してるときでさえ、私やサラの世話をなにかと焼いてくれている彼女たちは、人一倍疲れている筈なのだけど、そのような素振りを全く見せない辺り、給仕(メイド)の矜持というものだろうか?


「ゾーンの街にも山百合はあるのかしら?」


「ああ、あるぞ。サイラス六国には各国の首都には必ずある」


「では宿はそちらですね」


 その後シーラさんにサラは道を教えながら、私達はゾーンの山百合へと到着したのだった。

 勿論いつもの出迎えの儀式の後に、あくまで山百合スタッフとして給仕に加わるシーラさんは休まないで大丈夫なのだろうかと、私はひそかに心配するのだった。



 ◇ ◇ ◇



「もう風が冷たいわね」


「そうですね、エリス様。山の上では既に冠雪してますし、じきにこの辺りも雪になるのは時間の問題でしょう」


「こうして二人で一緒にお風呂に入るようになって久しいけれど、もうすっかり当たり前になってしまったわね」


 笑ながらにそんな事を言えば、並ぶリーリカは僅かに距離を詰めて


「お嫌になりましたか?」


 なんて悪戯っぽく笑って問いかけた。

 そんな彼女の黒く大きな瞳は、いつにも増して潤みを帯びてその中には私の顔が揺らめいていた。


「ううん……その逆。ふふ、分かってるでしょう?」


 クスクスと笑いながら互いに寄り添って、良く澄んだ星空を眺めれば、名も知らない星々が宝石のように煌いて私たちをそっと見守っているのだった。



 入浴を済ませ部屋内に戻れば先に入浴を済ませていた筈のサラが、半裸でなにやらやっていて、何かと思えばどうも新しく作られたタイプの下着の留め具と格闘しているようだった。


「上手くできない? 早くしないと湯冷めするわよ?」


「外すのは簡単でいいんだけどな、つけるのがなかなか難しい」


「片方だけを回すのよ。ほら、ここを押さえておいて、こっちだけ回せばいいの」


「うーん分かってはいるんだけどな。エリスが海に落ちたとき、このタイプを着けてたろ?なかなか便利に思えて試してみたけれど、アタシは今までのタイプのほうが楽かもな」


「でも使ってればすぐ慣れるって」


 あーじゃないこーじゃないと騒ぐ私達を気にして、シーラさんもやってきて、彼女もその下着に興味深々と言った感じで、結局一セットプレゼントすることになった。


 満面の笑みで「ありがとう御座います!」と嬉しそうに抱えるシーラさんは、これから入浴するようで、早速お風呂上りに着けてみると意気込みながら、浴室の方へと姿を消した。


 そんな事をしているうちに、くしゃみを始めたサラに再度入浴を勧めた後に、私は浴室にいる筈の先客の性癖を思い出し――リーリカの手を取り、早々に寝台の中へと逃げ込んだのだ。



 ◇ ◇ ◇



 その本は、厳重に鍵を掛けられた箱に入れられて保管されていた。

 この世界でよく目にする羊皮紙でない、繊維から作られた紙の本で黒い表紙は革で表装されていた。


「本来開くことを禁じられている本ですので、こちらの中で開いていただく事になりますが……」


 申し訳なさそうにそう伝えるのは、ゾーン公国の大臣の一人だという。


 そう、私達が今いるのは、王城の地下に作られた地下牢の並ぶ通路なのだ。

 重い音を立て開かれる牢の一つに、私はその本の入った箱を抱えて入ると、外から鍵をかけてもらい、それが終わると本を収納している箱の鍵を代わりに受け取った。


「よいですか? くれぐれもどうなっても責任はもてませんぞ?」


「大丈夫です。ありがとうございます」


「エリス様、お気を付けください」


「うん、大丈夫よ、リーリカ」


 口ではそう言いながら、私はこの尋常ではない警戒を必要としているこの "知の書" を前に、うっすらと冷たい汗を感じていた。

 それほどまでに危険を伴う禁書の閲覧――禁書なのだから当然と言えば当然だけど、やはりどのようなものかがわからなければ、緊張しないほうがおかしいのだ。


 意を決して、静かに幾重にも巻かれた鎖を止める鍵を外し、牢の中に置かれているテーブルの上で本を取り出した。

 些末な椅子に座り、ゆっくりと表紙をめくるとそこにはただ一言『知識を欲する者、その眼を閉じよ』と書かれていた。


 眼を閉じて読めってこと? 随分と無茶な本ね……なんて、そんな事を考えながらに目を閉じれば、突如ソレは私の頭の中に語り掛けてくるのだった。


「ほう? 尋ね人とは珍しい。さて、一体何年ぶりの事であろうな」


「あなたはだれ?」


「娘、人に名を訪ねるならば、まずは己から名乗るが良い」


 その言葉に、私はこの本は、意志持つ本だという事を確信する。


「あの、ごめんなさい。まさか本と会話できるとは思ってなかったの。私はエリス。エリス・ラスティ・ブルーノートよ」


「なんとラスティの神子とはこれはまた珍しい客人だ。してそのラスティの神子がいかなる知識を求めて来たか?」


「訪ねたいことは山ほどあるけれど、まずは魔法についてだわ」


「魔法の話か。ただの魔法を求め来たわけではあるまい」


「そうね、私は詠唱なしに魔法が使えるけれど、逆に詠唱を伴う一般的な魔法が上手く発動しないようなの」


「詠唱なしに魔法を使うか……」


「逆に、一般的ではない詠唱を伴った、高火力の魔法も使えるけれど、それは恐らくスキルによるもの。発動させてしまえばコントロール不能なまでに、すべての魔力を使い切るか、気力を使い果たすまで止まらない」


「なるほど、そういう事か。ならば話は簡単だ」


「え?」


 知の書の言葉に、思わずそう言ってしまう。

 あれほど悩んで原因が分からなかった事なのにあっさりとその原因が簡単だというのだ。


「そなたの魔法は、出力が高すぎる。一般のものが使う詠唱では、流れる魔力に耐えうる回路を形成できず、途中で霧散してしまうのだろう?」


 ズバリと言い当てられる。

 途中で消えてしまう魔力。どうやらそれは、電流のようなもので、あまりに細い回路に流そうとしても、回路が焼き切れてしまうらしい。


「意図的に抑えて形成するか、それかすっぱりとその様な魔法は諦めるのがよかろう」


「それはそうなのだけど……では高火力の魔法についてはどうかしら? 自分では意識がなくなってしまうから分からないけれど、魔導紋を伴った魔法だと言うのだけど……」


「魔導紋を伴うか、成程余程魔法の才能があるか。さすがはラスティに選ばれし神子ということか」


「どうなのかしら?」


「恐らくだか、そちらは単純にスキルの影響にあるのだろう。あるいは、それを扱うに足る、力が未だ不足しているとしか思えんな」


 考えてみれば知の書のいう事はもっともだ。

 扱う力が足りてないのなら、確かにコントロールすることは難しいのだろう。

 とりあえず魔法の事はおいて置き、私は最も気になることを、知の書へと問いかけることにした。


「では次の質問よ。厄災の緋眼について何か知っていることは無い?」


「……厄災の緋眼か、少し長くなるぞ?」


 少しの沈黙の後、知の書は長々と語り出すのだった。


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