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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第四章 厄災の緋眼
124/144

湧水の街

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第124話公開です。

湧水の街




港町サラを後にした私達はやや南西へと続く街道を進んでいる。

サラの山百合のサウナに後ろ髪を引かれつつ、かといって厄災の緋眼の動きも判らない今、いずれ来るだろう対峙の時に備えるために、出来得る限りの情報を集めるのは必要な事だろう。

そのためにはまず自分の力を知ることを手始めに、私達はサラの実家であるブランドルの街へと向かっている所だった。


サイラス公国六家の拠点は、各家の名前を冠した街にある。

なんでも元はそれぞれ拠点の一帯を取りまとめ、帝国崩壊後の大混乱の時期を乗り越える時、主軸となって周辺の戦う力のない人々を保護しながらも戦い抜いた一族が、結んだ六者間の同盟の名残から動乱の収束と共に六家として国を治めたのが始まりなのだとか。


今から向かうブランドルの街は、このブランドル公国の領地の西、サラの港は北に隣接するゾーン公国の国境近くにあるので、サラの街を境に、北へ続く街道と、やや南西に進み、その後西進する街道が最も大きな街道なのだという。

どちらかといえば西に隣接するアクラ公国の国境に近い場所にあり、くの字型に西側へと張り出る国境線の、北と南の両端を結んだぐらいの位置にあるのだそうだ。


この国に限らず、どうにもこの世界において、国境線とは主に山脈や川などを境界とする場合が多く、それこそ飛竜に乗って旅すれば、その国境線の形が意外なほど良く判るとサラが言っていた。


私達のサイラス六公国での行動予定は、まずはツテのあるブランドルへ赴いて、その後大本命となるゾーン公国を目指すのだけど、そのためには一度サラの街へと戻るよりは、先に西のアクラへと一回抜けて、その後アクラとブランドルの東側の山脈とアクラとリタニアの間にある北側の山脈に挟まれた渓谷のように続く盆地をゾーンへと北東へ進むのが良いだろうという事になっていた。



流石に六公国内を一国の王女であるサラに御者をさせる訳にもいかず、かといって私とリーリカが申し出たら、ラスティの神子として、それこそエルフの王族として扱われている私がそんな事をしたら、余計に困るとサラに強く止められて、では私がと名乗り出たリーリカ一人では何かと大変だろうと、リリアナさんがシーラさんを推薦してくれた。


なぜそこまで山百合が協力的なのか?

その答えはどうもサラにあるらしいけれど、結局それは聞けずじまいだったわけで、それでもリリアナさんが言っていた一言が、その大半を語っていたようにも思うのだ。


「サラ姫様がいらっしゃらなければ、今こうして山百合は存在していないのです」


山百合が感じている、サラへのただならぬ恩義の恩恵は、巡り廻って私へも還元されている訳で、なにより私の所持金の多くは、山百合から払われているのだから、私にしてみればそれこそ頭の上がらない思いでもあった。


「そんな風に感じるエリスだから、山百合も協力的なのさ」


なんていうサラに、リーリカは大きく頷きながら


「エリス様の人徳の為せる御業でございます」


だなんて、嬉しそうに言うのだった。


そんな訳で現在馬車の中には、私とリーリカが並んでおり、向かい側にはサラが珍しくドレスを着ているというのに、そんなのお構いなしにベンチシートに身を横たえている。

装備化してるから大丈夫だというのは、割と最近知った事であり、装備化の恩恵で復元力が付くために、皺になっても勝手に伸びるのだ。

このアイロン要らずな便利なドレスを大量に仕入れている山百合は、確かにすごい額の金銭を大部分は帳簿上ではあるけれど、少なくとも白金貨数枚分は私の手元に払われている訳で、相当な出費に違いない。しかしその投資も、かなりの速度で回収しつつあるのだと昨日リリアナさんは教えてくれた。


流石に洗濯は必要なのだけど、非常に汚れ落ちも良くなり、更に皺にならないために、繊細なドレスでも気兼ねなく洗えることは、貸衣装として非常に優れた特性だった。


言われてみれば、私が元々来ていた服も、軽く水洗いするだけでどんどん汚れは落ちていくし、なによりアイロンというものを掛けたことが無いのに、常にピシっとしたままだったのだ。


そしてその恩恵は勿論、下着にも多大に貢献することは、言うまでも無く、多少不幸な事故が起きてしまったとして、リカバーがたやすいという事はとても心強いものだった。

高分子ポリマーなんて便利なものがないこの世界で、成程バカ売れするのには、そういった一面もあったのかと、私はこれまでロクに考えたこともなかったのだ。


北の大陸とはまた違う、やや背の低い樹木の多い街道は既に落葉した樹木も多く、多少寂しい感じはするものの、雪が降りだせば、その身を雪で白く化粧して、氷の花を咲かせるのだというから案外それもいいかもしれない。

既にかなりの速度で走る馬車の御者台は、結構な寒風を受けている筈で、馬車を操るシーラさんは黒いファーが、首元と袖口、裾にまでつけられた厚手の外套を着こんでいた。

Aラインに広がるわんぷーすのようなシルエットのコートの前面には3つの飾りボタンが付いており、その内側に仕込まれた、ダッフルコートの留め具のようなものでしっかりと留まっている。


「寒くないですか?」


少し前シーラさんに聞いたとき、彼女は「あとでゆっくり……お二人に温めて貰います」なんて言ってる辺り、彼女はどうやら筋金入りの一輪の百合だということを私は改めて思い知らされて、甦る記憶に頬を染めていたなんて、リーリカに言われるまで気が付いていなかったのだけど。


思わず想像しちゃう事くらい、そりゃあるじゃない?


◇ ◇ ◇


やや小高い丘を背にしているものの、ブランドルの街は比較的平坦な場所に作られていた。

丘のふもとに建てられた王城は、丁度その前を川で遮られており、街中に流れる川の本流から人為的に分岐させた濠だという事を、私は先程聞かされたばかりだ。

ゾーンとアクラとブランドル、この三国の境界線が重なり合うあたりから南北に流れるこの川は、幅こそそこまで広いわけではないけれど、豊かな水量を持つ川だった。

山の雪解け水が川の流れとなってようで、立地的にブランドルは井戸を掘ればどこでも水が湧きだすというほどに、水に恵まれた土地だった。

実際に街を眺めていれば、そこかしこに小さな水路が流れており、その所々で水が湧きだすポイントが屋根をかけられ生活に利用されており、そうした水場から供給される水のおかげか街中の水路もかなりの勢いで流れている。


「昔からあちこちで水が湧いたんで、治水技術が発達したんだ。それに住民たちも積極的にその維持に努めてくれているんだぜ?」


そう解説してくれるサラは、手近な水場に馬車を寄せると、水汲み場として整備されているところに私たちを案内して、湧き出た水を勧めてくれた。


数人いた先客も、サラを僅かな時間凝視した後には、「姫様お先にどうぞ」と私たちにその場を譲ってくれた。

そんな先客たちの肩を叩きながら「すまないな」と感謝を告げるサラに、先客たちは破顔してニコニコとサラの帰郷を喜んでいた。


「ほんに亡くなられた王妃様に益々似て、美しくなられましたな」


「一体どこぞのお嬢様かと思えば、姫様だったとは、長生きはするもんじゃ」


等と口々に感想を述べる中、サラは少し恥ずかしそうに


「やっぱりアタシがこんな格好をしていると、おかしいかい?」


なんて言えば、皆首を横に振り一人の老女がその手を恭しくとれば


「王妃様やサラ様のおかげで、主人は病から救われたのです。どのような恰好をしようとも、私達には貴女は女神にも等しいのです。それに何よりとてもお似合いですよ? サラ姫様」


こころより感謝を込めたその言葉に、彼女(サラ)がいかに国民に慕われているかを表しているようで、なんだか私も胸が熱くなってきてしまうのだった。


「それじゃあ皆、達者でな。アタシ達は城に行かなきゃならないからこれで行くよ」


サラはそう声をかけると、馬車へと引き返し、私達は慌てて彼女の後を追うのだった。

再び走り出した馬車から見えるブランドル城はどんどん大きくなって、間もなく到着となるだろう。


サラの家族ってどんな人達かしら?


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