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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第四章 厄災の緋眼
122/144

山百合の姫

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第122話公開です。

お楽しみください。

山百合の姫




「大変だ! 聞いたかいアーレス!?」


「おいおい、慌てるなブレスト。それだけでは一体なんの事だかわかるわけないだろう? 普通の者ならな。それに一応アーレス兄様と呼べ。今はまだ公務中だ」


部屋へと駆け込んできた人物へ答えながら、机で書類をチェックしていた部屋の主――アーレス・ブランドルは灰茶色の長い髪をかき上げながらに、息を切らさんばかりに駆け込んできた、やはり灰茶色の髪を短く切り揃えている自分によく似た弟をヤレヤレといった様子で眺めていた。


「では言いなおそう、聞いたかい? アーレス兄様」


「我が弟ながらその短絡的な思考はどうしたものか。それでは主題がなんなのか、全く分からないではないか。だがしかし、お前がそれだけ慌てることだ。どうせサラに関することだろう?」


「短絡的とは随分な言い様だが、その通り、流石は我が兄君だ。数日のうちにサラが戻ってくるかもしれない」


ブレストと呼ばれる青年は一大事とばかりにそんな事を言うのだが、その様子にアーレスは動じた様子もなく、静かに手に持っていた書類を机の上に揃えて置くと弟へ向け言葉をかけた。


「少しばかり前にもサラが戻ってきたのは知っているだろう? 最もお前はアクラ公国へ行っており不在ではあったがな」


「だからこそ一大事なんじゃないか! 俺たちの可愛い妹(サラ)が、こんなにも短期間の間に家に顔を出すなんて、今までにそんな事があったかい?」


あいつ(サラ)はそれなりに名の知れた冒険者ではあるが、まだ未婚の子女だ。この国に領地(サラ)があるとはいえ実家に顔を出すことは、そこまで不思議でもないだろう?」


「だから余計に大変なんじゃないか。飛竜を連れ出しに来たと思えばすぐに出発して、またすぐに戻ってくるなんて、もしかして悪い虫(オトコ)でもついたのではないかと気が気じゃないんだ!」


必至に意識の共有を図りたい、弟のその言葉に、アーレスは一つ頷いて――


「確かに悪い虫(オトコ)だったら大問題だ。折角冒険者になって、早々に嫁いでしまう事を阻止できたというのにだ。あいつも二十歳、そんな相手を見つけてもおかしくはないのだが……由々しき事態ではあるな」


「そうだろう? アーレス兄様。俺たちの可愛い妹がどこの馬の骨ともわからぬ奴に、求婚なんてされていると思うと、心配で食事も喉を通らなくなってしまう」


「なんだ、ブレストよ。ついさっき食っていたのは一体なんだったというのだ?」


「アーレス。昼食のあとにマチルナから聞いたんだ、それこそ的の外れた指摘ではないのか?」


「だから敬称を付けろと言っているだろう? 我が弟よ。お前の言い分は確かにもっともだけど、些か話が早急だ。マチルナ(おまえのメイド)は何と言っていたのだ?」


「どうやらサラの飛竜が数日前にサラの港に降り立って、書状を中継したものが、父上に先程届いたらしい」


「それだけか? 続きを言わねば判断に困るだろう」


「すまない兄様。そうだった……その書状によれば、乗ってきたノーザの船が破損したために、その修理にドックを解放することと、ブランドル公国への正規の支援許可らしい」


「そうか、しかしそれではサラがこちらへ戻ってくるとは限らないのではないか?」


「アーレス兄様ともあろうものが……兄様こそ少々疲れがたまっているのではないか? 飛竜を連れ出したサラが、船でわざわざ飛竜を伴い戻ってきたのは、一体何を意味するのか、分からないわけじゃないだろう?」


その言葉を咀嚼するアーレスは、長い髪を右手でいじりながら、何やらブツブツと呟くと、しきりに何度か頷いた。

どうも弟が言いたかったらしいことは、一人で帰る手段があるにも関わらず、わざわざ飛竜に乗らずに、船で戻ってきた――つまりは他の者を随行させているのではないか? ということに思い至ると、なるほど弟も、ただ短絡的なだけではないようだと、しきりに感心していたのだった。



◇ ◇ ◇



「サラの山百合へようこそおいでくださいました、エリスお嬢様」


徒歩でやってきた私とリーリカはいつも通りの "山百合式の出迎え" を受けた後、この山百合の支配人さん――どころか全山百合の総支配人さんでもあるリリアナさんの挨拶を受けていた。


世界中に広がる山百合の経営者でもある彼女を目にした時、私は色々と想像を打ち砕かれることになる。


これまで年配の者が多かった支配人さんたちを束ねる彼女は、大変美しい女性で、なにより大変若かった。

聞けば一九歳だという彼女が、その座にいるということは、つまりは創業者一族の出自であることを示しており、フレバー次期子爵の元へ嫁いだミリアちゃんとはまた違った可愛らしさを持つ彼女は、可憐というよりは清廉で、落ち着いた雰囲気を纏っていた。


そんな彼女の美しさに魅かれながら、私はベロニカさんから頼まれているお仕事の話を切り出した。


「あの、サラ……いえ、領主様の屋敷に、シリウスより送られたご注文のドレスが纏められていますので、後ほど回収に人を回せないでしょうか?」


「サラ様のお屋敷ですね、すぐに使いをやりましょう。いかほど用意して頂けましたのかしら?」


「私が聞く限り、二十着とのことです。こちらにも同数程度があるのだとか?」


「はい、シリウスをはじめ、各地の山百合で追加購入させていただきました。大変評判もよく、装備化されておりますので、更に追加でオーダーしても良い位ですわ」


「一応ほかにご要望のあった下着については、五十組までなら振り分けられますが、どうしましょう?」


「個人的に五組と給仕の従業員に試させたいので予備を含め十五組ほど。二十組は回して頂きたいところです」



「領主城館の執事さんへ数を言っていただければ、対応できるようにしてありますので、お使いを出される際に、数を伝えていただければ問題ないはずです」


リクエストにも十分応えられそうなので、そのように伝えると、彼女は嬉しそうに頷いて、大きな瞳を更に大きく輝かせながらこんなことを言い出した。


「助かりますわ。そう、エリス様にお願いがあるのですが……是非装備化される際、私も同席したいのですが、よろしいでしょうか?」


ワクワクワク。なんて心の声が聞こえそうなほど、非常に興味がありそうにそう聞いてくる彼女は、好奇心が非常に高いのだろうか?

別に秘密の作業という訳でもなく、断る理由もないので私は「構いませんよ」と微笑むと、彼女は「まぁ!」と両手を組んで喜ぶのだった。



「ふふ。では長旅でお疲れでしょうエリス様には、今日はごゆるりと寛いで頂いて……そうですね、よろしければディナーを御一緒させていただきたく思います。何かお困りのことがありましたら、部屋付きのシーラにお申し付けくださいね」



そう言うと彼女は先に立ち上がり私の手をとると、なんと彼女自ら部屋へと案内してくれるのだった。


しっかりと手を握る彼女の手は、少しひんやりと冷たかったけれど、すぐに温もりを取り戻していくのがわかる。

黄色味の強い綺麗な金髪を後ろで大きく結い上げて、パンツスーツにポニーテールというその恰好が、アンバランスにもとてもキュートで、スカートではない分良く判る、形の良いお尻がやけに目立つのだった。




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