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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第四章 厄災の緋眼
121/144

無自覚な領主たち

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第121話公開です。

お楽しみください。

無自覚な領主たち




荷下ろしの間に食事をと、サラに誘われ町に繰り出した私たち。

連れて行かれたお店は、細い路地にあったブルート亭という店だった。


海賊料理が売りだというこの店は、サラの行きつけの店でもあるようで、開店前だったというものの店主は快く私たちを受容れてくれたのだった。


まずは一杯と頼んだ飲み物で喉を潤しながら待っていれば、来るわ来るわの料理の数々。

分量こそは考えられている物の、あっと言う間に広いテーブルの上が、様々な料理の盛られた器で溢れかえるという事態に、私は思わずお腹の周りを両手で触ってみたりして――


なんだかすごく太りそうなんだけど大丈夫かしら? なんて割と真面目に心配していたりするのだった。


そうはいうものの、彩りも鮮やかに盛られている料理は繊細さこそないけれど、どれもこれもが美味しそうで、とにかく運ばれてきた順に、どんどんと手を付けていくのだけれど。


「海草のサラダおいしいわね、この酸味と香ばしいドレッシングがよく合うわ」


「海草もいいけどこの揚げ物食ってみろよ? これだけでエールの一杯や二杯いけちまうぞ」


サラの指さす揚げ物は、なんだろう? かき揚げに似た魚介を刻んだものを生地に混ぜて油で揚げたものだった。

小エビのプリっとした歯触りと、衣のサクッとした対照的な食感に、独特な香味を持つ香草の香りが、くどくなりがちな油の匂いを上手く調和させている。

私にその揚げ物を勧めながら、サラは手に大ぶりの伊勢海老というか、ハサミがあるのでロブスターに近い、トゲトゲとした釜揚げしたエビを豪快に手でひねり、イタタタタなんて言いながら、やはり豪快にかぶりついている。


「…………」


賑やかに食べるサラと対照的に、静かに食べているリーリカを見れば、どうやらカニと格闘中のようで、ああ、アルアル……なんて一心不乱にカニの身を取り出す様子に、なぜか心の中で同意してみたりして。


だって……カニを食べる時って、ついつい無言になっちゃわない?


そんな事を考えながらリーリカを眺めていれば、やがてカニとの格闘を終えたリーリカは戦利品とばかりに、私たちの前に取り出したそのカニの身を置いてくれたりと、この優秀なメイドさんに私たちはもっと感謝を捧げるべきだろうなんて思ってしまうのだった。


「さぁ、これで楽に食べれますよ? あ、そこのエビも剥いてしまいましょうね」


「リーリカ、有難いけどリーリカもあんま気にしてないで、もっとじゃんじゃん食べてよ?」


「女将さーん! 手を濯ぐボウル持って来てくれよ! これベタベタになっちまう」


なんてなんだか微妙にかみ合わないそれぞれの台詞や、やっぱり着ている給仕服がそうさせてしまうのか分からないけれど、面倒ごとを一手に引き受けてくれているリーリカに、私は剥き終わった大エビを一匹手に取って


「じゃあ、リーリカ。私が食べさせてあげる……はい、アーン?」


なんて、嫌がられるかと思ったけれどリーリカは少しだけ迷ったくらいで、おとなしくエビにかぶりついた。

もぐもぐと食べ進め、エビを持っている私の指まで咥えると、指の先に吸い付きながら、口内でちろちろと指先を舐めるリーリカに、なんだか赤面してしまいそうな気分になったのだった。


「おいしいです。エリス様の指――ではなく、エビ。もう一つ食べさせてください」


縋るように見上げるその瞳に、私が妙にドキドキしていれば、サラはただ一言


「なんだかおまえたち、怪しいぞ?」


と、やや白い眼を向けるのだった。


◇ ◇ ◇


昼が近づき随分と活気の出た町を歩きながら、私たちは再び港へと向かっている。

店先で椅子に座るおばちゃんや、なにやら漁の道具を手入れしているおじさんたちは、サラを見つけるや「姫様! 姫様!」と声を掛けながらに、どこからか取り出したお菓子やら果物を、差し出していた。


そんな彼らに接するサラは、ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべながら応じており、今さっきまで散々食べ尽くしてきただろうに、今もあまり見たことのないような奇妙な形のフルーツに噛り付いているのだった。


「そういえばエリス、どうする? 今日はこの街に泊まるとして、明日すぐに発つか?」


「うーん、本当は急がなきゃいけないんだろうけど、まだ船に乗っているような気がして、足元が揺れているような気がするのよね」


「あー、あるな、そういうの。だったらこの後一か所だけちょっと付き合ってもらって、宿とるか」


「うん。リーリカもそれでいいわよね?」


「聞くまでもない事です。エリス様の行かれるとことに付いていくだけですので」


「よし、じゃあ決まりだな。もしかしたら一泊くらい増えることになるかも知れないけれど、まずはアタシの屋敷に一回寄って欲しい」


――そうだった。


彼女が名目上領主であるこの街に、領主城館があるのは当然の事だろう。

もっともこうして世界を放浪中のサラは、その実務を代官に任せているのだというけれど、それでも領主に違いない。

そして他人事ではなく、私は私で扱いは少々特殊なものの、聖地ラスティを領有している事には変わりなく、ある意味当然といった流れの中で、ラスティに屋敷を作りましょうという声は多く上がっていたのだった。


こんな事を言っては失礼だけど、あの辺境の村で上がる税収なんて方が知れていると思っていた私。

しかしいざ蓋を開けてみれば、既に村人の中で商魂たくましい人々は、(主に葉の形が)世界樹クッキー……だとか、世界樹に祈るエルフ(エリス)像の彫り物だとか、それはもう観光地で当然の如く目にするような、土産物が既に売られていたのであった。

そうして考えられ、売られた土産物がまたどういう訳かなかなかの人気だったりするわけで、現状リオン王宮から派遣されている代官からは順調に経営される聖地ラスティの収支報告が上がっていたのだった。


もう少し真面目に預かっている領地の経営をしたほうが良いのかしら? なんて考えているうちに、港へとついた私達は既に港に降ろされて、シリウスよりリオン経由で運ばれた大量の物資の乗せられた牽引台車と共に、いつでも出発が出来る状態になったのだ。



◇ ◇ ◇



防水性の布を被された、平らな台車を繋げたままの私達の馬車は、サラの屋敷の竜舎の隅を借りて、そこに停められている。


「ちょっと狭いけど我慢してくれよな?」


「私の荷物がかさばって、あなたのスペースを削ってしまってごめんね……」


その状況に申し訳なさそうに、先に自分で竜舎に戻っていた飛竜に声を掛ける。


「キュルルルル」


と笛を鳴らすような声で答えた飛竜は大変大人しく、エリとリリもすっかり飛竜に慣れてしまい、竜舎へ馬車を入れる際にも全く怖がることが無かったほどだ。

今は厩舎のほうにいる二頭だけど、長い船旅を終えたばかりだというのに、随分と元気に運動用の馬場で駆け回っている。


元々港近くの高台の公園のほとんどを接収して建てられたサラの屋敷は大変立派なもので、少し前に定期補修を終えた館は、塗られる塗料も新しく、鮮やかな赤い屋根が可愛らしい洋館だった。


「そういえば、街の中で赤い屋根ってここしかないようだけど何か理由があるのかしら?」


「あー、禁止してるわけじゃないんだけど、飛竜が目印にしやすいらしい。それで皆気を使って赤い屋根を使わないのさ」


高台から眺める街の中、建てられている家屋の屋根は大半が灰色か青色で、僅かに茶色いものがあるだろうか? といったところだ。


「海辺だけに、建物がすぐ傷むんだよ、この街は。この屋敷も十年ごとに、外装を大きく手直ししているくらいだし、町の家屋もみんなそんなもんだな」


「それでみんな外装が綺麗なのね。ちゃんと理由があったんだ?」


「港町はみんなそんなもんさ。リオンだってそうだったろう?」


リオンの話をされて、確かにあの街の建物は、綺麗な建物が多かったなと思い起こすものの、王都というものがそうさせているのかと私はその位にしか考えていなかったのだ。


「リオンの山百合も改装を容易にする作りですしね」


「そう。リーリカの言う通り、あそこの山百合はそうなっているな」


「みんな色々見てるのね」


「いや、お前が無頓着すぎるだけだろう?」


「別にエリス様はそんな些事など気にしなくても良いのです。そこにおられるだけで華やぐのですから」


「確かにそれはあるな。各地の山百合を泊まり歩くエルフの王女って、結構噂になってるぜ?」


「え? 嘘!? 最近はあんまりディナーでもダイニングを使ったりしなかったのに」


「いやいや、そこは少しは使ってやれよ。いい宣伝にはなるんだから」


「そうかもしれないけれど、やっぱり注目されながらに食べるのは肩が凝るもの」


「そうだ、アタシはちょっと任せっぱなしの決裁書の処理から逃げられそうにないし、この街の山百合に泊ったらどうだ? なんていったって、この街の山百合が元祖なんだぜ?」


「サラはずいぶん山百合の事情に詳しいわよね。元々シリウスの山百合だって、教えてくれたのはサラだったし」


「まぁ、色々と……ちょっとな」


やけにサラが山百合でVIP待遇だったのは、この出自を考えれば納得は行くけれど、どうにもそれだけではなさそうだと、私の勘は告げている。

もっとも必要があればサラが話してくれるだろうし、そのうち山百合のほうからどういう訳か、ざっくりした話くらいは聞けるかもしれないと思うから、敢えて追及はしないでいたのだ。


「山百合かぁ……サラの屋敷も泊まってみたかったけど、ちょっと急だったわよね」


「この屋敷は普段アタシがいないからな。住み込みで維持してくれる人員はいるけれど、あまりゲストを迎えることがないんだよ」


まあ、冒険者なんてものをしていれば、それは当たり前の話かもしれないけれど……でもそもそも、よく一国のお姫様が冒険者になんてなれたものよね。


改めて考えると、私サラの事ほとんどなにも知らないんじゃないかしら?


最近ではポツポツと自分の過去を話してくれるようになったリーリカのように、サラも私に過去を語ってくれる日はやってくるのだろうかと、そんな事を私は考えながら彼女の横顔を見つめていたのだった。




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