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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第四章 厄災の緋眼
114/144

貴賓室の怪談

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第114話公開です。

お楽しみください。

貴賓室の怪談




「すまない、お待たせしたようだ」


近衛師団のレンさんを伴って貴賓室に入室してきた国王の声に振り返る私たち。

丁度円卓の入口側に座っていた私たちは、自然とそうなる形になったのだけど、次の瞬間国王の起こした行動に反応できたのは、ただ一名だけだった。


国王の入室に立ち上がり、振り向いた私たちの中で、サラに視線を縫い付けられた国王は、しばしの間その時を止めた。

おおよそズキューン! もしくはドーン!! 等と心の内で鳴り響いただろう効果音は、国王にとんでもない行動をとらせたのだ。


「俺の子を産んでくれ!」


いきなり神がかった速度でサラに逼迫した国王は、片膝をつくとその手を両手でしっかりと包み込み、その一言を放ったのだ。


あまりの事態に唖然とする、その場の面々の気持ちは上手く伝わるだろうか?

そんな不安を感じる前に、轟音と共に振り下ろされた手甲が、国王陛下の頭上へと容赦なく打ち付けられた。

盛大に発する音に続いて聞こえるものは……


「アホですか!? まがりなりにも一国の王女に対して、いきなり何を言ってるんですか!!」


なんてテンションマックスに跳ね上げて罵声をあげる近衛の女性。

いやいや、問答無用とばかりに痛烈な一撃を、仮にも自らが守るべき対象の国王に振るうとか、それはそれで大丈夫なのだろうか? なんて疑問で頭の中が一杯になっている私たちをおざなりに、その寸劇は幕を開けたのだ。


「なんだ、レンは反対なのか?」


「反対だとか賛成だとか、そんな話をしているのではありませんし、結果的にそう望み、声を掛けられるのは構いません――が、すべての手順をすっとばし、いきなりなんて言葉を口にするのですか!」


「最終的に言うのだから、簡潔に意志を示しただけではないか」


「簡潔どころが省略しすぎだと言っているのです! みなさい、サラ王女どころかこの場の全員を声を失っているではありませんか」


国王は殴りつけられたことには微塵も気にした様子も無く、あまりにズレた論点の会話を近衛と繰り広げている。

私やリーリカは、ただその光景に言葉を失い、言葉を直接向けられたサラに至っては――石像と化していた。

どうやら少なからずは、先程の国王の言葉はサラの心に響きはした訳だ。

すごいわ、石化魔法なんて初めて見たわ。

貴賓室に一緒に来ていたアリシアさんは、眉間に指を当て瞑目していて、この騒動を止めようという考えはないらしい。


「それでは何といえばよいのだ!?」


「せめて結婚してくれ、位に留めることはできなかったんですか?」


私たちを無視して続けられる二人の言葉に、それも違うだろう? というツッコミを心の奥で呟いて、それでもこれはなんだか長くなりそうだと、私たちは覚悟を決めたのだった。


◇ ◇ ◇


「それでは少し話を纏めたいと思いますが……サラ王女」


「ああ」


「まずその者が厄災の緋眼であるのは間違いないのですね?」


「間違いない。灰となった緋眼の身体から溢れ出した瘴気のようなものが、地精霊(ルーシア)を取り込むように渦巻いて、その身体に入り込み、今はルーシアの姿をしているが、その意識は間違いなく緋眼のものだ。残念ながら私には、どうやってそんな事が可能になるのか、想像もつかないが」


冒頭から大混乱に陥った、厄災の緋眼についての情報交換の会談は、一人の文官が訪れたことで漸く事態は収拾されて、今はその文官の人が進行役をかって出てくれている。

この人、私が最初に招聘状で謁見したときに、人払いの後でも謁見の間に残った人の一人だと気が付いたのは、その会談の途中の事だ。

つまりはこの国の重鎮の一人なのだろうけれど、その年齢は思ったよりずっと若そうだった。


およそ四〇代に入ろうか? といったくらいで、比較的若くして王位を継いだ国王を、少し年の離れた弟でも扱うように上手にコントロールしている様に見えた。


「なるほど。それではエリス様、緋眼がサイダに現れたとき、フレバー子爵家の血統について話をしていたというのも間違いないですね?」


突然振られた話にドキリとしながら、私はあの時の状況を思い出す。

確かに言ってたよね? 血の話。えっと何だったっけ……


「その呪われた西方の血は――確か緋眼はそう言っていたと思います」


「呪われた西方の血、ですか。そうですね、フレバー子爵家と西方は縁が遠からずありますが、それを示しているのは恐らく……遥か昔に存在したという、西の帝国の事だと私は考えますね」


「西の帝国……ですか?」


「そうです。エリス様はご存知ないようですが、厄災の緋眼は西の大陸の出身ではないかという話は、割と有名な話ではあるのですが、そもそもその忌まわしい二つ名は、一つの国を滅ぼしたことに端を発します」


「その滅ぼされたという国が、西の帝国?」


「その通り。ノーザ王国でフレバー子爵家が興されたとき、その起源はゾーン公国に由縁があるために子爵として興されているのですが、ゾーン公国のルーツを調べれば恐らくは確認できるかと思います」


「でも、そんな古いルーツなんて調べられるのかしら?」


私が持ったその疑問に答えたのは、文官さんではなく、ブランドル公国の第一王女として求婚されるほどに美しく着飾ったサラだった。


「それは間違いなく、できると思うぞ?」


その言葉に頷く一同。


あれ? 私また何か変な事でも言っただろうか?


「国……この場合、その形態は問いませんが、王国であれ公国であれ帝国であれ、とにかく一国を興しているようなその頂点の一族というものは、その血に拘ります。例え傍流であろうと、必ずどこかで血統が絶えないように、極力直系を遺すのが一般的ですが、それを継承し守っていく事こそ、彼らの――オホン。この場には三名がおられますが……とにかく王の血を引く者の、アイデンティティーなのです」


なんだか回りくどいその言い方だったけれど、なんとなく言わんとすることは判ったけれど、けれどね?

――気が付けばハイエルフ(エルフの王女)となっていた私に、そんな血筋のことを言われたって、いまいちピンとこないのよね。


「まあ、ともかく調べられるのはわかりましたが……簡単にそんな大事なことを外部の人間に教えてくれるのでしょうか?」


「それについてですが、今回はむしろ協力的に情報が得られると思います」


「どういう事ですか?」


「まず、緋眼がその血族をターゲットにしているらしいので、ノーザ王国の得た情報として、注意喚起を兼ねて協力の書状を国王に書いていただけます。それに、サイラス公国の一国のブランドル家の第一王女と共に、ラスティの名を冠するエリス様が向かわれるのですよね? 世界の王の祖(ラスティ)の名の威光とは、エリス様が思われている以上に、各王家には無視できないほど、大きな影響を持っているのですよ?」


極めて真面目な表情で、そんな事を言う文官さん……あれ? この人の名前、私聞いてないような?

――ともかく、その文官さんが言うには、私とサラが行くのであれば、協力は得られるだろうという話だった。

そうなるとやっぱり、私たちはまずサラの実家であるブランドル公国へと向かう事になるのかしら?


「わかりました。そうすると、準備が出来次第、私とサラは西の大陸に向かおうと思います。それでいいわよね?」


私がサラやリーリカに視線を送ると、彼女たちも深く頷いている。


「方針も纏まったようですので準備にかかったほうが良さそうですね。国王、聞いての通りです。周辺諸国に宛てて、書状を書いてください。」


「いいだろう。宛先の拾い出しは任せてもよいな?」


「えぇ、構いませんとも。しばらくペンを取るのも嫌になるかと思いますが、世界が守られてこそでしょう。恨むなら私を恨んで頂いて結構ですので……そうだ、ラヴィナス卿は陛下がサボらないように監督をお願いいたしますね?」


「心得ている」


文官さんの指示に、それぞれ頷く国王とドレスアーマーの近衛騎士。

さあ、これで解散かな? なんて気を抜いたところに、もう一つの試練が私を襲うのだった。


「そう、エリス様には準備ができるまでの間、やって頂く事がございます。シリウスのベロニカ女史より、大量の衣料品をお預かりしておりますので――」


その時の私の心境は、きっとテスト明けの緩み切った状態で、抜き打ちテストを告げられる高校生のソレとよく似ていただろう。

そしてそのすぐ後、その量を目の当たりにしたとき、城内に響き渡る私の大絶叫。

その時私は、本当に失神してしまうそうなほどに、気が遠くなったのだ。


空き室を一室埋め尽くす、大量のドレスと女性下着。

その光景はもはや壮観と言っても差し障りなかっただろう。

うず高く積み上げられた衣装箱から溢れる下着の津波に呑まれる夢を、しばらく見ることになるのだった。


まさかその作業に十日も掛かるだなんて、思わないじゃない!?





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