公国の姫君
こんにちは。
味醂です。
お待たせいたしました。気が付けばエルフ 第113話公開です。
お楽しみください。
公国の姫君
ノーザ王国、王都リオン、その王城。
私たちはリオンに入ると、その足で入城することにした。
およそ二か月振りとなる登城となるけど、幸いにも顔パスで入城した私たちは、私の私室へと集まった。
もっとも集まったといったところで、この部屋に現在いるのは四名。
私が王城にいる間の専属給仕となってくれるアリシアさんとサラ。残る一人は勿論リーリカだ。
アリシアさんはこの王城の中では最も一緒に過ごした時間が長い。
前に聖地ラスティへと行ったときも、共に旅をしたわけだし、サラやリーリカに至っては今更言うまでもないだろう。
そんな警戒心の低い環境の中、私は思いっきり緊張の糸を緩めている最中だった。
ふかふかとしたベッドに飛び込んで、とにかく身体を大きく伸ばす。
何かと急ぎの旅路となったサイダからの帰路の旅は、かなりのペースで進んでいたために、流石に身体のあちらこちらがこり固まっていたのだ。
そんな様子を見かねてアリシアさんは湯殿の準備を急ぐように連絡に走ってくれたり、リーリカは肩や腰を揉みほぐしたりしてくれていた。
一方サラは、軟弱な私がそうやって、壮絶にちやほやされる光景を、ニヤニヤと眺めるだけで、特段それを咎めたりする気も無いようだった。
とりあえず今夜は王城に泊り、明日国王との会談の時間を設けてもらえることになっている。
サラの身分についても既に明かしており上空を随行していた飛竜は既に中庭でその羽を休めているのだった。
当然サラが単身で使える部屋が用意されているのだけれど、諸々の事情で一回私の部屋に来てもらっているのだ。
「ありがとう、リーリカ。もう大丈夫よ」
大分身体が楽になった私はリーリカにそう告げると、私の背中に跨るようにして本格的なマッサージ技術を披露してくれていたリーリカがそっと身体から降りる。
「続きはまた夜やりましょう。大分腰骨の周辺が緊張されているようです」
リーリカの言う通り、ずっと馬車の椅子に座り通しだったため腰から背中の間に掛けてが最もひどい。
馬車の客車の椅子が座り心地が悪いというわけではないけれど、ホールド性の低い柔らかいベンチシートでは、馬車の揺れに対して自分で身体を支えなければならない為に、高速移動中はかなり疲れるのだ。
それを思うと、自動車のシートってよく考えられていたのだと、今更ながらに思うのだけど、背中のラインを保護するようなシートは難しくても、シートベルトの代わりになるような物は再現できないものかしら?
「本当に、ちょっと見ない間に随分と仲良くなってるんだな」
「そうかしら?」
「ああ、そうだな……少なくとも恋人の様にベッタリなのは良くわかる」
そんな事を言うサラは別に嫌味などの深い意味はなさそうで、むしろ嬉しそうに言っている感じすらするのだけど、それ以上に私がその言い回しに対して、既になんの抵抗も無い事の方が、ある意味新鮮な驚きだった。
――リーリカと恋人のようだ。
この例えに、抵抗感を感じるどころか、嬉しさすら感じてしまう私は……もうすっかりこの漆黒の専属メイドさんに、やられてしまっているのだろう。
そんな自覚がもたらした余裕なのか、私はただ
「フフ。そうね」
と笑いながら、まだベッドの上にいるリーリカを背後から抱きしめれば
「エリス様、アリシアさんとサラ様が見てますよ?」
と、そんな事を言うリーリカも別に嫌がる素振りは見せる訳でもなく、穏やかな表情で腕の中で首を傾げているだけだった。
少しだけ開かれた窓より、その周囲を飾る葡萄酒色のビロードのカーテンを僅かに揺らし、部屋に吹き込む夕暮れの風はひんやりと涼しく、それは腕の中に抱き留めているリーリカの温もりを、より際立たでるようで、ほのかに感じる精油の香りを確かめるように、私は彼女の首元に頬を寄せるのだった。
目を閉じれば静かな息遣いが、私の耳朶をくすぐる漆黒の髪の擦れる音が広がって、心の中を安らぎで満たしてくれるかに感じられるのだった。
「もう少しだけ……」
リーリカだけに聞こえるように囁く私は、その時どんな表情をしていたのだろうか?
或いはミーシャとの別れ以降感じていた寂寥感を埋めたかったのか?
単純にリーリカに甘えていたかっただけなのか?
ただ傍にいる安心を、寄り添い過ごす穏やかな時間にしばしの間身を任せるのだった。
◇ ◇ ◇
その会談は、以前にも使用したことのある、窓の無い秘密の貴賓室で行われる事となった。
国王は午前の定例謁見の後に時間を作ってくれるという事で、およその時間で言えば午前十一時頃から開始され、昼食を挟み再開される予定になっている。
その会談の準備中、私が最も驚かされたのはサラの変わり様だ。
恐らく彼女なりの決意の表れなんだろうけど……いつものやや男装風の服装と違い、今日のサラはもうどこからどう見ても、一国の姫君という事をこれでもかと主張しており、またそれを否定できるものなど居なかっただろう。
グローリー男爵家のパーティーでは勿論フェミニンなドレスも着用していたサラだけど、ここまでバッチリとフルメイクはしていなかったはずだ。
流石に口調こそ変えていなかったものの、いや、もしこれで口調まで変えていたら、私は果たしてサラを認識できていただろうか?
なんだか酷い言いようにも感じるかも知れないけれど、それくらい今日のサラは気合が入っているという事なのだ。
気持ち紫味の強い、薄桃色ののドレスには、淵だけを濃い葡萄色染められた薄桃色のドレープと、何種類かの濃淡で全体を紫系統の色で染められた薄絹のドレープがサッシュのようにあしらわれた胸元から上のない、プリンセスラインのドレスだ。
流石にドレーンは無いものだけど、なんとも優美なドレスだった。
実家に帰った際に、持ってきたというそのドレスを装備化しながら、それを着用したサラを見て改めて、サラの持つ美しさのポテンシャルの高さを痛感していた。
銀細工のややボリューム高めの首飾りと、ティアラをつけたサラは凛々しさと可憐さを併せ持つ、妙齢の姫君だ。
「エリスのおかげで、大分着心地が良くなった」
なんて褒めてくれるサラだけど、私が検分した限り、当然といえばそうだけど、これは間違いなく彼女に合わせて仕立てられたドレスだった。
サラに付けられていた給仕以外に、準備のために駆けつけている若いメイド隊の子達も、それぞれに彼女を讃える言葉を口にして、その表情は羨望に溢れている。
「それだけ似合うのだから、普段からもっと可愛らしい服を着ればいいのに」
「流石にそれは遠慮したいな。一応これでも外では冒険者のつもりなんだ。動きやすい服装になるのは仕方ないだろう?」
「それはもっともなのだけど、なんだか勿体ないわ? ねえ、リーリカも思うでしょ?」
「そうですね、大変失礼な言い方になってしまいますが、敢えて言わせて頂くのなら、まさかここまで豹変するとは思ってもみませんでした」
いや、リーリカ、それは流石に言いすぎじゃ……
なんて思うものの、サラは一向に気にした様子も無いようで――。
「こうして注目を集めるのは、なんだか恥ずかしいんだ」
なんて、本当にほんのりとその頬を染め、やや俯いて力なく言う彼女に、数名のメイド隊がヤられたらしい。
そして私もなんだか一瞬走った電撃に、そのギャップに心をかき乱されて――
ギャップ萌えという言葉を痛烈に思い出していたのだった。
そんなある意味平和なやり取りをしていれば、いつしか時間は過ぎてゆき、私たちは一足先に貴賓室へと向かうのだった。




