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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第四章 厄災の緋眼
111/144

新街道にて

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第111話公開です。

お楽しみください。

新街道にて



ノーザ王国の西方、山々に囲まれた湖畔の城下町サイダ。

周囲を囲む山々に擁かれるように豊かな水を湛える湖の畔に作られた街。

その周辺を治めるフレバー子爵家で行われたグローリー男爵公子・ミリア嬢の、結納の儀と呼ばれるその実結婚式で、奇しくも彼女と少なからず縁のあった私は、その立会人を務めることとなった。


儀式の最中、突如瘴気を発した謎のタリスマンはその瘴気で新婦を包み込み、咄嗟に助けに出た次期当主、新郎のハッカーさんと共に深きサイダの湖底へと落ちていく。

そんな危機を、世界樹と顕現した水の精アクアによって助けられ、私たちが安堵のため息を漏らしていたその時に、突如アレは姿を現したのだ。


薄亜麻色の髪を揺らしながら、湖面を歩いてやってきた、一人の地精霊(ノーム)

その瞳は赤き血潮を思わせる深緋色に染まり、濃厚な死の気配を纏いながら私たちの前に立ったのだ。


突如私に向けられたその凶刃は、私の命を刈り取らんと迫るのだけど、思いもよらない人物の介入で、私の命が刈り取られることはなかったのだ。


その人物とは、林の中で魔物に追い回されていた私の前に現れて、シリウスへと導いてくれた彼女。

灰茶色(アッシュブラウン)のショートヘアの似合う麗人、サラ。

そして、西の大陸サイラス六公国六家のうちの一つ、ブランドル公国第三公子であり、第一王女サラ・ブランドルその人だ。


――――。


「それで、やっぱりこれは色々まずいんじゃないのかしら?」


「なにがだ?」


「いや、だって……王女様に御者をさせるわけには」


「大丈夫だって、アタシが王女だとかそういうのは忘れてくれって言っただろう?」


「そんなこと言われても、やっぱりリーリカか私がやったほうがいいんじゃ?」


「大丈夫ったら大丈夫だって。昔からよく馬車の移動は客車より御者台にいるほうが好きだったんだ。風が気持ちいいしな」


思い出すように繰り返されるこのやり取りは、サイダを出発して一体何度目のやり取りだろう?


そう、私たちは今馬上の人だ。

ミリアちゃんの結納のあと、色々あったのだけど、いつの間にか妊娠して身重になっていたミーシャを故郷に送る為、正確には一度王都リオンへ報告に行くために、そのついでに寄るのだけど。

とにかくナラシーの北西にあるというリンクスビレッジという里に一度寄って、ミーシャをパーティーから外そうという事になったのだ。


猫人キャットピープルのミーシャは春と秋の初旬頃に発情期(・・・)があるらしい。

一体いつの間に? とも思ったけれど、考えてみれば私とリーリカはほぼ行動を共にしていたけれど、ミーシャに限れば実はそうでもない。

移動が終わって宿についた後、馬の世話をする以外は基本的に自由行動なのだから。


相手についてはミーシャは興味がない様で、むしろ若い雄(・・・)が近くにいては、落ち着いて子育て出来ないのだという。

今になって考えてみれば、ミーシャが王都でたこ焼きを貪るように食べていたのは、これから必要になるタウリンを大量に身体が欲していたからなのだろうか?


現在当の本人は後部のカーゴスペースでクッションを集めて丸くなって昼寝中。

もふもふとした太い尻尾だけが、時折揺らめていているのだけど……あれ本当は起きているんじゃないかしら?


ともあれ頭数(あたまかず)から除外した彼女の話は置いておいて、私たちは今塩の街道(ソルティーロード)の新街道、コフより真っ直ぐと東へ伸びる、豊かな森林を開拓され敷設された綺麗な道を軽快に走っている。

冬の訪れの早いサイダと違い、コフより東はまだまだ秋真っ盛り。

周辺の森は色とりどりに色づいて、旅往く者の慰めとなる。


機能性を優先して作られた街道は、その幅も広く設計されているために、順当にいけば数日の間にはリンクスビレッジ

に到着できる見込みだ。

この先の通過予定となるのは都市であるオウカの城下と、ナーガ村、その近隣のバダイ村。

そこまでいけばもうシリウスは目の前である。

目的のリンクスビレッジはシリウスより一度ナラシーへと出た後に、北への街道を進み、ラスティから合流してくる分岐の更に北の分岐を北西へと進む、山越えのルートとなるそうだ。

シリウスからラスティへと北上する一本北の街道を通る案も出たのだけれど、あのハエの悪夢を思い出し、私とリーリカがそれについては断固反対したのだ。

結果的にリンクスビレッジへは、ナラシー経由で行くことになったのだけど、目的地の獣人たちが多く住むというその里は、隠れ里かと思ってみたら、どうもそういう訳ではないらしい。


現にサラもリーリカもその名前を知っており、なんでも周辺では良質な野生の馬が沢山生息しているのだとか。


その為に、名馬の産地として有名なんだって。


考えてみれば、最初にミーシャに会った時、彼女も馬を連れていたけれど、ミーシャの話によれば里の近くの山野で捕まえたらしい。最終的には、その馬はたこ焼きへと姿を変えてしまったのだけど、ね。


まずは彼女を安全に里まで送る。

これが今の第一目標で、その後の事はまた追々相談しようとのことだった。



◇ ◇ ◇



夜を野営で明かすのは、随分と久しぶりの事だった。

ここしばらくは山百合や城館という快適な場所に泊り慣れていたために、こうして四人で焚火を囲み、味の濃い食品で作った夕餉を戴くのはある種の趣が感じられるというものだ。


ただひとつ慣れないことと言えば、私たちの後ろに長い首を丸めるように休んでいる飛竜くらいだろう。

この飛竜、なかなか賢いらしく、サラが馬車についてくるように命じると、上空高く舞い上がり、のんびりと風を掴むように、ほとんど羽ばたくことなくついてきた。

随分と重そうなその身体が、なぜもあんな風に軽やかに飛べるのか気になってサラに聞いてみたんだけど


「飛竜はその血で飛ぶのさ。飛び回るからこそ飛竜なんだ」


なーんて、なんだか禅問答のような答えを貰ってしまったのだった。

ブランドルの血を引く者にしか懐かないという飛竜だけど、一緒に居る分には近づいても嫌な顔をしたりはしない。

むしろ触れることも出来るくらいだった。

キラキラと光沢があるようにみえるけど、その手触りは案外と優しくて、鱗がガサガサと痛い! なんてことは無く、しっとりとした感触に近かった。


「そういえば飛竜にはご飯あげなくていいのかしら?」


「うん? こいつは腹が減れば適当にその辺で鳥や獣を狩ってきて食べるから大丈夫だぞ?」


「随分と賢いのね」


「ああ、賢いな。一応実家(・・)には竜舎もあるんだけど、繋いでおいたりはしないんだ。どうせ出かけていても、呼べばすぐに戻ってくるし」


「サラの一族の人はみんな飛竜を手懐けることが出来るの?」


「いや、全員がというわけじゃない。ただその可能性は非常に高い。それは間違いないな。あとこれはあまり知られてない事なんだが……ワイバーンというものは、魔物だ。でも、飛竜は魔物ではない」


「え?」


「エリス様。ワイバーンというのは亜竜種、その中でも翼竜で、空を駆ける魔物の総称なのです」


「流石にリーリカは知っていたようだな。そう、飛竜ほど大きい魔物はそうはない。大体は飛竜と比べて半分程度が精々だ。もっとも飛竜はコアを持たない、普通の原生動物なんだが」


「魔物の個体限界ですね。魔物は類似する原生動物に似ることが多く、それらに比べると大型化する傾向があるものの、一定以上の大きさの魔物は存在せず、原生生物がそれ以上大きい場合は、逆に小型化する」


「個体限界……初めて聞いたわ」


「冒険者となってまだ一年も経たないんだ。それは仕方ないだろう。それに街を基本に生活しているのなら、早々に魔物と出くわすことなんかないからな」


「まあ、それでも私もエリス様もブラッドフライの一斉羽化という死の危機に出くわしましたけれどね」


流石のサラもそのことには驚いたらしく、食事の手を止めてこちらをみている。


「よく生きてたな、お前たち」


「エリス様が実にエリス様らしい方法で切り抜けてしまわれました。もっともその後力尽きておりましたが」


その言葉に、あの黒い狼煙のような光景が思い起こされる。


「あのときは、なんというか……ほとんど無意識だったのよ。いや、意識自体はハッキリはしてたんだけど、なんかこう勝手に声に出たというか」


「一体何をしたんだお前? その話だけじゃイマイチ要領を得ないんだが」


「何……をしたんだろう?」


「エリス様、あれは間違いなく、複数魔法の同時発動です。有り得ない事ですが、私が認知している限り、三つの魔法を同時に発動させたように見えました」


「どうにも魔法の事は判らないからなぁ。そうだ、王都に行った後に、一度ウチへ行かないか?」


「サラ様の家、というとブランドル王家ですか?」


「厳密には王家とは違う筈なんだが、既に皆そう呼ぶからな。」


「そこになにかあるの?」


「ある、というか、いる、だな。この場合。下の兄様は魔法に詳しいんだ。上の兄様やアタシと違って、魔法の才能があったからな」


西の大陸かぁ……それもいいかもしれない。実質一国の王家であるそこでなら、新たな世界樹の話も聞けるかもしれない。私はそんな事も考えつつ


「そうね、それもいいかもしれないわね」


と、曖昧に答えたのだった。

見ればいつの間にかウトウトと寝ているミーシャと一緒に過ごすのも、もうあと僅かの事だろう。


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