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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第三章 薄亜麻色の地精霊
104/144

結納の儀

こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第104話公開です。


結納の儀




城館近くに作られた桟橋に、その大きな筏、というよりも、やはり艀、或いはバージと呼んだほうが相応しそうな舞台がつなぎ止められていた。

その大きさはなんと表すのが適当か、前の世界の単位で言えば、幅七、八メートル、長さはそれより長い十メートルほどの、長方形の台船の上に、八つに程度に切ったスイカの実を削いで、皮だけを乗せたような、そんな葦の装飾が施されていた。


葦の装飾の周り、台船の周囲には、所狭しと花が飾られており、さながら花の海に浮かぶ船にも見えるのだった。


先日私が増やした分に、コフより追加で取り寄せられていた花たちは、今日の主役であるハッカー・フレバー子爵公子とミリア・グローリー改め、ミリア・フレバーとなる二人の為に、用意された花たちだった。


斑点の無い薄桃色へと色づいた、沢山の山百合は花嫁当人たっての希望により、花嫁の持つブーケへと仕立てられていた。



間もなく参加者が集まれば、いよいよ結納の儀が厳かに開始されるだろう。


結納の儀は、まずその祝福の舟に乗り込んだ仲介人――つまりは私が、二人を迎え入れるところから始められる。


「汝ら、永遠の絆を結ばんと、約束を誓う者達か?」


私が言うべき最初の台詞は、二人に対する問いかけだった。

その問いに、二人が答えた後に


「よろしい。それでは祝福の舟へと乗るが良い」


と、二人を促し、続く者達に


「汝ら、この者達の祝福を、見届けんとする者か?」


と問いかけて――――以下省略。


っと、私は頭の中で何度も何度も繰り返し手順をさらったその内容を、頭の中で反芻(はんすう)していた。

なんでも、立会人省略の場合には、両親が若き二人を迎え入れるのだそうで、立会人がいる場合は、男性ならば地母神に仕える神官の、女性であれば、地母神が顕現した現身に見た立て儀式を執り行うそうだ。


つまり、今私は地母神デメテルのコスプレをしているわけなのだけど、なんというかね……なんでこんな衣装が、私の荷物の中にきちんと用意されているのよ?

一体何を想定して、ベロニカさんはそんなドレスを用意しておいたのか、今度会った時にでも聞いてみないと、この胸の中のモヤモヤが収まらない。


なんでそんな気分になるかって?

それは、このドレスのあまりの露出の多さが原因だった。


胸の前でクロスして、更に捩じられ胸を包み込む上衣の一端は、首に付けられたカラーに繋がっており、反対側は、どう考えても下半身を巻ききれないように設計されている、スカスカの巻きスカートの中に通されて、さながら褌の前垂れのようだった。上半身の背中側に至っては、胸の横より後ろは一切布が無く、長くたなびくその巻きスカートも、お尻こそは隠れるものの、サイド部分はスカスカなのだ。


そしてなによりその素材。

もうね、下着が透けて見えるって、どういうことよ?


来てから装備化されてない事に気が付いた私は、それを装備化して、更に増えた露出の多さに、内心後悔の念で一杯になったのだった。


先に式の準備の一環で、こうして先に祝福の舟で待つために屋敷を出てきた私に、ミント夫人は大いにそのテンションをあげて、私を褒めまくっていた。

ただ、最後に一言。


地母神(デメーテル)の顕現と言うには、少しばかり胸が寂しいかしら?」


ぐさりと刺さるその言葉に、リーリカは


「エリス様の胸は、その大きさよりも、その柔らかさが素晴らしいのです!」


なんて力説するもんだから、余計にミント夫人のテンションが、変な方向に跳ね上がってしまったというのは、ほんの十分程前の事だった。


これでも昔に比べて随分立派になった胸に、ちょっと位。ほんのちょっとは、自信がついて、多少は誇らしい気持ちすらあったというのに、そんなちっぽけな自信など、もはや粉々に打ち砕かれたのだった。


少しばかりしぼんだ私の気持ちを、引き締めたのは、儀式へと赴く二人の出発を祝う、乾いた祝砲の音だった。


ついに、結納の儀はその幕を開けるのだ。




◇ ◇ ◇



緊張に高鳴る胸にそっと手を当てて、私は屋敷の方を静かに見ていた。

やがて木立ちの隙間より垣間見て、ついにその姿を現した二人はハッカーさんがやや前を、そっとミリアちゃんをエスコートしながらゆっくりと歩いてくる。


流石に子爵家の次期領主となるハッカーさんの服装は、もうバッチリと決まっていた。

燕尾服……とはちょっと違う。

白地の表地に、大きく返された襟は紺碧で、染め上げられて、どうやら裏地はその深い碧色となっているようだ。

フロントショートの上着の裾は、後ろに長く流れ落ち、一度腰回りで大きく絞りが入った後に、スペードマークを逆さにしたような形状で、背中側へとまとまっていた。

真っ白なドレスシャツの首元に、灰色と銀鼠に地紋の入る織物で作られたスカーフタイで飾られて、金のタイリングで締められていた。

シングルタックのやはり碧色のスラックスに、白い靴がなんとも映える。


並ぶミリアちゃんの服装は、先日着ていたショート丈のワンピースドレスだけれど、その手にはめられた手袋の越しに、白い手が透けて見えていた。手にしたブーケは、私が贈った山百合をライカさんがアレンジしたものだ。


練習の時とは違い、本番である今日はバッチリと決まったメイクの為か、はたまた結婚という一つの儀式(セレモニー)を区切りと捉え、挑む心が少女を大人の女性へと変えたのかも知れなかった。

そこに居るのは、もう可憐なだけの少女などではなく、一人の立派な女性の姿であった。


思わず見蕩れて飲まれそうになりかけながら、目の前で歩みを止めた二人に対し、用意された言葉をかけるのだ。


「汝ら、永遠の絆を結ばんと、約束を誓う者達か?」


「「はい、その通りです」」


綺麗に揃うその声は、私に真っ直ぐと、はっきりと向けられて


「よろしい。それでは祝福の舟へと乗るが良い」


続く言葉に、ハッカーさんがリードして、ミリアちゃんを祝福の舟へと誘った。

二人が無事に、祝福の舟へと乗り込んだのを見届けた(のち)、後に続くのは、子爵夫妻と式の進行の手伝いをするメイド姿の者たちだった。


しっかりと目を見据えて問いかける。


「汝ら、この者達の祝福を、見届けんとする者か?」


「その通りでございます。未だ何者でもない彼の者達が、絆を結ぶ約束を違わぬよう、見守る者でございます」


参加者を代表して、フレバー子爵が声高らかにその目的を宣言した。


「よろしい。それでは祝福の舟へと乗るが良い。此度の儀は地母神・デメーテルの名のもとに、エリス・ラスティ・ブルーノートが立会人となりましょう」


失敗しないかと、ドキドキとしながらもなんとかそう言い切って、全員で祝福の舟へと乗り込むと、祝福の舟はゆっくりと湖上を滑り出すのだった。


――あれ? この船、一体どうやって動いているのかしら?


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