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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第三章 薄亜麻色の地精霊
102/144

その広き背に

こんにちは。

味醂です。

気が付けばエルフ 第102話公開です。

その広き背に




「ねぇ、まだなの? 早くしてよ……」


「わ、分かってるって。」


屈んだ状態で手を伸ばし、なにやら要領を得ないペートを私は待っていた。

もう随分と待たされているというのに、一向に来ないペートに痺れを切らし、覗き込んでいた窓から離れるとドアへと移動してノブにその手を掛けたとき、ガチャガチャと響く音がするのみで開かないドアは、つまりは鍵が掛けられていた。


「ちょっと! ペートなんで鍵なんかかけてるのよ!?」


「わあっ! 馬鹿、すぐ行くからまってろって言っただろう?」


「大体仕事に使う道具ぐらいきちんと整理しておきなさいって、いつも言ってるじゃない」


「違うんだ、これはその……そう、ロープ! とっておきのとこに行くにはロープがないと危ないんだ」


なんだか苦し紛れに適当な事を言っているようにも聞こえるその言い訳に、私がいい加減にドアを蹴破ってやろうかと考えていると、ようやくペートは採取に必要な道具を揃え、ドアを開けて出てきたのだった。


「ふーん、まあいいわ。早く行きましょ」


一応きちんと道具を揃え、採取した花を入れるための背負い籠も二つ用意されていた。


「お、おう」


答えながらに彼は再び鍵を掛けると、何度か施錠を確認して、今度は私の前を歩きだし、私たちは花の摘み取りへとやっと出発することになったのだ。


それにしても――いつもロクに鍵なんか掛けないペートがなんでこうも鍵を掛けたんだろう?


まあいいわ、とにかく今は一刻も早く領主様に届けるお花を確保しないとだしね。

いつの間にか随分と先を行くペートに、私は慌てて歩む速度を上げついていくのだった。



◇ ◇ ◇



「ねぇ? まだつかないの?」


「もうちょっとだよ」


「さっきからそうやってもうちょっと、もうちょっとって。一体何回目よ?」


「仕方ないだろう? それはお前が聞きすぎるんだから」


正直私は苛立っていた。

時間も惜しいというのに、ペートときたら、なんだか随分と回り道をしながら案内しているように思えたからだ。

もしかしてちゃんと摘む気がないのかしら?

ほら、下の方に見える小径はずいぶん前に通ってきた道の筈。

此処から下る獣道を通れば済む話なのではなかったのだろうか?

私は苛立ちも手伝いって、ついにその疑問に触れてしまう。

その時はそれが彼なりの優しさだったなんて、わからなかったのだから仕方ない。


「そんなこと言っても、なんだか随分遠回りしてるみたいじゃない」


「お前な、人が親切で遠回りしてやってるのに文句ばかり言うなよ」


「なによそれ! なんで遠回りなんかするのよ? そこの獣道だって通れば随分時間を短縮できた筈じゃない」


一気にまくしたてる私に、彼は少しムスっとした顔で、ただ黙って指を突き出してくる


「何よ? 指なんか突き出して」


「馬鹿かお前? 大体なんで山に来るのに、そんな恰好してくるんだ? お前山を舐めてるだろ?」


私の恰好――お気に入りの水色の半袖のショートワンピース。ローカットのパンプス。

確かに、山に来るような恰好ではないのは確かなようだった。


「…………」


「こんな獣道でも結構急なんだ。滑り落ちたら下まで一気に落ちるぞ?」


「だ、だったらあなたが後ろで支えてくれればいいじゃない」


「パレット、お前ソレ本気で言ってんの?」


「あ、当たり前じゃない! 女に二言はないわよ!」


「わかったわかった。じゃあ、そこから次の獣道があるから、そこからお前が先に登れよ。なに、落ちて来ても、ちゃんと受け止めてやるからさ」


そういって彼が指さした方向にある獣道へと、私はズンズンと進んでいき――


あっと言う間に、四つん這いにならないといけないほどな状態になってしまった。


「おい、お前もうそれ、無理なんじゃないか?」


「だ、大丈夫よこのくらい」


勿論そんなわけあるはずない。

ローカットのパンプスはろくに重心が定まらないし、なにより偏る荷重を支えられず歪んでしまいそうだった。

そんな状態を支えるために、出っ張った岩に手をかけ這いつくばるように進んでいたのだけど、次の瞬間私はもう動けなくなってしまったのだ。

ペートの放った一言で。


「へぇ? 最近はずいぶんと変わった形のパンツ(・・・・・・・・・)を履いているんだな?」


「なっ!? 何を覗き込んでいるのよ!」


「なにって、覗き込むもなにも、そんな恰好で見るなってほうが無理ってもんだ。俺だって体勢を低くしてないと、こんな獣道登れないからな」


後ろをみると、私のお尻にくっついてしまうんじゃないかという位の距離にペートの顔があり……

確かに私は、自分から彼の目の前に突き出したかのような、恰好をしていたのだった。


「ぺ、ペートの馬鹿ぁぁあああ!!」


山の中にこだまする絶叫の中、流石にその顔を蹴り飛ばしたりはしなかったけれど、そのあと私は花の咲いている自生地まで、彼と言葉を交わすことはなかったのだった。



◇ ◇ ◇



一体どうしてこうなった?


私はペートの背中に背負われながら、帰りの道中ずっと考えていた。

結局は、そう。私が全部悪いのだ。


なんやかんやいってもお昼頃には、花の自生地に着いた私たちはそこで花をせっせと採集した。

それこそ用意していた背負い籠二つがいっぱいになるくらい。


そこは山の中腹に、せり出すようになぜか花畑の舞台のようになっていた。

「端の方は危ないから近寄るなよ」なんて言いながら、ペートは私の腰にロープを括りつけ、反対側を自分の腰に括りつけた。

そして「珍しい奴が咲いてるな」なんて言いながら、一輪摘んで、私の髪に差してくれたりしたのだった。

その花はあまり大きく開かない百合に似た花で、白い花弁の下のほう桃色で、時間と共にその花弁は薄桃色にそまるのだという。

この手の花にしては優しいその香りは、なんだか心を落ち着けてくれて。

私たちは籠一杯に花を摘んだのだった。


「そろそろ戻るか」


そんな事を言い出したペートに私が素直に従っていれば。

「まだまだあるじゃない、もっと摘みましょうよ!」なんて私が言ってしまったために、ペートはこれ以上はこの場所を痛めるから駄目だと反論した。

ムキになった私はろくに足元もみないでまだ沢山咲いている方へとずんずんと歩いていき――――


あっ!

と思ったときには私の足は、虚空を踏み抜いていた。

そしてゆっくりと視界が反転する中、予感していたように駆けだしていたペートは、私の名前を叫びながら、自ら飛び込むように、私の身体を抱きかかえ、二人そろって大人2,3人分の背丈はありそうな段下の藪へと落下した。


幸いにも背負い籠がクッションになったようで、バラバラに粉砕されてはじけ飛んでしまったそれはそのままに、緊急用の一本しかない傷薬(ポーション)を、惜しげもなく私の顔にふりかけると、ぺートは私を無言で抱きしめて、嘆息一つ漏らすとその背に背負い、今こうして山を下る長い道のりを、歩いているのだった。


久しぶり背負われたその背中は、いつの間にか知らない背中のように大きくて、不思議と心休まる気がした私は、いつの間にか寝てしまったようだった。


◇ ◇ ◇


家に戻ってきた私は、言葉すくなに着替えるために自室に戻った。


「悪かったね、ペート。パレットが迷惑かけたようで」


「俺は大丈夫だけど、顔の傷、一応傷薬(ポーション)で塞いだけれど、ちゃんと見てもらった方が良い。そんなにいい傷薬(ポーション)じゃないから」


「まあ、大丈夫だろうよ。パレットは誰に似たのか強情なとこがあってね、お前さんも大事なくてよかったよ」


「それより、花が全部ダメになっちまった。」


「それはそれ。これからまた考えればいい事さね」


手早く着替えを終えた私は、「ペート……ごめんなさい」と一言謝りながら、持ってきた絞った手拭でペートの顔にこびりつく血の跡を拭ってあげた。

一歩間違えていたならば、私だけでなく、彼まで殺していたかもしれない。

その事実を不意に認識して、私はいつの間にかボロボロと、大粒の涙をあふれさせていた。


「ほら、元気出せよ」


そう言って、私の髪に取り付けてくれたのは、山でペートが付けてくれた花だった。


「お前が寝ちまったあとに、落ちてきたのを拾っておいたんだ。折角花を摘みに行ったんだからな、それだけでも残って良かったじゃないか」



その言葉に、再び視界が急激に悪くなりそうになった時。

来店を告げる店のドアに付けられたベルが鳴り響いたのだ。


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