【SS】子爵令嬢の私。王都の軒先で雨宿りしていたら、騎士様と恋が始まりました。
なろラジ向けに、ひょんなことから始まる恋を書いてみました。
お茶のお供にどうぞ♪
ほんのり甘い異世界恋愛ショートショートです。
「――助かった……!」
ずぶ濡れの青年が軒先へ飛び込み、紺色の外套をばさりと払う。
金髪が濡れて額に張りつき、雫がきらりと落ちる。
青年ははっとして背筋を伸ばす。
「失礼した。先客がおられたとは」
「いえ、突然の雨ですもの」
「しばらく止みそうにないですね」
「ええ……春の豊穣の女神は気紛れですわ」
侍女のリアナも小さく会釈し、
青年の腰の剣と胸の紋章へ視線を落とす。
「お嬢様。”あの”蒼銀の剣様ですよ――」
(……っ! あの最強と名高い!?)
彼は苦笑を深めた。
「その名は、どうにも落ち着かない。
アレンとお呼びください」
彼の指先が濡れた髪をすくい、軽く払う。
その仕草に、胸の奥がふっと熱くなる。
慌てて目を逸らすと、リアナはそっと店内へ入った。
*
雨脚は強まり、軒先の端が白く煙る。
雨粒が石畳に細かな音を刻む。
(少し、寒い……)
思わず肘を押さえて身を縮めた瞬間――
ふぁさ。
肩に温もり。胸がふっと浮いた。
(外套……?)
思わず彼を見上げる。
「……震えておられたので」
彼は雨音に紛れるほど小さく、優しく笑った。
「アレン様……ありがとうございます」
彼の香りと温もりに包まれ、雨の帳を見つめる。
どうして?
頬が、熱い。
*
雨は止み、街路に薄く陽が射し込む。
彼は、小さく息をついた。
「……そろそろ戻ります。任務の途中でして」
「……こんな雨も、悪くありませんわね」
思わず言葉が零れ、彼は照れたように目を細めた。
「……それはずるい」
「……ずるい?」
雨上がりの香りがふわりと漂い、軒先の雨だれがぽとりと落ちた。
「――リディア様」
「……どうして私の名を?」
「王宮の晩餐会……。手袋を拾ってくださったでしょう?」
心臓が跳ねた。
あの時指先が触れた――
「――ですから……気紛れな雨に感謝を」
――振り返れば、店内のリアナが「ほらね?」と。
彼は軽く礼をして背を向けた。
私ははっとして外套の袖を握る――
「……あの、これ……」
彼は振り返り小さく笑う。
「――それは、晴れの日にあなたに会いに行く理由です」
息が止まった。
私は胸に手を当て、彼を見送る。
はにかんだ笑みが雨上がりの光の中に溶けていった。
「これ、要りませんでしたね……」
リアナは買ったマントを肘にかけ、肩をすくめた。
「では、さっそく婚約届をご用意しませんと」
「なっ……?」
「違うのですか?」
「もうっ! 意地悪」
きっと今、耳まで真っ赤だ。
(でも。女神の気紛れに感謝を――)
甘い恋の予感が、胸の奥でそっと弾けた。
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