表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート置き場

【SS】子爵令嬢の私。王都の軒先で雨宿りしていたら、騎士様と恋が始まりました。

なろラジ向けに、ひょんなことから始まる恋を書いてみました。

お茶のお供にどうぞ♪

ほんのり甘い異世界恋愛ショートショートです。

「――助かった……!」


ずぶ濡れの青年が軒先へ飛び込み、紺色の外套をばさりと払う。

金髪が濡れて額に張りつき、雫がきらりと落ちる。


青年ははっとして背筋を伸ばす。


「失礼した。先客がおられたとは」


「いえ、突然の雨ですもの」


「しばらく止みそうにないですね」


「ええ……春の豊穣の女神は気紛れですわ」


侍女のリアナも小さく会釈し、

青年の腰の剣と胸の紋章へ視線を落とす。


「お嬢様。”あの”蒼銀の剣様ですよ――」


(……っ! あの最強と名高い!?)


彼は苦笑を深めた。


「その名は、どうにも落ち着かない。

 アレンとお呼びください」


彼の指先が濡れた髪をすくい、軽く払う。

その仕草に、胸の奥がふっと熱くなる。


慌てて目を逸らすと、リアナはそっと店内へ入った。



雨脚は強まり、軒先の端が白く煙る。

雨粒が石畳に細かな音を刻む。


(少し、寒い……)


思わず肘を押さえて身を縮めた瞬間――


ふぁさ。


肩に温もり。胸がふっと浮いた。


(外套……?)


思わず彼を見上げる。


「……震えておられたので」


彼は雨音に紛れるほど小さく、優しく笑った。


「アレン様……ありがとうございます」


彼の香りと温もりに包まれ、雨の帳を見つめる。


どうして?

頬が、熱い。



雨は止み、街路に薄く陽が射し込む。

彼は、小さく息をついた。


「……そろそろ戻ります。任務の途中でして」


「……こんな雨も、悪くありませんわね」


思わず言葉が零れ、彼は照れたように目を細めた。


「……それはずるい」


「……ずるい?」


雨上がりの香りがふわりと漂い、軒先の雨だれがぽとりと落ちた。


「――リディア様」


「……どうして私の名を?」


「王宮の晩餐会……。手袋を拾ってくださったでしょう?」


心臓が跳ねた。

あの時指先が触れた――


「――ですから……気紛れな雨に感謝を」


――振り返れば、店内のリアナが「ほらね?」と。


彼は軽く礼をして背を向けた。


私ははっとして外套の袖を握る――


「……あの、これ……」


彼は振り返り小さく笑う。


「――それは、晴れの日にあなたに会いに行く理由です」


息が止まった。


私は胸に手を当て、彼を見送る。

はにかんだ笑みが雨上がりの光の中に溶けていった。


「これ、要りませんでしたね……」


リアナは買ったマントを肘にかけ、肩をすくめた。


「では、さっそく婚約届をご用意しませんと」


「なっ……?」


「違うのですか?」


「もうっ! 意地悪」


きっと今、耳まで真っ赤だ。


(でも。女神の気紛れに感謝を――)


甘い恋の予感が、胸の奥でそっと弾けた。


最後までお読みくださり、ありがとうございました。

よろしければ、リアクションや評価などして頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うわ〜(//∇//) 言葉選びがとても素敵です。 短いのに前後の物語まで想像できて凄いです。 リアナがいい味だしていますね(*´ω`*) とても素敵な物語をありがとうございました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ