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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第5章:物語はどこまで続く
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53.懐かしい緑の瞳

パトリシアと名乗った女性が部屋に入ると、後ろでドアが静かに閉まる。

彼女を連れてきたはずの男性は姿を見せなかった。

「お義母様かあさま…?」

確かに、アデルの母はパトリシアという名だ。

けれども、こんな所に居るはずは無いのだ。

「えぇ、表向きは出家した事になっているのだったかしら…驚いたでしょう?」

そういって微笑む緑色の瞳に懐かしさを感じる。

アデルと離れてからまだ1日も経っていないのに、彼が恋しかった。

そして、彼を思い起こさせる瞳に、間違いなく義母だと確信してしまう。

慎重になれと頭が警鐘を鳴らすのに、心はすでに彼女を義母だと認めて安心している。

「あなたには、会いたいと思っていたのよ。」

そういって微笑む彼女は、なるほど、屋敷に飾られた肖像画の面影を残していた。

次第に、私の中の冷静な部分も彼女を義母だと認識し、警戒を緩める。

「なぜ…。」

「聞きたいことはたくさんあるでしょうけれど、まずは座りなさい。身重の体でここまで来るとはさすがに思って無かったわ。」

彼女は声に少しだけ怒気を込めて言った。

私はシュンとして謝ると、促されるままに腰かけた。

カナンはお茶を運んでくると、お義母様の前に傅いて私に無理をさせたことを詫びる。

「いいえ、ご苦労でした。あなたも休みなさい。」

お義母様はカナンを叱らずに居てくれて、私はほっと胸を撫で下ろす。

すべて、私の我侭なのだ。

カナンは私の側に侍ることを願い出て許された。

「休んでいてもいいのに。」

「いいえ。」

短いやり取りに彼女の気遣いを感じて、久しぶりに微笑を向ける。

一瞬虚を衝かれたような顔をしてからカナンも小さく微笑みを返してくれた。


「それで、まずは言い訳をしてもらいましょうか。」

「言い訳…ですか?」

「そうよ。体を大事にしなければいけないはずでしょう?しかもこの雪の中を…何があって、ここに来たのかその理由を話して頂戴。」

お母様の緑色の目はごまかしを許さないとばかりに私を射抜く。

私は一口お茶を含んで唇を湿らせると、ポツリポツリと話し始めた。

妊娠してからのアデルの様子とそれを私がどう感じているか。


時々相槌を打ちながら話を聞いてくれたお義母様は、途中から額に手を置いて眉間に皺を寄せた。

その様子に私は小さくなってすいませんと言葉を切った。

「あ、違うのよ。あなたが逃げたくなるのも分かるわ。馬鹿息子がごめんなさいね。」

お義母様はそういって私に微笑んでくれた。

「ここまで来る途中で何事も無かったのだから良いのよ。あなたもお腹の子も無事なら良いの。馬鹿息子が迷惑かけた分…という訳ではないのだけれど、ゆっくりしていって頂戴。私の話し相手になってくれるかしら?」

「いいのですか?」

「えぇ、もちろん。私はあなたの義母ははでもあるのだから。といっても、あなたはなかなかゆっくりできないかもしれないけれど…。」

そういって困ったように微笑むお義母様に私は首を振った。

全く緊張が無いといったら嘘になるけれど、この家の主が身内とも言える立場の人だった事に胸を撫で下ろしていた。

しかも、なぜかこの目の前の女性に対して、私ははじめから警戒心も遠慮ももてない。

アデルと同じ瞳のせいか、彼女の目じりに刻まれる深いしわのせいか、それとも穏やかな話し方のせいか、理由はわからないけれどなぜだか甘えたくなる。

姑だという実感が湧かないだけかもしれないけれども。

アデルの側で安息できない今、これ以上にくつろげる場所は他に無いと思う。


「では、家の者を紹介するわね。」

そういって彼女が呼び鈴を鳴らすと、程なくして案内してくれた男性と、玄関ですれ違った少年と、もう一人、私と同い年くらいだろうか?青年が姿を現した。

年齢順にブルース、モッズ、ボレロという呼び名らしい。

「今は彼ら3人だけなの、カナンがいろいろお手伝いするでしょうけれど、不自由だったらごめんなさいね。」

お義母様はそれだけ言うと、私に部屋を一部屋与えるようにブルースに言う。

夕食まで部屋でくつろぐといいと言われてカナンと共にブルースの後に続いて居間を出た。

聞きたいことも話したい事もたくさんありすぎて、何から聞けばいいのかわからないのだ。

一度冷静になる時間が必要だった。


短い廊下を進み、客間らしきこじんまりとした部屋に通される。

ベッドと書き物机と小さなクローゼットがある宿屋の様な作りだ。

カナンは隣の部屋らしい。

荷物の整理をするというカナンの申し出を断り、一人にしてもらった。


改めて部屋を見回すと、誰が掃除するのか、ベッドの上にはハーブで作られた匂い袋が置かれていた。

部屋も、シーツもさわやかな香りできもちがいい。

ピンク色のリボンがかかった匂い袋を見て、誰が用意したのだろうと思って小さく笑う。

ブルースやモッズがチマチマとリボンを結んでいるのは似合わなくて想像するだけで笑えるし、ボレロは男の子にしては似合い過ぎて笑える。

ベッドに座りハーブの香りをかぐと私は大きく深呼吸した。


アデルママ、軽くハーレム作ってますね(笑)

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