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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第4章:物語は主役も変える!?
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40.子爵夫人の寂寥

一話挿入します。

前後して申し訳ないです。

レイチェル視点です。

裏庭を見に行った後発隊の3人があんまり時間がかかるものだから、5人で相談して様子を見に行くことにした。

エレノアも行きたがったけれど、何かあるといけないので旦那様とお留守番をさせる。

その時に近くにいたビルとラファエル侯爵に事情を説明すると、2人は裏庭について来てくれることになった。

いつも和やかに微笑んでいるラファエル侯爵の表情は硬い。

「ただ、遅くなっているだけかもしれませんから。」

そう言って宥めるソフィアに彼は無言でうなずくも、裏庭に向かう足の速さは私達をおいていきそうな程だ。

殆ど走るようにして裏庭に向かう途中、血相を変えたクリミナが兵士に何か話している。

そこに追いついて事情を聞き、皆で慌てて裏庭の奥を目指す。


しかし、クリミナの言う場所にたどり着いてもと、リシャーナどころかシンディーまで居なかった。

「え?どうして?確かにここに…」

混乱と焦りで叫びだしそうなクリミナを宥める。

私達をその場に残して、ビルとラファエル侯爵と護衛の兵士が辺りをざっと見回ってきたが、2人は見つからない。


仕方ないので噴水のある会場まで戻ると、エレノアの側にリシャーナが居た。

狐につままれたような気持ちでリシャーナに近寄ると、彼女はきょとんと微笑んだ。

「どうしたの?皆さん怖い顔して。」

「リシャーナ、あなた倒れていたのではなくて?」

「倒れて?まさか、この通り元気よ?」

「シンディーはどこ?」

「え?クリミナと一緒でしょう?私、途中で別れたじゃない。」

「何を…?」

クリミナとリシャーナの会話はなぜかかみ合わない。

「つまり、妻はここに居ないんですね?」

2人のやり取りに焦れたのか、ラファエル侯爵が温度の無い声で尋ねる。

その問いにハッとして辺りを見回すが、シンディーの姿は見当たらない。

「私は、存じませんわ。」

「……。」

そんなクリミナとリシャーナを余所に、ラファエル侯爵は駆けだした。

ビルはアディソン伯爵に私達を預けると、不穏な空気を察知して近くによってきたホワイトリー伯爵とターナー男爵に事情を説明して、共にラファエル侯爵を追った。


結局公爵様にも事情を説明し、護衛も含め皆で探しても、シンディーは見つからなかった。

屋敷の中や敷地内の森を隈なく探してもどこにも姿が無い。

馬車も残っているし、門番も出ていく夫人はいなかったと証言している。

もちろん、ラファエル家に帰ってもいない。

シンディーは忽然と姿を消してしまったのだ。

まるで、誰かに攫われたようだと考えて余りの不吉な思考に身震いをする。

そんな訳は無いと理解しつつも、どこかで居眠りをしていたとひょっこり現れるシンディーの姿を願った。


彼女のいなくなった状況を再度確認しようと皆が公爵邸の一室に集まった時には、もう太陽は西の空に傾き、茜色が辺りを染め初めていた。


「まず、クリミナが裏庭が素敵だと言いだして、みんなで見に行くことになったの。」

「でも8人でぞろぞろいくのははしたないとリシャーナが言うから、2組に別れることにしたのよ。」

「それで、私と、マリエッタ、マーガレット、ソフィアが初めにいったのよね。」

「その組み分けはどうやって?」

「私とクリミナは裏庭に一度行っていたから案内役で別れるとして…あとは自然と?」

「そうね、自然と。」

「で、4人で裏庭のダリアを見て、すぐ戻ったわ。」

「その時、何か変わったことは?」

「何もなかったと思うけれど…。」

「えぇ、特に気になる事は無かったわね。」

「そして、残りの4人が見に行く時になって、エレノアが行かないと言いだして…。」

「クリミナ、リシャーナ、シンディーレイラの3人で行ったのよね。」

「それからは、同じように裏庭に行って、ダリアを見て…」

「そろそろ戻ろうかと言う時に私がハギが気になると言ったのよ。あんなこと言わなければ…。」

「今は事実だけを話して下さい。」

「ごめんなさい。で、ハギを見に行ったのだけれど、終わっていて。」

「その時、リシャーナの姿が突然見えなくなったのよ。」

「いいえ。だから、私お化粧直しに行くと言って別れたでしょう。」

「違うわ!シンディーと2人であなたを探していたら、貴方は木陰で倒れていた。」

「なら、どうして私がピンピンしているのよ。」

「あなたが、私達をだまして、シンディーを攫ったのよ!!!」

「クリミナ、事実が分からないのに、滅多な事を言うものでは無いよ。」

「でもっ!」

「わかっているから、やめなさい。」

「言いがかりはよして頂戴。そうやって私に罪を擦り付けるおつもり?」

「なにを…。」

「そうでしょう。貴方が最後にシンディーと2人だったのだから…。」

「私は何もしていないわ!あなたが倒れていたから、助けを呼びに行って…」

「私は倒れてなどいません。そういう陰謀ですか。何のメリットが有るのです。」

「リシャーナも、クリミナが犯人だと決めつけてはいけないわ。」

「失礼。」



取り乱しがちなクリミナをターラント伯爵は抱きしめるように寄り添っている。

一方、ウィンズレッド侯爵は窓際の席に一人で座って難しい顔をしている。

こちらを向いて話しているリシャーナには見えないだろうが、いつもは完璧な無表情の侯爵が心配そうに彼女を見つめている。

何度話を聞いても、後半になるとリシャーナとクリミナの話は真っ向から対立して、要領を得ない。

中心になって話をまとめていた公爵家の護衛長も、頭を抱えている。

「お二人の話を、別々に聞きたい。」

静かな声でラファエル侯爵が言い、皆すぐに同意した。

「まずは、ウィンズレッド侯爵夫人から。」

そう言われて、クリミナは退室し、リシャーナが話はじめる。

彼女の話によると、裏庭のダリアを見た後、ハギは本当に終わってしまっているのか確認しようと言う話になって、ハギを確認し、戻る途中で化粧室に行きたくなって2人と別れ、化粧室に寄ってから元の場所に戻ると、アディソン夫妻しか居なかったので一緒に待っていたら、皆が帰ってきてシンディーが姿を消したことを知ったという。

使った化粧室、道順ともおかしなところは無く、主張も終始一貫して聞こえる。

「では、次ターラント伯爵夫人。」

リシャーナの話がひと段落すると、今度はクリミナが部屋の中心で話しを始めた。

彼女の話によると、ハギを確認しに行くところまではリシャーナと同じ。

ハギを確認すると、急にリシャーナの姿が見えなくなっていて、慌てて2人でリシャーナを探すと木の下に倒れているのが見えた。

シンディーに介抱を任せて、自分は助けを呼びに行ったが、戻ってみると、リシャーナは倒れて無くて、シンディーは姿を消していた。

「後は、みなさんのご存じの通りです。」

一旦リシャーナと離れて落ち着いたのか、先程の様に取り乱したりはしない。

話している内容にもおかしな所は無い。

疑いの目が自分に向けられている事を十分理解している彼女の顔は青いままだが。

どちらも正しいように感じるし、どちらも嘘を言っているようにも感じる。

それは皆同じようで、困惑した面持ちで顔を見合わせた。


結局それ以上の事は分からず、シンディーが見つかるまで王都で過ごすことを約束して、その日は解散になってしまった。

どうして、こんなことが起こるのか不思議でならない。

シンディーレイラはただの暢気な貴族の娘にすぎないのに。

彼女が下賜姫だからだろうか?侯爵夫人だからだろうか?

あの、どこかお人よしな所がある彼女がなぜ悪意の的になるのか、私には理解できない。


結局、私にできた事といえば、ビルに頼んで子爵家の人員をシンディーレイラの捜索隊に派遣する事くらい。

後は彼女の無事を祈る事だけだった。


10日後、シンディーが見つかったとビルから教えてもらった時には思わず彼に抱きついてしまった。

いつもならば皮肉の一つでも言われそうだが、ビルも何も言わず支えてくれた。

彼女が無事に帰ってきたことは奇跡だ。

なんせ、女神の樹海で見つかったらしいから。

残念ながら著しく体力を落としているらしく、すぐには面会はできないらしい。


シンディーの心配をしなくて済むようになると、クリミナとリシャーナの事が気になる。

今年の社交界は楽しかったのだ…結局犯人が誰でも、もう私達は元の関係には戻れない。

そう思うと、とても寂しい気分になった。


窓の外は木枯らしが吹き始めている。

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