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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第3章:物語は舞台を変える
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17.再会。

視察の旅の途中、侍女の記述が全くなかったことに気づき、13~15を一部修正しました。

今回の旅にはカナンでなくてアグリが同行しています。


お手数ですが、ご確認お願いします。

いつの間にか雨がやみ、夜が明けた様だ。

小屋の雨戸はしまっているけれど、簡単な作りの建物らしくドアや窓の隙間、壁のつなぎ目からも光の糸が垂れている。

屋根を絶えず打っていた雨音は小鳥の声に変わっていた。

アデルの腕の中で目覚めるのは初めてだ。

夫婦らしいことをしていないのに、ほとんど裸で抱き合っている状況に目眩がしそうだ。

物事の順番って大事だと思うんだけど…。

出会う前に結婚が決まっていた私達にそれを主張する権利は無いかと思い直す。

彼の体温は気持ち良く、離れ難く感じるが、そんな自分の気持ちに蓋をする。

彼の腕から逃れようと身体を捩ると、すんなりと腕が離れていく。

「起きたのか?」

「はい。ごめんなさい眠ってしまって…。」

「いや。おはよう」

「おはようございます。」

私たちは昨日と同じように背中合わせで着替える。

一晩では服も靴も生乾きだけれども、気温が上がればその内乾くだろうと気にしないで着る。

何より、他に着るものも無い。

外に出ると木漏れ日の眩しさが目に痛いほどだ。

山小屋の隣に小さな沢があったので、そこで身支度を整える。

昨日よりはマシになったと思う。

でも、アグリが見たら悲鳴をあげそうな身形なのに変わりは無い。


お世話になった山小屋を整えてから、また山を歩きだした。

昨日はぐれた馬は何処にも居ない。

一度人に飼われた動物が野性で生きていくのは難しい…馬にまで無事でいてほしいと望むのは我儘過ぎるだろうか?

だけど、あの馬も、共に旅をした仲間なのだ。

手元に戻ってこなくてもいいから、どこかで無事に生きていてほしかった。


木の間からのぞく太陽でだいたいの方角を確認して進むとほどなくして山道を見つけた。

道に沿って下って行く。

アデルは昨日と同じように私の手を引いて歩いていた。

木々の間を抜けてくる光が刺すような鋭さを引っ込めて、じっとりとまとわり付くような熱さを持ちはじめる頃、行く手から馬の足音が聞こえた。

「アデルバート様!奥様!」

先頭を走っていたのはデュークだった。

目の前にたどり着くと飛び降りる様にして馬を降り、跪いた。

「ご無事で何よりでした。」

「互いにな。ケガした者など居なかったか?」

「はい。負傷者2名おりましたが、いずれも軽傷で既に治療を済ませています。」

「ご苦労だった。すぐに山をおりる。」

「はっ。」

デュークが目で合図すると、馬が1頭前に出された。

「デロリス!」

馬を見た途端アデルが驚きの声を上げる。

「無事だったの。」

近づいてきた馬の首や鼻を撫でながら、私も思わず笑みがこぼれた。

「はい、カシューも無事ですよ。」

デュークの言葉に私は人目も憚らず歓声をあげた。

デロリスとカシューは共に早朝この山道付近で見つかったという。

そのおかげで、私たちはデューク達と割と早く出会うことができたようだ。

「デロリスがカシュ―を助けてくれたのね、ありがとう。」

私の言葉にデロリスは小さくいなないた。

カシューは別部隊の捜索隊と共に行動をしているらしいので、デロリスにアデルと2人で乗る。


程なくして、麓にたどり着いた。

麓の村には他方に捜索に出ていた護衛団も戻っていたようで、皆揃って私達を出迎えてくれた。

「奥様、ご無事で…っ。」

「アグリ、あなたも。心配かけてしまってごめんなさい。」

「もったいないお言葉ですっ。」

泣き出してしまうアグリと思わず抱き合ってから、ひどい恰好なのに気づいた。

汚れを気にして離れようとしたけれど、アグリは離してくれない。

「アグリ、私もいるのだが?」

困っていると、アデルが助け舟を出してくれた。

「旦那様、そうでした…旦那様もご無事で何よりです。」

「私に抱擁はないのかい?」

「なんならもう一晩、山を彷徨われますか?」

主従の仲の良さげな会話に周りから笑いが起こる。

アグリはアデルと年が近い。

小さい頃から奉公に来ていて、アデルの遊び相手だった事もあるようで、彼に対して容赦がない。

姉と弟のようなやり取りを屋敷に居る時からちょくちょく披露していた。


アグリは周りに宥められてようやく落ち着くと、それまでが嘘のようにキビキビと働きだす。

彼女には、アデルだけでなく、護衛の面々も頭が上がらないようだった。


カシューとも再会を果たす。

元来おとなしいその馬は黙って鼻を撫でられている。

「もう、怖くないわね。」

そう話しかけると、理知的な瞳が頷いたように見えた。


まだ午前中だったけれど、その日はそのまま村に留まることになった。

行く予定だった、この先の町には護衛の一人が知らせを届ける。


事情を知った村長が村はずれの空き家を用意しておいてくれたので、残ったメンバーはすぐにそちらに向かう。

昨晩から寝ずの捜索をしてくれていたらしく、護衛達にもさすがに疲労の色が滲む。

小さな空き家に全員は入れず、私とアデルだけが家の中で過ごす事になった。

護衛達は疲れた体に鞭打って、家の周りで野営の準備である。

アグリは私の世話を焼こうとしたが、食事を作ってもらうことにした。

私もお腹がすいているのだ。

村人達もなんやかんやと手伝ってくれていた。


家の中は村の女性達のおかげで直ぐに使う事ができた。

アデルが頑として譲らないので、先にお風呂をもらうことにする。

小さな浴槽にお湯を張ってわかし、お湯を被るタイプの浴室だった。

湯に浸かれはしないけれど、温かいお湯が肌を滑るたびに気持ちが凪いでいく。

村長の奥さんが貸してくれた石鹸で汚れは綺麗に落ちた。

石鹸がしみるので、あちこちに傷が有ることが分かったが、どれも小さな擦り傷だった。

馬の上から落ちてこの程度の傷で済むなんて奇跡だろう。

浴槽のお湯をほとんど使い切るころ、やっと体から落ちるお湯が茶色く濁らなくなった。

気前よく湯を使ったので、体もホカホカと温かい。

手早く着替えると、アデルの為に再度湯を沸かし風呂を出た。


こざっぱりした私は、今日は侍女服のような動きやすいスカートを着ている。

視察の間は馬に乗るのでズボンだったから、スカートは久しぶりだ。

しかも実家でよく着ていた侍女服だからか、なんとも懐かしい感じがした。

アデルは何というだろうか?と想像する。

みっともないなどとは言わないと思うのだが…。

彼は玄関を入ってすぐの居間のソファーで寝ころんでいた。

誰に借りたのか、綺麗なマントを引いてソファーが汚れないようにしている。

覗き込むと眠っているようだった。

感想を聞けなくて少し残念だ。


泥のついた顔を覗き込む。

緑色の瞳は見えない。

何時もは隙が無いほど整えられている髪も泥にまみれてぐちゃぐちゃだ。

それでも美しいと思ってしまった。

私の旦那様は素敵だと…。


あぁ、私、また盲目になっている。


もう、誰かに恋することなど無いと思っていた。

私は、一途に愛することができない女なのだとあきらめてもいた。

それでも、こうして出会うのだ。


自嘲気味に笑って彼の頬に手を置いた。


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