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33.藍鼠色の痕跡

ティアが居なくなった日、私の予想とは裏腹に彼女を見つけることはできなかった。公爵邸は勿論、王都内に彼女の痕跡は全く無い。平民区の廃墟や花街の裏通りなんかも調べさせてみたが、空振りに終わった。王都から出た馬車には、かなりの早さで馬を走らせていたものや、行方の分からないもの、王都を離れてから急に方向を変えたものなど、数件怪しいものがあった。その後を辿って彼女に繋がる道を探す。しかし、一筋縄では行かない。ダンテスが言うには今回の実行犯は統制された陰者のチームらしい。それだけの実力者を動かす伝手が有るという事から首謀者については見当がつく。陰に探らせてみるが、こちらもなかなか尻尾を出さない。


次の日、寝ずの捜索にも関わらず事態は悪くなる一方だった。怪しい馬車を追跡していた者達が次々に帰ってくるが、なかなかめぼしい情報が無い。近隣都市の娼館に見張りを置いたり、近隣の山や森に住み着くならず者のアジトを暴き、いくつかのグループを壊滅させたりしてみるが、それでティアの危険が少なくなるかと言えば効果はほとんど無いだろうと思えた。


2日目、馬車を追っていた陰から東に向かった荷馬車の中に行方をくらませている物が有ると報告が入る。捜索の手を東に集中させるように手配していると、カナンが屋敷に戻ってきた。女神の樹海が怪しいという情報に思わず息を飲む。女神の樹海と言えば、遭難者が続出している深い森だ。獣も出る。ドレス姿のティアが歩き回れば草木で傷つくだろうし、じっとしていても寒さに体力を奪われる。捜索隊だって油断をすれば遭難するような森だ。女性が一人で居て、一日だって生きていられるか怪しい。しかし、勝手に絶望して、手をこまねいている訳にはいかない。カナンの情報は信用できる気がするが、万が一間違っていた時のために、全人員の3分の1は現状のまま王都の東側を捜索させることにして、残りを女神の樹海に向かわせる。私も付いて行こうと思ったが、皆に止められて屋敷に残る事になってしまった。


3日目、女神の樹海の捜索が本格的に始まった。私はやはり、屋敷から出してもらえない。ダンテスが私の見張り役として屋敷に残る念の入れようだ。そうでもしないと女神の樹海に飛び込んでいきそうなのだとか。主を馬鹿にしているのかと思う反面、私のことを良く理解しているとも思う。陰だけでなく私兵も総動員して、西の入り口から人数を使って徐々に中心部へと捜索しているそうだ。ただ、カナンはそこには加わらず、数人の乗馬の得意な私兵と共に最初から森の内部に入ったらしい。広い森の中で本隊と分かれての行動は危険が伴うが・・・それで少しでもティアが早く見つかるのならと思ってしまう。私は主として失格なのだろう。


4日目、リード子爵が私兵を派遣してくれた。さすがに、よその私兵を女神の樹海に入らせるわけにもいかず、樹海の外を捜索させていた者達と交代してもらう事にした。これで王都に連れてきた私兵や陰者はダンテス以外女神の樹海に入ったことになる。今のところ、ティアに繋がるものは何も見つかっていない。焦りばかりが募っていく。


5日目、ティアが居なくなってから、眠ってください食べてくださいとニーナが私の世話を焼こうとするのを断り続けていたのだが、痺れを切らしたダンテスに薬を盛られた。起きると、久しぶりに腹が減っていて、ニーナに見守られながら久しぶりに落ち着いて食事をとった。ティアは何か食べれているのだろうか?そう思うと食欲は無くなるが、機械的に栄養補給をする。私が倒れたところで、ティアは見つからない。では私は何をすればティアは見つかるのだろうか?神に祈りを捧げるなんて馬鹿らしくて出来ない。もし神が願いを叶えてくれるならば、彼女を攫う計画など成功しなかったはずだ。むしろ、私が神の立場ならばそんな計画が持ち上がる事すら許さない。


6日目、領地から私兵達がやってきた。領地からかなり急いで駆けつけたらしいが、疲れも見せずにそのまま女神の樹海に向かう。私は絶対に屋敷から出ないと約束して、ダンテスも樹海に向かわせた。一人でも多くの人に捜索をして欲しかった。私が動くと捜索以外に人手をとられてしまうと言う事もやっと納得できた。私が望む望まないに関わらず、私が動くとそれにあわせて人が動く。そういう立場なのだ。出来る限りの人数でティアを捜索するために、私はじっと屋敷で待つしかない。それはとても歯痒くて、辛抱の必要な事だった。彼女が帰ってきたときに周りが騒がしくならないように、それまで全く手に付かなかった通常業務をこなしながらティア発見の知らせを待つ。


7日目、ティアのドレスの一部が見つかったとカナンから報告が入る。ティアも移動しているらしく、その周辺では本人は見つからなかった。ダンテスはドレスが見つかった場所を中心にして捜索隊の配置を変えた。川や獣道、森道を中心にして、足跡などの痕跡が無いか丁寧に探しているらしい。


8日目、ティアの実家から、ティアは無事なのかと問い合わせの手紙が来た。公爵邸での失踪については皆に口を閉ざしてもらうようにお願いしたが、こうも派手に女神の樹海に出入りしていれば、何かしらの噂は立つ。それは仕方ない事に思われた。正直に状況を教えるべきか否か・・・迷って少し返事を遅らせる事にする。

今日もティアの残した物がちらほらと見つかっていた。今日一日の成果報告と共に、昨日見つかったドレスの切れ端が手元に届いた。引き裂いたような跡に眉間の皺が深くなる。彼女のした事なのかもしれないが、どうしても何者かが彼女のドレスを引き裂くイメージが拭えない。そのくすんだ色合いの布を草の汁がまだらに染めている。雨に滲んで読めないが、何か字を書いたような形跡だと持ってきた者が言っていた。


―ティア―


私は切れ端を握り締めながら彼女の名を呼ぶ事しか出来ない。

きっと、見つけるから・・・どうか無事で。

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