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第045話 『もうひとつの貌』②

 それを思い知らされたのが第五層の階層主(ボス)


 だからこそ、すべの冒険者がアレを倒すのは不可能だ、第五階層がこの迷宮(ダンジョン)の行き止まりなのだと()()()()()


 もちろん簡単に、ではない。

 諦観に至るまで、二桁に上る一流冒険者たちの犠牲が積みあがった上でだ。


 それを『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』はたった二人で倒してみせた。


 そして周期こそ長いが階層主(ボス)とても再湧出(リポップ)する以上、その度に冒険者ギルドから特別正式任務(ミッション)を請け負う形で何回も討伐をこなしている。


 つまり偶然だとか、稀に迷宮(ダンジョン)で発見される使い切りの攻撃魔導具(マジックアイテム)を使っているというわけではない。


 冒険者というものを本当の意味でよく知らない市井の者たちは、『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』が才能に恵まれた、桁外れに強い冒険者だということで納得もできよう。

 神話や伝説に語られるのみとなった『武技』や『魔法』を使いこなすという眉唾な話などよりも、よほど得心が行く話でもあるのだろう。

 酒場で与太話をする際であればまだしも、まじめな話として『魔法使い』の存在を信じる者など、この時代には()()ほとんど存在しないのだ。


 だが冒険者たちは違う。


 自分たちの力をよく知るからこそ、『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』の振るう力が、自分たちの力の延長線上にあるとはとても思えない。


 極端な話、自分たちが何度もの成長(レベルアップ)を繰り返して今の倍、いや10倍に至るまで強くなれたとしても、その第五階層主(ボス)に勝てる絵図面(ビジョン)など浮かばない。

 これ以上いくら筋力が増しても鋼の刃が通らない敵を倒すことなどできないし、体力や

反応速度が上がったところで、辺り一面を焼き尽くす火焔の息吹(ブレス)に耐えられるわけもない。


 第五階層主(あれ)を倒せるというのであれば、その力は自分たち奮うそれとは種の異なるものであるとしか思えない。

 だからこそ『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』にまつわる話を笑い飛ばせないのだ。

 

 『武技』を使いこなす。

 それどころか『魔法』まで駆使する。


 さもありなんである。

 きっとそうだ。


 だからこそ、たった二人で第五階層主(ボス)を討伐するなどという奇跡を、苦も無く何度も繰り返すことが可能なのだ。


 そうではないほうがおかしい。


 ゆえに『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』は市井の者たちからはわかりやすい当代の英雄として憧憬を、冒険者たちからは得体のしれない異質な強者としての尊敬と同量、あるいはそれ以上の畏怖を向けられている。


 今やその名声はエメリア王国一国にとどまらず、『迷宮保有国家群(ホルダーズ・クラブ)』に属するすべての国々はもちろん、それ以外にも広がりつつある。

 聖シーズ教の『奇跡認定局(プロディギウム)』を通して、教皇の神託から発される神域調査(アーカシオン)を請け負っているという噂まで、まことしやかに囁かれている。

 その噂に冒険者たちはさもありなんと頷き、各国に配されている神聖騎士(テンプル・ナイツ)たちは臍を噛む思いを得ている。


 そんな何をやってもおかしくない、冒険者たちの中にあっても隔絶した力を持つ異能者集団。

 彼らであれば、冒険者としての常識に縛られなくとも何の不思議もない。

奇異に映る行動をとっても、それには何か理由があるのではないかと勝手に推測されるほどの特別枠。


 その『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』の勇名を、カインは自分たち『野晒案山子(スケアクロウ)』が必要に迫られてその力を行使する際、隠れ蓑として勝手に拝借しているのである。


 『野晒案山子(スケアクロウ)』が持つ力、魔導武装(マギカウェポン)による俄かには信じられないような力の行使があったとしても、それがかの『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』、その党員(メンバー)のいずれかによるものであればそこまで疑問も持たれない。


 まずは発覚しないようにするのが一番とはいえ、今回のような人命救助となればそうもいかない。

 助けたその対象こそが、その目で見た奇跡を声高に宣伝してくれることは疑う余地もないからだ。

 内密にするようにお願いするのも限界があるし、その手の情報ほど「ここだけの話」としてあっという間に拡散されるのはどこの世界でもお約束。

 口封じをするくらいであれば初めから助けなければいいだけなので、お話にもならない。


 だからこそ『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』の勇名を借りるのは、シロウたち『野晒案山子(スケアクロウ)』にとって都合がいい。


 その有名が轟いているからこそ、最終的には噂に戸は立てられなくなるとは言えその拡散速度はかなり抑えられる。

 自慢したい気持ちよりも、短期的にとはいえ自分を救ってくれた英雄との約束を守ろうという心理はだれしもに働くものであるからだ。


 なによりも『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』のすべての党員(メンバー)たちが、その名の通りに漆黒の仮面と長外套(ロング・コート)でその正体を隠しているのが大きい。


 顔を隠していてもそのこと自体を不自然と思われず、隔絶した力を振るえば振るうほど偽物ではありえないと勝手に目撃者が思ってくれるのだ。

 よしんばその目撃者自身が『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』のことを知らなかったとしても、その話を聞いた者は間違いなくそれしか思い浮かぶまい。

 

 シロウたち『野晒案山子(スケアクロウ)』が勝手に名前を騙っていることに違いはないが、なにも悪行の隠れ蓑に利用しているというわけではない。

 どちらかといわずとも、名を借りて行っているのは善行と呼んでまず差支えのないことばかりである。


 一部の支配者階級にとってはそうでないこともあるかもしれないが、まだシロウたちはそこまで踏み込んで世直し集団を気取っているわけではない。


 あくまで結果としてというだけだ。


 そんな案件も、もともと『漆黒仮面舞踏団(バル・マスケ)』が冒険者ギルドからの依頼(クエスト)正式任務(ミッション)だけによらず、力持つものでなければ断罪できない悪を誅することも多いので疑問視されない。


 もっとも有名なのは王都の麻薬組織壊滅だが、それ以外にも度し難い貴族などを一分の隙もない証拠と圧倒的な力を以て糾弾することもやっているのだ。


 だからこそ、市井で英雄視されることになったのだ。

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